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美少女三人の秘密

 「もう一度説明をして貰ってもいいか?」


 基本回想など必要もなく頭の中で大抵のことは整理できるが今回の一件は俺の許容限界を優に超えている。


 「だからね!私たちは昨日新しく仲間が出来たから酒場で歓迎会をしたの!」


 反省の印として正座をさせているのだが、セリーヌは全く悪びれた様子もなく大きな声で説明を始めるが、まず初めに歓迎されるべき存在の俺がなぜ呼ばれていないのかを詳しく聞きたい。

 いや、今はそれよりも借金について考えるべきだ。


 「それで?」

 「だから翌日になると借金の小切手が私たちの家の前にあったの!」


 皆さんお聞きしたでしょうか?


 「そんなざっくりとした説明で良し、分かったなんて言う人間がいるわけねえだろ!」

 「私だって驚きよ!」

 「昨日の道案内の時も思ったけどお前は言葉がざっくりしすぎなんだよ!もっと具体的に説明しろ!」

 「私から説明する」


 憤慨し拳を握りしめ自分でも震えていることに気づきながらもシャルが落ち着いた様子で話しかけてくれるので、ギリギリセリーヌへ掴み掛るのを抑えてシャルの言葉に耳を傾ける。


 「じっくり教えてくれ」

 「まず、セリーヌは大量の飲酒に加えて他のお客のお酒を好き放題奪ってお店の営業を妨害して計30金貨の借金がある」

 「馬鹿か⁉馬鹿なのか⁉今の話を聞いてなんで適当に話が出来るのかを教えてくれ!」


 先程まで自分は全く関係ないといわんばかりに適当に説明したセリーヌへと吠えるが、セリーヌはえ?そうだっけ?と言わんばかりに首を傾げている。

 ……質が悪い。


 お酒で酔い悪気がないのは怒るのが難しいし、挙句の果てに記憶がないのであれば本人に怒っても何の話?となるので意味はない。

 シャルの端的に具体的に説明された話に早朝か、それともセリーヌの馬鹿さに驚かされたのかは自分自身でも分からないが、眩暈がしてこめかみを抑える。


 「だ、だけど残りの120金貨の借金が出てきてないぞ?」

 「まだ話は終わってないから」


 今すぐ終わらせてこの場から消え去りたいのだが…話は最後まで聞くのが人としての礼儀だと自分に暗示をかけて手で話を促す。

 シャルも意外と落ち着いているのが驚きだが…もう何が起こっても驚かない。


 「次はアイミね。アイミは一度食べ始めるとお金を気にせずに食べ続けるから気づいたら20金貨の借金が出来てた」

 「セリーヌより意味が分からないぞ⁉」


 今も尚、頭を伏せてこの中では一番反省の色を見せているアイミに問い詰めればビクリと肩を震わせ、涙目の顔をこちらに向ける。

 一行で完結する最低最悪の借金を生み出したアイミが一番反省している姿に出かかっていた言葉がのどに詰まる。


 「…ご、ごめんなさい。わ、私って食べ始めると見境なくて…止める人がいないとお腹一杯になるまで食べ続けて…本当に御免なさい!」


 アイミは本当に反省しているのか正座のまま深く頭を下げて見事な土下座を披露していた。

 ……こいつも質が悪い。

 実際に悪いし全力で怒鳴りつけたいのだが…アイミは目を潤ませ土下座を披露させられてしまえば怒る気力も失せてしまう。

 俺の気持ちと共に借金の小切手も消え失せてはくれないだろうか。


 ――――いや、待てよ。

 ふと思ったのだが今の借金は50金貨で残りの百金貨の借金が見当たらない。

 ということは、先程の小切手の間違いなのか?


 「一つ聞きたいんだが残りの100金貨の借金は何処から出てきたんだ?」

 「残りの100金貨は酒場で私達の悪口を言っている人がいて腹が立って殴ったら酒場が半壊して弁償の半分を私が背負うことになった」

 「なったじゃねええええええ!おかしいだろ!セリーヌとアイミの二倍の借金を作って何で平常運転なんだよ!お前がアイミより反省しとけよ!」


 シャルは昨日と全く変わらない様子で想像をはるかに超える借金を生み出していた。

 立ち上がってシャルに怒鳴ったが直ぐに立つ気力も失せて椅子にへ垂れ込んでしまう。


 「確かに反省している。次は全力で殴る」

 「全力で殴らないで半壊とかおかしいだろ!!そこはもう少し我慢するとか言えよ!」


 借金に目がいき過ぎたが、シャルは一体どれだけの力を持ち合わせているのだろうか。

 昨日も俺やセリーヌを軽々と持ち上げているし、筋力はゴリラだ。


 「…ん?え!?なに!?」


 シャルの力馬鹿に呆れていると、突然シャルが立ち上がり俺の前に立ち拳を振りかざしていた。


 「今、私の悪口を考えたでしょ?」

 「…い、いや悪口というか筋力が高すぎるなって思ったんだが」


 何故、バレているんだ?


 「私が説明してあげる。シャルは特殊な能力を持ってて相手の気配を敏感に察することが出来るの。だから、悪口を考えれば直ぐにバレるわよ。例えば、脳筋とか筋力馬鹿とか剣術馬鹿とか言えば…痛い!?な、何で殴るの!?」


 天然だらけのセリーヌが追い打ちを掛けてくれたおかげでシャルの矛先が変わって安堵するが…成る程な。

 考えれば周囲の幸せな感情を察知することも出来れば悪感情も察知できるとなれば…中々にリスキーな能力かもしれない。


 奇襲などはシャルには通用しないという利点はあるが、今の話を聞けば制御が出来る能力ではないのだろう。

 …そこまで考えればシャルを責めることも俺には出来そうにない。


 「少し離れるからな」


 未だにセリーヌがシャルに問い詰めているのを見てから…確実に全ての情報を知り尽くしているであろう受付嬢のソフィアさんの元に向かう。


 「…お話宜しいですよね?」

 「はい。勿論です」


 営業スマイルで向かい入れてくれるが、俺にはソフィアさんの笑顔は悪魔の微笑みにしか見えない。

 ソフィアさんと共にセリーヌたちとは少し離れた場所の一角で対面して座らせてもらう。


 「三人は借金常習犯ですか?」

 「はい。その通りです」


 隠す気が無いのか満面の笑みで首肯するが…昨日の内に伝えて欲しい情報を伝えてくれないのかが疑問だ。


 「あの三人は冒険者ギルドとしても…問題児で特にシャルさんは家を全壊させる時もあり苦情も多いんですが…両者で話し合いをしたら悪いのは相手の方で、シャルさんも加減をしないのは駄目なんですがやはり冒険者ギルドとしても対応に困っていました。連日、苦情の連続、酒を盗られた、コックが倒れた、人がボコボコにされたなどが続き…他の冒険者の人達からも問題児扱いとなりました」


 俺がこのパーティに入る時に一瞬躊躇っていた理由の一つがようやく明確になった。

 冒険者ギルドに入った時に他の人達が目を逸らしていたのか、何故、美少女三人がいるにも関わらず誰にも話しかけないのかという点が気になっていた。

 ……考えれば当然の話だ。


 暴力女に、暴飲女、暴食女、三人の特性を考えれば誰も話しかけないのは当たり前の話だ。


 「しかし、シャルさんたち一行は他の人達が受けたがらないクエストなども受けて下さるので私達としても対応に困っていました。そこで、現れたのがミツルさんでした。もう、貴方のステータスを見て私は確信をしました。この人に任せようと」

 「最後に唐突にふざけたことを言いましたね。運が―1000という俺があいつらに出会ってパーティに入り少しでも暴動を防げと?」

 「流石の理解力ですね」

 「煽てても何も出ませんからね?俺はもう勘弁です。他のパーティに必死に懇願して入れてもらうので後の事は適当に誰かに押し付けてください」


 冒険者生活を始める前に借金生活が始まるなど絶対に嫌だ。

 しかも、今回が一度目ならまだ許容しようかと迷ったが常習犯ではもう諦めるしかない。

 話は終わったので去ろうと考えたがソフィアさんに手を繋がられて引き留められる。


 ……おかしいな。

 美少女のお姉さんに手を掴まれれば普通はドキッとして顔を赤くするのが定番の筈なのに…今の自分の顔は真っ青に違いない。


 「ミツルさん。昨晩はぐっすり眠れましたか?」

 「はい。大変ぐっすり眠ることが――――あ」


 反対方向を向ていた眼を反射的にソフィアさんの方を向けば満面の笑みを浮かべている。

 昨日、ソフィアさんに『三人の事をよろしくお願いします』という条件で冒険者ギルドに泊めてもらったのだ。


 「先日は私のお金でお夕飯まで提供しましたよね?」

 「……」


 ……本物の悪魔だ。

 全ての情報を包み隠し、宿を提供する代わりに最初に約束をさせて逃げ出せない状況を…作っていたのだ。

 宿代、食事代が次の日には150金貨の借金に変わるなどどちらを我慢するべきは明白だった。


 ああ、ようやく悟ってしまった。

 俺の運が―1000であることを。


 「私も上司にこれ以上問題を起こすなと小言を言われるのはうんざりなんです」

 「ソフィアさんって優しそうな顔をして結構怖いですね」

 「そうですか?」


 笑みを浮かべて首を傾げるのは可愛らしいのだが…背景には角が生え尻尾を生やせば誰から見ても悪魔にしか見えない。


 「……分かりましたよ。頑張ります」

 「はい。よろしくお願いしますね」


 ようやく手を離してくれたソフィアさんに引きつった笑みを浮かべ三人の元へ歩いて行く。

 今から始まるのだ。

 冒険者生活…もとい、借金を返済する生活の始まりだ。

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