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にごろあまた  作者: ぺろたまぽこさく
SF長編「2569 Core」は「にごろあまた」の核心に触れる作品です。短編をご覧いただいてからお読み下さい。
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2569 Core 12「ニゴロ アマタ コア」

 ヤタノ達の戦闘が終わった。アマタの子供、クロが全てを終わらせてくれた。


 ──ヤタノは人型重機の二号機に走り寄る。


「ニゴロッ!返事しろ!ニゴロッ!」


 二号機は沈黙したままだった。外からは開けられない。


「クロっ!ここに仲間がまだ居るんだ!ハッチを斬ってくれ!」


 クロは何も言わずにハッチを刀で斬る。ゴトン……とハッチは地面に落ち、ヤタノは操縦席で横たわっているニゴロを見つけた。


「ニゴロ!生きてるか!?おい!」


 ニゴロを揺さぶる、機械の猫がカシャンカシャンと音を立て、揺れる。


「……ニゴロ……ダメだったか……!巻き込んじまった……!ごめんよニゴロ……」

「……ニャア」

「ニゴロ!?返事をしたぞ!クロ!こいつの状態を診てやってくれ!」

「ヤタノさん、待ってください。きっとニゴロさんは……」

「ニャア、ニャア!」


 ニゴロが起き上がってヤタノの腕に飛び込む。ゴロゴロ、ゴロゴロ……とニゴロは喉を鳴らす。


「どうしたんだ、ニゴロ?そんなに怖かったのか?お前らしくない」

「……ナァーオ」


 ヤタノは何かを察してニゴロを腕に抱え、地面にあぐらをかいた。脚にニゴロを乗せて頭を撫でる。


「……そうか、ニゴロ。お前はもう居ないんだな。元の猫に戻ったんだな」

「少し、ニゴロさんを触ってもいいですか?」

「ああ、頼む」


 ニゴロの首根っこにクロのワイヤーがそっと伸びた。


「ヤタノさん……記憶は断片化していて、データが消えていきます」

「そうか……疲れたよなニゴロ。お前は猫だったんだもんな。本体が死んでから大体二十年か……つらかったな、本当はもっと甘えたかったんだろうな。美味いごはんも食べたかったんだろうな……」


 ゴロゴロ……ゴロゴロ……と喉を鳴らし、少し経つと喉の音が静かになり、ニゴロは((消えた))。カシャリと音を立てて力の抜けた猫の機械が膝に残った。


 ヤタノは悔しそうに涙を流した。クロのバイクがレイコを乗せて到着した。


 レイコは、戦場の有様とヤタノの膝に寝ているニゴロを見た。ミチルはアマタの頭蓋骨パーツを抱えて、ヤタノのそばに立っていた。


 皆の様子を見て、レイコはアマタとニゴロが居なくなったことを理解した。


「あなた……頑張ったわね……よく生きて戻ったわね……ミチルちゃん、こっちに来なさい」


 レイコはヤタノとミチルを大きく力強く抱きしめる。あと30分で海岸にヤタノの親友が迎えに来る時間だ。


 しばらく、無言の時間が続く……


「すまなかった、レイコ。全員で島を出ることが出来なかった」

「謝らなくていい、言わなくていいの。あなたは最善の努力をした。それだけでもう十分なのよ」

「……わかった。ありがとう、レイコ」


 ヤタノはそれ以上、すまないと言うことはなかった。ヤタノがあやまってばかりいたら、いつまで経っても居なくなった二人が(むく)われない。ヤタノはそう思った。


「そうだ、あと30分で海岸へ向かわなければ。ここに居る場合じゃないんだ」

「そうよ、あなた。ミチルちゃん、手を繋いで私と行きましょう」

「お母さんは……どうすればいい?」


 アマタの頭を両手で抱えるミチル。手を繋いだらアマタを置いていかなければならない。ミチルはレイコと手を繋ぐことを躊躇(ちゅうちょ)する。


 すぐさまクロが、ミチルの前にしゃがみ込んで頭に手をのせ、やさしく話しかける。


「ミチルちゃん。お母さんは、息子の僕が引き取る。僕に預けてくれないか?」

「そうか、アマタの息子がクロなら、ミチルは妹になるな。クロはミチルのお兄ちゃんか」

「お兄ちゃん?……ミチルのお兄ちゃん!」


 ミチルは急に新しい家族が出来たようで、寂しさが薄れたのか少し元気を取り戻した。


「お兄ちゃん!お母さんをよろしくお願いします!」

「よし、良い子だ。ミチルちゃん……いや、ミチル。ありがとう」

「ヤタノさん、母はこちらで手厚く葬ります。良いですか?」

「もちろんだ、息子はお前なんだから。ありがとう、クロ」


 クロはミチルからアマタの頭蓋骨パーツを受け取ると、腕からコードを伸ばし、電子脳内の虹色に輝く小さなキューブを取り出した。


「ヤタノさん、ニゴロを持ってきて下さい」


 同じくニゴロの電子脳内のキューブをそっと取り出す。


演算装置(コア)か、二人のコアをどうするつもりだ」

「説明します、ヤタノさん。海岸まで歩く途中でお話をしましょう」


 ひとまず、ニゴロとアマタは人型重機のシートにのせた。


 そして、4人は拠点(キャンプ)から海岸へ歩きだす。レイコとミチルはしっかりと手を繋いでいた。


「なぁ、クロ。さっきの説明ってなんだ?」

「ええ、二人のコアについて説明します。先にヤタノさんへこれを渡します」

 

クロは、ヤタノの手に二つの虹色に輝くキューブを渡した。


「何故これを俺に渡す?」

「そのコアはヤタノさんが持つべきだと思います。きっと、ヤタノさんの人生を大きく変えるものになるでしょう」

「俺の人生を大きく変える?この部分(コア)はデータを計算するだけなんだぞ、アマタとニゴロの性格や記憶を一切持っていないものだ」

「この二つのコアは、母とニゴロさんが起動している間に変化しています。簡単に言うと、((予想外のエラーが吐き出される))故障した二つのコアです」

「なんだって……!?故障していた!?」

「わかりやすく抽象的に例えるならば、予想外のエラーが揺らぎとなって、大きな波を引き起こした。その結果がニゴロさんであり、母であり、私なのでしょう」

「そうか、ニゴロは一度死んで、データになった直後からエラーを吐きだしつつ、色んなネットワークを歩いてきたのか……だから、ウィルス扱いされて、ネットの防衛システムから目をつけられ、駆除され続けていた……」

「そして、母の場合は恐らく、白い島でベビーシッターをしていた頃に遭った事故の影響で、エラーを出し続けていた」


 その話を聞いていたレイコが、クロへ質問する。


「私も、その可能性があるかもしれないの?」

「レイコさんも、その可能性は高い。恐らく、エラーの頻度が二人よりも少ないはずですが。調べてみますか?」

「……やめておきます。私はエラーが出ていてもいい。機械的には不正解だとしても今までの記憶を大切にしたいから」


 ((たとえ不正解だとしても、大切にしたい記憶。ヤタノは人間もそれは同じだと思った))。だから、この不安定な二つのコアは余計に愛おしいものであることを確信した。


「クロ、お前が俺に二つのコアを渡した理由は?」

「ヤタノさんなら、きっと最善の使いみちが出来る。そう思ったからです」

「ずいぶん、俺のことを信用するんだな。このコアを研究すれば、クロのような強い機械を造り出し、大きな力を悪用することもできる」

「あなたはそんなことをしない、クロもわかってるわ」

「ヤタノさんは人間にも機械にも優しい。だから僕はあなたにこの二つのコアを託します」


 ヤタノは、少し考えて心に決めた。


「よし、わかった。約束しよう、必ずこの二つのコアで皆が幸せになるような何かを生み出そう」



 ――「2569」の演算装置には故障した二つのコアが、そのまま使用されている。

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