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レストラン開業

 翌日の夕方まで球体魔法の新しい種類の開発、ミカとシャルの特訓風景を見ながら過ごした後に、これからテリサが開業をするレストランの手伝いを行うことになっているので、服を買わなければならない。

 服を買わなければならないと言いながらも…段々と引き延ばして結局の所はパーカーと適当に買った同じ黒いスウェットしか俺には無い。


 「だけど…お金が無いんだよな」


 テリサにお金を渡して一文無しの生活を送る俺にはお金を手に入れる手段が全くないし、服を買うお金など一銅もない。

 …かくなる上はシャルに土下座で頼み込んで押し通すしかない。

 今はミカはセリーヌと共に街の道案内に加え買い物をしてアイミは間食をしながら魔導士のローブが着る雑誌を居間で見て、シャルはいつも通りに中庭で鍛錬を行っているので頼みたいのだが…機嫌が悪い時のシャルは絶対に貸してくれない。


 「…なあ、アイミ」

 「どうしたの?」

 「今のシャルは機嫌が良いか?」

 「普通だと思うよ」


 普通ならまだ可能性は有るか……?


 「シャルに用があるの?」

 「今日はテリサのレストランを手伝いに行くし、もう一着は服が欲しいと思ってシャルにお金をくれるようにお願いをしたいんだが…機嫌が悪い時は絶対に貸してくれないだろ?」

 「まあ、そうだね」


 機嫌が良い時は何でもお願いを聞いてくれるのだが、シャルが不機嫌になるタイミングが未だに分かっていないので言い出すタイミングを見定めなければならない。


 「大丈夫だと思うよ?今は不機嫌になる要素が無いから」

 「アイミはシャルの機嫌が良くなる時のタイミングとか分かるのか?」

 「最近って言うか…昨日で分かったんだけどね」


 ――――サラリと重要な事をアイミが居間で間食をしながら発言する。


 「おい!俺にも教えてくれ!」

 「ミツルさんには教えられないよ」


 今度は淡々と傷つく言葉が返って来た。


 「意地悪しないで教えてくれよ。今後に役立つだろ」

 「絶対に教えられないし…教えたら私がゴーレムを真っ二つにした技で斬られるから嫌だよ」

 「…そんな最強の技を放つほど教えたら駄目なのかよ」


 アイミは話す気はないのか魔導士の本を見ながら目を離さないのだが…昨日の出来事と言われてもミカが仲間になったことしか覚えてない。

 …結婚するなどと爆弾発言は投下されていたが…それ以外にシャルの機嫌の良し悪しが分かる要因などあるのか?


 何度思い返しても全く分からずに首を傾げてしまう。


 「…長い付き合いだからこそ変化に気付けるときもあるんだよ」

 「なら、せめて機嫌が良くなる方法ぐらいは教えてくれないか?」

 「…シャルが機嫌が良くなる方法…」


 アイミは考える気になってくれたのか、本から目を離して俺と対面して顎に手を当て首を傾げて考える仕草を行ってくれる。


 「……買い物に付き合ってあげるとか?」

 「はあ?その程度で良いのか?」


 想像以上に簡単な方法に真剣に耳を傾けていたのにずるっと転げそうになる。


 「後は…プレゼントを贈るとか?」

 「お金が無いから今は使えないな」

 「他には何だろうね」


 アイミは首を傾げているが、


 「もしかして具体的に良し悪しを変える方法とか無いのか?」

 「ミツルさんは私をどんな人間だと思ってるの?全治万能な人間じゃないから何でもは分からないよ。少しは分かるようになった程度だよ」


 てっきりシャルが機嫌が悪くなった時の対処法などを知っているのかと思えば違うらしい。

 分からないのであれば深く聞く必要もなくなったが…せめてシャルが機嫌を良くする方法を少しでも知りたい。


 「…あ!些細な事でも褒めるとか?」

 「おお!それなら間違いなく機嫌が良くなりそうだ」


 褒められて嬉しくない人間など居ないだろうし、


 「アイミは暇だろ?」

 「いや、私は本を読むのに忙しいんだけど」

 「暇だな」

 「話を聞いてる!?」


 アイミが目を見開いて驚いた声をあげるが、本は何時でも読めるが俺の用事は今すぐなので手伝って欲しい。


 「今から俺がシャルを褒めるがそれが正しいなら首肯して駄目なら首を横に振ってくれ」

 「…必死だね」

 「当たり前だ!お金が欲しいからな」

 「理由が屑過ぎるよ」


 綺麗事でお金が手に入るのなら俺は困ってないしアイミにも相談しない。

 …特にシャルの場合はまだ付き合いも短いので、キレる瞬間が掴めないのだ。


 「兎に角頼むぞ。もしも、手伝ってくれたら新しい本を買ってやるから」

 「…仕方ないな。本は約束ね」

 「任せろ」


 女心を分かっている気になったが、残念ながら俺は付き合ったことない歴=年齢なので女子が機嫌が変わる魔法の言葉など思いつかない。

 シャルが素振りを行っている中庭が見える位置まで歩いて座らせてもらう。


 「どうしたの?」


 シャルは素振りをしながら一瞥もせず話しかけられる。


 「…その…あれだなーと」

 「……全く分からないんだけど」


 大変だ!

 いざ褒めるとなると言葉が思い浮かばない。

 顔は可愛いのは分かり切っているし、美人なのも当然だし…何を褒めれば…あ!!


 「…凄い綺麗だなって」


 前々から思っていたがシャルは剣好きだし素振りを行う姿は大変綺麗で…何と言えば芯が一切ぶれない綺麗さを孕んでいる。

 スッと喉から言葉が出るとシャルがピタリと一瞬だけだが素振りが止まるが、再び素振りが始まる。


 背後を見てアイミを見れば首肯が返ってくるので選択肢として間違えていないという証だ。


 「何と言うんだろうな…言葉では表しにくい程に美しい!!」


 素振りに関して綺麗とだけしか言葉には浮かばないが…目では斜めに剣が向くことも無く一直線上に振り下ろされる剣は…美しさまで含まれている。

 再度シャルが素振りを止めて何故か反対方向を向く。


 「…急にどうしたの」


 背後を振り向いているのは不機嫌なのかと背後を振り返るがアイミからは何度も首肯が返ってくるので成功だという証だ。


 「いや、改めて思ったんだ。凄い綺麗だなって」

 「……」


 シャルから返答は無いが今度はアイミに確認を取る必要もなくシャルの耳が真っ赤に染まる姿は照れているのは俺でも理解出来た。


 「ね、ねえ!それってもしかして私の事…」

 「シャルの――剣を振る姿は本当に凄いよな」


 何度も自分で首肯しながら言葉を発したがシャルが首を曲げて俺の方を振り返る。


 「は?」

 「え?」


 完璧だと思っていたのだが、突然シャルが目を見開き口を半開きにして…あれ?選択肢を間違えた?


 「ミツルさんの馬鹿!!」

 「ぐへっ!?」


 背中に痛みが走ったと思えばアイミが俺に向かって突撃して来た。


 「何で最後の最後で馬鹿な事を言うの!?」

 「え!?間違えたのか!?」


 アイミが馬鹿!と罵ってくるのだが全く俺には駄目な所が分からない。

 数刻前までシャルは上機嫌で完璧だと思っていた…、


 「約束三箇条、その一」

 「ひいいいいいい!?」


 シャルが真顔の表情に加えて無言で近づき俺の腿に当たるギリギリの所に剣を全力で刺した。

 ……一歩でも動いていたら刺さってたぞ?


 「約束三箇条の一は?」

 「…主語を明確にすること…です」


 余りの迫力につい敬語になりながらも反射的に答えると、シャルも覚えていたことに少しは怒りの留飲を下げてくれたのか剣を抜いてくれたことに安堵の溜息を吐きだす。


 「…ミツルさんは何で最後に余計な事を言うの?普通に顔が綺麗だって言えば良いじゃん!何で剣なの!?女の子がそんな事を言われて嬉しいと思ってるの?」

 「いやいや、シャルが綺麗なのは誰でも知ってるからもう言う必要とかないだろ?」


 シャルの場合は戦闘狂なので剣の事を褒めれば嬉しいと思い込んでいたのが違うのだろうか。


 「それが駄目なの!女の子は思ってるだけじゃなくて言葉にして欲しいの!口に出して言うのが大事なんだから」

 「…成る程」

 「一体何なの?」


 若干頬を朱色に染めたシャルが困惑気味に俺とアイミに視線を彷徨わせながら尋ねられるが…ここは誤魔化すのではなく正直に言おう!


 「何時も綺麗で美人なシャルにお願いがある!今日テリサの所で働きたいから服を買うお金を下さい!」

 「…何銀貨欲しいの?」

 「シャルは簡単に落ち過ぎだよ!?」


 絶対に駄目、と言われるのかと思いきや既に財布を用意してお金を出す準備をしているのにアイミが声を荒げる。


 「ねえ、私はシャルの将来が心配だよ。絶対にミツルさんが今後も働かなくても代わりにシャルが働いてお金を稼ぐ想像が易々と出来るんだけど…」

 「アイミは俺に対して失礼過ぎるぞ?」

 「大丈夫よ。頑張る」


 何故かシャルは違う方向に進んでいるのだが、俺が働かないのはもう当たり前なのか?

 確かに最近は働いていないけど?

 だけど、毎日忙しいし今日も働くから別にニート生活を送ってるとは言えないと思う!


 「私は別に鍛錬以外に趣味も無いしミツルにあげる。返さなくていい」

 「自分で言いながら良いのか?有難いけど」

 「うん」


 首肯が返ってくるので遠慮なくシャルから五銀貨ほど受け取るが…今度お金が入った時は先程もアイミと話した通りプレゼントをあげることを決める。


 「…シャルが乙女な顔をしてる」


 何故か一人だけ意味不明な事を口走り、体を震わせ天変地異でも起きている様な驚きをしている。


 「早速買い物に行ってそのままテリサのレストランに行くか。お前らも後で食べに来いよ」

 「うん」

 「沢山食べるよ」


 二人に挨拶をして服屋で冒険者の装備があったのに心がときめくことが無いのは…俺が既に冒険者としての自覚が無いからなのだろうか?

 結局は、黒い安物の長袖と、茶色のズボンを履いて昨日テリサが教えてくれた道を辿りながらレストランに着くのだが…え。


 「…大きすぎるだろ」


 値段が高いとは思っていたが…二階建ての横幅が広い豪邸とまではいかないが普通の一軒家が二軒立てられるような場所にレストランが置かれている。

 これはまさか…隣のボロボロな家の可能性も…。


 「あ、ミツルも早く来なさいよ。皆に紹介するわ」


 …考えていたが大きな家からテリサが顔を覗き込ませ手招きされるのだが…これで失敗したらどうするつもりなのか考えているのだろうか。

 大丈夫だよな。

 初日って言ってたしお客が入ったとしてもプレオープンだし大丈夫なはずだ。


 ……運ー1000の本領を発揮しませんようにと願わずにはいられない。


 



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