仲良したち
「駄目だから」
「ええ!良いじゃん」
現在は俺の自室で馬車の揺れで腰を痛めて早く寝たいのだが…ミカとシャルが何故か俺の部屋で言い争いをしているので寝るに寝れない。
というより、俺のベットの前で言い争いをするのなら、部屋から出て言い争いをして欲しい。
「僕はミツル君を振り向かせるからこの部屋で寝るね」
「だから駄目って言ってる」
屋敷に到着したのもつかの間、何故かミカが俺の部屋である二階まで付いてくるのでもしやと考えればまさかの同じ部屋に住むと豪語をするが、この屋敷の中で一番真面目なシャルが許すはずもなく言い争いを繰り広げている。
「落ち着いたら話しかけてくれ」
これ以上話が膨れ上がって俺に飛び火が来る前に部屋を出て一階へと降りるのだが……、
「テリサは帰って来たのか」
「ふん」
何故かセリーヌが持ってきたお土産を何袋も開けて食べているのだが、話しかければソッポを向いて私は怒ってますよアピールを出している。
「何で怒ってるんだ?」
対面で座るセリーヌに尋ねれば苦笑いが返ってくる。
「一人だけ置いてけぼりにされたのが悲しかったらしいわ」
「…成る程。どうでも良いか」
「どうでもよくない!何で私だけのけ者にするの!?」
構って欲しかったのかテリサが椅子から立ち上がって文句を言われるのだが、
「お前はレストランを開業するのに忙しそうだったから置いて行ったんだ」
「確かに忙しいけど、別の日にしてくれても良かったでしょ?置手紙を見た時に私は凄い悲しかったのよ」
確かに文句を垂れる正論でもあるので言い返せない。
「機嫌直せよ」
「今度は私も連れてってくれる?」
「はいはい。行くのは構わないけどお金が無いのに俺達に払わせるなよ?」
「一文無しで旅行に行ったミツルが言えば説得力が皆無ね」
「……」
最近ではセリーヌに正論を呟かれて何も言えない時が多い気がするのは俺の勘違いか?
「大丈夫だよ。今度行くときはテリサさんの買い物なら私が少しぐらいお金をあげるから」
「本当に!?アイミは本当に良い子ね。誰かさんとは大違い」
……根に持つタイプとはこのことでテリサが恨めしい顔でジッと見つめてくるので今度からは気を付けておこう。
「分かったって。テリサのレストランの運営が落ち着いたらみんなで旅行にでも行けば良い」
「約束だからね。あ、因みにレストランは明日開店だから皆で来てね」
「……は?」
テリサがさり気なく手を合わせて呟くのだが…何を言っているんだ?
「どうしたの?」
「どうしたのじゃねえよ!まだ作り始めて一週間も経ってないよな!?早過ぎるだろ!」
「……?何を言ってるのか本当に分からないんだけど」
テリサは本当に分からないのか首を傾げているが…俺が変なのか?
一週間で家を建ててレストランを作れるなんてあり得るのか?
「ミツルは違う世界の人だし知らないんじゃないの?家なんて木製魔法を使える人がいれば魔力次第だけど三日程度で作れるから、そこから模様替えに二日と色々と運搬して六日程度で作れるのよ?」
「私のレストランは色々と考えることも多くて少し遅かったのよね」
…変な所でハイスペックな異世界ってどういうこと!?
「従業員は?」
「当然もう集めてるわ。意外とこの街で働く人口が多くて助かったのよ」
嬉しそうに呟くが…通りでテリサが死に物狂いで熱心に行動していたわけだ。
一週間程度で作るのなら色々と考えることも多くて大変だったのだろう。
「そんなに忙しいなら俺も手伝ったんだけどな。お金も払ってるし」
「気にしないで。私が始めたいって自分から言い出したんだから。それに、セリーヌやアイミちゃんは色々と手伝ってくれたから」
「……いつの間に」
知らない所でセリーヌとアイミが手助けをしていたのだが…全く気付かなかった。
「隣で色々と頑張ってる様子だったから私は食器類とかをテリサさんに代わって買いに行っただけだよ」
「テリサは食べ物に関しては完璧だけどお酒を知らなかったから私が享受してあげたわ」
「二人とも本当にありがとね。セリーヌ関しては私もお酒とか余り嗜まない方だから助かったのよ」
アイミは誇らし気にせず照れくさそうな笑みを浮かべ、セリーヌは腰に手を当てて威張った口調で呟くのだが、俺がダラダラと過ごしている日常の中で二人が真面目に働いているとなると…ひもになった気分で少し嫌だ。
「俺にも何か手伝わせてくれ。セリーヌ以下とか俺は落ちぶれてしまう」
「ストップ!何で私の悪口が始まるの!?」
【借金の帝王】にすら負けてしまえば俺には何の称号が付くんだ?
最悪な異名を付けられそうな気がしてならないし、否定出来ないのが一番嫌なので少しは真面目に働く努力をしよう。
「そうねー。だけど、もう開店準備で始めるだけだし」
「ホールでも皿洗いでも良いぞ」
寧ろ一番きつい仕事でも良いからひも生活だけは嫌だ。
更に【借金の帝王】たちに過ごさせてもらってるとか【屑の帝王】という異名が付いても俺には文句が言えない。
「…なら、初日は忙しいかもしれないし皿洗いをしてもらっても良い?」
「やらせてくれ。俺はセリーヌ以下の人間になる訳にいかない」
「だから!何で私が出てくるの?喧嘩するの?貧弱ステータス悪魔」
的確にえぐい言葉を述べるセリーヌに青筋を立てる。
「…何度も俺に球体で泣かされてるお前が俺に勝てると思ってのか?囮魔導士さんよ」
「お、囮!?あんたとは一度勝負をしないと駄目ね」
俺も的確な意見を述べればセリーヌの眉がピクピクと動き腕を組んで仁王立ちする。
「悪魔の格好をした人間風情が私に勝てると思ってるの?」
「…ほう。酒を飲んで借金を生み出す借金製造機が俺に勝てる見込みがあるのか?借金を生み出すことに関しては負けるけどな」
ピキリと不穏な雰囲気が間に入りながらも球体魔法を取り出す準備をして何時でも戦闘用意をしている。
「二人とも喧嘩は辞めない?私が食事を作るから」
「「食べよう」」
「二人は結局仲が良いからね」
「「良くない!!」」
アイミの変な言いがかりに再び声が重なってしまい、互いに睨みつけ合うが…先に動いた方が負ける気がして…動くに動けない。
…馬鹿な癖に今までで球体の一番の被害者はセリーヌで何度も食らってるせいで学習能力を覚えたのか先に手を出さなくなった。
「ほらほら。二人とも座って待ってね」
「仕方ないわね。テリサの料理を食べるなら私が大人だから許してあげるわ」
「子供の戯言に付き合ってると馬鹿が移るな」
「「……」」
無言で互いに睨み合い同時に掴み合いを開始してしまう。
何でこんなにもタイミングが重なってしまうんだ!
「こんの!今度こそ痛い目にあわせてやるんだから覚悟しなさい!」
「お前こそ馬鹿を直してやる」
互いに頬を抓り転げまわっていると…誰かに首根っこを掴まれて引き離される。
「喧嘩は無し」
「「はい」」
最後には大魔王ことシャルが現れて俺達は服を掴まれて試合終了となった。
もちろん俺の勝ちだけどな!
「あら、貴方がセリーヌが言ってた新しいお仲間さん?」
いつの間に移動したのか、テリサは台所にいてその隣で興味深そうにミカが料理の場面を見つめている。
「はい。僕はミカ。よく男っぽいって言われるけど女の子だから仲良くしてね」
「ええ。私はテリサだけど…ミカはシャルと同等の強さを持ち合わせている気がするわね」
流石は魔王軍幹部に勧誘されるだけの実力者で一瞬でミカの実力を見抜いていた。
「アハハハ。僕とシャルちゃんでは戦い方が違うからどちらが上なのかは分からないんだよね」
ミカは謙遜することも無く笑みを浮かべているが同等の条件での戦いなら…どちらが上なんだろうな。
「そう。今日はミカの歓迎会も含めて大量に作ってあげるからテーブルで待っててね」
「はーい」
ミカが元気一杯で挨拶をして俺の隣に座るのだが、こいつらはコミュニケーション能力が高すぎる気がする。
いつの間にか全員が一致団結したように仲良くしているのだが…ん?
よくよく考えてみると、目の前には美少女の花園。
俺は本当の意味で物語のハーレム主人公的位置に立たされているのではないか!?
いや、しかし落ち着いて考えれば仲間の三人は【借金の帝王】、一人は魔王軍幹部に【槍王】と呼ばれる世界最強の槍使い、どんなメンバーだよ。
「はーい。ご飯を大量に作ったけどアイミちゃんは少しは遠慮してね」
「…分かってます」
自分の置かれた状況を再確認しながら――――ある一つの答えに導かれるがテリサの料理が現れて直ぐに考えを消した。
「良し。いただきます」
「「「いただきます」」」
全員で手を合わせてテリサの料理に手を付けるが……、
「美味い!本当に旨すぎる!!」
サラダ一つでも有り得ない程の美味しさで主食と変わらない美味しさを滲み出している。
ドレッシングや香辛料を何を使っているのかは不明だが…サラダだけで主食にも出せるのではないかと錯覚してしまう程だ。
「ええ!?なにこれ!?今度、テリサに料理を教えて欲しいんだけど」
「良いわよ。明日から少し忙しくなるかもしれないけど…その後なら幾らでも教えてあげるわ」
初めて食べるミカは感激したように勢いよく食べ進めるが気持ちは大変理解出来る。
俺も朝食は草食だが、テリサの料理を食べた時は何時もより多く食べていた。
……全員が食事に夢中ながら笑顔で楽しく話している姿を見れば…何処かほっこりとした気持ちになる。
だけど…これってお父さん目線になっている気がするのは俺だけかな…。