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緊急速報

 ウォーーーーーン!!


 テリサのお店を一日限定で手伝い…最後のハグは未だに何がしたかったのかは不明だがテリサの事で悶々と考えるのも癪で最終的には天然の行動に理由は無いと言う結論に至ってぐっすりと寝ていた筈なのに…突然のサイレンで一気に目が覚めてしまう。


 「――ミツル大変よ!今すぐ起きなさい!」

 「ただいま寝ているので後五時間後に起こしてください」

 「ふざけてる場合じゃないのよ!」


 今まで何度も叩き起こしたのとは違いセリーヌが慌てた様子で布団を投げ捨てて強制的に目を覚まさせられる。


 「…朝っぱらから毎度元気だな」

 「何言ってるのよ。今のサイレンが聞こえなかったの!?」

 「…鳴り響いてるのは聞こえたが…火事でも起きたのか?」


 日本で言えば消防車のサイレンに近いので火事であれば…変な所でハイスペックな異世界の魔法で直ぐに消火できるだろう。


 「火事なんて優しいものじゃないわよ……魔王軍の幹部【スライム】がこの街に近づいているって言ってたのが聞こえなかったの?」


 ……成る程。

 セリーヌの一言で冷静に状況を把握して街に鳴り響くサイレンの原因も追究できたので…そっと布団を再び被る。


 「何してんのよ!?」

 「馬鹿野郎!相手が魔王軍幹部とか言ってるんだぞ!?無理に決まってんだろ!?」


 布団を引きはがそうとするセリーヌに絶対に行かない意志を見せる為にも全力で抵抗をする。


 「私達が行かないで誰が倒すのよ!」

 「通りすがりの勇者が倒してくれる筈だから任せとけ!最近になってようやくスローライフを送れるかと期待したらこれなのか!?絶対に嫌だ!」

 「あんたが通りすがりの勇者でしょ?」


 セリーヌが言ってはならない爆弾発言を投下する。


 「…おいおい。こっちは勇者かと期待したら勘違いだったんだよ!勇者でもない俺に何も期待するんじゃない!」

 「おーいミツル君。早く行くよ」


 …セリーヌだけでも必死に抵抗するだけで大変なのにミカが背中に槍を背負って戦闘態勢が出来上がった状態で部屋に侵入してくる。


 「ミカまで…戦う気満々だな」

 「当たり前じゃん!これに勝てばミツル君と結婚することに誰からも文句は言えなくなるだろうし…全力で頑張るよ」


 おっと。

 ミカが両手の拳を握りしめ顔を朱色に変えて発言するのだが、思った以上に気恥ずかしい言葉にこちらが照れてしまう。


 「魔王軍幹部とか無謀すぎるだろ。そもそも、何で急に現れるんだよ」

 「…ミツルってば最近ダラダラとした生活をして忘れているのかもしれないけど…私達は魔王軍の最高戦力である【ゴーレム】をすでに倒してるのよ?情報はもう出回ってるし…寧ろ追手が遅すぎるほどだわ」


 ……今から襲い掛かっているのは偶然でも運が悪い訳でもなく…必然的な状況なのか。


 「逃げる選択肢は?」

 「私達と戦い来たって言うのにシャルが逃げると思う?」

 「……そうだよな」


 変な所で騎士道精神を持ち合わせているシャルがこの状況で逃げることも無いので…最終的には戦う羽目になるんだよな。


 「仕方ない!万全の準備をして向かい打つが…絶対に無理だと断言出来ればセリーヌはシャルを抱えて逃げる準備、ミカも俺は無茶が嫌いだから逃げる覚悟だけは決めておけよ」

 「僕はミツル君にお姫様抱っこされるなら逃げても良いよ」


 可愛らしくウインクをして発言するのだが…俺よりステータスが高いので寧ろ俺を抱えて逃げて欲しい。


 「…まあ、考えとく」

 「お姫様抱っこ限定だからね」

 「へいへい」


 頬を膨らませて文句を垂れるが…それ所では無いんだよな。

 魔王軍幹部と言うのならゴーレムと遜色ない実力と言う事だよな。

 前回はシャルの無双剣技で見事に勝利を収めることに成功できたが…相手はスライムと言われているのだから…俺の予想が正しければ厳しい戦いになる気がする。


 「ミツルは起きるのが遅い」

 「…お前らは俺の期待を裏切らないな」


 着替えを済ませて下へ降りれば…既にシャル、アイミ、何故かテリサまで戦闘態勢を整えている。

 …魔王軍幹部だと言うのに全員のやる気が凄すぎて思わず引いてしまうが…その中でも一際目立つのはテリサだ。

 準備運動を行い…この中でも一番やる気を漲らせている。


 「テリサはどうした?」

 「私の新しい店を…絶対に潰させない」


 …普段とは違い真剣な表情で呟くテリサに驚きはあるが…昨日オープンしたばかりなのに店を潰されるわけにはいかないのだろう。

 いや、待てよ。


 テリサのレストランが無くなれば俺の今後のお金も手に入らないぞ!?


 「良し!お前ら死ぬ気で勝つぞ!」

 「…良く分からないけど私は絶対に勝つ」


 シャルも意気込みを見せているので街の人達が避難するのとは反対の道を歩いて行けば…久方ぶりに会う――ソフィアさんの姿も見えた。


 「ソフィアさん」

 「ミツルさん?お久しぶりですが直ちに避難を」


 どうやらソフィアさんは街の人達を避難誘導をする人の様でいつもとは違い切羽詰まった表情で訴えるが、俺はお金の為に逃げるわけにはいかない。


 「いえ。俺達が頑張って【スライム】と戦いたいんですがどちらの方向に?」

 「…す、スライムと戦うんですか?」

 「はい。方向は?」

 「北方で徐々にこの街に近づいているという情報ですが…本当に大丈夫ですか?」


 ソフィアさんはシャルたちの実力を知りながらも不安そうな声で聴くと言うことは相当危険な魔物だと言うことは分かる。

 俺もお金の為に努力はするつもりだが死ぬ気は毛頭ない。


 「駄目な時は全力で逃げさせてもらいますが出来る限りだけ戦います」

 「…分かりました。無理のないようお願いします」


 ソフィアさんと別れ北方の街を離れた所で俺達は佇むのだが…おかしいな。

 【スライム】と言われれば小さな可愛らしい液体状の魔物かと思いきや水色の液体に包まれた――全長五mを超えるスライムがゆっくりとした動きで近づいているのが俺から見ても丸わかりだ。

 更に…周囲には無数の俺の知るスライムが溢れ返っている。


 「…誰かスライムに関して情報を知っている人は?」


 既に逃げ出したい気持ちを必死に抑えながら誰かに尋ねればアイミがおずおずと言った形で手を挙げる。


 「私の知っている情報だとスライムは自然災害級の魔物と同じで魔王軍として現れるんだけど…道行く人たちは大きいスライムが分裂した小さなスライムに飲み込まれれば窒息死するし、一度摑まれば逃げ出すことは出来ないよ。因みに大きいスライムを方法は無くても倒したとしても…小さなスライムが成長すれば結局同じことの繰り返しだから一気に全部を倒さないと勝てないよ」


 ……成る程な。

 相当危険な魔物なのはニュアンスで分かるが、一つだけ気になる点がある。


 「スライムって炎に弱いと聞いた気がするんだが」

 「僕の知っている情報だと目の前のスライムは水スライムだから炎が効かないの」


 ……ふむふむ。


 「私も一つだけ知ってるわ!大きいスライムは息を飛ばすことで小さなスライムを飛ばすことも出来るの!」

 「……目の前のスライムか?」

 「……そうよ」


 まだ五十m以上離れ、動きも鈍いので作戦を立てる時間もあると考えていたのだが…既に前方に小さなスライムが一匹飛ばされてきた。


 「シャル」

 「分かってる」


 言うまでもなくシャルが真っ先に動き出しスライムを一刀両断する。


 「倒せて…ないのかよ」


 完全に切り裂かれたスライムは死ぬのかと思いきやブニョブニョと奇妙な動きを始めて再生して元通り。


 「この一体として生きてるのか?だけど、全然襲い掛かってこないよな」

 「ミツル…あんたちょっと待ちなさい!!」


 恐る恐るスライムに近づいて手を伸ばすが全く襲い掛かってくる気配が無いことに安心感を抱いていると、背後からセリーヌの切羽詰まった声に振り返るが――――え!?


 「な、なんだこれ!?」

 「あんた何考えてるの!?」


 スライムに手を近づけると今まで大人しく鈍足で動いていたスライムが突然大きく広がり俺の手に纏わりついてくる。


 「ミツル君!!」


 セリーヌが慌てて背後から引っ張り、ミカが槍でスライムに突きを出すことで離れたが…冷たいが気持ち悪い液体が腕に纏わりつく感覚が恐ろしいと思ってしまった。


 「あんた何考えてるの!?今の攻撃はシャルが速かったから対応できなかっただけで、スライムに近づけば飲み込まれるのよ!?もう少し遅かったら手遅れだったんだからね!?」


 セリーヌが慌てた様子で叫ぶのだが…ああ、悟った。


 「よし、逃げるか」

 「私もシャルなら万が一切れば倒せるのかと思ったけど無理そうね。逃げるわよ」


 こんな時に限ってセリーヌとは意見が合い、互いに首肯して逃げる準備を始めるがシャルは真っすぐ大きなスライムを見据え、ミカは先程俺に纏わりついたスライムを睨みつけている。


 「お、おーい」

 「ミツル君を殺そうとするなんて僕は許さない」

 「あのデカいスライムを倒す方法は」


 ……駄目だ。

 既に一度斬りかかった戦闘狂の二人のスイッチが入っている。


 「私も逃げない。絶対にお店を潰させないんだから」


 テリサは全く逃げる気など無い様で真剣な表情で見つめていた。


 「…ハア。だけど、勝てる方法が無いからな」


 最初に危惧していたのはゴーレムは岩でシャルが真っ二つに斬れる素材だったのだが、スライムと言われれば液体だと初めから悟っていたのでシャルに斬ることが出来るのかと言う点だったのだが、見事に悪い方向の予想は的中し、シャルに斬ることも出来なかった……、


 「おいおい」


 考え事をしているといつの間にかミカが槍を持ち上空へと跳躍し…先程俺に纏わりついたスライムに対し槍を振り下ろし目標に槍を定めている。


 「ミツル君に何してくれてんだ!!!!【槍爆】」


 ミカの槍がスライムに当たると同時に漫画の様に地面が抉れ爆風が吹き荒れ、砂塵が舞いながらスライムは跡形もなく消し飛んだ。

 …シャルも大概漫画の様な強さを誇るキャラと思い込んでいたがミカも同等の強さだが…スライムだから、


 「ん?再生しないぞ?」


 先程はシャルに一刀両断されても直ぐに回復したスライムだが今度は再生することなく消滅した。


 「…もしかしたら、再生できない程に消し飛ばせば復活は出来ないかもしれないわよ。何に対しても平等であることが世界の理だから私のゴーレムだって本当は水などに弱い性質を持ち合わせているし、弱点が存在しない生き物はこの世に存在しない筈だから」


 テリサが懇切丁寧に説明しくれるのだが…勝算が見つかったと言うことでどう考えても誰も諦める方向には進まないよな。

 先程までは俺と共に逃げ出す方向に考えていたセリーヌも若干前のめりになって戦う方に心を奪われている。


 「ちょっと待って!ミカはあの巨大なスライムも爆散させるほどの技を持ってるのか?」

 「うーん。流石に無理かな」

 「だろ!?よし、引き返すぞ」


 ミカが無理なら他の人にも無理なので今回は仕方ないから諦めるしかない。

 別についさっきのスライムの行動にトラウマなんて抱えてないし?

 全然怖くないけど太刀打ちできないなら仕方ないから諦めるだけだから負けたわけでは無い!


 「もしかしてミツルは戦いたくないの?」


 当たり前だろうがああああ!

 

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