タンクローリー
タンクローリー
その単語ありき。
なんかイケるんじゃね?
そんな軽い気持ちと、ノリと勢いで雑に作成。
ゲームの業界には、かなり特殊な世界が紛れ込んでいたりする。
基本的にはどこかの会社がゲームを製作して、その作品中の表現に問題があるかチェックする組織を通し、許可がおりたものをゲームソフトとして販売・配信する。
が、特殊な世界は違う。
ゲームを作りたい者が作りたいように作り、表現をチェックする組織なぞ通さず、ゲームソフトとして配信を始める。
所謂インディーズゲーム。
大半は個人製作のゲームである。
そのインディーズゲームの特徴は、趣味での製作である。
つまり、ゲームとしてのクオリティーには保証が無い点に尽きるのだ。
企業として開発していないので不具合チェックが甘く、ゲームの作り込みが雑で、ゲームバランスなんて考えていない物まで存在する。
しかも個人製作なので振り向けられる作業量の問題から、ゲームで遊べる時間があまり無い物も多く、ゲームを遊び尽くすまでの時間が10時間もかからず完了するなんてザラ。
そんなインディーズなんて、要らないんじゃないか?
いいえ。 それが結構侮れないゲームも、案外有るわけでして。
世の中にはいるんですよ。
野生のプロとか言われる、プロ級の能力を持つ在野のゲーム製作者という者達は。
そんな人々の作ったゲームを、インディーズゲームの山から“自力で”堀り当てられた瞬間の喜びは、また格別なもの。
今の世にはそんな、まだ見ぬ当たりのインディーズゲームを見付けようとする馬鹿がいます。
そして、完全没入式のゲームが主流となった未来でも、そんな愛すべき馬鹿が活躍するインディーズゲーム業界が存在していたら…………?
~~~~~~
「インディーズゲームのくせしてやり込み要素が凄くて、かなり楽しめたな。 こいつ」
馬鹿なひとりごとをブツブツしているこの青年。
名前は 水溜 卓 と言う。
彼の容姿は別段語ることもないモブ顔で、趣味はFVR式のインディーズゲームを漁る事。
今日も元気に趣味へ没頭している。
彼が遊んでいたゲームのタイトルは、ランダムワールド。
フルダイブ式のソロプレイ用RPG。
最初に複数用意されたキャンペーンシナリオからひとつ選び、ランダム生成された世界を、ランダムメイクされた主人公キャラクターでクリアするのが目的。
一応としてシナリオや敵の強さを決める法則は固定だが、陸地の形やダンジョン内部、町のレイアウトやそこで扱う商品、仲間になるキャラクターを含めた登場人物とキャラクター名はランダム。
仲間になるキャラクターの種族が豊富で、人型・妖精・精霊・四足獣・鳥系魔物・水陸両生魔物・大型魔物、他にも沢山。
アイテムの名前や性能は固定だが、どこで手に入れるか、そもそもその世界に存在しているのかさえ、シナリオやイベント等で固定入手できるアイテム以外はランダム。
ランダム要素の多さで、難易度の高さもかなりランダム。
ランダム具合によっては恵まれ過ぎたプレイもできたりするが、逆に強制縛りプレイにもなる。
なおキャンペーンクリアをすると、周回ボーナスによって主人公キャラクターランダムメイクで、周回特典の強いスキル入手やパラメーター数値や成長補正が入る。
周回の回数により、上限があるが補正は強化されて行く。
そんな理由から周回プレイ推奨。
しかも、飽きるほど周回してもコンテンツは終わらない。
図鑑機能で膨大な項目があり、それを埋める作業が苦痛になるレベル。
敵の項目は比較的簡単にうめられるが、ランダムイベントや登場人物の種族情報の項目が特にキツい。
ランダムイベントはクリアできないと登録されないので、失敗したら次にいつ発生するのか。
登場人物の種族は(老若男女・種族特徴部位の大きさ・色・手に持った物等、大きな特徴で分けられた)外見違いが何種類もいて、それぞれで違う項目扱いとなっている。
そんな登場人物の配置がランダムなので、確率的に見つけられるのかどうか……。
ちなみにゲームの主人公は、男女で2項目しか無い。
開発者やデータ解析者によると、図鑑の埋まり具合でも周回特典と同様に恩恵があると言っていたが、周回より効果の実感をしにくいのであまり語られない。
そう言った恩恵を得られるので強くなり、高難易度になってしまってもある程度は安定して遊べるようになる。
最終的には、仲間無し装備無し回復アイテム無しの縛りプレイでもイケるとか。
と言うわけでこの水溜君は何度も何度も周回して、限界まで周回ボーナスを上げ、図鑑も苦行の末に完全に空白が消えた。
「周回ボーナスだけでもかなり強くなったけど、ここまでやったらどこまで強いキャラになるんだろうな?」
弱い仲間ばかりの理不尽難易度であっても、ある程度は主人公だけでなんとかなる位には強くなったのだ。
それが限界まで補正を受けたらどうなるのか。 もしや本当に酷い縛りプレイでも、どうにかなると言うのだろうか?
「まあいいや。 とにかくやってみれば良い話だよな」
彼はランダムワールドをスタートさせた。
~~~~~~
スタートすると、まず選んだシナリオの前置きから始まる。
その間は焦らすように、プレイヤーは光る球体となってあらすじを見ることと、あらすじをスキップすることしか出来ない。
水溜氏は全部のシナリオを遊んだので大体分かっているが、あえてスキップしない。
それには理由がある。
ここは温暖な環境で過ごしやすい世界【ゴッサミナクメ】。
その【ゴッサミナクメ】にある、水と緑に恵まれ、穏やかな時が流れる【ナカミデル 王国】。
だがそこ【ナカミデル 王国】には影がひっそりと這い寄っていた。
それに気付いた聡明で賢明なる【ビュルリガム 国王】は、影の特定と対抗策を兵に調査させていた。
しかしその努力もむなしく、影は国を覆って行く。
国土の半分が影に飲み込まれた今、影に対抗できる手段は全く見つかっておらず、ついに【ビュルリガム 国王】が最後の手段へと手を伸ばす。
【バイキング 王女】に命じ、この地へ英雄妖精を喚び出す儀式を始めた………………。
「ううむ、今回はあまり面白い名前は無かったか。 まあシナリオ中に出会う奴で期待しようか」
そう言うことである。
世界や国や人物の名前もランダムだが、そのランダム部分の荒ぶりっぷりが酷いのだ。
【ギャギャギャタイ】だの【ライムギサユリ】だの。
とにかく無秩序で無軌道。
最高に酷いと、センシティブな単語まで使われる。
それを見て、過酷な周回で荒んだ心を、細やかながらに慰めるのだ。
「それで、ここはスタート地点か」
スタート地点は決まって、最初の街の近くから始まる。
森であったり草原であったり、丘であったり砂漠であったりと、選んだシナリオによって環境は違うが、スタート地点が街の近くなのは共通である。
そこでまずプレイヤーがすべきと言われているのが。
「ステータスチェック」
キャラクターもランダムである。
自分がどんな姿なのか、どんな能力なのかを知らないと、いきなり戦闘で負けてゲームオーバーになるので重要だ。
「名前は 【ロウリィ】 普通なのはいいんだけど……そんな名前を女につけるか? って、いつものことか」
いつものことである。
姫に【バイキング】とつく位なのだ。 何を今さら。 そう鼻で笑うだろう。
「姿は……幼女。 【ロウリィ】で幼女…………」
ステータスを確認するウインドウには、プレイヤーキャラクターの全身図が出てくる。
肌は白く、いかにもな軽くウェーブのかかった、セミロングな金髪に碧眼。 初期装備は村人の服なので、服がとても負けている。
そして表示された数字が130㎝に満たない身長と相まって、誰が見ても幼女です。
顔の輪郭も目や口のパーツもとても丸く、紅も差していないのに赤い頬も相まって、幼女らしさに拍車がかかっている。
「ひとつ異常を挙げるなら、ミルクタンクとしか思えないこの大きいコレ位だな」
一部の人間にしか需要がない、□リ巨乳。
□リであるなら、やっぱり幼女です。 本当にありがとうございました。
「幼女だから【ロウリィ】ってダジャレはともかく、スキルはひとつ……って、なんじゃこりゃ!?」
初期スキルはランダムである。
そのスキルこそが曲者。
複数あるか、ひとつしかないのか。 それだけで大違いなのだ。
ひとつだけの場合は、強力なスキルである場合が極めて多い。
周回ボーナスが無い状態でひとつだけだとハズレの場合も多いが……。
逆に複数だと、ショボい効果のスキルを得ることが多い。
それで、ロウリィが持っていたスキルだが、名前はなんと【タンク】
訳がわからない。
タンクと言えば、戦闘で前衛に立って敵からの攻撃を一手に引き受ける盾職の総称だが、スキル名でそれ。
訳がわからない。
「スキル詳細は~と…………うわ、詳細を見ても分からねぇ」
【タンク】
タンクはタンクである。
水を貯めるタンクもタンク。
戦で使うバトルタンクもタンク。
油を運ぶタンカーもタンク。
訳がわからない。
「何が言いたいんだよ」
ただタンクはタンクだと、そう繰り返しているだけの文なのだ。
訳がわからない。
「まあ良いや。 次はステータスだけど…………異常に高いな」
全体的に高いのだ。
強く、硬く、速い。 魔法関係もそう。
「特に最大MPだな。 なんだ、この魔力タンクは」
一通り確認して、ウインドウを閉じる。
「まあプレイしている内に、スキルの使い方も分かるだろ」
そうロウリィは可愛い声で、やさぐれた口調でマップを開き、初めの街を探し始めた。
~~~~~~
ソロで1対5の雑魚戦を強いられた時。
「うおっ! 敵のレベルが俺より3も高い連中なのに、こっちの防御力を抜けなくてノーダメージかよ!?
これはメイン盾だな! 俺自身がメイン盾、これなら勝つる!!」
~~~~~~
ポンコツ人工知能によって制御された仲間が、何も考えず敵へ突っ込んでいった時。
「【ペンス】ひとりじゃボコられるっての! 何か遠距離攻撃できるものは!? ……これか!!」
ロウリィの肩から一本の長い筒が伸びて、数秒後にそこから発せられた強い閃光で目が眩み、轟音が響き渡った。
光と音の影響からなんとか脱すると、目の前に惨状が広がる。
焦げて倒れた木々と、黒焦げになって炭としか見えないナニカや、焼ける肉の匂い。
そしてそれに構わず、生き残った敵と殴り合うポンコツな仲間。
「……戦車の砲撃」
ロウリィが呆然としている。
と――――
《【ペンス】 が やられてしまった!》
「うわっ、やべぇ!!」
~~~~~~
冒険中、ふと。
「今まで一度も、持てる重量制限に引っ掛からないな? 運搬重量は……2万トン!? タンカーかよ!!」
~~~~~~
【ナカミデル 王国】の宰相が裏で世界征服を目論み、最終兵器として育てていた最後のボス戦で。
「相変わらず、こいつは無駄に硬いんだよなぁ。 俺のステータスでゴリ押しした所為か、仲間があんまり育ってないし、長期戦は不味いんだよなぁ」
もっと火力が欲しい。 そう願うのは当然だろう。
それで思い付いた。
「砲塔の数をゲームのトンデモ戦車みたいに増やせないか?」
試しにその姿を想像してみる。
今までは左肩のみだった砲塔を、頭の上・両肩・腰の左右 計5ヵ所から生やす幼女の姿を。
すると――――
ガショガショガショ、ジャコン!!
なんてやたらとメカメカしい音がした。
もしやと思い、ステータスで全身を確認。
そこには想像した通り、想像した場所で砲座に固定されて正面方向へ伸びる砲身が合計で5本も。
「生やせるんだ……」
驚愕するロウリィ。
だが、素早く気持ちを切り替えて、せっかくだからともうひとつ実験してみる事にした。
「砲撃の弾種って変えられたりする? 例えば劣化ウラン弾とかに」
こう呟いてみたら、視界の端に小さなウインドウが。
《弾種を 徹甲榴弾 から 劣化ウラン弾 へ変更しました!》
「これを知っていれば、道中はもっと楽が出来たんじゃないか……?」
いまさらの事実に打ち負かされ、うなだれている所へ余計なメッセージが届いた。
《【コロリンタ】 が やられてしまった!》
「物思ってる場合じゃねぇ!!」
忘れていたボスへ、最後の戦いを挑む…………!
なお劣化ウラン弾5発の一斉射でラスボスはあっさり沈み、無事にゲームをクリアしました。
~~~~~~
蛇足
ランダムワールド
結構古いけど、元ネタ有り。 ゲームとしてあまり評価の良くない、無限に遊べるRPGに影響を受けて書きました。
油断せずとも、雑魚でも対策必須な敵がおり、準備が出来ていないと軽く全滅できるのでゲーム難易度はかなり高い。
主人公や固定ネームのないキャラの名前は本当にランダムで、場合によっては本当にセンシティブ案件へ移るので注意。
VR機器
異性の体を、ゲームで上手く動かせるのか? ゲームで異性として振る舞ったら、プレイヤーの精神に影響は?
等、懸念される事もあるでしょうが、そこは問題有りません。
このVR機器は明晰夢みたいに、夢の中で活動している自覚があるみたいに、現実へは影響を与えません。
……と言う設定。
タンク
タンクと付く言葉なら、なんでもありのアホスキル。
本文中で水溜は気付かなかったが、戦車は時速80㎞を出すことも出来るので、本気で走ったら長距離で高速ダッシュできた。
なお仲間は真似できずに置いてけぼりとなるから、ソロプレイでのみ使える。
名前がロウリィだから幼女化したのではない。
小さな身長、矮躯ならぬ短躯なので、幼女化が確定したのが真実。
タンクローリーだ! とばかりにタンクローリーを喚び出して操り、相手へ突っ込ませて爆発炎上させる攻撃方法も有り。
突っ込ませる以外にも、上空から落とすだけで大惨事確定。
タンクローリーではなく、タンカーを喚べば威力は変わる。
【ゴッサミナクメ】
世界の名前ではあるが、そのキャンペーンシナリオ限定の名前。
クリア等で次のシナリオを選んでも、同じシナリオを選び直しても、別の名前をランダムで付けられる。
ポンコツAI
本当にポンコツ。
決まったことしか喋らないから会話パターンは貧弱だし、戦闘時の行動パターンは単純。
プレイヤーが号令をかけるまで、体力がどれだけ減っても移動と攻撃しかしない。
魔法を使える仲間は、直接攻撃中に時々思い出したように、使える魔法をランダムでテキトーに撃つだけ。
弓使いは敵と射線を合わせようと、動き回っては時々射かけるだけ。
プレイヤーからの指示も少しは聞くが、少し経つと「状況が変わった!」と判断して、再びポンコツ行動に。
嗚呼、このゲームのプレイヤーはつらいよ……。
~~~~~~
蛇足2
本来は転生もののチートスキルとして考えてました。
タンクとしては、ノクターンでこそ輝くようなタンクの付く言葉もありますので。
しかしそれで物語の展開を考えても、ベタなネタしか無かった故、ソロ用VRへ。
VRMMOだとゲームバランスが崩れすぎていますので。
まあ、ゲームバランスなんて考えない、世の理不尽を拡大解釈したトンデモVRMMOゲームと設定するのも手ですけどね。
最初っから超強力スキルを得るプレイヤーがいて、最初から得られなかったプレイヤーの中には隠し条件で公式チートスキルを得られるプレイヤーもいて。
全くそんなスキルは無しにモブ同然のプレイヤーキャラクターとして終わるのもいて。
普通のスキルばかりなのに、理不尽なまでに高いプレイヤースキルと言う下地で、超強力スキルや公式チートスキルをモノともしないプレイヤーがいて。
そんな奴等が束になっても敵わない、豪運ひとつで鼻唄まじりに我が道を行くプレイヤーもいて。
そんなのでも良かったけど、書ききれる自信がないので(目逸らし)