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常識って何ですか?

 落ち着け。

 俺は今まで何度も期待して駄目なパターンだった筈だ。

 美少女三人組との出会いに期待していればまさかの【借金の帝王】とまで呼ばれる最大級の問題児連中でラブコメ展開なんて一切起きない女たち。

 テリサの時も自ら率先して助けに動いたのに殺される寸前まで追い詰められたこともあった。


 ……今考えたら本当にこの世界に来てから期待が叶った試しが無かったのだが…まさか色々と飛ばして結婚に辿り着くのか?

 これまで何も起きなかったのは今日と言う日の為だったのか?


 まてまて。

 落ち着いてまずは自分の耳が壊れていないのかの確認が先決だ。


 「…悪いがもう一度頼む」

 「…もう。僕だって恥ずかしいんだよ。だから…結婚して欲しいって」


 えええええええええ!?

 そんな照れ臭そうに恥じらいを見せて口元を手で隠して話すとか反則だろ。

 ミカって戦闘狂を除けば普通かと思ったけどまさかの…素で自分を可愛く見せる才能の持ち主でもあったのか。


 「ま、待って!何でミツルと結婚するって事になるの?」

 「そ、そうだな。まずは、そこからだ」


 シャルが慌てた様子で一番重要な事を尋ねたので聞かなければならない。


 「僕は【槍王】の名を受け継いでいる間に…お見合いの話とか大勢来てて…凄い困ってたんだよね」


 …まあ、何となく想像は出来てしまう。

 容姿端麗、可愛さに加えて地位や名誉も持っていれば誰でもお見合いしたいと思うし付き合いたいと考えるのも自然の摂理だ。


 「だけど…僕ってみんなから強いって言われるけど…普通の女の子だしやっぱり男の子に守ってもらいたいって願望もあるからさ…親やお見合いを申し込んできた人に僕に勝負で勝った人と結婚するって伝えてたんだ」

 「それで…俺が勝ったと」

 「うん」


 照れ臭そうに自分の願望を吐露するミカは相当な可愛さを孕んでいる。

 いやー、この子可愛すぎないか?

 僕っ子だから男勝りな性格かと思いきや完全な乙女な性格の持ち主だ。


 「大前提としてミカはそれでいいのか?俺の事が好きでもないのに」

 「え?僕はミツル君のこと嫌いって言うよりは寧ろ好きだよ」

 「マジで!?」


 予想外の好印象に驚くが…今日だけで相当驚いている気がする。


 「うん。可愛らしい顔をしてるし…何だか優しくしたくなっちゃう。僕と結婚したら料理とか毎日作るし…家事全般も一応習得済みなんだよ」


 …あれ?

 これはもう断ることが無いんじゃないのか?

 ていうより、ここで断れば俺は今後永遠に後悔しそうな気がする。


 「なら、本当に良いんなら俺でよければ」

 「ま、待ってミツル!」

 「え?」


 俺とミカの間で何だか甘いラブコメの雰囲気が流れているとシャルが間に入って今まで見たことも無いような慌てた形相で間に入り込んできた。


 「も、もしもミカがミツルの事がす、好きだとして…ミツルはミカの事が好きなの!?」

 「俺も好きか嫌いかって言われたら好きだけど」

 「それは恋愛感情!?」


 …こんなに焦ったような顔を真っ赤にしたシャルを見るのは初めてだが…恋愛感情かと聞かれればそれはイエスとは言い辛いんだよな。

 …考えてもみれば俺達は出会ってまだ二時間も経ってない。

 出会って一時間で結婚とか今季を焦っても流石にないか。


 「恋愛感情かって聞かれると対応に困るんだが…出会ってまだ二時間だし」

 「そ、そうよね!」

 「まあ、別に結婚しても」

 「駄目!!そ、そんな軽い気持ちでする…のは駄目。お互いに好きなら良いけど…そんな軽い気持ちは駄目!」


 今のシャルはセリーヌと同類かと疑ってしまう程の焦りようだ。

 …信じられないかもしれないが…駄々を捏ねる子供にしか見えない。


 「こらミカ。さっきから中庭で騒がしいぞ」

 「あ、お父様」


 部屋の中から現れたのは五十代近くのダンディーなミカのお父さんが現れた。

 白髪頭に唇の上に髭を生やし、髪をオールバックにした姿は何かの熟練者にしか見えない。

 先程のカラー実が入った【激辛球】の絶叫で流石に聞き逃すことが出来なかったのか眉を八の字にして現れるが、ミカは立ち上がり笑顔で父親の所に元気一杯で歩いて行く。

 お父さんもミカが来るのを笑顔で待ち受けている。


 「ねえお父様!私、ここにいるミツル君と結婚するよ」


 娘を向か入れる準備を始めているお父さんの笑顔が硬直し身体も固まっていた。

 ……気持ちは良く分かるぞ。

 数刻前までお父さん大好きっこの僕っ子が唐突に結婚するとなれば固まるのは分かるし…俺は身の危険がするので逃げ出しても良いかな?


 「…どどどどど、どういうことだ?」

 「僕がミツル君と勝負して負けたんだ」

 「ま、まさか。ミカが負けるなんて」


 動揺しまくりのお父さんは先程から冷や汗を垂れ流して手を震わせている。


 「ここにいる三人はあの魔王軍幹部【ゴーレム】を撃破したパーティなんだよ」

 「…ミカが嘘を言っているようには見えないし、記事にも冒険者が倒したと…まさか本当に」


 数刻前までは熟練者の様な威厳を感じさせる風格を漂わせていたのに、今は頭を抱えて左右へ振っている姿は威厳の欠片も見えない。


 「あ、紹介してなかったけど僕のお父さんのジダン。先代の【槍王】だよ」

 「どうも。ミツルです」

 「シャル」

 「アイミです」


 紹介して貰ったので俺達も自己紹介を終えるのだが、これはもう結婚する前提の話し合いな気がするんだけど俺の勘違いか?


 「私はミカの父親だが…まさかミカがもう結婚とは…時期尚早な気もするが成長とは早いものだな」


 ジダンさんは両目を掴むように抑えながら感慨深く呟いているが、やっぱり…結婚することが前提の話し合いが進められている。


 「しかし、ミカを倒すほどの実力者となれば我々の悲願の――――魔王討伐も夢ではないと言う事だな」


 はい?


 「ちょっと待ってください。魔王討伐ってどういうことですか?」

 「それは勿論【槍王】として名を受け継がれたミカ、そしてミカをも倒す屈強な君と一緒となれば周囲は皆、君たちに期待するだろう」


 この世界普通な事は無いのか!!


 「良し。シャルはもう少し特訓するんだろ?俺とアイミは観光を続けるぞ」

 「分かった。今すぐ行っていい」


 先程から様子が変なシャルが無理やり俺を押してミカから引き離そうとしてくるが…好都合だ。

 普通の結婚なら喜んでと言いたいのに魔王討伐なんて馬鹿げたことを俺は絶対にしない。


 「え!?ちょっと待って!急に冷めてるの!?」


 だが、当然と言うべきかミカが俺の前に慌てた様子で立ちはだかる。


 「残念ながら俺に魔王討伐なんてふざけた目標は持ってない」

 「ゴーレムを倒したんだよね?」

 「あれは成り行きだ。偶々出会って戦って勝てただけで魔王を討伐するなんて微塵も思ってない」

 「…偶々でゴーレムに出会うの?」


 それは俺が言いたい言葉だ。

 最近の俺は運ー1000という実力の本領を発揮していると言わんばかりに不幸な目に逢わされているので、今度からはスローライフを送り少しずつ成長すればシャルの目標である竜討伐を試みても良いが、魔王を倒すなんて夢のまた夢だ。


 「俺だって出会いたくないけどな。と言うことで、普通の結婚ならまだしも魔王討伐を条件に結婚は絶対に御免だ」


 そんな勇者イベントは俺以外に呼ばれた勇者と行ってくれ。


 「待って!僕は魔王を討伐は別に良いよ。ただ、周囲が期待するってだけで条件ではないよ」

 「……え?そうなのか?」

 「うん。それとも…僕に魅力が…無いかな?」


 ……はい、大変可愛らしくて魅力的過ぎます。

 羞恥心からかミカは頬を手で覆いながら横眼に見つめるのだが…これは良いのではないか?

 魔王討伐が結婚をする必須条件ではないのなら俺には断る理由は一切ない。


 「魅力は有り過ぎるほどだと思うぞ」

 「本当!?」

 「なっ!?」


 前方のミカは目を輝かせ、背後からシャルの驚きの声が上がるが魅力が無い所を探す方が苦労するほどだ。

 …一つだけ言うのなら戦闘狂ってところぐらいだ。


 「なら、僕と結婚してくれる?」

 「待って!ミツルはまだミカの事が好きじゃないのに結婚なんておかしい。絶対におかしいから」


 何故か俺が答えるよりも先にシャルが俺の前に出てミカと立ちはだかるのだが…シャルは何故焦っているのだろうか?

 ……先程までの俺の気持ちと似ているのかもしれない。


 【槍王】が男だと勘違いしていた俺がシャルやアイミに手を出さないかと不安になりモヤモヤとした気持ちに似ているのかもしれない。


 「…ミツルさん。私が口を出す事じゃないかもしれないけど…結婚は人生で最大の出来事だし安易に答えは出さない方が良いと思うよ」


 アイミの言いたいことの気持ちも分かる。

 今まではラブコメ展開を期待していた俺だが…結婚とまで行けば流石に考えざるを得ない。

 これがデートをしようなら即座に了承をするのだが…結婚だからな。


 「悪いがもう少し考えても良いか?」

 「ミツルさん。私達は今日帰るんだよ」

 「…そうだった」


 考える時間が欲しかったがよくよく考えれば俺達は【クラウム】に住んでいる訳でもなく普通に自分たちの家がある。


 「…でも、確かにそうだよね。僕は今日ミツル君と会ったばかりだし…なら、僕も君たちと一緒に冒険者に成るよ」

 「はい?本気で言ってるのか?」

 「本気だよ」


 ミカが真剣な表情で首肯をするのだが背後をチラリと振り返れば部屋の中でジダンさんがショックを受けているのか膝を付いて絶望した表情を浮かべている。


 「…私もそれで良い」


 何故か前方で顔は見えないのにシャルからはメラメラと燃え盛る炎のようなオーラを感じる。


 「私も別に大丈夫だけど」

 「お前ら全員軽いな!良いのか!?こんな簡単に決めて」

 「簡単じゃないよ!必死に考えて…僕がミツル君に好きになってもらうように頑張る」


 宣戦布告をされたような感覚で指を突きつけられるが…畜生。

 可愛すぎるんだよ。

 真剣な表情なのに自分でも恥ずかしい事を口走っている自覚はあるのか、頬を朱色に変えているのは本人も自覚しているのか無自覚なのかは定かではないが才能的な可愛さを持ち合わせているのは確かだ。


 「まあ、お父さんともよく話し合ってそれで良いなら俺達は夕方に馬車で帰るから馬車屋に来てくれ」

 「…分かった」


 ミカは直ぐに行動する派の様で頷くと同時に背後で絶望的表情を浮かべているジダンさんの元へと歩いて行く姿を見つめて俺達も屋敷を後にする。


 ◇◇


 時は夕方、既にここには俺、セリーヌ、シャル、アイミもいる中で新たなパーティメンバーになるミカを待っていたが…大きなバックを持って手を振りながら現れた。


 「お待たせ。待たせちゃったかな?」

 「大丈夫だけど…あんたが【槍王】ね。ふむふむ」


 ミカが元気一杯に挨拶するとは別にセリーヌがヤンキーの様に腕を組みながら現れたミカに対してジロジロと不躾に睨みつける。


 「シャルから聞いたけどあんたってば本当にミツルと結婚するの?辞めた方が良いわよ?結婚した後はあんたに任せっきりで絶対働かない人間になるわよ?」


 ボロクソに言われるのだが日本にいた頃ではニート生活をしていたので言い返すことが出来ない。


 「アハハハ。大丈夫だと思うけどね。ミツル君が苦労をするなら僕が助けるよ」


 …なんて事だ。

 俺より男前じゃないか。


 「ミツルには勿体ない子ね」

 「違うよ。僕がミツル君に相応しい女の子になるんだよ」


 カッコよすぎるミカを乗せ…俺達は自分たちの故郷へと帰還するのだが…前途多難な気がする。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミカが良い子すぎる… あと慌ててるシャルに和むw [一言] ミカみたいにグイグイ行かないとミツルは好意に気づかないぞシャル(◜ᴗ◝ )
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