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バラバラパーティ

 「……ソフィアさんに借りも有るし、お前らには冒険者ギルドまで案内とかパーティに紹介とかして貰ったから今回だけは俺も借金返済に協力する。だけど!次に借金をしても俺は絶対に協力はしないからな!」

 「何言ってるの?私たちの借金はミツルも一緒に返すに決まってるじゃない」


 渋々了承しているのに…王女様の様な態度を取るセリーヌをどうしてくれようか。

 一回痛い目に遭わせたいのだが…如何せん、俺には球体魔法と呼ぶ弱小の魔法しか持ち合わせていない。


 「絶対に今回だけだ!分かったな!?」

 「は、はい」

 「分かってるわ。助かる」

 「私は次も宜しく!」


 アイミとシャルはきちんと理解しているようで首肯してくれるが…本当にセリーヌをどうしようか。

 煮るなり焼くなりして一度更生させないと駄目かもしれない。

 既に次の借金を作ることを前提として考えているのが駄目な所だが、これ以上言い争いをしても時間が無駄に過ぎるだけで良いことは一つもない。

 敢えてセリーヌの言葉を聞き流して話を進めよう。


 「まず、大事だと思うのはパーティ間での約束だと思うんだが、お前ら三人で決め事とかあるのか?」

 「わ、私は無暗に食事に手を付けない…です」


 そっか。無理だな。


 「私は簡単に人を殴らない」


 …うん。今までの記憶を思い返そうか?結構やらかしてるってソフィアさんが言ってたよ?


 「私はお酒を飲んでも良い!」

 「お前はさっきからいい加減にしろや!」


 先程から反省の二文字より元気の二文字が顔に出ているセリーヌの頭に再び球体の小を投げ飛ばせば、再び顔面に直撃し「うげ!?」と奇妙な声を上げてセリーヌは倒れる。


 「何するの!?その球は痛くないけど驚くから辞めてくれない!?」

 「辞めて欲しかったら行動を見直せ!」


 話が進まないと大人の対応を試みたが五分で限界を迎えて衝動のままに行動してしまった。

 しかし、こいつらが借金の常習犯だと言うことは良く分かった。


 「今から言うことは絶対に頼むぞ。まず第一に借金が全部消えるまでは外食禁止だ」

 「前回も久しぶりの外食だったね」

 「借金があったから仕方ない」


 第一に考えるべきなのはこいつらに外食をさせては駄目だと言う事。

 アイミは見境なしに食べると言う情報だが自分の家ならば食料も限られ、シャル、セリーヌ…は置いても止めてくれる筈だと信じたい。


 「そして、個人での決め事だがアイミは一人で食事は取るな。シャルかセリーヌ、俺でも良いから誰かと一緒に居てくれ」

 「わ、分かったよ」


 コクコクと真剣な表情で頷く姿を見れば反省を示しているように見えるが…借金の常習犯でまだ出会って二日なので信用が余り出来ないがもうアイミを信じるしかない。


 「次にシャルだが俺にはシャルの感覚が分からない。相手の負の感情が分かるって言うのは精神的にもきついと思うが…なるべくは我慢してくれ。我慢が出来ないときは殴っても良いが家を巻き込むな。そいつだけを全力で殴ってくれ」

 「分かったわ」


 シャルは無表情で頷くが…本当に分かっているのかが全く見極められない。

 しかし、強くは言えないので信じるしかないが…問題は目の前にいる本物の馬鹿だ。


 「セリーヌは…どうすれば馬鹿が直るのか」

 「ちょっと!?私だけ罵倒が入ってるんですけど!?」

 「お前は反省の二文字が見えないからな」


 セリーヌが憤慨した様子で掴み掛かってくるが俺には天然を扱える気がしない。

 ……しかし、放置すれば一番の危険人物で何をするのかが分からないセリーヌをこのまま放置すれば借金が倍に膨れ上がる可能性も捨てきれない。


 「…そうだな。お酒禁止?」

 「何言ってるのよ!お酒は冒険者の醍醐味よ!」

 「……」


 …危ない。

 「確かにな」と言いそうになるのを必死に抑え込む。

 俺の中でもクエストを完了して色んな人とお酒を飲むのは冒険者の醍醐味だと思うし…実際にやってみたい気持ちもあるが、ここで肯定すれば同じ過ちを犯すことになるので絶対に駄目だ。


 「お酒を飲むのは好きなのか?」

 「命と仲間の次に大事よ!」


 拳を握りしめ力説する姿はカッコいいのだが…こいつも借金常習犯だと言う事を忘れては駄目だ。


 「…なら、お酒を我慢しろ」

 「私の話聞いてないの!?」

 「落ち着け!まだ、話は終わってない」


 今でも襲い掛かりそうな獣の形相をしているセリーヌを手で静止させる。


 「お前はお酒が大好きだ。だからこそ…一番美味なお酒が飲みたくないか?」

 「……どういうこと?」


 興味を持ったのか矛先を収めたセリーヌが効く態勢に入ったことに安堵の溜息を吐きだしながらも、頭の回転を止めない。


 「俺達は借金が出来て現在生活が危ない状況だ。だが!借金を返済して更にお金を稼いで…その間にセリーヌがお酒を我慢するのであれば高級なお酒を我慢していた分で倍以上に美味しく感じる筈だ」

 「我慢できなかったら?」

 「その時はお前一人だけ借金を返済している中でお前の目の前で俺達が高級のお酒を飲む」


 堂々と言ってのければ矛先を収めていたセリーヌが一瞬の内に矛先を再び向けて襲い掛かって来た。


 「最低!極悪非道よ!あんた本当に人間!?悪魔の間違いじゃないの!?」

 「借金作るお前の方が倍に最悪だよ!借金返済して…頑張ってくれたら俺のお金も少し分けて高い酒を買ってやる!」

 「……本当に?」


 高い酒という言葉にセリーヌの動きが止まる。


 「ああ。俺は別に衣食住が最優先でそれ以外は必要ないからな。別に頑張った分を俺がお前のお酒を買っても良い。だから、まずは借金を返済するぞ」

 「分かったわ!今すぐ借金を返済するわよ!」


 …天然を扱える気がしないと思い込んでいたが意外とチョロい女だった。


 「ここで長話するのも面倒だしまずはクエストを決めましょ」

 「そうだな」


 シャルの言葉に首肯し四人でクエストの掲示板へと迎う。

 昨日の内にソフィアさんと色々と話して冒険者ギルドの仕組みについては大概把握することが出来た。


 ……今考えれば少しでも恩を売って断らせないように外堀りを埋めていたとしか考えられないが…今は置いておこう。

 冒険者ギルドは結構大きく中心は受付嬢のソフィアさんがいる中心部、左側には小さな酒場で軽く食事やお酒を嗜む人たちが深夜に現れると言うことでソフィアさんも夜に働いていると言っていた。

 そして、最後に右側が冒険者としては馴染み深いクエストが書かれている掲示板がずらりと並べられている。


 クエストには無理難題から簡単な草むしりや足腰が悪いお年寄りに対する買い物まで多種多様で所謂何でも屋とソフィアさんも言っていた。


 「お金は欲しいが楽な仕事だと借金を返済するのが当分先の話になるし、無理難題なクエストを受けても俺はお前たちの実力も知らないから…なるべく難し過ぎない討伐クエストが良いな」

 「私は自分が活躍できるクエストが良いわ!ミツルが重傷を負って私が回復させて達成できるクエストが一番ね」

 「お前は俺に恨みでもあるのか?それとも喧嘩を売ってるのか?一応喧嘩はしない主義だがお前は別だからな?」


 右隣で腰に手を当て堂々と言ってのけるセリーヌに戦慄してしまう。

 ……目の前でお酒を飲んでやると言ったのを案外根に持っている可能性が高い。


 「私は…魔法が効く相手が良いな」


 アイミは杖を握りしめクエストの掲示板を見上げる形で睨めっこしている。


 「最高のクエストがあった」


 セリーヌは全く俺の話を聞かないで一人であーでもない、こーでもないと言っているので俺も適当にクエストを見ているとシャルが一枚の用紙を手に持ってくる。


 「見せてくれ」


 『西の都を過ぎた峡谷に炎竜が住み着いています。人里に降りる前に退治してください。報酬:【竜殺し】、十億金貨』


 シャルから渡された紙を見て一度首肯し、静かに掲示板にソッと戻そうとするとシャルが横から腕を掴んで止めに入る。

 ……手加減をしてくれ!

 尋常ではない程痛くて腕が折れる寸前だ。


 「【竜殺し】の称号が欲しい」

 「俺達が称号を手に入れる前に竜が【人殺し】の称号を手に入るだろうな」

 「私は勝つ」

 「勝てるわけないだろ!?報酬を見ろ!十億金貨だぞ!?無理にも限度があるだろ!」


 意気込みこそ完璧なシャルだが限度というものを知って欲しい。

 炎竜と名付けられているのなら炎の息吹などを吹き出す竜を指しているのだろう。

 戦いに挑んだら俺たち全員消し炭になって人生は終了だ。


 「借金が返せる。【竜殺し】の称号も手に入る」

 「限度を知れ!そもそも、西の都は何処にあるんだ?」

 「ここから馬車で五時間」

 「はい、終了」


 話は終わったので再び竜討伐の最高難易度のクエストを貼り直そうと試みるが再びシャルの手が俺の腕を掴み上げる。

 ……余り表情が変わらないシャルだが若干不機嫌に見える気がする。


 「…ハア。考えて欲しい。俺達には借金があるのに馬車代を払えるのか?」

 「……」


 口をへの字にして不機嫌さを更に膨らませるシャルだが…殴らないよね?

 若干びくつきながらもシャルが不条理ではないことを祈って軽く咳払いをする。


 「竜討伐に挑みたいならまずは借金返済、それとシャルでも倒せると他の人に聞いても大丈夫だと了承が得れたら」

 「私は大丈夫だと思うわ!」

 「お前は黙ってろ」

 「何でよ!」


 折角話を完結出来そうな形であったのに茶々を入れるセリーヌを黙らせる。


 「もう一度言うけど他の人達に聞いても大丈夫だと確証が持てたら挑みに行こう。流石に時期が早すぎる」

 「…約束よ?」

 「ああ。分かった」


 何度も頷けばシャルが腕を離してくれたのでもう一度竜討伐のクエストを戻し最初の目的を思い出してクエストを探していくが、


 「お前らはよくここまで纏まりが無くてクエストを見つけられたな」

 「何時もは魔法、剣術、どちらも使えるクエストを探して行くんだけど私の活躍の場が無いのよね」


 頬を膨らませセリーヌが呟いているが回復魔導士の力が必要ないと言うことはシャルとアイミは相当な実力があるのかもしれない。

 ……けれど、始めから難易度が高いクエストを受けるのも不安だし、今回は安定のクエストを受けるのが妥当だよな。


 …ふと、目に留まったクエストを発見して手に持って目を凝らして見る。


 『近隣の森でゴブリンの十体の集団を発見したので討伐して欲しい。報酬:二十金貨』


 「セリーヌ、これはどうだ?」

 「ちょっと見せて」


 隣で仁王立ちしてクエストと睨めっこうしているセリーヌにクエストを見せれば顎に手を当て首肯する。


 「悪くは無いわね。でも、私の活躍の場が無い気がするんだけど」

 「囮役という大事な役割があるだろ?」

 「それはミツルの役割よ!」


 セリーヌが怒鳴っているのを聞き流しながらも…中々悪くない気がする。

 ゴブリンとは俺の知識では狡猾で冒険者たちを狩ってその武器を使用したり人間と同じく服を着たりする種族でもあり知能は高いが個体の強さは然程ではない筈だ。


 昨日、ソフィアさんに聞いた話ではクエスト報酬に加え魔物を倒した時に貰える魔石も換金してお金を入手できる。

 ソフィアさんに相場を聞いた結果は一金貨だ。

 ゴブリン一体が一金貨だと想定すれば合わせて三十金貨を入手することが出来る。

 俺の予想だが竜の場合は十億金貨に加えて魔石も加われば二十億金貨は下らないだろう。


 「ねえ、ボーとしてるけど大丈夫?」

 「問題ないぞ。お金の計算をしただけだ。シャル、アイミもこれで良いか?」


 昨日聞いた話を自慢げに思い出しているとセリーヌに気を使われたので気を取り直してシャル、アイミにも聞けば了承を得れた。

 シャルからは「竜を殺す前の肩慣らしね」とか聞こえたけど聞こえなかったふりをしよう。


 「クエストを中心に置いて」


 シャルに言われた通りに三人が見える位置にクエストを地面に置いて冒険者カードを取り出す。

 クエストの詳細の下に黒い羽ペンで書かれた揺らめく炎の印があり、そこに冒険者カードをかざすことで先日の青い水晶玉と同じくクエストの紙が薄く光り輝いた。


 「…おお!」


 光が消えると同時にクエストに書かれていた紋様が消えたと言うことはクエストを発注したことを示しているんだよな。

 ……本当に今日の借金騒動が無ければ色んな知識を与えてくれたソフィアさんを拝め祀ってもおかしくはなかった。


 紋様が消えたのを確認して冒険者カードを見れば自分の名前とステータスの下に『クエスト:シャン実の森:ゴブリンを十体討伐』と書かれていた。


 朝から色んな騒動はあったが、初めての冒険者としての活動を始めるんだ。 

 



 

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