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飲食店

 「最初にこのレストランを見て感想は?」


 テリサが店内の中を手を広げて紹介してくれるのだが…ここは一体どこの高級レストランかと錯覚するほどの綺麗さを含めながらも、誰もが気軽に来れるような華やかさがあるように思えた。


 「良いと思うぞ。俺もお金をあげてよかったと思える」

 「でしょ?それに加えて一階だけでは席数が少ないかもしれないし、中々二階建てのレストランって少ないから敢えて二階も作って他と違う形にしてみたのよ」

 「…ああ。面白いと思うし…一週間でここまで出来るのが本当に凄いな」


 何カ月も苦労して出来上がったようなレストランだが一週間で完成しているのは…中々にハイスペックな世界だと痛感する。


 「大変だったけどね。それで、こっちがキッチンで調理は私でサポートを三人まかせるんだけど紹介するわね」


 テリサが先導してキッチンの中に入るのだが…やはり全てが綺麗に整えられていて素晴らしいとしか感想が思い……あ!!

 キッチンに入った瞬間に獣人の三人娘が待ち構えていた。


 「私はイチイです」

 「私がニイ」

 「私がヨンイだよ」

 「いや、そこはサンイで良いだろ」


  イチイは元気一杯で明るく挨拶を返し、ニイが若干釣り目で冷たい表情に見える事はある。

 ヨンイは何処か落ち着いた雰囲気を見せるが…サンイではないのか気になるのは俺だけか?

 三つ子なの可愛らしい猫耳を付けた俺より歳が低いであろう三人組が姿を現したのだが…飲食店で働く獣人って本当に良いと思う。

 茶色の髪の毛、フリフリと揺れる尻尾を生やした獣人だが…唯一言えるとなればメイド服を着れば完璧だが、キッチンで働くのでメイド服は無いか。


 「珍しい三つ子の獣人で連携も良いからサポートとして凄い助かるのよ。今日は臨時で皿洗いや雑用をしてもらうミツルよ。皆もよろしくね」

 「「「はい」」」


 三つ子とはこのことで同時に手を挙げて声が揃う姿は仲が大変宜しいのが丸わかりだ。


 「後はホールスタッフに男性が二人と女の子が一人で…計七人で仕事をするわね」

 「……ん?キッチンで料理を作るのはテリサだけなのか?」

 「最初の内はまだメニューを全部把握してるのは私だけだし、追々は三人にも任せるけど最初は私だけね」


 …待て待て。


 「客席は全部でどれくらいだ?」

 「ええと…全部で八十席はあるけど、一人用の人とかもいるとして…最大で約六十人程度が入ると考えているわね。それに加えて二階も含めれば百席程度だと思う」


 ……落ち着け。

 心配性の俺だからこそ考えているのかもしれないが…六十人の注文をサポート三人とテリサだけで回すことが出来るのかと言う点だ。

 さらに言えば二階の客席も含めればホールスタッフを三人で回すと言うのは無理があるのではないか?


 全部が埋まると考えれば最悪の事を想定して動いているのか…元々多めに作って客が入らないと考えて人を雇わなかったのかもしれないが…贔屓無しでテリサの料理は格別に美味しかったし客も大勢入ると分かり切っている。


 「その中で飲食店で働いたことのある経験者は?」

 「ホールの女の子が働いたことがあって他の二人は初めてでその女の子に任せてるわよ。三つ子は私が基礎的な事は教えたから材料を切るのは大丈夫だけど…何か問題でもあるの?」


 テリサも飲食店を開くのは初めての経験なのか不安そうな表情で見つめてくるがまだ初めても無い段階で否定するのは間違っている気がする。


 「いや、大丈夫なんじゃないのか?」


 普通に働いていくと考えれば絶対に無理だと断言したいが初日でプレオープンと考えればまだ妥当なのか……?


 「そうよね。焦らさないでよ。私も初めての経験で少しだけ不安なんだから」

 「悪い。俺は皿洗いをすればいいんだよな?」

 「ええ。もう少しで開店だからお願いね」


 …嫌な予感しかしないと言うか、この世界に来てから良い予感の気配を感じたことが無いのだが…大丈夫だと願いたい。


 ◇

 一時間後。


 レストラン開業と同時に多くの注文が殺到し、先程まで不安そうな表情をしていたテリサは真剣な表情で料理を作り、三つ子もまたテリサには劣るが必死に材料の下ごしらえをしてテリサのサポートを手伝っている様子が伺える。

 因みに俺は皿洗いを淡々と続けているが、送られてくる皿は全て綺麗に片付けられ残り物など一つもないのだが……、


 「多すぎないか?」


 別に困っても無いし、皿を洗って元の場所に戻す作業は手慣れているので簡単に出来るのだが…プレオープンと言っていいのかと疑う程の皿が大量に来ている。

 ……先程から休む暇もなくテリサも働き続けているので言い難いのだが…これは限界が近いのではないか?


 「ミツルさん」

 「うお!?アイミ!?何してんだ!?」


 一人で皿洗いをしながら思考を張り巡らせていると、何処から侵入したのか分からないがアイミが俺の隣に立っている。


 「テリサさんのお店が繁盛し過ぎて入れないんだけど…後何分ぐらいで入れるのかを聞きに来たの。外で皆で待ってるんだけどセリーヌがまだ?早く食べたいって言うから聞きに来たんだけど」

 「…外まで列が出来てるのか?」

 「うん。もう長蛇の列で大繁盛だね」


 アイミはセリーヌの為に聞きに来たのかもしれないが…俺の顔色は相当悪い気があする。

 長蛇の列で繁盛するのは全く悪い事ではないのだが…、


 「…アイミ。悪いんだがまだまだ時間は掛かるってセリーヌたちに伝えてくれ」

 「分かった」


 想定外すぎるのだが…嫌な予感が的中してしまった。

 …これはプレオープンでも何でもなく…普通に開店している。


 「イチイ!肉の準備できてる?」

 「あ!ま、まだです。野菜を切ってて…あれ?肉はさっき切ったばかりなのになんで!?」


 ……このような事態に陥るよな。

 三人とも飲食店で働くのは初めての経験で…想定外、もしくは許容を超えての注文殺到に頭がパニックになるのは当たり前だ。


 「イチイ。落ち着いて。まだ、大丈夫だから」

 「うん。大丈夫だよ」


 ニイとヨンイがイチイを宥めるようになっているが、イチイはパニックを起こしているのかあたふたしている。

 ……仕方ない。


 「テリサ、肉は切れ目を入れれば良いのか?」

 「う、うん。だけど、ミツル」


 皿洗いだけと伝えていたのに想定以上の働きをさせるのに引け目を感じているのかテリサが申し訳なさそうな表情で呟くが、今はそれ所ではない筈だ。


 「終わった。次だ」

 「え!?もう!?」


 イチイの前に置かれている肉に素早く切れ目を入れてテリサに渡して次の指示を待つ。


 「え、ええと、なら三人に下準備を聞いて…お願いしても良いかしら?」

 「ああ。手が困ってる人、足りてない箇所は俺がやるから回してくれ」

 「「「分かりました」」」


 三人の分量を全速力で処理して次々にテリサへと渡していくが…三人から何故か驚かれ固まっている。


 「お前ら働けよ」

 「「「は、はい」」」


 野菜を切る、肉を切る、次々に出てくるものを処理してテリサへと渡していく。


 「…もしかして…ミツルって」

 「飲食店で一カ月程度だが働いた経験はある。キッチンの仕事は余り分からないが大抵のことは理解してるつもりだから指示を貰えれば働けるぞ」


 飲食店で働いている経験が無ければプレオープンと言う単語も、ホールとは言わずに注文を聞く人と誰もが言うだろう。

 因みにプレオープンはこのレストランで言えば開業をするのに手伝ってもらった人などを招待して、大量のお客ではなく限られたお客を呼んでまずリハーサルと言うのが一番適切な単語かもしれないが、練習をしてから開店するのが一番良い方法なのだが、もう始まっているので後の祭りだ。


 「助かるわ。三人の手伝いをしてもらえると助かるんだけど」

 「その前にやることがあるから待ってくれ」

 「何をするの?」


 テリサにはまだ伝えられていないのだろう。


 「外には長蛇の列が出来てるからお客様に何分程度待つのかの指示をしないと困るだろ」

 「え!?長蛇の列が出来てるの!?」


 大忙しにも関わらずフライパンを回しながらテリサが目を輝かせている。


 「そうだぞ。アイミが来て教えてくれてな。長蛇の列が出来てるって」

 「そう…そうなのね!良し!三人とも頑張るのよ!!」

 「「「は、はい!!!」」」


 先程よりも…四人とも若干動きが良くなって調理速度を上げて進めていく姿を見てから俺はホールへと向かったが…何十人いるのかも分からない人たちがレストランの客席を埋め尽くし活気が溢れ賑わいを見せている。

 取り敢えずテリサのお店が賑わいを見せてているのは俺も嬉しい誤算だが、今日は大忙しだな。


 探すべきなのは…と考えていれば皿を大量に抱えエプロン姿の緑色の髪の毛をした女の子を見つけた。


 「なあ、一つ聞きたいんだけど」

 「は、はい。どうなさいましたか?」

 「俺は今日限りだがここで働いているんだが、外は誰か対応しているのか?」

 「いえ。それが他の二人も商品をお出しするのと注文を聞くので忙しくて私も…見ての通りで」


 大忙しだがこの人だけは少し余裕があるのか肩を竦める姿を見せる。


 「俺が外の対応をしようと思って来たんだけど…大体で良いんだが一人の滞在時間はどの程度か教えて欲しい」

 「…大体一時間以内には出ていくと思います。だけど…想定を超える可能性も考えると」

 「約六十分で入れることにするか」

 「ですね」


 俺が言いたいことも全て分かったうえで話してくれるので余計な時間を食わずに済むのは大助かりだ。

 急いで玄関に向かい、扉を開けば…本当に長蛇の列が出来ている。


 「大変申し訳ありませんがこれから先は六十分以上お待ちして頂く可能性も考慮して並んで頂けると幸いです」


 頭を下げて玄関前に並ぶお客様たちに情報を伝え、迅速にキッチンの方へ戻る時にはお客の空いたお皿をキッチンまで持って行き皿洗いを先程よりも速く済ませていく。


 「テリサ、少しだけ客席を覗いて来い」

 「え?だけど、忙しいし」


 三つ子の方を見て大忙しで下準備をしている姿に戸惑いを見せるが…レストランを始めたテリサが一番忙しいのかもしれないが…一番幸せでなくてもならないと思う。


 「忙しいかもしれないが…数秒で良いから見て来いよ」

 「う、うん」


 皿洗いを完了して元の位置に戻していると客席を覗きに行ったテリサが顔を真っ赤にして戻って来た。


 「み、ミツル!私の料理を食べてる人たちが皆笑顔で食べてるのよ!」

 「ああ。大盛況だな」

 「よーし!もっと作るから三人とも頑張って」

 「「「任せてください」」」


 腕を捲ったテリサが満面の笑みで再び料理を開始するのを見て俺も三つ子の手助けをしながら調理を開始する。


 ◇◇


 「――――終わった」


 最後の料理をホールの人が持って行くと同時にテリサはキッチンの中でへ垂れ込み、本当に疲れたように大きく溜息を吐きだした。


 「お疲れ様。大変だったな」

 「うん。本当に疲れちゃった」


 料理を終えたテリサに水を渡して俺もテリサの隣に座らせてもらう。

 ただ、三つ子に関しては最後の下準備を終えた時点で糸が切れたように三人仲良く地べたで座って放心している。


 「今日は本当にありがとね。まさか、こんなにお客が来るとは思わなくて」

 「というより、最初はプレオープンで始めるべきだったな」

 「プレオープン?」

 「ああ」


 どうやらこの世界にはプレオープンと言う言葉は無い様でテリサに説明すれば何度も頷いている。


 「…成る程ね。確かにそれが確実で一番お客様にも迷惑を掛けないで済む…。ミツルは賢いのね」

 「俺が考えたみたいになってるけど俺が元々いた世界にある事だからな」


 だが、久々に働いたことで相当身体が痛めつけられたし身体が痛いし、疲れたのは何時ぶりだ。

 最近は色々とあり過ぎて…日本にいた時のことが相当前の様に思えてしまう。


 「だけど…ミツルが客席を見て来いって言われて…凄い嬉しかったのよね。色んな人が私の料理を食べて美味しそうに食べてる姿を見たら…飲食店を開いて良かったと思えちゃった」

 「…そう思えるのならお金を貸した俺としても良かったと思えるな」


 初めは誘惑に負けて貸したことに少なからず後悔が無かったと言えば嘘になるが…今となっては大盛況で色んな人が食べている姿を見れば俺もお金をあげてよかったと思えてしまった。


 「私もミツルに感謝してるけどまずは三人とも今日はお疲れ様。後片付けは私がやるから帰っていいわよ」

 「「「分かりました」」」


 三人とも満身創痍の状態でフラフラとした体で店を出ていく姿は大変面白いが、


 「俺に何か話でもあるのか?」

 「話って言うか後はホールの人達に任せて少しだけ外の空気を吸いに行かない?」

 「ああ。俺も疲れたから丁度良いな」


 テリサと共に外に出れば真っ暗な夜に街々が街灯に照らされ綺麗な夜景が目の前に映し出されている。


 「中々良い所に建てたな」

 「そうでしょ?頭を下げてお願いしたら大丈夫だって言われて作れたの。だけど…それも全部ミツルのおかげだし…私は人生で美食を食べるだけで満足だったんだけど…初めて夢が出来たの」

 「夢はこのお店を建てる事じゃなかったのか?」


 テリサが必死に俺にお願いをしてようやく完成した飲食店こそがテリサの夢だと思い込んでいたが…まだ、先があるのか?


 「初めは飲食店で自分で料理を作ることだけが目標だった。だけど…今日の光景を見て思ったのよ。私はゴーレムを貸していただけだとしても…自分の魔法が色んな人を傷つけた。だから――――これから先は私が自分の料理で世界中の人を笑顔にするって夢が決まった」


 テリサは真剣な表情で遥か遠く…どこを見ているのかもわからない果てしない先を見据えて真剣な表情で呟いた。


 「難しいかもしれないが…テリサは出来るかもな」


 今日の賑わいを見れば否定することも…出来ないと言えないのが凄い所だよな。


 「…本当にミツルのおかげ」

 「へ!?」


 夜景を見て静寂に包まれているとテリサが――――真正面から抱きついて来た。

 え!?

 ラブコメ展開でも巻き起こっているんですか!?


 「私、あの荒野を彷徨っている時に凄い嫌で…面倒で最悪だって思ったけど――――今は貴方達に…ミツルに出会えて凄い嬉しいって思えるの。こ、これはお礼みたいな形で…今日はありがとね!」


 言いたいことを言い終わったテリサは満面の笑顔を向けた後に自分でも恥ずかしいのか頬を朱色に変えてレストランへと帰っていく。


 ド天然の大人女子の――――無邪気な笑顔に勝てる物は無い。


 


 


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― 新着の感想 ―
[一言] 運-1000だから騒動には巻き込まれまくるけどその分なんだかんだでいい思いしてるよねw
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