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初戦闘

 クエストを発注し、色んな準備が必要なのかと不思議に思ったが考えてみればセリーヌが回復魔導士なので回復用品は必要ないし、シャルやアイミが周辺の地図は把握しているので殆ど必要な物は無い。

 ……改めて見ても借金以外は全てが完璧なパーティだ。


 シャン実の森に行くまでの間に野原が無い荒野を歩きながら思ったが借金の事は一旦忘れ目の前のクエストに集中しなければならない。


 「まずは、三人の能力とか教えて欲しいんだけど良いか?何も知らないままだと作戦も立てられないし」

 「私は【感覚察知】と剣術が使える。剣術に関しては大抵の人には負ける気がしない」


 ……何てカッコイイ女なのだろうか。

 自信を持って言えるほどの誇らしげにしながらも佇まいは本物の剣士だ。

 …俺も剣術が使えてカッコイイ勇者的存在に憧れてた時期があったな。


 「……」

 「ん?」


 少しシャルの表情が変化した気がして声を上げてしまう。

 口元が若干緩み歩く速度が少し速くなっている。

 ――――もしかして、今のも分かるのか?


 俺が善望の感情をシャルに向けたことに気付いて嬉しくなったとしか思えない。

 【感覚察知】というのも悪い用途だけではないんだな。


 「わ、私は炎魔法と後は…か、雷魔法を持ってるよ」

 「へえ。凄そうだな」


 炎魔法で周囲の敵を一網打尽、雷魔法で相手を一撃で吹き飛ばすなど男の浪漫でもある。


 「ミツルってアイミの凄さが分かってる?」

 「ん?魔法を二種類持ってるところか?」


 訝し気な目をセリーヌに向けられ首を傾げるが…今の要素は男の浪漫が溢れているとしか思えない。


 「違うわよ!雷魔法よ!?世界人口で一割にも満たない人だけしか与えられない世界最強の魔法なのよ!?」


 衝撃的事実に慌ててアイミを見れば…誇らし気にする訳でもなく静かに目を伏せていた。


 「だ、だけど、魔力が足りなくて今は使えないから」


 ……成る程な。

 俺なら自慢するのにと思っていたが使えないのなら自慢は出来ないし…寧ろ世界最強の魔法が使えると言うのにジレンマを感じてもおかしくは無いが、


 「羨ましいな」

 「え?」

 「だって将来有望な魔導士って事だろ?俺の球体魔法は伸びしろがるのかも分からんからな。雷魔法を持ってるだけでも成長の楽しみがあるから最高だな」

 「ミツル、言い難いけどその魔法に成長を期待するのは諦めた方が良いわよ?」


 折角カッコよく話を締めたのにお構いなしに再び茶々を入れるセリーヌだが、今回は俺を気遣ってか優しい口調で伝えられるが…今までの様に馬鹿にされた方がまだましだ。


 「赤子を諭すように優しく嗜めるのは辞めろ。罵倒したらやり返すことが出来るのに悲しくなるから」

 「遊ぶのには適切と思うけど」

 「シャルも正論を言えと伝えてるわけじゃないぞ!?」


 このパーティには天然しか存在しないのか。

 ……というより、先程から気になっているのだが、


 「アイミはどうした?俺の方を凝視してるけど」

 「え!?な、何でもないよ。た、ただ…少しだけ仲良く出来そうな気がしたから」

 「勘弁してくれよ。ここで仲良く出来たら俺まで変人みたいに思われそうな気がするんだけど」

 「!?」


 アイミが口をあ開け目を見開き固まっているが、仲良くなるのは良いが変人仲間と思われるのだけは勘弁だ。


 「最悪ね。今までの流れをぶった切ったわ」

 「ミツルってば馬鹿なんでしょ?分かってるけど」

 「お前らにだけは馬鹿と言われたくないわ!」


 シャルからジト目で睨まれ、セリーヌからは真顔の罵倒を受けたことにショックを受けてしまう。


 「お前らが借金を作らないのなら幾らでも仲良くしたいぞ」


 見た目は完璧な美少女三人組。

 セリーヌは天真爛漫な性格をしているが胸も三人の中では一番大きく酒癖を直せば誰からも好かれる性格なのは間違いない。

 シャルは男顔負けの凛々しい表情と佇まいから女騎士の風格を匂わせながらもツインテールで可愛さも滲み出て、直ぐに暴力を振らなければ間違いなく男女問わず人気になるのは間違いない。

 アイミは大人を意識しているのかポニーテルをしているのは可愛らしい一面であり、小さめの背に慎ましい胸でありながらも大人しめな性格は男子から見れば守りたくなる保護欲を掻き立てる性格もしているので男子からの需要は高すぎるほどだろう。


 俺も昨日の件が無ければラブコメ展開を期待したが今朝の一件で邪な感情が全て消え失せた。

 借金を作らないのであれば…俺は三人に惚れても全くおかしくは無いが今は余り期待はしていない。


 「あ、森が見えて来たな」


 荒野を話しながら歩いていると目の前に木々が並び雑草が生えた森が見えた。


 「ゴブリンは狡猾だから森の入り口付近にはいないと思うがシャルは少しでも自分の【感覚察知】に反応があれば教えてくれ」

 「分かったわ」


 森に入るがシャルの【感覚察知】があれば然程緊張は無い。


 「一つ確認したいがアイミは森の中で炎魔法は使えるのか?」

 「…う、うん。魔力の制御は得意だかあら魔力を切れば魔法も自動的に消えるから森が燃える前に消せると思う」

 「へえ、魔法は便利で良いな」


 魔法というのは魔力を使用して効力を発揮するのは知識としてあるが、自分の力で消すのは初耳の情報だ。

 今の話を聞けば俺が球体魔法で出した球もセリーヌに当てると思い発動して当てた後は直ぐに消えたのは俺が魔力を切った証という訳か。

 本人の役目を持って発動した魔法は役目を終えれば消えると知れただけでも十分な収穫だ。


 「ねえ、この辺に奇妙な気配を感じるから多分ゴブリン」

 「…今から初めての戦闘が始まるのか…」


 興奮と緊張が入り交じりながらも生唾を飲み込み額に冷や汗をかいていると言うことは自分が思っている以上に緊張しているのだろう。


 「だけど、不思議なのよ」

 「奇妙とか言ったけど何かあるのか?」

 「いや、私の感覚だと目の前にいるのはゴブリンで間違いない」


 イレギュラーでも起こっているのなら即刻帰ろうと提案したがゴブリンで間違いないと言うのなら大丈夫か?

 身を屈めなるべくバレない様に静かに移動をしながら茂みを抜ける……、


 「よし、帰ろう」


 目の前の後景を見て待っ際に出た言葉は帰ろうの一言だ。

 …いや、これは無理だよ。


 「ねえ、私もミツルに賛成よ。今日は調子が悪いしお酒を飲んで出直しましょ」

 「お酒は飲ませないが違うクエストにしよう」


 目の前にはゴブリン十体……ではなかった。

 二倍の数のゴブリン二十体が蠢いていたのだから。

 絶対に負けるとか、勝てるとかの話ではない。

 小さな森の一角に二足歩行に小さな小太りの鋭い目つきをした緑色の怪物が二十体もいるのは生理的に受け入れ難く前進に寒気が走り抜ける。


 「逃げない」

 「お、おい!」


 俺とセリーヌは既に背を向けてゴブリンに気付かれる前に逃げ出す算段だが、シャルが草むらから顔を出して剣を構えて仁王立ちしている。


 「私は一度敵と対峙したら絶対逃げない」

 「まだゴブリンは俺達に気付いてないから逃げるぞ!」

 「今、目の前のゴブリン一体と目があったわ」

 「お前が立ってるからな!」


 変な所で騎士道精神を掲げているシャルが仁王立ちしたおかげでゴブリンたちの視線が徐々に俺達の方へと視線を向けてしまう。

 ……運がー1000というのは良いことが一度もない。

 寧ろ負の連鎖が続いている気がする。


 しかし不運を嘆いても状況が変わらないのであればもう切り替えるしかない。

 異世界転移して―1000という状況だからって絶対に屈しない!


 「俺に一つ才能的な名案が浮かんだ」

 「教えてよ!早くしないとゴブリンが襲い掛かってくるわよ!」

 「まず初めに人を支えられる木組みを二つ作る。そこにセリーヌを吊るしてギリギリでゴブリンの攻撃が届かない程度の高さにする。セリーヌに夢中になるゴブリンをアイミが魔法で、シャルが剣で倒していく。完璧だ…ぶへっ!?」


 完璧な作戦を立てたと自画自賛したい気持ちも浮かびながらどや顔で呟けばセリーヌに殴り飛ばされる。


 「あんたふざけんじゃないわよ!ぶん殴るわよ!?」

 「もう殴ってるだろ!」

 「次はあのゴブリンの中にあんたを放り込むからね!?」

 「ごめんなさい!」


 本当にやりかねないセリーヌに瞬時に頭を下げるが…やはり無理か。

 現実的に作戦を立てるなら、


 「シャルは何体までならゴブリンと戦えそうだ?」

 「全部倒せる」

 「……半分ほど頼めるか?」

 「余裕よ」


 全部は強がりにしても半分ほどなら請け負えると信じて頼むしかない。


 「なら、半分程度引き連れてくれ。ただ、無茶はしない方向で無理だと思ったら無理せず戻ってくれ」

 「……」

 「どうした?」


 返事が無いことに振り返れば何故かシャルがこちらを間の抜けた顔で凝視して固まっている。


 「…何でもない。分かった」


 シャルは俺を一瞥した後、何事も無かったかのようにゴブリンを半分ほど引き連れて離れてくれるが、目の前にはまだ十体のゴブリンが存在している。


 「ねえ、この魔物どうするの?」

 「一応考えてはいるが、アイミは一体ずつ倒せることは出来るか?」

 「一体ずつ倒すよりは…纏めて倒した方が速いと思うよ」

 「纏めて倒す魔法はあるんだな?」

 「う、うん」


 首肯が返って来たので後は俺達次第か。


 「セリーヌに頼みがあるんだが」

 「いや!」

 「木組みの上に吊るされるか、囮をするかどちらがいい?」

 「どっちも嫌よ!ぜったいにいや!」


 首を全力で横に振り否定を示すセリーヌだが反対の立場なら俺も絶対に嫌だが囮をこなせるのはセリーヌしかない。


 「ミツルが囮をすればいいでしょ?」

 「俺も役割があるからセリーヌしかいないんだ」

 「嫌よ。見てみなさいよ!ゴブリンが私を見て興奮してるわ!捕まったら終わりよ!」

 「今回の報酬で俺の取り分で服を買った後のお金をお前のお酒代にしてやる」


 断固拒否の示しているセリーヌがソッポを向いて私は関係ありませんよと言わんばかりの態度だったが、体がピクリと動く。


 「全部?」

 「ああ。全部だ」

 「掛かってきなさい醜いゴブリンとも!私が相手をしてあげるわ!」


 今度からセリーヌに頼みごとをする時はお酒を代わりに差し出そう。

 チョロいセリーヌがゴブリンの前で仁王立ちして人差し指を曲げて挑発している姿にゴブリンたちの目つきが変わる。

 言葉は通じないが態度で馬鹿にされていることだけは理解したのだろう。


 「「ガアアア!!」」

 「キャアアアアア!」


 ゴブリンの叫び声とセリーヌの叫び声が響き渡りながら鬼ごっこが始まったのを見て俺も準備を始める。


 「【小:球体】×8」


 昨日の内に把握したが球体を一つ出すのに魔力を10消費するので今日出せるのは限界値の8個までだ。

 魔力を全て使い切ると失神するとソフィアさんに聞いているので冒険者ギルドでセリーヌに一度投げているので八個が今の俺の限界値だ。


 「ちょっとミツル!あんた本当に何かするんでしょうね!?私にここまでさせて一人で眺めてるとか絶対に許さないわよ!?」

 「そこまで極悪非道じゃねえよ!!」


 セリーヌが涙目でゴブリンに追い掛け回されている状況を見るとギリギリまで追い詰められる姿を見たいが後々の事を考えると俺の方がステータスが低いので生成した球体を地面にまばらに置いて行く。

 少し離れた場所でセリーヌが絶叫しながら全速力で逃げている姿のルートから考えれば…、


 「セリーヌ!少し迂回して球を踏まないように来てくれ」

 「え……分かったわ」


 直ぐに理解したのかセリーヌは涙目の顔を腕で拭い真剣な表情で俺の方へと向かって来る。

 心臓の音が何度も耳の奥底まで聞こえ、額から冷や汗が流れながらもタイミングを見計らう。


 「横にずれろ!」


 セリーヌに合図を送れば何時ものお調子者の姿ではなく全速力で横に飛び去る姿を見て俺も横にずれればセリーヌばかりに目を向けていたゴブリンたちは足元の罠に気付かずにドミノ形式で倒れていく。


 「アイミ!」

 「わ、分かってる!【フレイムトール】!!」


 アイミが杖をかざすと同時に転げまわっているゴブリンたちの頭上から――火柱が落ちた。


 「おおお!!」


 目の前の迫力に驚くが火柱が出て一秒で直ぐに魔法が消えると…その場にはゴブリンは見えず若干焦げ臭い雑草と十個の魔石だけが落ちていた。


 「か、勝った!勝ったわよミツル!」

 「ああ!勝ったぞセリーヌ!」


 俺とセリーヌは互いに何を言う訳でもなく肩を組み、喜びを嚙みしめて分かち合う。


 「球体魔法が大活躍じゃない!」

 「馬鹿言え!お前の囮が優秀だったからだ!」


 先程までの恐怖が消え、喜びだけが心の中に広がっていく。


 「わ、私もシャルの力を借りないで勝てたのは初めての経験だから嬉しい」


 大人し気なアイミも杖を両手で握りしめ顔は喜色に満ちていた。


 「だよな!アイミの最後の魔法は男の浪漫って…やばい!シャルの方を手助けに」

 「もう終わったわ」

 「へ?」


 喜んだのもつかの間、シャルがゴブリンと対戦しているのを思い出して背後を振り返れば丁度剣を腰にある鞘に仕舞うシャルの姿があった。


 「もう倒したわ」

 「倒したって…十体を?」

 「そうよ。死角に対する良い戦闘になったわ」


 ポケットからシャルは俺達の目の前に落ちているのと同じ魔石を渡してくるが…ここまでシャルは強かったのか。


 「良し!初戦闘で全員傷なしの完全勝利だ!」


 初戦闘はバラバラな俺達の完勝で終了だ。


 ◇◇

 ???side


 「……暑い」


 魔王の命令で勇者を探しているが何処に行っても見つからず…荒野で道は埋め尽くされ村一つ見つからない。


 「…絶対に許さない…魔王も適当に探せなんて…何処にいるかぐらい把握してから言いなさいよ」


 照りつく太陽に苛まれながら、水分も食料も無い地獄の道が続いて行く。

 

 


 


 

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