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秘策

 「あのな…今まで誰も勝てなかった【スライム】が現れてよし!絶対に勝つぞ!なんていう人間はいないだろ!」

 「私は絶対に戦うわよ。自分の店を守るために」

 「戦って死んだら意味が無いだろ!?だから逃げようぜ」


 俺だって簡単に逃げ出そうと言っているのではない。

 前回はシャルが勝機はあると言ったから頑張れたし、今回も何かしら作戦があり勝つ見込みがあるのなら怖いが戦うのもやぶさかではない。

 だが、何も称賛も無いのに戦うのは愚の骨頂であり無意味な戦闘はただ危険を孕むだけで良い事は一つもない。


 「爆散させる魔法をテリサは持ってる?」

 「残念だけど持ってないのよね。土魔法は相手の攻撃を妨害したり自分を手助けするのには便利だけど相手を倒す技は少なくてミカみたいに爆散させるのは無理ね」


 シャルは未だ巨大スライムを見据えながらテリサに確認を取るが予想通りでテリサは首を横に振る。


 「ミカさんが努力して小さいスライムを倒し続けても勝てるわけでは無いよね」

 「だよね。小さいスライムならギリギリ勝てる気がするんだけど……」


 アイミとミカも話し合いをして作戦会議をして正気を探し出しているが見つかることは無い。


 「ねえ、ミツルの【球体魔法】で何とか相手を弱らせるとか出来ないの?」


 セリーヌが服の裾を摘まんで尋ねるのだが…俺も真っ先に考えが浮かんだがアイミの情報を聞いて不可能だと悟った。


 「残念ながら球体魔法は相手を妨害することには役立つんだが、そもそもスライムは液体だろ?俺の攻撃は少なからず衝撃と重なり合って破裂するからスライムに当たっても破裂することも無いし…そもそも、スライムの動きを防いだところで全部を吹き飛ばすほどの高火力な技が無い」


 球体魔法が活躍できるのは生身の人間だが、特殊な魔物などには余り有効打になるとは思えない。

 セリーヌも理解したのか顎に手を当て首肯している。


 「なら、どうやって戦うの?」

 「だから!勝てないから逃げようって言ってるんだよ!」

 「そうね!今日は私も頑張ったわ!自然災害級の魔物は勝てないから皆で違う所で飲みましょ?」

 「おお。賛成だ。俺も今日は頑張った賞でお酒を飲んでゆっくり寛ぐぞ」


 セリーヌも再び状況を理解したのか慌てて退避の行動を取るので俺もそれに倣う。


 「だけど…逃げても追って来る。そのたびに逃げて…逃げ続けても前に進めない」


 シャルは巨大スライムだけを見据えて真剣な表情で呟く。

 最近思うのだが本物の勇者はシャルではなかろうか。

 目標に向かい前だけを見据えて努力し、どんな逆境にも後ろ向きな考えではなく前向きな考えで突き進む姿は男でも憧憬を抱くほどのカッコよさがある。


 …しかし、巨大スライムをミカは粉砕するほどの力は持ち合わせていないので、どの様に戦うかと考えれば――――あ!!


 「シャル!巨大スライムを一刀両断することは出来るか?」

 「簡単よ」


 突然平凡主人公が閃くように作戦を思い付いたがシャルが一刀両断できるのなら光明は見える。


 「ミカはあの大きさを半分に切れば粉砕できるか?」

 「……うーん。微妙な所だね。全力で叩きつけても万が一倒しきれなかったら…スライムに取り囲まれて人生が終わるから…軽はずみに発言は出来ないな」


 …残念ながら作戦は終了だ。

 やはり、俺には平凡主人公の素質も持ち合わせてはいないようで、作戦を思いつくことも可能にすることも出来なかった。


 「何とかしないとお店が……」


 テリサも頭を抱えているが良い作戦は思い付きそうにないのか…顔を俯かせている。


 「ミカさんが周囲の小さいスライムを倒しても…その間に巨大スライムが街に辿り着くね」


 問題はスライムが一体ではないと言う事だ。

 前回のゴーレムの様に一体であれば全員で倒すことも…一縷の望みで可能性は有るが今回は何十体ものスライムが周りに蠢いているし先程のスライムの行動を見れば誰が次に襲われ助からない可能性が無いとも言えない。


 「……どうするかな」


 出来る限りは戦いたいのだが…先程から全く良い作戦は思いつかない。

 そもそも、俺の知力は高い方ではないので余り期待はしていないのだが…スライムに有効な炎も効かない、斬っても再生するので殆ど不死身の状態だ。


 「私も打つ手がないのは分かってる。だけど…諦めたくない。私に家を建てる時に助言してくれたおばあちゃんは足腰が悪くて…きっとまだ逃げ出せていないのよ。他にも…皆が私以上にずっとこの街にいて積み上げていた家や…お店を潰されるなんて絶対に嫌なの。この街の人達が…付き合いの短い私でも…大切にしたいって思えるから…だから!ミツルお願い!私の時みたいに何か作戦は無い!?私は何でもするから」


 …この中で一番やる気を漲らせ、涙目になりながら必死に訴えかけるテリサの姿を見れば…簡単に逃げ出そうなんて言えない。

 俺だって住んでいる屋敷が突然現れた魔物に踏み潰されるなんて絶対に嫌だし防げるのなら防ぎたい。

 今の状況を覆せる一手をどうにかして見つけたいと思っているのに――――何も手が見つからない。


 ◇◇

 アイミside


 テリサさんに迫られているけどミツルさんは何も思いつかないのか神妙な顔つきで…顔を俯かせ言葉を発しない。

 それほどまでに目の前の現状が難しい事を物語っている。


 「ねえ、アイミの炎魔法でスライムを水を吹き飛ばすほどの威力は出せないの?」

 「う、うん。ごめんね。【炎魔法】の強い威力は私が持ち合わせていなくて」


 セリーヌが気を使っているのか小さな声で話しかけてくれるが…私の炎魔法で適う相手ではない。


 「どうするの?僕としてはミツル君の指示に従うけど」

 「――――俺も必死に考えた。だけど…お店や家は復元が出来るかもしれない。でも…命だけは何にも変えることは出来ないんだ……諦めてくれ」

 「いや!絶対に嫌よ!ミツルは勇者じゃなくても皆を助けることが出来る立派な冒険者よ!あの巨大ゴーレムを倒したのは他でもない貴方達だから!お願いミツル!」


 テリサさんは余程悔しいのか涙を流してミツルさんの胸倉を掴み必死に懇願するがミツルさんの顔は晴れず目を伏せるだけだ。

 今まで何度も助かり生き続けていたが全ては偶然の産物でいつ死んでもおかしくは無かった。

 それを誰よりも分かっているのはきっとミツルさんだ。


 「…テリサさん。少しだけ落ち着いて下さい」

 「嫌よ!おばあちゃんにご飯をご馳走するって約束したのよ!食材を分けてくれた人や土地を必死にお願いして許してくれた人に…皆に全然恩返しが出来てないの!」


 涙を流し必死に訴えるテリサさんをミツルさんから引き離し背中を擦る。


 「嫌…絶対に守りたい」


 ぐすりと鼻水を抑え、腕で涙を拭うテリサさんが懇願するが…打つ手が見つからない以上は他にどうすることも出来ない。

 ミツルさんは今度はシャルとミカの所に行きセリーヌも一緒に居るので――――好都合だ。


 「テリサさんにお話があります」

 「…え?」


 他の誰でもない。

 テリサさんにしか話すことのできない――――秘密の作戦を私は覚悟を持って打ち明けた。


 「――――それなら大丈夫じゃない!!」


 作戦を伝えた後に目を輝かせたテリサさんが私の肩を全力で揺さぶってくる。


 「あ、あの、だけど皆には内緒でお願いして欲しいの」

 「え?何でなの?他の人達にも伝えた方が良いんじゃ」


 テリサさんが首を傾げて疑問符を頭の上に乗せているが…話してしまえばその時点で作戦は終了してしまうので、私は首を横の振るしかない。


 「この作戦は他の誰でもない。私とテリサさんが鍵を握ってます。私をスライムに近づけた後に…お願いします」

 「分かった。私が絶対に街を助けてみせるから」


 テリサさんの純粋な笑顔を見れば心に若干傷が入り込むが…これだけしか街を守る可能性は無い。


 「お願いします」

 「ええ。【道:生成】」


 テリサさんが地面に手を付けると今まで平だった地面の一部が動き初め私の周囲の土が高速で移動しスライムの方角へと近づいて行く。

 ……ミツルさんたちはまだ気付いていないのか話している最中で大丈夫だと確信が持てた。


 覚悟を決めたんだ。

 私が――――皆を守る。


 道が進むに連れて引き返せない現実が待ち構えている。

 徐々に離れていたスライムの大群が近づくにつれその巨大さと…数が私の足を竦ませ、冷や汗を無意識の内に垂れ流させてしまうが…必死に歯を食いしばり恐怖を押し殺し大きく息を吐きだし…全力で吸う。


 「…テリサさん!!お願い!!」


 決めていた杖を掲げ大きな声で合図を送れば微かに「分かったわ!」という声が聞こえた。

 遠方でテリサさんが何の魔法を繰り広げているのかは不明だがスライムの近くにあった地面が動き、膨大に膨れ上がりスライムの大群が壁に挟まれ一か所に集まる。


 「…ふう」


 覚悟を決め…杖に魔力を込めていく。

 段々と身体が倦怠感を催し…気分が悪くなるのを感じるが快晴だった空が徐々に雷雲へと変化し昼間の空が暗い…嵐の前の静けさへと変わっていく。


 「――――アイミ!!何してんだ!!」

 「ちょっとまさか!?」

 「アイミ!駄目よ!」


 背後から三人の大声が聞こえ静止を促すが…私の覚悟はもう変わらない。


 私は常に気弱で落ちこぼれで…最底辺の魔導士だった。

 期待され呆れられ、切なくて悲しい時に受け入れてくれたのはセリーヌとシャルだった。

 嫌な顔一つせず…私がお腹一杯に食べる姿も笑顔で受け入れてくれた初めての友達で私が――誰かの役に立ちたいと思えた。


 ずっと欲していた自分の居場所を与えてくれた皆が困っている時に私は必ず役に立ちたい。


 「アイミ!ふざけんな!!何考えてんだ!!」


 背後からミツルさんが全力で走り抜け近づいてくる姿が見えたが…もう追い付くことは出来ない。


 「ミツルさん、ありがと」


 生まれた時から――――雷魔法という存在は永遠と私を縛り付け…己の未熟さを痛感する呪いの魔法だった。

 だけど、羨ましいと言われたのは人生で一番嬉しくて…頑張ろうって思えたんだ。


 相談に乗ってくれたミツルさんが私がいるだけで存在意義があるんだって教えてくれて…嬉しかったけど私が皆の役に立ちたいって思う気持ちには変わりは無くて…皆が無理だって思う時に頑張りたいんだ。

 何時も努力家で賢明なシャル、満面の笑みで周囲を明るく元気にさせるセリーヌ、街を守りたいと涙を流すテリサ、自分の想いに真っすぐなミカ。

 そして…何時もは気だるげで屑で一歩も家から出ようとしない…だけど、大事な時に真剣に向き合ってくれて、実は優しいミツルさん。


 …全部、私の人生で誰よりも…何よりも大事な皆が涙を流すことも…落ち込む姿も私は見せない。


 「私が――――皆を守る!!」


 倦怠感が全体に入り込み、吐き気を催す気分の悪さ、頭がグルグルと周り始め…今すぐにでも倒れそうになる心を必死に繋ぎ止めて…前だけを見据える。


 私の仲間に――――涙は似合わない!!


 「アイミ!!辞めろ!!」

 「【雷魔法:ライトニング】!!」


 雷魔法は雷鳴の如く悍ましく、閃光の様に早く、全てを破壊する世界最強にして最大火力の魔法――雷魔法を全力でスライムに向けて叩きつける。

 真っ白な筒状の閃光がスライムの頭上に振り下ろされる瞬間を目に――――全身から血の気が引いて倒れていく。


 …私が皆を守る…んだ。


 


 


 


 


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