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神の庭付き楠木邸・WEB版【アニメ化】  作者: えんじゅ
第1章

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17 アマテラスの力も向上中




 それからともに森を抜ける。ふたたび一本のそびえ立つ木があった。

 目の当たりにした湊は立ち尽くし、呆然とつぶやく。


「――クスノキだ」


 かろうじて艶めく卵型の葉から判別できた。ただし樹形は視界に入りきらない。まるで緑の雲のようだ。

 ククノチはその木陰に入った。向かっていく幹の幅も、いったいいかほどあるのか、見当もつかない。


「クスノキって、こんなに大きくなるんだね……」


 後ろ足で立つトリカが見上げてくる。


「普通のクスノキはこうならない。ククノチにまつわるクスノキだからこそだぞ。山神もいっていただろう。湊のクスノキもまだまだ子どもだと」

「うん、それを痛感した」


 眼前のクスノキに比べたら、楠木邸のクスノキは草サイズといってもいいかもしれない。


「だから、クスノキはあまり生長したがらないんだ」

「もし育ってしまえば、あの家の敷地内には到底収まらないよね」


 将来的には考えなければならない問題だろう。

 と思っているとトリカが快活にいう。


「あまり気にしなくていい。クスノキの寿命は長いんだ。湊よりはるかに長生きするから、ゆっくりじっくり生長するだろうさ」


 そうだね、と同意しつつ、湊は木を見上げ、目を細めた。


「本当に、大きいね」


 それしか感想を持てない。トリカが笑う。


「現代ではまずないからな。しかし神話や伝承などで残っているだろう」

「ああ、あるね。その大木の影で、島や山が覆われてしまうほどだったとか。――たいがい切り倒されたみたいだけど」

「そうして、祟られるというわけだ」


 愉快げにいったのは、ククノチだ。


「それから恐れをなしたあげく、祀り上げるまでがセットだな」


 含み笑いをするククノチは、ポッカリと口を開けた樹洞の中で、椅子に腰掛けている。そこへ、湊とトリカは近づいた。

 大きな机もある。錐や小刀などの工具が散乱しているが、肝心の神産物は見当たらない。


「昔から人間がやることは同じだ。どれだけ技術が進歩しようと、生活の質が向上しようと、少しも変わらない」


 いいながらも、猫背なククノチの両手は忙しなく動いている。

 ピコピコ。この場にそぐわない機械的な音がした。


「ククノチ様、まさかゲームをされているんですか」


 驚いた。よもや山神以外にも最近の人間の遊びに興じる神がいるとは。

 ハッとなったククノチは慌てて、ゲーム機から手を離し、誤魔化すように笑う。


「ああ、つい。最近、ハマってしまってな」


 その手はそわそわと落ちつかない。何度もゲーム機も見ている。気になって仕方がないようだ。


「あれですかね、そのせいで睡眠がとれていないんですか?」

「――そうだ。そして、モノづくりも手につかない」


 ガクリと項垂れ、顔面を両手で覆った。


「やめられないんだ。とまらないんだよ。気がついたら、このゲームを手にとって没頭してしまう。したくてしたくてたまらないんだよっ」


 ククノチが、ガタガタと身を震わせるも、トリカは冷めた眼を向ける。


「だったら、モノづくりは眷属にやらせればいいだろう」

「眷属はいないんだ。そもそも己でつくりたいからつくっているんだ。だから、他のモノに任せる気は一切ない」

「じゃあ、ゲームに飽きるまで、モノづくりはおやすみすればいいのでは?」


 商売ではあるまい。いわば趣味だろうに。

 ククノチの震えが止まり、顔を上げた。やけに精悍な面構えである。


「それはできない。我は求められたら、応えなければ気が済まんのだ。それに、新作のゲームがほしいから神産物はつくらなきゃならんのだ……!」


 後半はやけに力が入っていた。そちらが本音だと思われる。


「そうですか。といいますかそのゲーム機は、神産物なんですね」

「そうだ、すごいだろう。人工物と同じくらい、否、それ以上に精巧なんだ」


 なぜか自慢げに見せびらかされた。


「それ、我にも見せてくれないか?」


 興味を惹かれたらしいトリカの頼みに、「ああ、いいぞ」とククノチは快く応じた。

 トリカの手に渡ったそれを湊ものぞき込む。

 同じ木の精を四つ以上つなげて消すゲームのようだ。かの有名なゲームのパクリ、否、オマージュ品であろう。


「これは……。うんまあ、ハマるかも」

「そうだろう、そうだろう」


と顔をほころばせたククノチだが、瞬時に絶望的な顔になった。


「だから、仕事が手につかないのだ」


 よよよ、と泣き崩れる神は、とことん哀れである。

 そんな姿を見せつけられたら、なんとか力になってあげたいと思うのは、人として当然の感情であろう。

 さて、どうしたものか。

 考えはじめた湊の視線の先で、壁であるクスノキが小刻みに振動し、作業台の片隅にあったどんぐりが転がった。


「あ、そうだ、ククノチ様。そちらのゲーム機、俺がいっときの間、閉じ込めましょうか?」

「閉じ込める?」

「はい、いわば封印ですね。嫌でも遊べなくなりますよ」

「それはいい、ぜひ頼む!」


 前のめりになったククノチにいう。


「では、ゲーム機が入る箱のような物はありますか?」

「これでよいか」


 ククノチは、その手に曲げわっぱ――弁当箱を出現させた。


「ククノチ様の神産物は、曲げわっぱなんですか?」


 問いながら、ぴたりとゲーム機が収まった曲げわっぱの蓋を閉める。


「それだけではない。木でつくれるものならなんでも得意だ」


 自慢げながらも、その視線はゲーム機に固定されている。

 実に、名残惜しげである。

 湊は目をそらしつつ、ゲーム機を曲げわっぱに入れた。

 蓋をし、その上に手のひらを置く。


「では、今からやりますが、どれくらいの期間にしますか?」

「――ひと月だ」


 ひどく間が開いた。悩みに悩んだ末、決めたようだ。


「わかりました」


 しかつめらしく湊は、双眸を閉じ、意識を魂へ向けた。

 そこにあるアマテラスの力を手へ向けて流していく。

 少しずつ、少しずつ。

 多くても少なくてもいけない。ちょうどひと月分を。

 この曲げわっぱの中に、がっちりと強固に閉じ込めるための量を流し込まねばならない。


 湊の手、全体が発光する。

 その光を移した曲げわっぱの輝きが収束すれば、封印完了である。

 が、あと少しのところで、ククノチが勢いよく立ち上がった。


「いや、だめだ! ひと月では短い。半年だ。半年にしてくれたまえ!」


 途中で変更されては困ります。

 そういいたかったが、ククノチの決然たる声色にすんでで耐えた。


「――半年ですね。わかりました」


 最初からやり直しである。

 湊はまだ、追加で力を注ぎ込み、微調整をすることはできない。

 一度深呼吸し、ふたたびアマテラスの力を行使した。

 が、またも最終段階で、ククノチが悲鳴じみた声をあげる。


「待て待て、待ってくれ! 頼む、待ってくれッ。やはり半年は長すぎるからもっと短くしてくれっ」

「往生際が悪いぞ」


 牙をむいたトリカが一喝するも、ククノチは情けない声を出す。


「無理なものは無理なのだ。半年もの長い時間、あのゲームを我慢なんかできるわけがないだろう!」

「大げさだな。悠久の時を生きる神にとって、半年ぐらい大した時間ではないだろうに」


 茶々を入れたトリカは、一瞬黙り込み、湊に指示した。


「湊、半年ではなく、一年にするんだ」

「そ、そんな長すぎるっ」


 ククノチの情けない声が聞こえるも、湊は一年に変更する。

 さあ、これで完成だ。

 という間際、またしてもトリカがいってきた。


「湊、やはり三日だ。三日にしてくれ」

「それは短いような……」


 唸るククノチに構わず、湊は三日に設定する。

 しかしまたトリカが変えろという。


「そうだな、さすがに短すぎた。湊、三年だ。三年にしよう」

「いやああああ!」

「ならば、二週間」

「あ、それなら余裕で耐えられそうだ」

「なんだと。ならば五年にしてくれるわ」

「いやだあっ、やめてくれええ!!」


 ククノチが絶叫とともに暴れまわったり、突然静止して真顔になったり。挙動と情緒の乱高下が激しすぎる。

 しかし湊はそれどころではない。ただひたすらトリカが命ずる期間に設定し続けた。

 最初は時間がかかっていたが、次第に早くなる。しまいには、重ねがけして時間の調整がまでできるようになった。

 短時間で急成長を遂げることとなった。

 その間、湊は終始目を閉じてアマテラスの力を行使していた。

 ゆえに、トリカが企み顔で笑っていたことに気づくことはなかった。




 かくして変更に変更を重ねた結果、ゲーム機は完璧に曲げわっぱに閉じ込められた。

 うっすらアマテラスの橙色の光をまとう曲げわっぱをトリカは満足げに眺め、ククノチは無表情で凝視している。

 そして、湊は項垂れていた。椅子から立ち上がるのも億劫なほど疲れ果てていた。

 だが、達成感に包まれている。

 閉じ込める期間は結局、ひと月。

 時間が経つにつれ、アマテラスの力が減る様子、つまり期間が減るのも知覚できるようになった。

 何度も何度もやり直したおかげで、わかるようになったのだ。

 かつてここまで連続して力を遣ったことはなかったし、ククノチの私物ということもあって、緊張感をともなっていたためだろう。

 結果オーライである。


「ありがとう、これでモノづくりに集中できそうだ」


 微笑むククノチが、礼を述べてきた。

 しかしふっと真顔になり、顔面に前髪がかかる。


「――だが、どうしても我慢できなくなったら、この封印を無理やり解いてしまいそうだ……」


 不穏な台詞をはいたその手が曲げわっぱへと伸びる。

 ガタッと湊は立ち上がった。

 曲げわっぱを掠め取り、抱えて走る。


「お願いだ、クスノキ。これを隠してくれ!」


 ぐっとクスノキの幹に曲げわっぱを押しつけた。

 パリッと裂け目ができ、すかさず中へと押し込む。手を放すと幹が元に通り、閉じた。

 その瞬間、深みのある声が轟く。


『マカセロ』


 頼もしいことこの上ない。必ず守ってくれることだろう。

 ククノチも我が子同然のクスノキに、絶対に手出しはできまい。

 ククノチの金切り声があがるも、湊は満面の笑みでクスノキの幹をなでた。






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