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豪邸に住みます

 意味が分からない。

 百五十金貨の借金を作っておきながら、住んでいる家は豪邸。

 てっきり目の前の屋敷は偽物で中は老朽化が進んでいるのかと思えばそれも違い、屋敷の中は綺麗に掃除してある二階建ての普通のお屋敷だ。


 「……おかしいだろ」


 異世界には借金を作れば豪邸に住めるシステムでもあるのか?


 「ミツルってば家に入ってから様子が変よ?何?この家が気に食わないの?」

 「世界について考えてるんだよ」

 「大丈夫?」


 セリーヌに頭は大丈夫か?と言われている気分だが…目の前の屋敷を見て疑問を持たない方が不思議だろう。


 「良し。深く考えるのを止めてご飯を食べようぜ。何だかお腹が空いて仕方がない」

 「あれだけ歩いて戦闘も行ったしお腹は空くでしょうね。でも、私もお腹が空いたわ!今日は誰が当番かしら」


 一番広いであろうリビングに行けば予想は出来ていたが相当広く洋風のお屋敷でテーブルが置かれ、生活用品らしきものが置かれているがそれでも有り余るほどの広さだ。

 物を少し片づければ十人ぐらいでドッチボールが出来る広さである。


 ……もう気にしない!


 「げっ!今日は私が当番だわ!でも、面倒ね。適当にそこら辺の材料を焼くので良い?」

 「私が料理をする」

 「え!?」


 台所からセリーヌの面倒そうな声が聞こえると、シャルが服を捲って料理をする支度をしているのに、セリーヌが驚きの声を上げている。

 勝手に家に来れば仕様が分からないので困るがアイミが椅子に座っているので俺もそれに倣って椅子に座って台所で肩を震わせているセリーヌを見る。


 「ちょっと!本当に今日は何事なの!?」


 驚き固まっているセリーヌが全速力でこちらに向かってシャルに聞こえない程度の声で俺達に耳打ちする。


 「…そうだね。何時もより機嫌が良いよね」

 「良過ぎるわ!シャルに何が起きてるの!?」


 アイミもシャルの機嫌の良し悪しが分かるようでセリーヌの言葉に同意を示すが…俺にはさっぱり分からない。


 「何時もはどんな感じなんだ?」

 「私達が料理当番の時に代わるなんてあり得ないし、ずっと庭で剣を振ってるわ。それに、今日はまだ誰も殴ってないわ」

 「最後の判断基準が俺には分からない」

 「おかしいよね。冒険者ギルドで少しでも不穏な雰囲気が出たとかで直ぐに殴り掛かるのに」


 ……本当にこいつらの判断基準が俺には理解出来ないが、変人の考えが理解出来ると俺も同類になりそうなので考えるのを止める。


 「俺も料理を手伝って来る」

 「え、だ、駄目よ」


 こいつらと話しても俺には理解が出来る気がしないし、招いて貰って何もしないのは駄目だと良心が働き、シャルの方に行けば背後から小声で何か聞こえるが気にせずにシャルの元へ向かう。


 「どうしたの?」

 「料理を手伝おうと思ってな」

 「そう。なら、野菜を切って」

 「「ええええええええ!?」」

 「な、なんだ?」


 食材は日本の物と変わらないので切り始めようかと思えば背後から絶叫が聞こえた。


 「シャル!あんた今日は様子がおかしいわよ!どうしたの!?今日は何か特別な日なの!?」

 「どうしたんだよ」

 「何時もは私の料理は自分で作るって誰の手伝いも受け付けないのに…」

 「別に今日は良いわ」


 アイミが驚く姿は新鮮で今日は相当シャルの機嫌が良いのが伺えるが…機嫌が悪い日がどんな形なのかが少し気になるな。


 「何なの!?今日は怖いわ!」


 セリーヌが本気で怯えた様子で戦慄して後退して椅子に座って頭を抱えている。

 アイミも若干不思議そうにシャルを見つめた後にテーブルに座るがシャルの方を凝視していた。


 「今日は何かあったのか?」


 機嫌が良いと言うことは何かしら情報があるという訳だ。

 単純に何がそこまで上機嫌なのかが気になるので野菜を切りながら世間話程度に尋ねればシャルの視線がチラリとこちらを向く。


 「ん?俺なのか?」

 「…誰かに心配をされたのは初めてだった」

 「心配?」


 ……ん?

 記憶を辿れば…思い出した。

 ゴブリンを倒す前に無理なら無茶をせずに退けよ的な事を言ったな。


 「うん。私は昔から強くて他の人達とパーティを組んだ時も絶対に皆は私を頼るし…誰かに心配なんてされたことも無かった」


 なるほどな。

 ゴブリン戦を終えるまでは半信半疑ではあったが、シャルは相当強い。

 異世界に来て知識の少ない俺でも冒険者の中では相当な実力者なのだと判断が出来る。

 だからこそ、誰からも頼られ任せられるが…心配など誰もしないのかもしれない。


 「だから少し嬉しかった。ありがと」

 「あ、ああ」


 一瞬だがシャルが――――笑わなかったか?


 「もう大丈夫だから二人と一緒に待ってて」

 「おう」


 本当に困るよな。

 我慢が出来なくて直ぐに暴力を振るい借金を作る美少女。

 だけど強くて仲間思いで…笑った笑顔があれだけ可愛いと何でも許してしまう程の破壊力を備わっているのだから。


 ◇

 翌日。


 「今日も無茶をし過ぎず借金をなるべく稼げるクエストを探して俺は早く服を買いたい」


 冒険者ギルドに再び来てクエストを探して借金を返さなければならない。

 しかし、焦って無茶なクエストを選んで死ぬのは一番駄目であり昨日の一件でシャルが相当強いのは理解したが、一人に無茶な目を合わせるのは駄目なのでゴブリン程度のクエストが欲しい。


 「良いのを見つけた」


 昨日と同じくシャルが真っ先にクエストを持ってくるが、


 「竜はまだ早いぞ?借金は返してないし馬車で迎えないぞ」

 「……」

 「むくれても駄目だ」


 既にオチが見えていたのでクエストを見るまでもなく伝えればシャルが口をへの字にするが、意見は覆らない。


 「違うクエストにしてくれ」

 「…分かったわ」

 「ていうか、ミツルも探しなさいよ」


 俺は一人で仁王立ちして三人がクエストを探すのを待つのだがセリーヌがジト目で不満を漏らす。


 「俺は昨日の一件で理解した。運が悪い俺がクエストを選ぶと碌な目に合わないってな」

 「納得したわ」

 「納得はするなよ」

 「あんた相当面倒な性格してるわよね!?」


 同じへまをするほどの馬鹿ではないので昨日の一件で俺が見つけたクエストで危ない目にあった。

 今後も同じことが起きる前に少しでも改善するのは当たり前だが、セリーヌに納得されるのは少し悲しい気持ちになる。

 まだ、「馬鹿な事を言ってんじゃないわよ!」と言われた方が気持ち的に楽だ。


 「ミツル、これはどうかな?」


 アイミはまだ俺に心を完全に開いてないのか若干猫背で顔を俯かせて渡してくれるが…俺は怖く見えているのだろうか?

 人畜無害で真摯な男と言えば俺が出てくるはずだが。

 …まあ、徐々に仲良くなればいいと結論付けてアイミが持ってきたクエストに目を通す。


 『シャン実の森でバウンドベアを一体討伐。報酬:十金貨』


 「このバウンドベアってどんな魔物だ?」

 「四足歩行の魔物で凶暴な爪を持ってるのと、時々飛び跳ねる事もあるけどシャルなら対応出来ると思うよ。剣術も魔法も効く魔物だから大丈夫だと思うよ」


 四足歩行で凶暴な爪を持つバウンドベアで思いつくのは熊に近い存在なのだろうか?

 けど、時々飛び跳ねると言うのはよく分からないが、


 「シャルはバウンドベアを知ってるか?」

 「何度か戦ったことはある」

 「勝てたか?」

 「勿論よ」


 シャルが自慢げに呟くのであれば相手の特徴も理解しているのだろう。


 「シャルも魔物の特徴を把握してシャン実の森は一度行ってるし丁度良いな」

 「文句は無いけど私の活躍の場が絶対に無いんだけど」


 全員が賛成を示したと思いきや活躍の場が無いと頬を膨らませたセリーヌが文句を零す。


 「考えてくれ。セリーヌは回復魔導士で言わば一番重要な役割だ」

 「…一番重要?」


 文句を垂れていたセリーヌの動きが硬直し耳を傾けているのか俺の言葉を復唱している。


 「誰かが怪我をした時にセリーヌは大事だし、誰も怪我をしないで戦えるのならそれ一番だろ」

 「ミツルにしては中々良い事を言うじゃない」

 「してはは余計だ」


 まだ出会って三日目だが既にセリーヌの扱いに慣れた気がする。

 煽てて、それでも無理ならお酒をお供えすれば落ち着くのだからもしかしたらこの中で一番扱いやすいかもしれない。


 「…まあ、今の所は一切活躍してないからただの借金女だけどな」

 「なっ!?」

 「何でミツルさんは余計な事を言うの?」


 余り調子に乗らせすぎるのも駄目だと一応重要なことを伝えたが、アイミから呆れたように駄目出しをされてしまった。


 「言い争いしてないでクエストを受けましょ」


 シャルが既にクエストを受ける準備をしていたので俺達もクエストの上に冒険者カードを置いてクエストを完了する。


 荷物も用意する物も無いが昨日の道のりが少し長かったので水と食料だけポケットに入れてシャン実の森に向かって出発する。


 シャン実の森に向かって出発するのは良いのだが昨日からずっと気になっていたことがある。


 「シャン実ってなんだ?聞いたことも無いんだけど」

 「シャン実はシャン実よ」

 「セリーヌに聞いてない」

 「何でよ!!」


 セリーヌが既に説明下手なのは分かっているので聞くだけ無駄だと知っている。

 抽象的な言葉だけで分かる程の俺には理解力が無い。


 「シャン実は甘い果実で食べた時にシャンとするからシャン実と呼ばれてる」

 「赤い果実で小さいけど美味しいから結構人気だよ」


 大体全体像が見えてきたがシャンという効果音が俺には分からない。

 シャキというのは日本で言えばリンゴや梨が挙げられるがシャンというのは余り聞かない気がする。


 「余裕があったら取って帰るか」

 「一応言うけど果実とかって無断で取ったら駄目なのよ?分かってる?」

 「一個ぐらいバレないだろ」


 シャン実の森と呼ばれる程だから相当な数のシャン実が実っている筈だ。

 その中から少し取った程度で重い罰になる訳も無い。


 「私ってずっと思ってたんだけどミツルってば人間の皮を被った悪魔よね?変身が出来る悪魔がいるって聞いたけど中身は悪魔なのね」

 「俺が悪魔ならお前は人間に化けた借金製造機だな」

 「何ですって!?」

 「おい!?掴み掛かるなら俺も球体を投げるぞ!?」


 セリーヌが憤慨した様子で襲い掛かってくるが、俺よりステータスが高いので簡単に押し倒されて頬を抓られる。


 「ん?何か来る」


 荒野のど真ん中でセリーヌと掴み合いをしているとシャルが目を細め真正面を凝視している姿を見て俺達も手を止めて正面を見るが砂塵が舞い、何がいるのか分からないが…徐々に黒い影がユラユラと揺らめている。


 ……お化けではないよな?

 俺はホラー映画は大の苦手で一度見た時は恐ろしすぎてその日は眠れなくて人生で初めて一日中起きていた日でもある。

 砂塵が薄れ姿を現したのは――――綺麗な紫色の髪の毛を腰の高さまで伸ばし胸がセリーヌよりも大きい綺麗な――美女だった。


 「大丈夫ですか?」

 「あんた何時もはそんな機敏に動いてないわよね!?」


 セリーヌが驚いた声を上げるが何を言うのか。

 俺は誰かが困っている時には真っ先に助ける聖人君主な男だ。


 「み、水を…頂戴」

 「幾らでもどうぞ」


 バックの中に入れていた水がここにきて活躍するとは思わなかったが直ぐにお姉さんに水を渡す。

 水を手渡されたお姉さんは目を輝かせ一気に飲み干していく。


 「も…もし良ければご飯を」

 「全部食べてください」

 「ちょっと!昨日、私がおかずを頂戴って言っても渡さなかったわよね!?」


 背後から妙な横槍が入るが気にしない。

 困っている美少女を見捨てるほど俺の性根は腐っていないし、ご飯を提供するぐらいは別に問題は無いいな。

 ……もしかしたら今回の出会いでラブコメ展開に発展しても全然良いんだからね!


 お姉さんは俺達の会話が聞こえていないのか無我夢中で水を飲みながら食事にも手を付ける。

 余程お腹が空いていたんだろう。


 「――――ふう。ごちそうさま」


 遠慮のないお姉さんは全ての食事を平らげて最後に礼儀正しく手を合わせて満足げな笑みを浮かべていた。


 「本当にありがとう!絶対に人生が終わったと思ってたの!このご恩は忘れないからね」


 俺に何度も頭を下げ、最後には可愛らしくウインクをする美女に俺は…一瞬見惚れてしまった。

 ……これだよ!

 お姉さんとは礼儀を忘れず可愛らしさも孕んでいるのが当たり前なんだ。

 何処かの誰かみたいに借金を生み出したり、外堀を埋めるために恩を売るとか全然テンプレのラブコメ展開ではないのだ。


 「いえいえ。困っている人がいれば助けるのは当然です」

 「ねえ、あれは誰?ミツルじゃないわよね?ミツルは困っている人がいても哀れんだ眼で見て去っていくような人間よね?」


 ……あの野郎。

 背後から遠慮のない文句に青筋を立て、絶対に後で仕返しをすることを決めながらも目の前の展開を無駄にはしない!


 「本当に困ってたのよね。遠慮のない命令に強制的に歩かされて家一つも見えない荒野を歩かされるのよ!?最低だと思わない!?」

 「大変でしたね。困ったことがあれば俺に何でも相談して下さい」


 遠慮のない命令って何?とか、歩かなくても良いのでは?と鈍感で女心が分かってない人間なら口に出すかもしれないが、俺はそんなへまはしない。


 「優しいのね。なら、なんか違う世界から呼ばれた勇者を知らないかしら?私は見つけ出さないと帰れないのよね」


 ――――ん?


 「特徴は黒髪で黒目の変な格好をしてる……あれ?」


 お姉さんは自分で言っておきながら目の前にその特徴に当てはまることに気付いたのだろう。

 ……ああ、どうしてなんだ。

 美女なお姉さんに至近距離で見つめられると幸せな筈なのに赤くなるのではなくきっと青白く冷や汗を大量に流している。


 「…ねえ、もしかして」

 「ち、違いますよ!?俺はこの先にある村で暮らしてた人なんです!」

 「え?でも、ミツルってば住む家も無いし冒険者ギルドも知らなかったじゃない」

 「お、お前は馬鹿なのか!?」


 慌てて誤魔化そうと言葉を並べて取り繕ったのに空気の読めないセリーヌが至らないことを口走る。

 恐る恐る背後を振り返れば案の定、目の前のお姉さんの雰囲気が一変し冷たい空気が周囲を渦巻き、包み込んでいく。


 「…そう。貴方だったのね」

 「ちょっと!」

 「私の命の恩人が勇者だったんて悲惨な運命ね」

 「まてまて!悲惨じゃない!幸運な感じで終わろうぜ!?」


 ラブコメ展開を期待していたが戦闘展開は一切求めていない。

 今の展開からは『私を助けてくれてありがと!好き!』的な感じで良かったのに…何故、全て良い方向に進まないのか。


 「召喚魔法:【ゴーレム】!!」


 お姉さんが立ち上がり真剣な表情で高らかに綺麗な声が響き渡ると同時に地面にヒビが入り始め、地面の土が徐々に集結し巨大に膨れ上がる。


 「な、なんだ!?」


 慌ててセリーヌたちの方まで避難するが地面が抉れ徐々に集結していくと強固な石や岩、砂が全て集結して…三m近い巨大な生物が姿を現した。


 「…ご、ゴーレムを召喚なんて…聞いたことが無いよ」


 魔導士であるアイミだからこそ分かるのか目の前の巨大な地面の生物――ゴーレムを見て慄ている。


 「私は魔王軍幹部【土姫】テリサ!!勇者よ!覚悟しなさい!」


 ゴーレムの肩で高らかに宣言するテリサさんだが…俺が巻き込まれた転生者だって伝えたら逆ギレするかな?

 

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