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結局優しい

 テリサのお店で開店前から食事を堪能するが、美味しすぎて何杯でも食べ続けるが少しずつ人が増え始めたので俺は台所でテリサが料理を作る隣で食事を堪能させてもらう。


 ついでに食事を食べながら三つ子のイチイとヨンイの二人とテリサのの間で下準備を終えた材料の繋ぎ役をする。


 「この材料は…猿猪の焼き鳥だな」


 「ありがとうございます」


 最近ではテリサの料理の食べ過ぎで材料から何の料理かも大体把握することが出来る程度には上達している。

 口直しにサラダを食べながらニイに猿猪の肉を渡す。

 やはり美味しいんだよな。

 サラダなのにジューシーで爽やかな肉も入って丁度良いアクセントで何杯でも食べることが出来そうな勢いだ。


 「ん。ニイ、二つの肉を同時に処理するのは大変かもしれないけど、猿猪の肉は厚いから十秒か二十秒で裏返して何度も焼いて中はレアで焼くんだぞ」


 「あ!すみません。ありがとうございます」


 ニイも忘れていたのか慌てた様子でひっくり返しているが、何故か料理をしているテリサが俺の方をジッと見ている。


 「…何で料理の方法を覚えてるの?」


 「何でと言われてもな。お前が何度も裏返して焼いてるから覚えてるだけだけど」


 俺は天才ではないので一回だけ見ただけでは覚えられないが、テリサの料理を台所とここのお店で何度も見続ければ流石に覚えてくる。


 「あ、因みにもう一つのコカトリスの肉はなるべくオーブンの奥で焼くことで時間は短縮できるぞ」


 「そうでした。ありがとうございます」


 二つの肉を同時に処理するのは難しいが、覚えれば簡単なので俺が出来る範囲で教えてあげよう。


 「ねえ、やっぱりミツルがこのお店で手伝ってくれない?」


 先程から料理を忘れて俺の方を見つめているテリサがとんでもないことを言ってくるが、俺は何度も伝えたはずだ。


 「嫌だけど?」


 「真顔で返されると傷つくのよ!」


 テリサが頬を膨らませて料理を再開しているが、その間に俺もサラダを食べ尽くしてしまう。


 「テリサ、俺にも猿猪の焼き鳥が欲しいんだけど」


 「あんたってばよく今断ってそのまま私に頼めるわね!その図々しい所に驚きよ!」


 「でも、作ってくれるんだろ?」


 「仕方ないから作ってあげるわよ!」


 何だかんだで作ってくれる辺り、テリサの優しさの片鱗が見える。

 本当に少しは手伝いたい気もするが、


 「因みに五本な」


 「あんた舐めてるでしょ!?」


 テリサが文句を垂れるが結局はサービスで十本ほど作ってくれるので有難く頂戴する代わりに俺がテリサに代わりニイの様子を確認しておこう。

 少しなら助言は出来るし、残りの三つ子の二人に関しても下準備なら俺が幾らでも手助けは出来るので安心して食事が食べられる。


 「満席だけど少し余裕が出来たわね。ニイは少し休憩して」


 「分かりました」


 「イチイとヨンイも順番に休ませるから」


 料理長、店長としての器が現れ始めたのか順番に休憩を挟ませてくれたおかげで三つ子も辞めずに頑張れるんだろうな。

 因みに俺なら一週間で辞める自信がある。


 テリサは余裕があるのか適当な賄いをニイに渡し、俺の隣で食べ始める。

 食べる空間が狭いので隣になるのは仕方ないのだが…少しだけ気恥ずかしいものも最初はあったが今では余り気にしない。


 「料理の方はどうだ?もう、慣れたのか?」


 「少しずつですが慣れている自負はありますが、まだまだです。今日は助かりました」


 「最初から出来る人なんて少ないだろ。この人が多い中でニイは頑張ってるだろ」


 表情が変わらないニイは誰よりも分かりにくいが、言葉に裏表が無いので誰よりも分かりやすいのではないかと矛盾の気持ちが生じている部分もある。


 「ここで働くんですか?」


 「いや、俺は働かない。お金があるうちは働く気は一切ないな」


 「私も貴方に働いて欲しくないと思ってました。最初は台所で普通に料理を食べる変人か狂人だと思ってましたけど」


 「…想像以上の切り傷が心に入ったぞ」


 言葉に裏表がないのは良い事だけど俺だって傷つくんだぞ!


 「今は少しだけ心強いです。もしも、働いてくれるなら私も助かります」


 「そう言われると悩むな」


 貶されてから褒められると何故か貶された分の怒りが消え、褒められた方が更に強くなる自分の気持ちは分からないが、助かると言われると悪い気はしない。

 顎に手を当てて思案してしまう。


 「何で私の時には即答だったのにニイの時は悩むの!?」


 ここで面倒な彼女の様な言葉を吐くテリサが料理を作りながら話に入ってくる。


 「テリサのは何かもうお決まりみたいで普通に断るんだけど、ニイのは何か本気っぽいんだよな」


 「私も何時も本気ですけど!?」


 「そうなのか?」


 てっきりお決まりの挨拶的な形で誘ってるのとばかり思い込んでいた。


 「私としてはどちらでも良いです」


 「なら、入らないでおく」


 「ならっておかしいでしょ!私の時も真剣に悩むそぶりを見せてくれても良いじゃない」


 なんかテリサが面倒な女の子の様な乙女心を出しているのだが、如何せん、最近は自分は女心を理解しているとばかり勘違いしていた様で全く分からない。

 この世界に来てから女子と関わる比率が少しだけ高いが、誰一人として女心が分かった気にはならない。


 「今度から悩んどくって。ついでに猿猪の焼き鳥をもう五本追加してくれ。凄い美味い」


 「本当に調子が良いんだから」


 満更でも無さそうに作り始めるテリサは俺以上に素直ではない気がする。


 「何だかんだで作ってくれるお前は好きだぞ」


 「す、すきってなななな何言ってんのよ。ここここ、これぐらい普通だから」


 激しく動揺し始めたテリサが料理手順を次々と間違え始めている。

 料理のミスは心の乱れだな。

 何で乱れているのかは良く分からないけど。


 「俺も料理が出来るまでの間は少しばかり手伝うか」


 お腹を空かせつつ、テリサの料理を手伝うためにも頼まれたメニューを見て、イチイとヨンイの作る料理から計算してまだ作られていない料理の下準備を五品ほど手早く済ませていく。


 「ふう。これ、一応準備しておいたから猿猪の焼き鳥も早く頼むぞ」


 「あ、ありがと」


 「気にするな」


 テリサが気を取り直したのか少し頬を朱色に変えながらお礼を伝えてくれるが、俺は早く焼き鳥を食べたいがために手伝っているのであって他のお客の料理なんて気にしても無いのでお礼なんて必要ない。

 段々と作る勢いを早くするテリサに賄いを食べ終えたニイが参戦して更に調理場は加速していく。


 「あの、ミツルさん」


 調理場が加速していく中で忍び足でイチイが俺の隣まで歩き、近づくのだが幾ら年下過ぎるとしても可愛い女の子が耳元で囁くのは心臓に悪い。

 因みにこれでメイド服を着ていると俺は間違いなく失神しているに違いない。


 「どうかした?ここにいると邪魔か?」


 「そんな事は無いんですけど、今日、この後少しだけお時間宜しいですか?」


 「へ?」


 あれ?

 もしかして俺ってモテ期が到来しようとしているのか!?

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