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剣豪

 「アイミ!今だ!」


 ゴーレムが徐々に近づいて行く中で震える喉から全力でアイミに合図を出す。


 「【フレイムボール】!!」


 アイミが杖から俺の球体の二倍の大きさを誇る炎の球をゴーレムに目掛けて放たれるのを見て俺も…腕を振りかざす。


 「この恩知らずが!!」


 やけくそ気味に吐き捨てて全力で狙いを定めて投げれば…命中した。


 『な、なに!?』

 「ミツル!?」


 突然の魔法にテリサさんが驚いた声を上げて立ち止まる中ですれ違ったセリーヌから声を掛けられながら全力でゴーレムの合間を縫って走り抜けて…目的の物を掴む。


 『魔法って…まさか雷魔法を使うのはセリーヌって子じゃないわね!?さっきから魔法を発動させる素振りも無いしおかしいと思ったわ。こっちの小さい子の方だったようね』


 テリサもセリーヌが先程から逃げ回るだけで魔法を発動しないのを訝しんでいたようで、狙いをセリーヌからアイミの方へ向ける。

 魔導士であるアイミよりセリーヌの方が逃げ足は速いだろうし、狙われると命の危険があるが…俺は薄く口角を上げる。


 「…テリサさん!これ、なーんだ」

 『は?何を……あ!!!!』


 ゴーレムの巨体が振り返るのは肩がびくりと震えるが平常心を装い、お姫様抱っこをして持っている…テリサさんを見せつける。


 「何か不思議なんですよね。さっきから動かないし悪戯して欲しいって合図ですかね?」

 『あ、あんた何で…私を』


 ゴーレムが慄き一歩後退する姿を見れば俺の予想が間違っていないことが判明した。

 【操作】と叫んでテリサさんがゴーレムに乗り移っていたが…一つ気がかりだったのは乗り移った後のテリサさんはどうなのかと凝視すればゴーレムにもたれ掛かって寝ている姿を見た時にふと思った。


 ゴーレムを操作している間は――本人の意識は無いのではないかと。

 実際にセリーヌを追いかけている時もテリサさんの本体は指一本も動いていなかったので、アイミに炎魔法でゴーレムの視界を奪って俺はテリサさんに球体魔法を投げつけてゴーレムから落としたのを掴んだのだ。


 「今すぐアイミたちから離れないと…」

 『は、離れないと……?』


 ゴーレムが怯えている姿はシュールで面白いが俺は真っすぐゴーレムを見据える。


 「一回ぐらい胸を揉ませてください!」

 『ふざけるんじゃない!わ、私の清潔な胸を触らせるわけないでしょ!?卑怯者!今すぐ私から離れなさい!』

 「卑怯はお前だろうが!ゴーレムなんて強力な武器を使わずに生身で戦えや!」


 まず、勇者出ないと力説しているのに勝手に殺される羽目になるのであれば、胸を一回や二回ぐらい揉ませてもらっても神様は許してくれるだろう。

 寧ろ、据え膳食わぬは男の恥といけ!と言われている気がする。


 『あ、あ!今すぐ私から離れないとこの子たちを一撃で倒すことになるけど良いのかしら?』


 自分の状況を振り返ったのか、拳を振りかざし狙いをアイミ達を見据えている。

 先程はまぐれで躱せたが次も躱せるほど甘い訳もなく…本当に危ないかもしれないが…俺の方が状況は有利だ。


 「おっと、良いのか?お前がアイミ達に攻撃している間に俺はお前の服をビリビリに割けるぞ?そしたら、お前は全裸で帰還できるのか?この先の村に入ることも出来ずに永遠と全裸で荒野を歩き続けることになるぞ?後、胸も揉ませてもらう」

 『あ、悪魔』


 テリサさんは自分の置かれた状況を理解したのか振り上げた腕をゆっくりと戻してくれる。

 完璧な作戦だが…実際は全て噓偽りのはったりだ。

 童貞の俺には服を脱がすことも、胸を揉むことも出来ないので大人しく従ってくれて大変有難い。


 「ねえ、ミツルって運じゃなくて良心がー1000じゃないかしら」

 「…どっちが魔王軍幹部の仕業か分からないよね」


 折角助けてあげて…俺の狙いでは『ミツル!頭がいいわね!』とか、『助けてくれてありがとう!』的な言葉を期待していたのに、仲間からごみを見るかのような侮辱の視線を向けられてしまう。


 『貴方…もしかして仲間なのかしら』

 「ふざけんな!人を魔王軍扱いするな!俺は一般的で平均の男だ!」

 「威張って言う言葉じゃないわね」

 「お前はさっきから喧しいわ!助けてるんだから感謝の言葉を送れよ!」


 ……今ので何分ぐらい稼ぐことが出来た?

 このやり取りを合わせれば五分以上は稼ぐことが出来たと思うが…まだシャルの準備は終わらないのか?

 …もう少し時間を稼ぐか。


 『貴方…後で覚えておきなさいよ』


 テリサさんはゴーレムに乗り移っているので表情こそ分からないが怒気を孕んだ声で一歩後退する。


 「おいおい!もっと早く動かないとテリサさん以上の動きで俺の手が…」

 『分かった!分かったから絶対に触ったら駄目よ!?』


 少し速度を上げて俺達から離れていく。

 ……良し。この調子なら十分ぐらいなら余裕で…、


 「ねえ、さっきから思ってたんだけどあんたって本体に戻れないの?」

 『あ』

 「お、お前は本当に!!」


 大丈夫だと確信を持った瞬間にセリーヌの一言にテリサさんの動きが止まる。

 ……本当にあの馬鹿をどうしてくれようか!?


 『【解除】!!』


 ゴーレムの瞳が消え、固まると同時に俺の腕の中で抱きかかえられていたテリサさんが目を覚ます。


 「お、おはようございます」

 「よくも私を弄んでくれたわね!?」

 「事後みたいに言うんじゃねえよ!まだ、何もしてないんですけど!?」


 腕の中でジタバタと暴れたテリサさんが俺から離れて涙目でゴーレムの方へと全速力で駆け抜けていく姿を見て、俺もここにいる理由もないのでセリーヌたちの元に戻る。


 「お前な、もう少し考えて発言しろよ。折角忘れてた様子だったのに…って、なんだよ」


 慌てて戻れば歓迎するような眼ではなく、二人からジト目で見つめられる。


 「ゴミ」

 「最悪」

 「おい!何もしてないぞ!?」


 何故か、俺が何か悪いことをしたのかと言わんばかりの発言だが…指先も触ってない。

 本当は触りたかったのを必死に抑えて我慢してたのに!!


 「【操作】!」


 仲間の最悪な勘違いを必死に弁明しようと試みていると、近辺から甲高い声と共に再びゴーレムの瞳が赤く染まり上げる。


 『私を弄んだことを死んでも許さない!!絶対に殺す!!』


 ……ああ。

 大変お怒りな様子だ。

 本当に死んだかもしれない。


 「ね、ねえ。ミツルが悪いんだし私は関係ないわよね?ね!?」

 「実はここにいるセリーヌにやれって言われて」

 「あんたどこまで屑なの!?将来碌な死に方をしないわよ!?」


 セリーヌに罪をなすりつけようと試みたが全く通用しないようで俺を目掛けて歩を進めている。


 「…ど、どうするの?これ、本当にやばいんじゃ」


 アイミが震え慄き後退するが…既に俺の手は尽くしたのでもう作戦は無い。


 「み、ミツルさん。け、喧嘩してる場合じゃないみたいよ!ちょっと何か作戦とか」

 「さっきので最後だ。そもそも、俺は知力が高い方ではないんで最後の最後で閃く作戦とかも無い」

 「ど、どうするの!?」


 こんな時に物語の主人公だとピンチな時ほど咄嗟の作戦を思い付き逆境を跳ね返さんと立ち向かうかもしれないが…俺は巻き込まれた勇者で急に作戦を思いつくことなど無い。

 先程から何度も考えてはいるが、思いつくことは無い。


 「――――大丈夫よ」


 ……なんだ?

 小さく端的に呟かれる声に背後からシャルの声が聞こえて背後を振り返れば…シャルの様子が変だ。

 座っていた腰をあげて剣を持って佇む雰囲気が有り得ない程のオーラを剝き出しに白く光り輝いている。


 「…シャル、それは何なの?」

 「初めて見た」


 二人とも始めた見たのか…驚いているが…信じられない。

 想像や幻想でもなく…シャルは白い光に身を包み幻想的な姿と化して戻って来た。


 「後は私に任せて」


 綺麗、カッコイイ、凄い、全て端的で語彙力が無いのかと疑う程の感想が頭の中に流れるが、最も適切な言葉は――異常と呼ぶべきだろう。

 シャルは光を身に纏ったまま俺達の間を通り過ぎて近づいてくるゴーレムと相対する。


 『今度は何かしら…ん?何だか嫌な予感がするわね』


 テリサさんも魔王軍幹部としてシャルの異常さに気付いていたのか歩を止めて硬直した。

 今のシャルに無茶をするなと言わなくても大丈夫だと何故か確信が持てていた。


 目の前にいるゴーレムは巨大で岩で作られ、剣で斬ろうと考えればどちらが勝つのかと問えば小学生でもわかる問題だ。


 「万物万象・全てを斬り捨てる」

 『あ、あれ?足が進まない』


 三mの巨体が体を震わせ足が動かない様子で固まっている。

 …シャルの姿に足が竦んで動けないのだろう。


 「天地・唯我独尊・この剣に適う者無し」


 シャルがゆっくりと剣を下段に構え…ゴーレムへと近づいてくが…錯覚だろうか?

 三mの巨体よりシャルの方が…大きく見えた気がした。


 『そ、そうだわ!今日は引き分けにしましょうか?私も勇者を見つけるだけの命令だったし丁度良いんじゃないかしら』


 …岩や…石を斬ることが出来ないのは…俺が生きた日本の常識だ。

 もしも、世界で石を、岩を斬ることを可能にする人間が存在するのなら目の前の――シャル以外に俺は考えられない。


 「我が剣に斬れぬ物無し」

 『ゴーレムよ!?斬れる訳がない。絶対にあり得ない!』


 ゆったりと前傾したシャルが目にも止まらぬ速さで加速しゴーレムへと急接近する。

 砂塵が舞いながら更に加速したシャルは下段に構えた剣を上へ振りかざす。


 「剣王奥儀【覇剣】!!」


 シャルを纏う白い光が剣に移り…ゴーレムを超える大剣がゴーレムを――――真っ二つに切り裂いた。


 魔王軍幹部【土姫】VS冒険者シャルの一騎打ちはシャルに軍配が上がった。

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[気になる点] 我が剣に斬れる物無し >斬れる物ないのかw
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