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何時もの日常

 「……頭が痛い」


 以前と同じく何故か自室のベットで寝ているのだが全く部屋に戻った記憶が無い。

 しかし、前よりかは頭の痛さも和らいでいるので少々耐性が付いたのかもしれないが…頭の痛さは残っているので勘弁して欲しい。


 どうしようか。

 水を飲んで落ち着きたいが…部屋から出ないで二度寝を楽しむかの境で判断に迷ってしまう。

 寝返りをすると丁度良い抱き枕が存在している。


 今頃思い出したが日本にいた頃は長い抱き枕を抱えて寝ていたな。

 ギュッと抱きしめれば丁度良い感触で温かさも備わった抱き枕で……ん?温かい?


 「…朝からミツル君は大胆だね。そんなに強く抱きしめられると添い寝以上のこと」

 「へ!?はあああああああああああああああ!?」


 抱き枕かと勘違いしてれば、全く記憶にないのだが自分のベットの中にミカが水玉模様の寝間着姿で頬を高揚させて…俺の身体に密着していた。

 慌ててベットから飛び降りて転げのたうち回ってしまう。


 「…み、ミカ!?な、なななななななんでここに!?」


 もしかして記憶が無いうちに俺はミカと致してしまったのか?

 以前と全く同じくセリーヌに勝手に祝勝会を始めたことに文句を伝え、その流れで飲み勝負になった後からの記憶が一切ないので…その後で何が起きたのかを覚えていない。


 「ミツル君と寝てたから」

 「寝てたから!?」


 あれ!?もう、これ致しました案件!?

 いつの間にか俺は卒業していたのか!?


 「ミツル、朝から騒がしい……って、どういうこと」


 ベットから落ちた音で気に掛けてくれたのかシャルが俺の部屋へと入室したが…俺のベットの上で眠たげな顔で目を擦るミカを見てシャルが硬直する。

 冷や汗が止まらないし…いやいやいや、俺は悪くないよ?


 記憶が無いのは俺のせい?かもしれないけど…その後の出来事は俺には関係ないし?


 「あ、シャルちゃんおはよう」

 「…おはようじゃない。まさか…ミカ」

 「違うよ。僕はミツル君と添い寝をしただけだよ。僕だって二人の記憶に残る思い出は酔いで済ませたくないからね」


 ……安心した。

 流石に俺も酔っているからと安易な行為に進まないだけの理性はあったらしい。


 「ミツル」

 「ひゃ、はい!」

 「何も無かった?」

 「な、なにもありません!事実無根です!」


 シャルの小さく低音のソプラノ声に反射的に声をあげてしまう。


 「うん。シャルちゃんが気にするようなことは何も起こってないよ。今さっきまではね」

 「お、お前は平穏な感じで終わりそうななのに至らないことを口走るな!!」


 折角助かったと安堵の溜息をつくのも束の間で、ミカが可愛らしく小悪魔的なウインクをしながら爆弾発言を投下する。

 恐る恐る背後を振り返れば…目がごみを見るかのような目でシャルに凝視される。


 「どういうこと?」

 「待て!シャルは落ち着け!俺は何も知らなかった。ミカが俺の部屋に侵入しているのも全く気付かなかったし、ただ家にいた時は抱き枕とか好きで…てっきりミカの事を見てなくて無意識に抱き枕と勘違いしてミカを少しだけ抱きしめただけ!いや、本当にそれ以上もそれ以下も無いから!」


 まあ、正直に言うと女の子の身体ってあんなに柔らかいんだなって思ったり、もう少し驚かずに平静を装ってあのまま過ごせばよかったとか思ってないから!!


 「……ずるい」

 「ん?何か言ったか?」

 「何でもない」


 シャルの逆鱗に触れて部屋が貫通するほどに殴られるのかと覚悟を決めていたが、俺の予想とは反対に若干拗ねたように頬を膨らませ顔を逸らされる。


 「朝から目が覚めたし朝ご飯を食べようぜ。もう、準備できてるんだろ?」


 朝から美少女がベットに侵入するイベントなんて嬉しいのだが、童貞の俺には刺激が強過ぎるのでもう少し順序を追って侵入して欲しい。

 欠伸を噛みしめ、立ち上がってシャルの隣を過ぎて一階へ降りようと思いきや背後から何かが突撃する。


 「一体何…ってシャル?」


 背後を振り返ればシャルが背後から俺に抱きついてきている。

 どんな状況!?


 「…シャルさん?」


 反応が無いのでもう一度呼び掛けるが返答はない。


 「何でもない」


 何でもないなんてどの口が言うのかは分からないが、シャルは俺と目を合わせずに何事も無かったかのように下の階へ降りるのだが…何もないのに抱きつくとかここは外国か?

 挨拶で抱き着くなら俺は大歓迎だけど。


 「シャルちゃんも負けず嫌いだね~。ほら、僕たちも降りようよ」

 「あ、ああ」


 よくよく考えれば最近はミカには不手際としても自分から抱きつき、シャル、テリサからも抱きつかれたんだよな。

 モテ期が来たのかと普通の人なら勘違いするかもしれないが…俺は何が起きても勘違いしない男だ。


 ミカは自ら好意を寄せていることを宣言しているので間違えることは無いが、シャル、テリサから好感度を稼いだ覚えが一度もないので違うよな。

 特にシャルに関しては最初に一緒に出掛けた時も理由は分からないが怒らせてしまったし、テリサに関しては最初に胸を揉もうとしたしあれで好感度が手に入るのなら、誰も付き合うことに苦労することはない。


 「…お礼の様な形か?」


 テリサはお金を貸してくれたことでお店が出来たのでそのお礼の様な形で抱き着かれた…うん。中々に良い案な気がする。

 異世界では好意と言うよりお礼的な形で抱き着かれるという事だ。

 シャルに関してはミカへの対抗心で抱き着いて来たと言うことで結論が導き出される。


 ……危なかった。

 俺がチョロい男であれば、ここでシャルやテリサからも好意を寄せられていると勘違いしてデレデレしてしまう所だった。

 ミカが下へ降りるのを見て俺も一階に下りれば台所でセリーヌが食事を作る姿は新鮮だが…それよりシュールなのがアイミとテリサだ。


 二人の光景を見たままならば地に膝を付き、頭を下げた立派な土下座を同時に行っているのだ。


 「…こいつら何してんだ?」


 椅子に座り食事を待つシャルとミカに声を抑えて尋ねる。


 「朝から二人ともこのまま」

 「本当にごめんなさい!テリサさんだけが魔力が足りないことを知らないから…利用してしまったんです!」

 「私こそ考えたらゴーレムの時に使わない時点で気付くべきだったのよ。お店や街の事を考えてアイミちゃんの事を全く考えてなかったわ。本当にごめんなさい」


 予想通りと言うべきか互いに謝罪の言葉を述べて土下座を繰り広げている光景だ。


 「終わる前はふざけるなって思ったがもう終わったんだし…互いにごめんなさいで良いだろ」

 「……それもそうだね」

 「……そ、そうね」


 アイミは苦笑い気味で土下座を終えて椅子に座るのだが、テリサは立ち上がると全速力でキッチンまで走り、角から顔だけ出して俺の方をじっと見つめてくる。


 「何だよ」

 「…な、何でもない」


 話しかけると猛獣を前にした子犬の様に震えながら顔を逸らして答えられるが…どう見ても何でもない様子ではない。

 異世界の人間は強がりが多いと言うか誤魔化すのが下手過ぎるんだよな。


 「アハハハハハ。余程ミツル君が怒ったのが怖かったんだろうね」

 「そ、そんなことない…訳でも無いけど……」


 ミカが笑っている姿にテリサが若干頬を染めて言い返そうとしたが最終的には否定することも出来ないのか顔を真っ赤にしてソッポを向く。

 ……しかし、納得してしまった。


 スライム戦でアイミの手助けをしたテリサを俺が余りに怒りを覚えてしまって本気で叱ったんだよな。


 「さっきも言ったが終わったことをぐちぐち言わないって。それに、昨日の食事代とお店を提供してくれたことで許すって話だっただろ」

 「…怒ってない?」

 「怒ってないから」


 不安そうに尋ねるテリサに大丈夫だと伝えれば、一安心したのかキッチンから出てきて俺の隣に腰を下ろす。


 「…もう怒らないでよ」

 「怒らせることをしなかったらな」


 今回の出来事は自分でも頭に血が上って怒り過ぎたかもしれないし、テリサに申し訳ない気持ちもあるので今後はもう少し落ち着いて行動を心がけよう。


 「普段怒らない人が怒ったら怖い」

 「シャルも怖かったか?」

 「…私はミツルに怒られたら泣く」


 想像したのかシャルは両腕で体を抱きかかえ震わせているのだが…そんなに怖かったか?

 自分でも激怒はしたが基本は温厚な性格で怒っても怖いようには自分自身では思えない。


 「僕はミツル君に怒られたら切腹覚悟で許してもらうかな」

 「…いつの時代の人間だ」


 というより、異世界にも切腹の文化があることに驚きだ。


 「ったく、皆して情けないわね。ミツルが怒った程度で怖がるなんて情けないと思わないの!?貧弱ステータスの子供よ?」

 「散々俺の球体で泣いて謝っているやつの言葉ではないな」


 幾度となく悪魔だと喧嘩を売るセリーヌには次々と新開発をしている球体の餌食になって最後には泣いて謝っている。

 特に【激辛球】の時は滑稽で涙を垂れ流しながら水を飲ませて!って懇願する姿を見てこれは使えると思えた。


 「あ!ステータスで思い出したんだけど魔物を狩りに行かない?」


 アイミが手を叩き満面の笑みを浮かべて戦闘狂染みた言葉を発言する。


 「…お前は気絶して知らないかもしれないけどな、スライムの賞金は三億金貨で一人五千金貨手に入ってるんだぞ?それに加えて俺はテリサから毎月十五金貨貰える贅沢生活が始まるんだ。わざわざ冒険する必要もないだろ?」

 「何も危険はないよ」

 「ん?」


 先程からアイミは今まで見たことも無いような満面の笑みを浮かべているのだが良い事でもあったのか?


 「スライムを倒して私は――雷魔法を使えるようになったの!!」

 「へえ。良し、今日は一日ごろごろするか」

 「え!?」


 俺の言葉が予想外なのかアイミが驚愕染みた声を上げるが…何で冒険すると思ってんだ。


 「あのな、わざわざ冒険しなくてもお金があるんだぞ?働かざる者食うべからずという言葉はあるが、お金があるのなら働かないし動かない。それが、俺のモットーだ」

 「一文無しの時期も一度も外に出てないけどね」

 「……」


 シャルの鋭いツッコみに何も言い返せず顔を逸らすしかない。


 「それもそうね。ミツルは一文無しの時期に私の料理をわざわざ店まで来て無料で食べて帰る男だから」

 「…夜にいないと思ったら」

 「……」


 余計な事を口走るテリサにシャルの低音な鋭い声が聞こえ、顔を向けることが出来ない。

 ……口が軽い女だ。

 テリサの料理は美味しく、何回でも食べられるのだが如何せん、レストランを開いてからテリサが夜ご飯を作る機会が減ったので俺はテリサのお店に頻繁に顔を出していた。

 因みに、何度も懇願してお店の料理を無料で食べさせて貰ったのだが…口止めしたのに口が軽い人間はこれだから困る。


 「ね、ねえ!雷魔法で魔物を吹き飛ばしたいんだけど…」

 「言って来いよ。雷魔法を使えるなら危険は無いんだろ?あ、一応シャルかミカを連れて行けば良いぞ」

 「…一緒に行くって言う選択肢は無いの?」


 冒険生活をするのも安全快適で悪くないのかもしれないが、一昨日、昨日を合わせた連日の疲れが一度眠った途端に襲われたので理性が今日は落ち着いて休むのが良いと訴えているのだ。


 「俺がいなくても変わらないだろ?シャルでもミカでも連れて行けば安全だ」


 最近思うのだが、俺がいない方が安全なのではないかと思わずにはいられない。

 考えないようにしていたが、俺は運ー1000であり一般人の何倍も運が悪い男なのだ。


 「ミツルが行かないなら私はお酒を飲まないように見張る」

 「…保護者か」

 「駄目って言っても飲むから」

 「別に悪いことは何もしてないから良いだろ!」


 記憶は無いが何かしら問題を起こしているのなら今頃衛兵所の中で一人暮らしをしている筈だ。

 今までの行動を振り返ればお酒を飲んで記憶は無いが問題は起こしていないと言うことになる。


 「ええ!今日も宴をしましょうよ!私はお酒を飲んで騒ぎたいわ!」

 「…俺も今日も騒いで楽しみたいな。何処かお店を探して宴会でもするか?俺達だけでも良いし」


 宴会は非常に楽しいし、遊びたい気持ちもある。

 ……しかし、一つだけ問題があるとすれば俺の服だ。

 前回のゴーレム討伐で服を買おうと考えていたのだが一文無しで結局変えずに黒のパーカーとスウェットを繰り返し着ているのでそろそろ新しい服を新調したいな。


 「ん?」


 考え事をしていると玄関がノックされる音が聞こえ、重い腰をあげ玄関の扉を開ける。


 「お久しぶりですねミツルさん」

 「…え、ええ」


 玄関を開けた先には満面の笑みを浮かべたソフィアさん…もとい、悪魔的笑みを浮かべたソフィアさんが佇んでいる。

 俺よりもこの人の方が悪魔に向いてない?


 

 

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