久々の再開
「先日もお会いしましたけどお久しぶりな気がしますね。ミツルさん」
「はい。本当にそうですね。今日は挨拶ですか?こんにちわ。そして、また冒険者ギルドで」
一度、深くお辞儀をして扉をゆっくりと閉めるのだが…ソフィアさんが許すわけもなく両手がしっかりと扉を握りしめ…止められるが力が強過ぎないか?
俺が弱いのかは分からないが、扉を閉めようと全力で力を入れるが扉はピクリとも動かない。
「…いえいえ。今日はご挨拶と言うか…最近は大変調子が良いみたいですね。魔王軍幹部は全員難攻不落で誰一人として勝つことが不可能とされた相手【ゴーレム】に続き【スライム】まで倒すなんてミツルさんがパーティに入ったおかげですね」
「…ハハハ。ソフィアさんもご存じの通り運が悪いので何とも言えませんけどね」
……ああ。
嫌な予感しかしない。
ソフィアさんが満面の笑みを浮かべ、あまつさえわざわざ家に来て何もしないなんてことは絶対に無い。
短い付き合いだが俺とソフィアさんは何処か似ている気がする。
性格面でも無駄な事を省き、最低限の事は行うが面倒ごとは嫌う主義で企みがあると笑顔で悟られないようにする所が…殆ど一緒で寧ろ怖い程だ。
「最近はミツルさんたちが来ていないので寂しかったんですよ」
「そうですか。最近は景気も良くて外に出る機会も少なかったからですね。またお金が減り次第に行くかもしれませんね」
……何だ。
冒険者ギルドに連行して何をしようと企んでいるんだ?
「いえいえ。今からでも来て下さっても大歓迎ですよ?」
「歓迎してくれるのなら…また後ほど」
「そんな事を仰らずに。ミツルさんたちが来なくなってから面倒なクエストが山の様に溢れ返っています」
……それが本音か!!
最初に出会った頃に言ってたな。
シャルたちは他の人達が受けたがらないクエストを行ってくれるので対応に困っているとか言っていたが、最近になり【ゴーレム】を倒して賞金が手に入りクエストに行かなくなったので、面倒ごとのクエストが山の様に溢れ返っているので俺達に処理をさせるつもりだったな?
最初は宿と食事で頭が一杯で騙されたが、基本冷静な俺を甘く見てもらっては困る。
「面倒事を俺達に押し付けるのは勘弁してくださいよ」
「…フフ。ミツルさんの察しが良い所は嫌いじゃないですよ」
「俺も自分の長所を誇りに思っているのでこれ以上は言わなくても分かりますよね」
……というより、この人は力が強過ぎるんだよ!
何度も扉を閉めようと試みるのに気が抜ける様子が全く見当たらない。
「私も面倒なんです。依頼主に小言を言われたり、上司にどうにかしろと無理難題を押し付けられる日々に飽き飽きしてるんです」
「ソフィアさんの素直な所は嫌いじゃないですよ」
「私も自分で素直な所は良いと思ってますから」
退く気が見当たらないソフィアさんをどの様に説得するべきか。
これが冒険者ギルドなら全力疾走で家まで走るのだが、俺達がいるのは自分の家なのでこれ以上逃げ場は見当たらない。
「ちょっとミツルってば何時まで玄関に…ってソフィアじゃない。私の家まで来てどうしたの?」
玄関でソフィアさんと押し問答を繰り広げていると不審に思ってくれたのかセリーヌが現れてくれるのだが…これは大助かりだ!
あのメンバーの中では一番の危険人物で何をするか分からないセリーヌだが、戦闘狂ではないのでお金がある今の状況でクエストに乗り気になるとは思えない。
やはり日頃の行いが良いんだろうな。
「あら、セリーヌさん先日ぶりですね」
「おい!セリーヌ助けろ!俺達に無理難題なクエストを押し付けに来てるんだよ!」
「えええ。クエストって私は宴会がしたいんですけど」
きた!!!!
セリーヌが不満そうな声を上げる姿に思わず誰にも見られないように拳を握りしめる。
俺の仲間も嫌だと言えば流石のソフィアさんも仕方ないと言うことになる…。
しかし、俺の考えとは逆にソフィアさんの笑顔が少し膨れ上がった気がした。
「セリーヌさんは宴会よりもクエストに行かれた方が良いんじゃないですか?」
「はあ?どうしてよ」
……なぜだ。
最初から直球でクエストに行けと言いいう通りにするセリーヌではない。
その程度はソフィアさんでも分かる気はするのだが、
「最近、冒険者ギルドで耳にするのはシャルさん、アイミさん……、あれ?セリーヌさんの事を余り冒険者では聞きませんね」
「…な、なんですって」
わざとらしく首を傾げてとぼけるソフィアさんだが、セリーヌには効果的で頬を引きつらせ眉を八の字にしてたじろぐ姿を見せる。
……嫌な流れだな。
「先日の宴会でも酒豪と呼ばれたセリーヌさんのお株を奪ってしまう形になって…段々とセリーヌさんの立場が無くなって来てますね」
「今すぐクエストに行くわよ!!私の実力をソフィアに、冒険者ギルドの人達に見せつけてやるんだから!」
……チョロすぎるだろ。
つい、忘れていたがセリーヌは戦闘狂ではないがチョロすぎる女だ。
ソフィアさんの口車にまんまと乗せられセリーヌはクエストに行く準備を始める為なのかは分からないが、リビングの方へと戻って行った。
「…やってくれましたね」
「はい。やってあげました」
可愛らしくウインクをするソフィアさんは素直に可愛いが…行動が下劣で中々に良い性格の持ち主だ。
きっと、俺が冒険者ギルドで働いている場合は同じ手口を使ったに違いない。
クエストに行くと豪語をするセリーヌだが、シャルやアイミは賛同するだろうが…大丈夫だ。
俺が行く理由も無いし、アイミが雷魔法を扱えるのなら安全快適だし…お金があるのに歩く必要も無い。
「ミツルさんもご一緒してくださいね?三人に安心している時が一番危険ですから」
「あ、アハハハ。そうですね。行くと思います」
ソフィアさんは心を読む能力でもあるのか、俺が考えていることが手に取るように分からされてしまうが…俺は行くと思うと言ったのだ。
断言はしていないので、後々で小言を言われても断言していませんよ?と屁理屈を言えば文句は言えない。
「では、ソフィアさんも冒険者ギルドで働くと思うので…これで」
「ミツルさんは来てくれますよね?」
……曖昧な発言が気に食わないのか、にっこりと微笑みながらも馬鹿力の手は止まらない。
「分かりました。行きますよ」
「良かったです」
…フフフ。
行くと言ったが今すぐにとは言ってない。
残念ながらお金持ちの今に働く気も冒険する気も微塵もない!!
ソフィアさんは納得してくれたのか手を扉から離してくれたので…これでようやくスローライフ生活の準備に、
「クエストを五個ほど達成して下さったら一緒にデート出来ますよ?」
「今すぐクエストに行かせていただきます!!」
半分閉まりかけていた扉を勢いよく開けソフィアさんと目を合わせればクスリと営業スマイルではなく本当の笑みを浮かべ、
「楽しみにしてますね」
笑顔を向けて立ち去っていく姿のソフィアさんを見れば今までの疲れが全て吹き飛び、やる気が漲ってくる。
「――クエストに行くぞ!!」
ソフィアさんを見送り、リビングに戻って勢いよく宣言したが…既に四人とも準備を完了していた。
セリーヌは準備運動を始めている様子で余程、先程のソフィアさんの言葉が心に突き刺さったのだろう。
「セリーヌの次はミツルも行くって何かあった?」
「べ、別に何もないぞ!少しは働こうと思っただけだ!」
デートをするためだ!と宣言しても誰も動く気は絶対に無いと断言出来たので慌てて弁明するがシャルとアイミからジト目で見つめられる。
「ミツルさんが人生で一度も使わないであろう言葉を使うって不気味過ぎるね」
「働くなんて明日は台風」
「お前ら辛辣過ぎるだろ。俺だって働いた分で宴会をしたいという気持ちがあるんだ」
日頃の行いが駄目なせいで全く信用されずにボロクソに言われるが…真実を伝えれば更なる罵倒が浴びせられる気がするので静かにやり過ごそう。
「別に何でもいいわ!ソフィアの鼻を明かして冒険者ギルドの連中も私がいるって所を見せつけてやるわ!」
ここで全く疑いもせず自分の行動に無我夢中なセリーヌだけがやる気を漲らせているんだけど…多分だがセリーヌの活躍する場面は無いんだよな。
まあ、セリーヌの事よりも今はソフィアさんとのデートだ!!
絶対にラブコメ展開を鈍感主人公とは違い俺は見逃さない!!