15 - タブンコヨーテ
ペットが欲しいのでこうなりました!
ブックマーク解除しないで下さい!
ただペットが増えるだけなので!
ずっとほのぼのなので!
たぶんこの話を書いたとき私の気分は沈んでいたのかな?
ザッザッザッザッザッザッ
チュンチュンチュンチュン
ホーホーホーホーホーホー
アォ――――――ン
あー。
のほのーんとしているねー。
って最後のやつちょっと待て。
狼!?
狼がいる!
こんな森とだだっ広い平原が混ざったような山脈で奴らと合うの凄く嫌なんだけど。
群れで来られたら銃を持っていても射撃が間に合うかどうか。
どこに居るんだろう。
双眼鏡を覗いてあたりを見回してみる。
霧がだんだんと晴れてきて結構遠くまで見通せるようになって来たけどまだ若干見ずらい。
あ。
見つけた。
一匹だけで平原を駆けている。
群れじゃないね。
一安心。
一匹だけならどうにかならない事もない気がする。
えーっと。
体毛はさっきの謎鹿の様に濃い黄土色。
ちょっと小さい。
額は横に伸びており背中まで一直線だ。
狐のよう。
これは狼ではなくてコヨーテかな?
まあ少なくともそれに近い種だろうな。
よし。
タブンコヨーテと命名しよう。
それにしても何であんなに急いでいるんだろう。
親友を担保に妹の結婚式にでも行ったのかな?
ん?
あれは?
ああ。
何であんなに走っているのか原因が分かったよ。
「おおう...ピューマって本気ですか...」
コヨーテだけでも対処できるかどうか不安なのにピューマなんて...
また後で家の周りに高いフェンスでも張ろうかな。
タブンコヨーテは全速力で逃げている。
しかし若干キットピューマほうが速く少しづつその距離を縮められていく。
うーん。
こういうのは自然の摂理だし私が勝手に手を出しちゃうのは違うと思うけど...
残念な事に私は人間なのだ。
人間に生まれちゃった以上こういう選択肢を取っちゃうよね。
私だけかな?
ドォ――――――ン!
いや、分かるよ。
さっき撃った謎鹿と今のタブンコヨーテの何が違うのかって。
何も違わない。
謎鹿もタブンコヨーテもキットピューマもただ普通に生きていただけ。
でも私もただ普通に生きているだけだ。
ただ、私自身をタブンコヨーテに当てはめてしまったのかもしれない。
コヨーテは捕食者でもあり、被捕食者でもある。
生態系の中間。
ウサギは襲うけれど今みたいにピューマからは逃げる立場だ。
私もそう。
鹿など草食動物に対しては狩る側だけど熊とかとばったり出会ったら多分死ぬ。
勝てる気がしない。
銃を持っていてもなお。
タブンコヨーテは怖いし襲ってこられたら撃つだろう。
ちょっと変わったトロッコ問題みたいな感じだと思う。
線路の上では働いている一般人と貧しく、生きる為に働いている人から財布を取ろうとしているスリがいます。
そこへトロッコが近付いてきました。
貴方の目の前にはポイント切り替えスイッチが。
Q 貴方はどうしますか?
A 大声で注意喚起する。
ドォ――――――ン!
ドォ――――――ン!
ドォ――――――ン!
そんな答えが出せてしまったら思考実験の意味がない。
トロッコ問題にそんな答えはないのだから。
だけど現実問題として実際にそういう状況が目の前で起きているとしたらそういう選択肢を取るよね。
私の腕ではあの70km、いや80kmすらも超えていそうな速度で走るピューマを撃つような技術は無い。
撃つ気もないし。
彼らだって生きている。
万が一当たってしまわないようにかなり手前を狙う。
どっちも死なない方法を取りたいのだ。
キットピューマもスリもその行動を邪魔されたら飢えて死んでしまうじゃないかって?
じゃあそれも阻止すればいいじゃん。
パンがないなら作ればいいじゃない。
が私のモットーだから。
ちょっと違うけど。
だから後でキットピューマの縄張りに食べ物でも置いておこう。
ピューマ雑食だしなんでも食べるでしょ。
それとできれば私の目の付く範囲で狩りをするのはやめてもらっていいだろうか。
またこうやって邪魔してしまうかもしれない。
キットピューマは突然響いた轟音と、それに伴い飛び散る自分の周りの土に異常を感じ慌てて逃げていった。
タブンコヨーテも同じく。
うーん。
この行動が良かったとは言えない。
どっちかというと悪い部類に入るだろう。
私自身、自分の行動を完全に納得できているわけではないし。
それに、ただの気まぐれな所もある。
ただ、私がピューマに追いかけられていて殺されそう! ってなった時にこのように助けられれば悪い気持ちはしない。
逆に自分が狩りをしていた時にこのようなことをされたらどう感じるか?
別にどうも感じない。
あ、逃げちゃった。
で終わり。
まあいいの!
もう手を出しちゃったんだから!
私は帰る!
◇
それは走っていた。
後ろから恐ろしい朽ち葉色が襲ってくるのだ。
天敵であった。
本能に従い、ただただ逃げていた。
だけれどそれは逃げきれないと理解していた。
しかしそこで足を止めるような思考回路をそれは持ち合わせていなかった。
さっきも言った通りそれが本能なのだ。
思考は極めて静寂であったが本能が体を動かしていく。
きっと死ぬ。
それがまた本能によって理解できてしまった。
死んだらどうなるのだろうか。
そんなことも考えずただ漠然としについて理解していた。
そんな中、本能とは遠くかけ離れたところでまた別の思考をしていた。
親。
よくは覚えていない。
動物の記憶力などそのようなものだ。
人間でさえ長くあってない人の顔など忘れてしまう。
親にもその例が当てはまるかは厳しいところではあるが。
死んだらあの親の元へ行くことができるだろうか。
群れなど知らない。
生涯で食べ物を分けてまでしてくれたのはあれだけであった。
守ってくれたのはあれだけであった。
それは静かに思い出した。
いつも静かであった。
親がいなくなったときも。
他の群れを見たときも。
特に何も思わない。
これから自分が死ぬことにも。
その時、遠くの方で気配を感じた。
流石にこれ程離れたものの気配を感じることは狩りの能力に優れたそれの種であっても難しいだろう。
だから偶然であった。
たまたま。
だけれど特に気にする様なものではない。
――――――ォン!
遠くで大きな音がした。
エレクだろうか。
しかし驚いたのはそのあとだった。
バスッ!
遠くで音がした後すぐ。
足の速いそれでも一メートルと進めないような短い時間に音が”やって来た”。
――――――ォン!
――――――ォン!
――――――ォン!
その音が遠くから聞こえてくるたびに辺りでは土煙が舞い大きな音を響かせた。
それはそのまま走り続けた。
もう後ろには朽ち葉色はいなかった。
そうしてしばらく走り、時間が経った。
疲れてついに走るのを止めた。
ふと遠くを見ると遠くの方に薄く土煙が上がっているのが見えた。
それは好奇心に駆られ土煙の方向へ向かった。
普通あのような土煙を立てるのは平原を統べる牛の群れが移動をするときだけである。
平原を統べる牛は単体でも体格が大きくこれの種族は狙わない。
朽ち葉色でさえ敬遠するのだ。
それが群れになっているのならばどのような者であっても近寄るようなことはしないだろう。
しかしそれは進んでいった。
その先には見たこともない”不自然”があった。
少なくともそれはこのようなものを見たことがなかった。
不自然は音もあまり立てずにただ土煙をその後ろに伸ばして大地を駆けていた。
それは気付かれないようにはるか遠くからその不自然を追いかけた。
意識せずにその距離は先の気配と自分との距離ほどになっていた。
不自然は木々の中に入っていき、止まった。
中から”不思議”が出てきた。
今日は知らないものをよく目にする日である。
さっきの現象も。
不自然も。
そしてこの不思議も。
足が二つしかない。
そして縦に異様に長い。
それは一生懸命自分の記憶からその不思議にあてはまるものを探し出そうとしたが見つからなかった。
あ。
いや。
見つかった。
遥か昔。
あんなものを見た気がしないでもない。
自分の故郷。
あの山々を越えたずっと向こうで。
それが生み出すものは確かに不自然だった。
その不思議は不自然の上に尖り角を乗せると再び不自然を走らせた。
それはまたその後を追っていく。
+現在の資金 4724000円+
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