2 - この能力で出来ること
ご都合主義なところもありますが作物を育てるのに一年とかかかっていたら話が進まないのでごめんなさい。
長い意識の暗闇を抜けるとそこは野原であった。
夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。
はい。
ごめんなさい。
辺りを見回す。
そして感嘆の声を漏らす。
綺麗!
すごい綺麗!
空気も綺麗でまるで高原にでもいるみたい。
ここら辺は小高い丘になっていて辺りを一望できるのだが野原が遠くまで広がっている。
すぐ近くに山々が連なっているのも見える。
っていうかこの辺りもあの山脈の一部かな?
でもここら辺はそこまで急な坂がないので端っこの方でしょ。
アルプス山脈に似ているなー。
後ろの方を向くと急な斜面があった。
崖って言うには緩やかで、丘っていうには急だ。
また、山にしては低いし台地というべきかな?
いや、山でいいか。
あー。
いーねー。
この自然の雰囲気。
私も今まで農家として自然の中に生きてきたけれど、日本の自然はこういうほんわかした感じでは無く殺気を持って迫ってくる様なとてもほんわかなんてできない自然なのだ。
偏見から出てきた意見なので異論は認める。
だって北海道っていつもヒグマにビクビクしながら過ごしていないといけなくて......
アルプスにも熊はいるけど。
後ろの坂の向こう側には何があるのだろうか?
ちょっと見に行ってみよう。
......思ったよりも急だ。
そして長い。
家の手伝いで馬車馬の様に働かされていたからこれくらいで音は上げないけどね!
そんな事を考えながらも黙々と坂を登っていく。
そして遂に登りきった時、私の口からは溜め息が出た。
落胆したから?
いや、美しすぎたからだ。
「湖...綺麗」
綺麗綺麗ってさっきっからこればっかりしか言っていないが本当に語彙力を失い言葉に困ってしまうほど美しいのだ。
湖のさらに奥には丘が続いております木がポツポツと生えているのが見える。
うーん。
ここがどういう雰囲気の場所なのか分からなくなった。
最初はあのアルプス山脈みたいな連峰をみてヨーロッパみたいなところかな? って思ったのだが後ろを向くと今度はアメリカっぽい。
コロラドとかワイオミング辺りの。
ロッキー山脈?
ま、異世界なんだから当たり前か。
ふぅ。
沢山感動もしたことだし、現状の確認でもしますか。
と言う事で持ち物!
・懐中電灯
・スマホ(防水)
次! 服装!
・アウターコート
・ハーフトップス
・ショートパンツ
・ロングブーツ
......どうしよう。
コート脱いだら思いっきり部屋着だ。
少なくとも外を歩ける様な格好ではない。
「えーっと、此処から何をすれば...?」
と、途方に暮れていたその時!
『聞こえまーすかー? 今、貴方の脳内に直接語りかけていまーす』
「はい?」
『返事をしたということはちゃんと聞こえているんだねー?』
「あ、はい。 ちゃんと聞こえてますよー」
『私も暇……ではあるけどこの後寝るので忙しくなる予定だからちゃっちゃと説明すましちゃうねー、貴女はそういう世界をよく知っている人間でじゃないから説明が少々面倒臭いけどー。 何から話したものかねー...まず地球での1500年代と言われてイメージは浮かぶ?』
1500年代?
室町から安土桃山時代辺りかな?
『おう、そうなるのかー。 うーん、中世って言えば解るかなー?』
あー。
中世ね。
なるほど。
あと、今ふつーに心の中を読んでこなかった?
『まあ、この世界はそんな感じの世界だと思ってくれればいいよー』
ふーん。
技術格差がどうのこうのって言っていたからそういう古風の世界に私は送られたんだね。
『あとは...分かりやすい言い方だとファンタジー? 知らんけど』
ファンタジー?
ハリーポッターみたいな?
『アレとはちょっと違うけど...ま、自分の目で確かめてくれればいいさ』
丸投げしてきたか。
諦めるなよ!
多分根気強く説明されても私はよく分からないと思うけど。
『さっき暇ではないと言ったように、君と同じような実験台を後何十人か送らなきゃいけないからもう深いところまで説明しちゃうねー』
暇だとは言ったよ?
こいつ頭大丈夫かなー?
『聞こえてるよ?』
わお。
すんませーん。
私と同じような状況に置かれる人たちが後何十人もいるのか。
みんな私みたいにサイコパスなほど冷静な人間ばかりじゃないと思うんだけど大丈夫かな?
実験にならないんじゃ?
『大丈夫。 多分全員サイコパスだから。 あと全員を同じ世界に送る訳ではなくそれぞれを違う世界に送るらしいけどねー、だから君とは全く関係ない話になるから気にしなくていいよー。 というか早く話を進めたいんだけど?』
あ、ごめんなさい。
続きをどうぞ?
『うむ、それではこの実験を行うに当たって重要な役割を担っている特殊能力について説明しようではないかぁー!』
急に仰々しくなるなや。
特殊能力ですか。
わくわく。
『Farmingと言ってみ?』
「ファーミング?」
"command Farming 認識しました。 以降この文は表示されません”
ぽんっ
わっ!
なんか出てきた!
売却
購入
チャージ
ホログラムみたいな立体映像だ。
取り敢えずこの上に出ている意味のなさげな通知は消しておいて。
『チャージはその名の通り、金を入れることができるみたい。 売却はいつでも何処でも物品を売る事ができるが売却価格はこの世界での定価の3分の2ほどになるって。 だから稼ぎたいときは自分でちゃんと現地の住民と取引をしないといけないねー。 その次、購入をぉータップ!』
説明が早くて簡潔だね。
重要なことは伝わるけどそれ以外の事が全く伝わってこない。
で? なに?
購入をタップ?
ぽちっ
施設
車両
アタッチメント
作業用具(土木、警備、園芸、その他)
種・苗・苗木
生活用品
パッケージ
検索
おおっ。
更になんか出てきたよ!
『そこからはなんとなく分かる? 生活に必要な物なら生活用品の項目から購入ができるのねー。 他にも農業に必要な大抵の物はその購入の項目から入手できる。 その能力は農業に特化しているためある項目は農業関連ばかりだねー』
でもこれってわざわざお金を必要とする意味はなんだろう。
実験というのならそんなめんどくさいシステム作らないでもっと好きにできるようにしたほうが良いと思うのに。
『そうなってしまっては、それはもう私たち神とおんなじになっちゃうでしょ? 多分この実験の目的は規則に縛られない神が世界に及ぼす影響ではなく、あくまで技術差が文明に与える影響を調べたいってことなんじゃない?』
ふーん。
よく分からないいけどちゃんとした理由があるんだ。
『それでは、それを使って何か買ってみなよ。 そうだねー、服とかどう? 君センスなさそうだけど』
うるせっ!
最後の一言いらなくない?
『早くしてもらっていいっすかー?』
はいはい。
まともな服を着ろってことですね。
農業ができるような格好では無いし。
生活用品の項目をぽちっと。
家具
清掃系
洗濯系
入浴系
服
調味料(農産物由来の物は価格十倍)
その他
服かな?
靴はロングブーツのままでいいでしょ。
太腿まであるし。
農業用ではないけど。
農業用には長靴でも買えばいいかな?
私余りファッションに詳しくないんだよね。
農家の服装ってどんな感じだろう。
日本の農家だとツナギのみって感じがするけどアメリカだと半袖のTシャツとかってイメージあるよね?
ま、雑に決めちゃってもいいか。
「あれ? 買うって言ってもお金持ってないんですけど?」
『ああ、準備資金として幾らか最初からチャージされているらしいよ。 あと家とトラクター、コンバインはすでに購入してあるって。 まあそれないと生きていくのも難しいからねー。 ってことでプレゼント?』
え?
そんなに貰っていいの!
ありがとう!
でもコンバイン寄越すってことは穀物育てるの強制?
『ここの気候だとトウモロコシ、小麦、綿花、あと大豆とかを育てるのにちょうどいいらしいよ。 おとなしく序盤は穀物育ててろってことだねー』
いや、でも農家だって一種類だけじゃないよ?
例えば小豆農家にトラクターとコンバイン渡しても何にもならないし。
花卉農家なら更に。
『大丈夫大丈夫! そこらへんは私が臨機応変に対応していくから!』
……知ってる?
それ、臨機応変じゃなくって、無計画っていうんだよ?
ま、この人たちの考えなしは私をこの実験に選んだ時点で分かってたんだけどね。
私は何度もいうが農家ではない。
農家の娘ではあるが。
そして農家になろうとも思っていない。
農家という職業に特になんの思いもない。
それ故特別な知識とか特にない。
家の手伝いができるレベルのものしか。
とても近いところで農家という職業を見てきたから分かる。
あれはまともな人間がなるような職業ではない。
何しろ休みがないのだ。
一応農閑期はあるけれど通常の時期では土日祝一切関係なしに毎日仕事がある。
……おっと、つい話を脱線させちゃった。
閑話休題です。
とにかくこんなにも農家から遠い存在である私にこの話をするなんて彼らはよっぽど見る目ないということが分かるね。
まあ二度目の人生なんてそう簡単に手に入れられるもんでもないだろうしありがたく貰っておきますが。
『ま、君のその能力から得られる作物は環境ガン無視で育ってくけど。 神の作物だからそれが当たり前っていうかー? それにプレゼントと言っても好意から出たものではないしー』
「ん? というと?」
『いや、この実験を行う前にこの実験の環境が十分なものかを調べるために実験台の実験台みたいなものを使って何度か先にこの実験を試してみたんだよ。 そこで大きい問題が三つほど浮上してねー。 もうやめてくれって感じだよねー。 これ以上問題が出ると私の睡眠時間が一日十時間を切ってしまうじゃないかーってね。 勿論小さい問題もいくつかあったのだがそれは数えるときりがないので飛ばすとして、まず一つ目の問題が実験台たちの経済における計画性のなさだよー。 さっきのプレゼントで思っただでしょ、なぜ単純に準備資金を増やさなかったのかって。 わざわざ最初からトラクターとコンバインを購入しておく必要がどこにあるのかって。 簡単だよ、私たちは長い期間実験を行えるようなるべく新鮮な魂を集めているんだよね、そいでこの実験で欠かせないのが農業の知識。 つまりどういうことかというと農業の知識を持っていてかつ若くして命を失った者が欲しいってこと。 だけど勿論そんな人間は限られてくるしー、さらにそこにきちんとした経済計画能力を持った人間という条件を付けたしてしまうととてもじゃないけど偏った実験結果が出ないよう同じ条件下で大量の実験を行うという事などできなくなっちゃんよねー』
あー。
そりゃまだ幼い子供と言える私くらいの年齢の人が何もないところから農業を始められるほどの資金を貰ったとしてもうまく運用できるわけがない。
一瞬で破産だ。
あれだ。
街造りゲームと同じだ。
将来を見越して巨大な発電所や工場地帯などを街から離れたところに固めておいておくとお金が足りなくなったりで首が回らなくなる。
道路だってただではないのだから。
やっぱり最初はそこだけで完結した小さな街を創るしかないのだ。
『そこで最もお金のかかる家、トラクター、コンバインを最初から買っておくといったようなような措置を行ったのだー。 おとなしく最初の方はこれでちまちまと小麦でも作っておきな?ってねー。 まあ私農業の知識とかないからテキトーだけど』
ふーん。
そういう事だったんだ。
ってかなんでこいつにこの仕事を任せたんだろう。
もうちょっと農業の知識がある人にやらせればよかったのに。
「あとの二つの問題は?」
確か大きな問題が三つって言ってたよね。
『ああ。 二つ目が野菜の保存期間の短さだねー。 この世界にはかつてお前らがいたようなインフラはない。 そのため収穫した瞬間消費者の下へ届けるといったことができない。 そうするとどうなる? なんと! 腐ってごみになってしまうのだー。 そうなると文明に影響を与えるも何もない。 ただごみを量産しているだけなのだからね。 これについてもよい解決策が見つからなかったんで私たちが直接干渉することになったよ。 そこで賢いの代名詞でもある私はは消費者の手に届くまで生産物は一切鮮度が落ちないように設定したのだ』
おお。
ごり押しですね。
そもそも野菜を腐らないようにするのかー。
あと賢いの代名詞って言ってたけどバカの代名詞と間違えてません?
『はっはっは! 殺すよー?』
……ごめんなさい。
『三つめは実験台の飢えだねー。 君が知っているように作物というのは一朝一夕では成らない。 そのため実験台が収穫期までまともな食生活を送ることができないという事態が発生したんよ。 これについては私も一度既に対応を取ったよ? 初期の準備資金を簡単にこの世界の通貨に変換できるようにしたり、君たちに与えた能力で食事が得られるようにしたりね。 だけどそうした結果、品質の低下を招いちゃったんだよ。 プライドのある生産者ならいい。 きちんと農作物を作るから。 だけどそうではない子は自分の食生活に影響がないからといい加減に農業をするという行為が増えることになったんだよ。 病気にかかった作物でも腐った牛乳でも平気で売る。
影響? 勿論その世界の文明に影響を与えたよ。 疫病の発生やら食中毒やら人々の健康に著しい被害をね。 だけどそれはこの能力のシステムが文明に与えた影響であって技術差は関係がない。 教授曰く今回の実験の趣旨とは違ってくるらしいんだよね。 そこで私は考えた。 もうこの結果でいいからさっさと終わらせようよとか余計なことは考えずにね。 最初に言っただでしょ? 一朝一夕では成らないって。 そういう事だよ。 勿論それだって能力のシステムが与えた影響とも思えなくもないけど君たちのもといた文明でも後に実現すること。 少々先取りしているだけで構わないでしょ?』
え?
そういう事ってどういう事?
なんか最後の方だけ良く分からないんだけど?
重要なところが抜けてない?
『馬鹿だなー。 意図して抜いたんだよ』
あんたにバカとは言われたくはないかな。
『やーい、バーカバーカ』
あ。
さいですか。
説明する気はないと。
んじゃまあいいや。
衣服のショッピングに戻ろう。
『え、無視?』
という訳で長袖で灰色基調に黒のチェックがはいったシャツ。
ジーンズ。
そして農業用の長靴!
これらを買いました!
以上!
購入が完了すると ぽんっ とビニールに包まれた服が出てきた。
「おぉ」
凄い。
人智を超えた力だ。
ホログラムくらいなら今の科学力でも出来るが、何もないところからものを生み出すといったことは流石に無理だ。
どうやってやっているんだろうか?
『……こ、これでだいたい分かったでしょ、最後に言うけどそこでは買える商品を売ってお金を得ることはできないようになっているよ。 気をつけなねー。 さらばだー』
「え?」
以降、声は聞こえなくなった。
「え? え? えぇ...」
+現在の資金 14393100円+
アメリカ中部から西部辺りがモデルです。