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最大クエスト

 「クエストに行く」

 「お、おお」


 アイミと色々と露店巡りをした後に三人とも集合してクエストに行くことになったのだが全くやる気が起きない。

 というより、一番シャルがやる気を漲らせているが…何でここまでやる気が出てくるのかが分からない。

 いや、相手がゴブリンとかバウンドベアなら俺もやる気は出すけど…聖獣だよ?

 今まで多くの人達が挑んで全員負けた自然災害レベルの魔物だと聞かされている。


 例えるなら津波、火山、地震などが挙げられるがどれも人間が太刀打ちできるものではない。

 それを倒しに行くと言うのだから殆ど不可能だ。

 既に俺は戦う意思よりもシャルをどのタイミングで逃げ出すかを考えている。

 今後も不機嫌にならないようになるべく丁度良いタイミングを考えているのだが、


 「私も今回は活躍出来る気がするわ!」

 「…聖獣か。いけるかな」


 最初こそ驚いていたセリーヌやアイミも何故かやる気を漲らせているのが問題だ。

 ……活躍する前に死ぬ気がするのは俺だけか?


 「因みに報酬は?」

 「三億金貨」

 「……ゴーレムより高いんだが」


 ゴーレムはシャルがぶった切っていたが本来は斬れる魔物でもないし、魔法も効かないような魔物で二億金貨だ。

 というより、それ以上の高額な竜とか一体どれだけの強さを持っているのかが俺には想像が出来ない。


 「ゴーレムにも勝てたんだから大丈夫」

 「ゴーレムより報酬が低かったら使える言葉だろ!」


 やばい。

 本当にやる気しか見当たらない。

 今すぐにでも観光したまま帰ろうと伝えても絶対に誰も賛成はしてくれない。

 …どうやってこいつらを戦闘の合間にやる気を無くさせて逃げ出させることが出来るのか。


 「取り敢えず行こう」

 「いや、この先は無理だろ」


 実は既に街を出てクエストに向かう場所まで来ているのだが…この先は行けない。


 「私もここで止まっちゃう。だって【魔霧の森】だよ」


 アイミも怖いのか若干足が震えているが…俺はクエストに行く前から既に足が震えているが…目の前の現象は絶対に変だ。

 荒野を歩いているのだが絶景で何一つ見えず霧で覆われて一m先も見渡すことが出来ない。

 しかし、背後を振り変えれば平坦な荒野を見渡せると言うことはこの先だけが異常気象になっている訳だ。


 「…聞いたことがあるんです。この先で何が起きているのかは誰も分からない。誰も知らない。帰ってくる人がいないから…誰にも分からないんだよ」

 「アイミって意外と博識だよな」


 以前から思っていたが情報に関してはアイミが日本人の俺に色々と教えてくれるので大変有難いがもう少し違う場面で力を発揮して欲しいな。

 今の言葉で先程まで行く気が五十あったのにもう0になってしまった。


 「…大丈夫よ。大丈夫」

 「おいおい!珍しくシャルが怖がってるぞ!」


 自分に暗示を掛けているのかシャルが何度も大丈夫だと唱えているが…シャルが怖気づく姿は珍しい。


 「違うわ。シャルは魔物や魔王軍にも恐怖を抱かないけど…お化けが無理なのよ」

 「無理じゃない」

 「可愛らしい所もあるんだな」

 「怖くない」


 意地になっているのかソッポを向いてむくれた姿を見せるが…怖いのなら辞めて観光がしたい。


 「…二人もいるし…ミツルも居るから大丈夫」


 カッコいい事言っている所悪いんだが残念ながら俺は行く気が無いのでここで逃げ出せばこいつらも行く気が失せるのだろうか?


 「なあ、シャル知ってるか?こういう所は入って出れたとしてもその後も悪霊が背後をうろうろと歩き回るんだぞ?」

 「やめて」


 体全体を震わせてシャルが訴えるがこれで行く気が失せるのなら願ったり叶ったりだ。


 「更に悪霊は質が悪いから夜な夜なお前が寝ていると隣に…」

 「やめって言ってるでしょ!」

 「いっ!?」


 シャルを徹底的に怖がらせようと思っていると拳骨が頭上に振り下ろされて、激痛が走る。


 「前にも言ったけど女の子が嫌だって言ってるのに」

 「しつこいのは駄目!分かってます!ごめんなさい!」


 不機嫌さが増えているシャルの言葉に慌てて土下座を繰り広げる。

 シャルの時には調子に乗り過ぎたら駄目だと気付いていたのに…同じ過ちを繰り返すとは俺はセリーヌではないのだから気を付けよう。


 「良し。行こう」

 「さあ!今日は楽しかったから何でも出来る気がするわ!」

 「…う、うん」


 シャルが気を取り直した様で反対方向を向いて歩を進めているのをご機嫌な様子を浮かべるセリーヌが拳を掲げて付いて行き、アイミも怯えた様子を見せながらも勇気を出しているのかシャルのを後を追って行く。


 「…覚悟を決めるしかないのかよ」


 アイミが涙目になりながらも付いて行く姿を見れば…俺も頑張るしかないじゃないか!

 慌てて三人の後を追うが…一応用心の為に置いておくか。


 「おーい。待てよ」


 用意をしてシャルたちを追いかければ見つけることが出来たのだが、全体が霧に覆われて目の前の三人しか姿を視認できない。


 「そもそもこの中で戦えるのか?」

 「殺気が見えれば私が分かる」

 「……便利なのか不便なのか分からない能力だな」


 シャルには【感覚察知】があるので直ぐに相手が襲い掛かれば分かることを考えれば適正な場所なのかもしれないが…いつ何時、襲い掛かるのかも分からない状況だと恐怖が全身に入り込んでくるような感覚に囚われる。

 誰にも言わないが恐ろしいのを必死に押し殺して進んでいると前を歩いていたアイミが俺の方を向く。


 「どうした?」

 「大丈夫だよ。私も怖いから一緒に頑張ろう」

 「あ、ああ」


 ……アイミがギュッと手を握りしめてくれたことで…少しだけ緊張が和らいだ気がする。


 「……ん?」


 アイミにお礼を言おうと思ったのだがズルズルと何かを引きずる音が聞こえたのだが、背後を振り返っても何も見当たらない。


 「どうかしたの?」

 「いや、何でもないって…ん?お前らなんで止まってんだ?」


 アイミと話していて気付かなかったが、前方を歩くシャルとセリーヌが立ち止まっている。


 「私にも分からないけど壁がある」

 「かべ?」


 俺がアイミと歩いている最中に【魔霧の森】について聞いた時は地図によれば荒野を抜ければ山となりその先に再び町があると聞かされているのだが、壁なんてあるのか?


 「何だかヌメヌメして…あと手が痺れて…頭もフラフラするような」

 「お、おい。シャル。それ壁じゃねえ!」


 永遠と何か得体のしれない物を触り続けているシャルがフラフラとしている姿を見て慌てて引き離すがシャルの顔が真っ青になり息も荒く唐突にその場に倒れてしまう。


 「セリーヌ」

 「分かってる!【ヒール】」


 セリーヌが冷静にシャルの身体に俺が回復したのと同じ緑色の綺麗な光が輝くと同時にシャルの顔色も戻り息も安定している。


 「シャルはもう大丈夫よ。だけど、壁に毒があるなんてどういうこと?」


 セリーヌが落ち着いた様子を見せるが…俺は気付いてしまった。


 「せ、セリーヌ。それ動いてないか?」

 「へ?」


 先程空耳かと勘違いしたが俺の聞き間違いではなく…確実に目の前の物体は動いている。


 「おいおい。まさか…嘘だろ!?」


 ……察してしまった。


 太く丸い何かが蠢き…更に先程のシャルのヌメヌメと言う言葉も合わされば…俺の中で一つの回答に導かれる。


 「それ蛇だろ!?」

 「え!?こ、これが魔物なの!?一体どれだけの大きさがあると思ってのよ!?」

 「俺だってアナコンダ以上の大きさの蛇とか見たことも聞いたこともねえよ!」


 セリーヌが二度見をしているが、俺も信じたくは無いが目の前は異世界。

 有り得ないと言うことが無いのが異世界だと俺は身に沁みしているので…今すぐここから避難、


 「ん?雨か?」


 何か空から雨粒が振っている気がして――――、


 「セリーヌ!アイミ!」


 ガタガタと歯を小刻みに鳴らし、脚を震わせ体全体も震える中で何とか二人の名前を呼ぶことが出来る。


 「…み、ミツル?何急に?大声なんて出して」

 「良いか。俺がシャルを抱っこするから…ゆっくりと反対方向を振り向いて俺が輝石を落としながら歩いたからそれを辿って全速力で走れ!良いな!?」


 ゆっくりと物音を立てずにシャルを背負い冷や汗をダラダラと流しながらも直ぐに加速する用意を始める。


 「ミツル?本当にどうしたの?」

 「ねえ、ミツルさん。顔色が相当悪いって…え?雨?」

 「あ!」


 アイミも頭上から振る液体に気付いたのか上を見上げようとしたので慌てて声を上げるが事既に遅くアイミが上を見上げ顔を真っ青にしている。


 「二人とも何を辛気臭い顔をして…え」


 セリーヌも気付いたのか何時もの元気は消えて声を失っている。


 「良いか?全力で」

 「シャアアアアア!!!!」

 「「「ギャアアアアアア!!!」


 頭上には全長何mあるのかも分からない――――巨大大蛇が俺達の頭上に姿を現し涎を垂らしていた。

 人間など十人ぐらい丸のみ出来る大きさを誇る大蛇の叫び声に俺達は反射的に声を上げながら全速力で加速して輝石の後を追う。


 「やばいやばい!!絶対にやばい!」

 「ミツル!?本当にやばいわ!追ってる!?折って来てるの!?」

 「背後を振り返る余裕があるなら全速力で逃げろ!」


 背後を振り返る間もなく汗を流しながらシャルだけを下ろさないように必死に抱え込んで全速力で走り切り…光が見えた。


 「アイミ!もっと走れ!」

 「分かってるよ!」


 眩い光に目を反射的に瞑りながら――――【魔霧の森】を抜け出せた。


 「ハア…ハア。大蛇は?」


 息を切らし肩で必死に呼吸を整えながら背後を振り返れば…大蛇は追って来る気配もなく…本当にいたのかと疑ってしまう程のトラウマを植え付けたまま…真相は闇の中だ。


 「……いないわよ。やばい。本当に終わったかと思ったわ」

 「…今日寝れないかも」


 やはり先程までの魔物が夢ではないことを二人の証言で決めつけているが…今のは本当に化物だった。

 ゴーレムは姿形がハッキリと見えた形で異世界でも身に覚えのある魔物だから悍ましくは無かったが、自分の知る生き物が何十倍の大きさを誇って目の前に現れた時は…失神してしまうと思えるほどの悍ましさを誇っていた。


 ……今回ばかりは本当に死ぬ覚悟が出来たぞ。


 「もう二度とここには来ないわ。私、大抵のことは怖くないけど…ああいう虫とか昆虫的な生き物は本当に無理なの。宿に帰りましょ!?」

 「ああ。俺ももう無理だ。絶対に無理だ」

 「……【七聖獣】が自然災害だって言われてた理由が分かったかも」


 アイミの言う通りだ。

 自然災害と言うべき存在だと言わんばかりの大きさの大蛇が動いて…挙句の果てに胴体には毒が塗ってあるなど…あの大蛇が街を通ればその時点で…その街は崩壊してしまう自然災害だ。


 「取り敢えずもう少し離れよう」


 これ以上近づくわけにもいかないので息を整えながらシャルを背負いながら三人で歩き始める。


 「まずはシャルの容態は大丈夫なのか?倒れてから一向に起きる気配が無いんだが」

 「…【ヒール】って傷の回復や毒は解毒できるけど体調を直すことは出来ないからもう少しは安静にして寝ないと駄目だと思うけど…目が覚めた時には回復してるわ」

 「なら良かった。俺がシャルを背負うからバックを頼めるか?」

 「私が持つよ」


 アイミにバックを背負って貰い街へ帰還すれば太陽の明かりで気付かなかったが…既に夕暮れに差し掛かっているのか露店の人達が店仕舞いをしていた。


 「…もう夕方か」

 「そうね。私ももう今日は疲れて眠いわ」

 「私も疲れたから今日はゆっくり休もうかな」


 誰も反対意見は出ないまま俺達は静かに宿屋に帰還した。


 ◇


 「…ミツル」


 ああ、本当にどういう状況なのか。

 深夜遅くに目が覚めたと思えば――――シャルが俺のベットで一緒に寝ているのは何故だ?

 


 

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