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謝罪

 夜食を食べる時には既に元気を取り戻していたセリーヌだったが、俺とアイミは先程までの大蛇の後景が頭から離れず、何時もは大食いをするアイミが草食で俺も余り胃の中に入らず少しだけ食べて自室へと戻ると、今までの疲れからか一気に睡魔が襲い掛かってそのまま瞼をゆっくりと落とした。


 ……と、ここまでが俺が宿屋に帰ってからの記憶なのだが、ベットの中には俺だけではなくシャルがいて後方から名前を呼ばれてしまった。


 「……ど、どうした?」


 なるべく動揺しないように話しかけたのだが…反対方向にシャルがいるので姿は見えない。


 「本当にごめんなさい」

 「え?」


 ベットからシャルが離れる音がして振り返れば床に頭を付けてシャルが深く頭を下げていた。


 「おい!らしくないぞ!?」


 先程までの甘いムードなど一切なくなって慌てて呼びかけるがシャルが頭を上げることは無い。


 「私がクエストを受けたいって言ったのに…急に倒れて役にも立たずに…皆を危険に巻き込んだ。本当にごめんなさい」

 「いや、俺ももう気にしてないし」

 「私が気にする。何より戦闘力が少ないミツルに負担を掛けた。本当に…本当にごめんなさい」


 ……今日の一件が相当シャルの心に傷を負わせたのか頭を地面から離さずに何度も謝罪の言葉を並べられると非常に困り後頭部を無意識の内に搔いてしまう。


 「俺達は誰も傷ついてないし、怒ってないから頭を上げてくれ」

 「何で怒らないの?」 

 「へ?」

 「私が…勝手にクエストを受けて…更に迷惑まで掛けたのに…朧げにミツルが必死に私を抱えて逃げてる姿も見えてたのに…何で怒らないの?」


 …初めこそ何を言っているのかが分からなかったが…ようやく理解が出来て気がする。

 要するに怒られることで自分が間違っていたことを深く学び反省したいのだが…俺が怒らないから訳も分からないし困惑してしまっているのかもしれない。


 「ミツルは優しいけど…私が間違っているなら怒って良い。自分が間違っている時に私は殴らない」


 ……成る程な。

 要するに例えるなら学校で何かしら間違いを犯した時に先生に怒られるのは嫌だが呆れられるのはもっと嫌だという心理に似ているのかもしれない。

 今のシャルの不安げな表情がそれを物語っている。


 「…怒るって言われてもな俺は結構怒ってる方だと思うぞ。お前らが借金を作った時も」

 「全然怒ってなかった。私が悪口を言っている人がいて殴ったら今までの人は散々文句を言われたし、手を出すなとしか言わなかった。でも、ミツルは――我慢しなくていいなんて…そんなことを言う人は初めてだった」


 言いたいことを吐きだす様に呟かれるが…色々と混ざりそうな勢いなので一つずつ対応しよう。


 「…そうだな。まず初めに何で今日の事を怒らなかったのかと言う事だが…それは自分の意志で決めたからだ」

 「私がクエストを勝手に行った」

 「そこに関しては相談して欲しくはあったけど…シャルも強くなりたかったんだろ?」

 「うん」


 俺達には計り知れないほどのシャルには強くなりたいと言う願望が目に見えている。

 竜を倒したいと言うのは…俺の予想だが【竜殺し】、【剣王】の称号が手に入るだけではないと思っているが…シャルが話さないのなら深く聞く必要は無い。



 「勝手に決めたのは悪いけど…そこから先は自分たちで決めてるんだ。もしも、ここで俺達が絶対に行かないって言っているのにシャルが無理やり引きずって俺達を連行して…あんな目にあったら俺はシャルを怒ったと思う。でも、シャルが行こうと言って行くと決めたのは俺達だ。そこで文句はセリーヌもアイミも言わない。勿論、俺もな」

 「迷惑を掛けたのに?」

 「残念ながら俺は最弱のステータスを持って前線で戦えない時点で既に迷惑を掛けてる。セリーヌもアイミも…誰もシャルを迷惑なんて思ってない。寧ろ何時も助けられてるから少しでもシャルの事を手助けすることが出来て嬉しいと思うぞ」


 シャルは顔を俯かせていた顔を上げれば何時もの表情と変わらないので…少しは俺達の気持ちを理解してくれたのかもしれない。

 言わないが今日の食事中はセリーヌもチラチラと自分たちが泊る部屋の方を伺ってシャルの事を気にかけていたし、アイミは何度も濡れたタオルを持って行く姿が見受けられた。


 「……難しい」

 「かもな。人間関係なんて簡単な方が無いのが当たり前だと俺は思ってる。まあ、持ちつ持たれつだ。俺達が困っている時にシャルを頼りにしてる所はあるだろ?そこで、俺達はシャルに迷惑を掛けてるって思ってる。でも、シャルは迷惑だと思ってるか?」

 「思ってない」


 シャルは首を横に振り否定をする。


 「だろ?それと同じだ。俺達もシャルが迷惑を掛けてるつもりかもしれないけど、俺達は迷惑を掛けられているとは思ってない」

 「…少しスッキリした気がする」

 「なら良かった」


 今日だけでアイミ、シャルと旅行に来て開放的な気分になったのかは定かではないが相談が多い気がする。

 ここでリア充ならもう少しまともな相談相手として納得出来る言葉が思い付くのかもしれないが…如何せん、俺はニート生活を送り友人なんてネトゲでしか生まれないと思い込んでいた生物だ。


 「だけどミツルが何で私に優しくしてくれたのか聞いてない」

 「……あー、そのことに関してか」


 忘れずに覚えているのであれば…答えても良いのだがこんな二人で寝室で話す様な内容ではないな。


 「体調はもう大丈夫か?」


 ここで話す内容ではないので歩きたいのだがシャルが毒でまだ体調が万全ではないのなら連れまわすのも駄目だと思ったが首肯が返って来た。


 「うん。寝たら全快した」

 「なら、少し外を歩かないか?」

 「良いよ」


 了承を得れたので二人で密かに宿屋から出るのだが…肌寒い風が吹いて全身が反射的に身震いする。


 「おお。俺達の街より少し寒いな」

 「確かに。日中で太陽が当たらないから?」

 「そうなのか?まあ、良いんだが思った以上に寒いから早速本題に入るぞ」


 本当ならもう少し歩いて雑談を交えて本題に入ろうかと考えていたが自分が思っていた以上に寒いので少し歩いたらもう宿屋に戻ろうと言う考えに辿り着くのは俺がリア充ではない証だと思う。


 「…教えて」

 「まあ、何から説明しろって言われたら俺がこの世界の人間じゃなくて違う世界から来たのはテリサとの会話でもう分かってるだろ?」

 「うん」


 巻き込まれたと言うふざけた情報もあるが今は置いておこう。


 「俺がこの世界に来る前まで学校と言う所があったんだ」

 「学校?」


 やはり聞きなれない単語で在ろう筈の学校にシャルは首を傾げている。


 「簡単に言えばシャルと俺みたいに同じ歳の人達が同じ場所で勉強したりするんだ」

 「へえ」


 白い吐息を吐きながらシャルは目を若干開いて興味深そうに呟いた。


 「俺もそこに通ってたんだけど…途中で行くことが出来なくなった」

 「どうして?何かあったの?」

 「いや、何も無かった」


 別段何かあった訳でもない。

 サボっていると途中から行けなくなったわけでも、勉強についていけなかった訳でもない。

 …ただ、俺の精神が先に限界を迎えただけの話だ。


 「…本当に何も無かったんだけど、ただ俺が神経質で心配性なのはもう分かってるだろ?」

 「うん。ミツルは私を心配してくれた」

 「心配性ってのは良い時もあれば悪い事もあるし、心配性が原因で俺は学校に行けなくなった。多分、普通の人から見れば馬鹿らしい、阿保だと思われるかもしれないけど嫌われるのが怖くて、辛くて…誰かと話すのが怖くなったんだ」


 何時からかは覚えていない。

 中学生の頃は同じ人達ばかりで気にしていなかったのだが、高校に入り知らない人たちが大勢いる中で話すと…俺は他の人達の眼を見るのが怖くなっていった。

 今まで関わっていない人たちと話しても本当は何を考えているのだろう?今の言葉を言って怒られないか、気に食わないと思われないか?

 悪い方向へばかり考えるようになって…最終的には学校に行くことが出来なくなり、中退してニートな生活へと転向した。


 きっと、傍から見れば自分以外の人間の考えることを全部把握するなんて無理、有り得ないと当たり前の正論を吐き捨てるのかもしれないが…俺には我慢することが出来なかった情けない男だ。


 「…私達と…話すのも怖い?」

 「いや、それは無い」


 シャルが若干上目遣いで言い難そうに伝えられるが俺は即答で反射的に答えた。


 「どうして?」

 「俺も最初は大丈夫か?って不安はあったけどお前らが出会って二日目で借金を作るからな。これ以上の…本音を俺は見たことが無かった」


 確かに最初は不安で…もしかしたら直ぐにパーティを抜けるかもしれないと思っていたが…まさか出会って二日目で借金を作ることは想像できなかったし…全員の顔を見た時から…俺は大丈夫だと何故か確信が持てていた。


 「テリサに関してもそうだ。最初から俺を殺す気満々で本音を曝け出してたからな。住んでも大丈夫だって思ったな」


 最初から殺す気満々で本音が漏れているテリサに関しても…安心だと思えたんだ。


 「話が長くなったから纏めるが、シャルが我慢しなくていいって言ったのは俺も気持ちは分かるからだ。俺のは被害妄想も入ってるけど…誰かと話している時に不穏な気配や不気味な気持ちを感じた時は嫌だし…辛かった思い出がある。それもシャルの場合は俺とは違って正確に分かるんだろ?そう考えるだけで俺には絶対にシャルを責めることは出来なかった」

 「…ようやく分かったわ」


 シャルは憑き物が取れたようにスッキリとした表情を浮かべるのであれば…少しでも話して良かったのかもしれない。


 「因みに言っておくけど誰にも言うなよ。シャルなら誰にも喋らないと思って伝えたんだからな」

 「…内緒にするけど一つだけ聞かせて」

 「ん?」


 歩きながらも肌寒さは消えず、体を抱きかかえながら歩いていると背後で足音が聞こえずに振り返ればシャルが白い吐息を吐きだしながら俯いていた顔を上げる。


 「…ミツルは…もしも向こうの世界に帰れるとしたら…帰りたい?」

 「いや、まったく」


 シャルの不安げな表情から俺が帰りたいのかと思っているのかもしれないが、全く考えていない。


 「確かに最初の頃は俺も戻りたいなって考えてたけど…まあ、ここに残った方が退屈はしないと思うからな」


 パソコンもゲームも無いとなれば今までインドア派の俺には絶対に苦痛だと思っていたのに…徐々にこの世界に慣れたのか…それともシャル、セリーヌ、アイミ、テリサと過ごす日常が好きだと思っているのかもしれないが…伝える必要は無いよな。


 「なら、私達が今後もミツルがずっとここにいたいって思えるようにする」

 「大丈夫だと思うけど…私達?」


 ここにはシャルしかいないのでアイミやセリーヌは見当たらないのだが、


 「もう出て来て良い。バレてるから」

 「は?」

 「もう!シャルってば尾行してもバレるからつまらないわ!」

 「アハハハ。やっぱりバレてるよね」


 シャルが微笑を浮かべて独り言のように呟けば背後の物陰から身に覚えのあるセリーヌ、アイミが姿を現した。


 「…お、お前ら何時から」

 「最初からよ。シャルが部屋にいないことに気付いてアイミと一緒に探してたら宿屋からシャルとミツルが歩いて行くのが見えて追いかけて来たのよ」

 「ミツルさんも病み上がりのシャルを余り連れまわしたら駄目だよ」


 セリーヌが珍しく具体的に説明してくれるのだが…と言うことは今までの話も全部聞かされている問い事で……、


 「私も引っ込み思案でネガティブな方向に考えるからミツルさんの言いたいことが凄く分かったよ」

 「ミツルも違う世界で色々あったのね」


 ……全てバレている訳だよな。

 羞恥心が膨れ上がりきっと顔が真っ赤に染まっている筈だ。


 ――――今すぐ日本に戻って部屋に引き籠りたい!!

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