デート
「流石ミツルさんですね。三日ほどで全てのクエストを完了するとは思いもしませんでした」
「アハハ。チョロすぎて笑えましたね」
冒険者ギルドでクエスト完了の報酬を貰っているのだが…五つのクエストを三日ほどクエストで出掛けたが…本当に簡単すぎて寧ろ怖い程だった。
一日目に物騒な二足歩行のトロールと呼ばれる金棒を振り回す二mの巨体が相手だったが、アイミの雷魔法で消し飛ばしクエスト完了。
次のクエストもシャル、ミカが見事な連携で一刀両断。因みに、俺の【閃光弾】をアシストとして使ったので、俺も努力賞を与えられても不思議ではない。
二日目からも同じ手順で難なくクエストを完了して…本日はアイミの雷魔法で終了したので…正直、ここまで楽してクエストを完了できてしまうと…寧ろ怖いと思えてしまう。
「簡単に思えたのはミツルさんたちが努力した結果であると私は思いますよ」
「ですよね。最初の頃には酷い目に遭いましたからね。これ以上、問題はこりごりですよ」
借金を作り出した時は全身に寒気が走ったが今となっては規格外の戦闘力を誇る連中の集まりでここまでクエストが楽だと魔王軍幹部を倒さなくても余裕でお金持ち生活を満喫することが出来そうだ。
「……あ、そう言えばセリーヌさんはどうしたんですか?何時もなら真っ先に私の所に来て自慢を始めるのでお仕事をしなくて済んでるんですが」
セリーヌの自慢話は仕事をサボるメリットもあったのかよ。
しかし、残念ながらセリーヌは、
「セリーヌはクエストに全く活躍できないで拗ねてますよ。今はシャルたちに本当に回復魔導士は凄いんだって力説してます」
「…アハハハ。そうでしたか。確かに回復魔導士は常に人材不足で冒険、戦争を行う際には必須の職業として敬われていますがミツルさんたちのパーティでは活躍するのは厳しそうですね」
「一度だけ解毒をする際に活躍したっきりですね」
セリーヌの活躍の場が無いのは安全である証明でもあるので問題は無い。
ただ、世間話よりもデートのお話だ。
俺にとってはクエストの報酬など欠片も要らないのでソフィアさんと言う小悪魔美人お姉さんとのデートの方が最優先事項だ。
「あ、あのそれで…五個クエストが完了したら…そ、その…あれですよね?」
「あれ?……ああ。デートの件ですね。覚えていますよ」
視線を彷徨わせ、しどろもどろになりながらも言葉を紡げば、テリサさんは一瞬だけ首を傾げていたが、直ぐに両手を叩き微笑を浮かべる。
「そうですよね!では、今日でも」
「ミツルさん。私の言葉を覚えていますか?」
「へ?」
微笑を絶やさないソフィアさんだが…言葉と言うのはデートの件だよな?
変な事を言っていたか?
「私は『デートが出来ますよ』と言っただけで今すぐするとは言ってませんよ?」
「あ?あああああああああああ!!」
何を言っているのか分からず首を傾げてしまうが…直ぐにソフィアさんの言葉の意図に気付いて周囲に人がいるにも関わらず大声を張り上げてしまう。
……俺と同じ手を使って嵌めやがった!!
「最悪だ!ソフィアさんは小悪魔的存在だと思ったのに本当に悪魔だ!純粋な男を騙す詐欺師女だ。俺を弄んだんだ」
「あらあら。ボロクソに言われてますね。まあ、嘘ですけどね」
「へ?」
淡々と意味不明な事を呟くソフィアさんに叫ぶのを止めて見つめれば、人差し指を唇に添えて天使のような微笑を浮かべる。
「良いですよ。今日はお仕事も早く終わるので私でよければ一緒にお出掛けしますか?」
「ぜひ!!」
……この人はどちらだ?
天使か悪魔か?
テリサとは違い全てを計算済みで考えているような大人の余裕があり、何を考えているのかが分かりにくい所は…難であり困る。
「では、夕刻に冒険者ギルド前で待ち合わせで良いですか?」
「はい。楽しみにしておきますね」
「こちらこそ」
ソフィアさんにお辞儀をして皆が座っているテーブルまで戻れば…まだ、セリーヌは顔を俯かせてブツブツと呟いている。
「本当に回復魔導士は大事なのよ!?戦争に行けば間違いなく全員が私を敬うのよ!?冒険者でも大切にされているの!」
「分かってるよ。私も回復魔導士のセリーヌがいたから魔力枯渇も一日で大丈夫だったし…安心してよ」
セリーヌが半べそを掻いてアイミが背中を擦って宥めている。
「お前ら悪いんだが夜は居ないから適当に食べてくれ」
「何でよ!今日は宴会よ!朝まで飲むから付き合いなさいよ!!」
涙目のセリーヌが起き上がって文句を言うが、残念ながら今日ばかりは譲れない。
「俺の用事が終わったら付き合ってやるよ」
「ミツルはお酒じゃなくて水」
「……俺は酔った時にどうなるのか知りたいな」
シャルが頑なにお酒を飲ませようとしないが…何をしたのか全く覚えていないので対応に困る。
ここで、問題の一つや二つ起きれば俺も仕方がないと従うのだが…まあ、問題なんて起きないのが一番だけど…どうするか。
「ま、まあ、取り敢えず用事が終わったら戻るから」
「用事ってテリサさんのお店にでも行くの?それなら、私達も行きたいけど」
「残念ながらテリサのお店でもない」
「…なら、何の用事があるの?」
聞きたくなるのも仕方がないと言うことか。
別に自慢してるわけでは無いし?アイミ達の方から聴いてるから俺は何も自慢していない。
「ソフィアさんとデートして来る」
「「「なっ!?」」」
「ん?」
親指を立てて自慢げに呟けば、アイミ、シャル、ミカの三人が勢いよく立ち上がり驚愕染みた声を上げる。
「み、ミツルがソフィアと…デート」
「ねえ!何で!?僕じゃな駄目なの!?僕だったら今すぐだってデートに行くよ!?」
「い、いや、そう言うことじゃなくて…単純に出かけるだけだから付き合うとかは全く違うぞ」
正直な事を言えば、ソフィアさんが俺を好きになるなんてビジョンは全く見えないし…向こうは単純に暇つぶし、もしくは男友達と遊ぶ感覚だろう。
俺もラブコメ展開になるとは思ってないし、今後で発展があるとも思ってないが日本にいた頃は女の子とデートや遊びに出かけたことも一度もないので、遊べるだけで最高に嬉しいぐらいの気持ちだ。
「で、でもデートなんだよね?」
「男女で出掛けるのはデートだろ?」
「ま、まあね」
「そう言う事だから夜ご飯は食べてくるから」
ソフィアさんには騙されたとしても一晩のお礼も兼ねて今日はご馳走をしよう。
◇◇
夕刻の時間に冒険者ギルドの前で手を擦り合わせ、温めながらソフィアさんを待ち続ける。
最初の頃は適当な感じで行きますなんて勢いよく発言したが、今考えればやる気を出し過ぎて恥ずかしかった気がする。
あああああああ!!
毎度、後々後悔することばかりなんだよな。
これがソフィアさんではなく他の人ならさらに悩んで今日は部屋に引き籠っていたかもしれないが、ソフィアさんだから大丈夫だよな。
「お待たせしましたか?」
「お、おおお」
待ち続けること二十分でソフィアさんが駆け足で目の前に現れるのだが、何時もは白を基調とした黒できっちりとした服装で、俺は冒険者ギルドの受付嬢のソフィアさんの姿しか知らなかった。
今はベージュのロングスカートに白の長袖を着た清楚なのは受付嬢の時とは変わらないが、ラフなソフィアさんが目の前に姿を現した瞬間に感嘆の声を漏らしてしまった。
「…どうかしました?」
俺が変な声を漏らしたことに不安が出たのか自分の姿を確認するように下を向いて左右を向くが…全く悪くないし、寧ろ受付嬢の時のギャップで素晴らしいと語彙力のない感想が思い浮かんでしまう。
「いえ、受付嬢の時と違う格好で凄い素敵なので驚きました」
「あらあら。流石はミツルさん。女心が分かってますね」
……これだから助かるんだよな。
俺が反射的に発した言葉でもやんわりと対応してくれるから後々言葉に後悔せずに済むのは本当に助かる。
ここで驚かれたり、引かれたりすると今から全力疾走で家に帰還する所だが、ソフィアさんの場合は軽く受け流してくれるので緊張したり余計な気遣いをしないで良いので有難い。
「それでは行きましょうか。今日はミツルさんにエスコートしてもらいますね」
「任せてください」
ソフィアさんとのデートを成功させてみせる!