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最悪の展開

 「えええええええええええ!?」


 受付嬢に言われた通りに水晶に手を当て、一瞬淡い光で水晶が満たされ受付嬢がステータスを更新したカードを見て目を見開き大声を張り上げる。


 「ど、どうしました?」


 若干戸惑いはあるが期待していいよね?

 ステータスが良かったら本当に魔王討伐か頑張るよ?

 チートスキルを使ってスローライフも捨てがたいけど全然良いよ?寧ろそれ以外は必要ないから。


 「え、えーとこちらが貴方のステータスです」


 言い難そうな何とも言えない表情でステータスのカードを渡されて不安が募る。

 いやいや、絶対にあり得ない。

 寝て起きたら異世界転移して一文無し。

 挙句の果てにステータスが悪いとか絶対に無いから!


 カードを渡されるが目を向けれ無いが覚悟を決めてカードに目を通す。


 ◇

 level8

 名前:ミツル

 種族:人族

 力:100 C

 敏捷:90 D

 耐久:50 D

 知力:300 C

 運:ー1000 測定不能

 魔力:100 C

 【魔法】

 ・球体魔法

 【能力】

 ・無

 ◇


 「……はい?」


 自分でも目を疑い何度も目を瞬きし見るがステータスは変わらない。

 頬を抓っても、目を擦ってもステータスは変化はしない。


 「うわ!あんたステータス低すぎるでしょ!」


 「これは酷過ぎる」


 「…私以下の人を初めて見た」



 自分のステータスに茫然としていると背後から美少女三人が覗き込みトドメを刺してきた。


 「待て!俺はまだ希望を捨てない!これは機械の故障を疑うんじゃ」


 「私も一度機械の故障かと疑いましたが、故障していた場合は水晶が光らないので故障ではありません」


 受付嬢の人が驚いた理由が理解出来たが、きっぱりと言われ何も言えない…いや、まだ希望は捨てないぞ!


 「なら、この運がー1000って何ですか?」


 「わ、私にも…フフ、分かりません」


 「笑ってません?」


 「笑っていません」


 受付嬢の人も初めての経験なのか顔を隠しているが完璧に笑っている。

 …いや、これは笑える…訳が無いだろうが!!


 「おいおい!冒険者生活が始まる前に終わったぞ!?ステータス更新する時に決め顔してたのに恥ずかしくないか!?」


 「アハハハ!あんた面白すぎるでしょ!最高なんだけど!そ、測定不能ってなにこれ。アハハハハ」


 セリーヌは俺のステータスが大変面白いらしく腹を抱え目に涙を浮かべて大爆笑をしているが、両隣のシャルとアイミも俺から視線を逸らし受付嬢と同じく肩を震わせている。


 大声を出して笑わないのは僅かな良心かもしれないが…既に俺の心は500のダメージを受けている。

 因みに俺の心の限界値は100だ。


 「――いや、待て!まだ、分からない筈だ!球体魔法!こ、これは何ですか!?」


 「私も初めて見る魔法で分かりません」


 光明はある!


 「魔法はどうやって発動するんだ!?教えてくれ!」


 魔導士であるアイミに尋ねれば今度は驚きからか肩を震わせ、目を伏せる。


 「ま、魔法はカードの魔法の所を触れば何が…使えるか分かる…よ」


 「良し」


 アイミに言われた通りにステータスの球体魔法を触れば頭の中に球体魔法に関する詳細が出てきた。


 ・球体魔法:【小:球体】


 詳細なんてこれぽっちも無かったが気にしない!

 この球体が俺の唯一の光明なんだ!


 「【小:球体】」


 魔法に描かれている通りに喋れば自分の掌サイズの球が地面を跳ねる。

 跳ね続ける球を掴み触れば…固くもなく相手に当ててもダメージが入らないのは丸わかりだ。

 例えるならテニスの軟式の球と同じ…、


 「…ってこれで魔物が倒せる訳ねえだろうが!!」


 真下に投げつけて膝を折ってしまう。


 「アハハハ!!最高に面白すぎる!あんた、最高よ!こ、これで魔物を倒すって…アハハハ!植物なら倒せるわよ!」


 人が絶望をしているのもお構いなしにセリーヌも別の意味でお腹を抑え涙目で笑い死にをしそうになっている。

 ……こいつは人の不幸がそれほど嬉しいのか。


 「まあ、遊びには使えるかもね」


 シャルが上下に跳ね続ける球を掴み触った感触を素直に伝えてくれるが…一番心に傷ついた。

 膝を折るだけではなく、頭まで地面に付けて倒れてしまう。


 「アハハハ!シャルがトドメを刺した!アハハハ!やばい!胃がねじれる!」


 「お前は笑い過ぎだろうが!」


 先程まで初対面で美人であることに遠慮気味だったが目の前で大爆笑をされて我慢の限界でセリーヌに掴み掛かる。


 「ちょっとやる気!?ステータス平均Cの人が…アハハハハハ!ちょっと笑わせないでよ!」


 「自分で言って勝手に笑ってるんじゃねえよ!こっちは無職で宿も無ければ今日の食事も食べれない始末だ!ふざけんな!」


 全ての計画が崩れ去り、恨み口をセリーヌと掴み合いを行いながら垂れて少しでもストレスを発散させる。


 「私に八つ当たりしないでくれる!?自分のステータスが貧弱なのが悪いんでしょ!?」


 「口に出すんじゃねええええええ!」


 勘弁してほしい。

 一歩手前で――冒険者生活の始まりだ…とか勝手にカッコつけたが実はチート能力も無ければ冒険者を始めることも出来ないなんて…最悪の展開だ。


 「せめてステータスが高ければ魔物を倒す戦術を見つけて楽に倒していく手筈だったのに…有り得ねえだろ!」


 「だから、私に文句を言われても意味が分からないんですけど!?」


 今のステータスではスローライフを送ることも適わず、魔王を倒すなど笑い話だ。


 「一旦二人とも落ち着いて」


 「うお!?」


 セリーヌと言い争いをしていると、シャルが飄々とした態度で男性の俺を片手で軽々と持ち上げ、セリーヌも持ち上げる力業を見せつける。

 ……ああ、こんな力があれば俺にも冒険者として剣を振るうカッコイイ勇者的な存在に成れたはずなのに。


 「今の話を聞いて思ったんだけどミツルは頭を使うの得意なの?」


 「得意なのかは分からないけど普通程度だと思うぞ。あ、でも」


 昔はシミュレーションゲームなどは得意で毎日行っていた。

 小さい界隈ではあるがプロには劣るが平均並みの実力で初心者などには凄いですねなどと褒められた経験もある。


 「…嫌いではない。寧ろ好きな方ではある」


 「なら、私達のパーティに入る?」


 「「え!?」」


 シャルは表情を変えずに淡々と衝撃的事実を述べたことに驚愕の声をセリーヌと一緒に上げてしまう。


 「ちょっとシャル何言ってんの!?こいつのステータスを見たでしょ!?雑魚よ!?いや、雑魚って言うか子供よ!ひ弱な子供と変わらないステータスなのよ!?」


 ボロクソに言ってくれるセリーヌの言葉に青筋を立て、頬を引きつらせる。


 「お前、遠慮が無さ過ぎるだろ。女の子だから容赦してやったけど、女子だろうと俺は遠慮なく叩くぞ?」


 「ひ弱な子供に叩かれた所で痛くも痒くもないから」


 先程掴み掛かられたのを警戒しているのかシャルの背後から舌を出して馬鹿にするセリーヌだが、シャルの背後に隠れられると何も出来ない…いや、待てよ。


 「【小:球体】」


 再び球体を生成し自分の手で掴み腕を振りかざす。

 狙いを定め、セリーヌの脳天を目指して全力で投げつける。


 「調子に乗るんじゃねえええええ!」


 「いった!?あ、あんた何するのよ!?」


 見事に命中した球体にセリーヌは驚き直撃した勢いで後ろに倒れる。

 若干驚きが涙に代わっており、涙目で文句を垂れるがシャルの背後に隠れてこちらに来ないのなら怖くもない。


 「調子に乗るからだ」


 「二人とも喧嘩しない。それで、返答は?私達は作戦を練る人とかいないし困ってる。前回もクエストで魔物の把握とか全く考えずに向かって危ない場面もあったから魔物の知識とかあると助かる。それに、悪い人ではないだろうし」


 「……そうだな」


 普通の場合は今のままでは働けるわけも無いし美少女三人組のお誘いは即答で了承するのが当然だ。

 しかし、一つ気がかりな点もあるが…気にしている場合ではないよな?


 「分かった。俺でよければパーティに入らせてくれ」


 「…わ、私も大丈夫」


 「えええ!!アイミも!?うーーん。あ、でもそうね。あんたが居れば囮になるだろうし」


 「入って早速物騒な事を言うんじゃない」


 セリーヌはコミュニケーション能力が高いのか天然なのかは判断が付きにくいが…仲良くやっている気がする。

 運がー1000というのはただの大袈裟な表示だったのか?

 もしくは機械の故障で…ってそれはもう諦めるか。


 気にしても仕方が無いし…今日の最大限の収穫は出来た気がする。


 「なら、明日またここで集合で良い?」


 「ああ。大丈夫だ」


 「なら、明日で」


 シャルたちを冒険者ギルドを出る所まで見送るが、最後にゴムボールを当てられた仕返しのつもりなのか再び舌を出して煽るセリーヌに明日もう一度不意打ちで叩きつけることを決意しておく。


 「…それにしても想像以上の収穫だった……ん?」


 何か忘れている様な気がしてふと、その場で固まってしまう。

 ――――宿と食事をどうする?

 先程までとは一転して冷や汗が全身から流れ、血液の流れが悪くなっている気がする。


 「すみません!」


 先程と同じ受付嬢のお姉さんの所に全速力で向かう。

 最初は冒険者ギルドに入れたことに夢中でよく見ていなかったが、目の前の受付嬢のお姉さんもロングの透き通る緑色の髪の毛をして胸もデカく、包容力のあるお姉さんというべき存在に近い。

 あ、因みに三人の中ではシャル、セリーヌ、アイミの順番で胸のデカさは決まっていた。

 閑話休題。


 「は、はい。何でしょうか?」


 「この辺に無料で泊まれる宿屋とかありませんか!?もしくは食事付きで!」


 「え、ええとお金が無いのであればクエストに…あ、申し訳ありません」


 俺のステータスを思い出してか口元に手を当てて謝られるが…この人こそ天然で人を傷つける天才なのではなかろうか?


 「で、ではここに泊って行きますか?今日は私が夜勤なので許可を取れば大丈夫ですが」


 「ほ、本当ですか!?お願いします!!」


 すみません。

 貴方は人を助ける女神様だと変更しておきます!


 「但し、一つだけ条件があります」


 先程までの表情とは変わり真剣な表情で受付嬢の人は俺の方を見つめる。


 「…あの三人の事を――――よろしくお願いしますね」


 「……?は、はあ。分かりました」


 受付嬢の表情は真剣そのものだが…そこまで真剣に伝えるべき情報なのだろうか?

 しかし、直ぐに表情を和やかにさせた受付嬢は手を合わせる。


 「それでは、私は受付嬢のソフィアと言います」


 「俺はミツルです。今日はよろしくお願いします」


 誰から見ても運がー1000なんて嘘にしか見えないよな。

 幸運すぎる俺の大事な異世界転移の初日が終わった。


 ◇

 次の日。


 「……ハア」


 俺が冒険者ギルドの一角にある椅子に座り三人の美少女を見下ろし溜息を吐きだすと、三人ともビクリと身体を震わせる。

 昨日までセリーヌには遠慮は無用だと悟ったが、他の二人にもどうやら遠慮は必要ないと判断できた。

 理由は簡単だ。


 目の前に――――借金150金貨の小切手が置かれているのだから。


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