36 - ただのお散歩
縦ロールの人初めて見ました。
本当にいるんですねー。
バーナー部分を組み立てていく。
ガス缶にくっつけて―。
カチッ!
しっかりと回して閉めるよー。
ガス缶もただじゃない。
ガスが漏れていたとしてもここは室内ではないのでそうたいしたことにはならないだろうけれどお金はかかってしまう。
くるくるくる
そうしたら四つに折り畳まれたゴトクを九十度ごと十字になるように開いていく。
ゴトクはよりコンパクトになるように先っぽが折り畳まれているようなのでそれも開く。
「おおっ! キャンプ漫画で見たやつとおんなじだよ!」
かっこいいねー!
キャンプ用品好きだよー!
ちっちゃくて。
ガスの栓を開いて着火する。
バッチン
着火装置を押し込むと重たい音がする。
カチッって感じの音じゃなくてちょっと重厚感がある感じ。
この表現で伝わるかどうか微妙だけれど。
そうして火が着いたらゴトクの上にクッカーを乗せる。
目的はあくまで火を通して殺菌することが目的なので特に何か気にするという事はなくただ焼いていく。
じゅわぁー
焼いている途中、私はカバンの中からあるものを取り出す。
ポータブルラジオ 300円
ラジオである。
三百円のやっすいやつ。
でもいっちょまえに太陽光発電機と手動発電機ついているんだけどね。
まあ本体自体がすごく小さいので発電レバーがすごく回しづらいんだけれど。
今は日が昇っているので手回しで発電しなくても使える。
『あははは! そんなわけないじゃないですかー! じゃあ次の質問はこちら! ”クレアさんの好みのお風呂の温度を教えてください”ですね。 えー、今まで私も長いことこのクレアの神界モーニングやってきましたけれどこんな質問初めてですよ。 はい』
...
え?
これどこから電波飛んでんの?
そういえば電波のこと全く気にせずに買ったけど。
『んー、温度なんてそんなに気にしませんけどねー。 まあ39度辺りでしょうか』
あ、私と同じくらいだ。
ちょっと温く感じちゃうんだけど実はこれくらいが丁度いいんだよね。
じゃなくて!
たしかあの光も神界とか言ってたよね。
神界がどういう所なのか知らないけど文字からして神様の世界とかそんな感じかな。
...いや、何でそんなところから電波飛んできてるの?
ま、聞こえるんなら何でもいいや。
焼いていたお肉、そろそろいいかな。
食べよ。
もぐもぐもぐもぐ
椅子に座って静かにお肉を食べる。
風が吹き葉擦れの音がする。
鳥が鳴き遠くから獣の声もする。
ラジオと自然の音をBGMに。
◇
「ごちそうさまでしたー」
お腹いっぱいです。
お肉に火を通すのに使った道具を湖で軽く水洗いし再び椅子の上に腰掛けた。
食べたばっかりだからあんまり動きたくないんだよねー。
食べてすぐ歩くと横っ腹が痛くなるし。
でもゆっくりしていると色々と困る。
苗は定植しておいたので放置しておいても大丈夫だけど。
でも収穫はできないかなー。
成長速度が速くて困ることもあるんだね。
「うっしゃ、行きますかー!」
椅子と机を片付ける。
折り畳んでザックにしまい歩き出す。
「すごくいい景色だなー」
木々の間から太陽の光が漏れ出てくる。
針葉樹の林を抜けると背の低い広葉樹の広がる野原が。
そしてそれをまた抜けると再び針葉樹の林が。
鳥の声と風の音が静かな森を賑わす。
自然のBGM。
いいね。
私が大学を受験した時もYouTubeでこういう自然音とか聞きながら勉強してたよ。
川のせせらぎとか多かったけれど私はこういう鳥の声とか聞きたかった。
とそんな感じで森を歩いていくと段々と木の密度が高くなってきた。
一面に広がる広葉樹によって日の光は遮られ足元には背の低い葉が。
でもいかにもファンタジーって感じがして奇麗。
RPGで街を出て最初にぶつかる森みたいな感じ。
苔むして暗いんだけれども木々の間から若干指す光がすごく神秘的。
こういう画いいね。
中学生のころ美術部に入っていたんだけれどこういう画をインターネットから拾ってきて模写するのが好きだった。
ファンタジー 森って検索するといっぱい出てきてね。
ちなみに高校では漫研しかなかったので「求めているのがちょっと違うかな」となり最終的には演劇部と文芸部に兼部で入部した。
漫画絵も結構描いていて楽しかったからちょくちょく顔出してたけどね。
部外者でも快く受け入れてくれたよ。
やっぱり文化部は良いね。
同じクラスで運動部所属している人がいてさ。
いっつも部活の愚痴ばっかり話しているのね。
運動部は上下関係厳しいんだねー。
でも弓道部は楽しかったなー。
部員でもないのにいっつもお邪魔してた。
私んところの部活は年齢関係なくみんなため口だったけど。
って、何の話してんだ。
私。
話題がぶれまくっている。
奇麗な景色の話をしていたはずなのにいつの間に中学、高校時代の部活の話になっていたし。
でも特に歩く以外することもないし。
まだ小さい頃は遠足とかでちょっと長い距離を歩くとすぐに疲れて無言になりただただ無心で歩いていたけれど今の私は歩くだけなら無限に歩ける。
余裕ありありだよ。
「あるっけー♪、あるっけー♪、歩けよ大輔―♪」
某歌の替え歌バージョンをうたいながら森を歩いていく。
......
....
..
お。
森も終わりが見えてきた。
向こうの方に光が見える。
そしてそこを越えると...
「川と―って、え!?」
山っ!?
いつの間にかこんなにも近くに来れていたんだ!
山が鬱蒼としすぎていて気が付かなかった。
へー。
私って結構移動速度早いんだなー。
山に着くまで何日かかかると思っていたんだけど。
予想外にも一日でたどり着くことができた。
っていうか日も結構傾き始めている。
やべー。
時間が過ぎているって感覚全然なかったよー。
今からこの絶壁を登り始めていたら山の中腹辺りで日が沈んでしまうだろう。
真っ暗な中の登山は流石に危なすぎる。
今日はここまでにしておくかー。
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