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何をするべきか

 「暇になった」


 テリサにお金を渡して…俺は貧乏生活を送ることになった。

 だが、考えてみれば今の方が最適解だと踏んでいる。

 【借金の帝王】の三人と過ごしていく日々で絶対に二億では生活できない気がするのだ。

 一人当たり五千金貨だと考えれば…テリサにお金を貸して後々で貰う日々の方が働かずに生きていけるのだから。


 「…よし、皆で何処かに行くか?」

 「クエスト?」

 「……そこから離れろよ。昨日もバウンドベアを倒しに行っただろ?旅行だよ。よくよく考えれば俺はこの街にしか来たこと無いし違う場所に行ってみたい」


 冒険者というか、旅人として動き回る冒険者は小説の中でも数多くいたが俺達は既にこの街に家があるのでここから離れると言う選択肢は限りなく零に等しい。

 なので、旅行というか今までの労いを兼ねた慰安旅行に行きたい。


 借金生活も落ち着いて徐々にスローライフを満喫できている今だからこそ旅行に行くべきだろう。


 「分かったわ。竜を倒しに行くのね」

 「全く違うな。慰安旅行だから竜を倒すなんてあり得ないし冒険もしない」


 安定の不満顔を見せるが…シャルは竜に拘りを持ち過ぎではないか?


 「なあ、シャルは何でそんなに竜を倒したいんだ?」

 「【竜殺し】の称号が手に入るから」


 確かに【竜殺し】の称号が手に入るのはカッコいいと思うし男の俺でもできれば欲しいと思うが…命を懸けてまで欲しいのか?

 いや、それが普通の冒険者なんだろうな。


 最近思うのだが俺は絶対に冒険者に向いていない気がする。

 ラノベの見過ぎで憧れているだけで、全く命を懸ける覚悟なんて無いしそろそろ引退を考えても良いかもしれない。


 「ミツルは分かってないわね。【竜殺し】の称号が手に入ると同時に【剣王】の称号も同時に取得できるのよ」

 「剣王?」


 聞きなれない言葉にセリーヌに問い直してしまう。


 「お伽噺でもあるんだけど、普段竜は温厚で余り人里に降りないんだけど…一体だけ凶暴な竜が街を崩壊し、暴れる限りの行動をして民を困らせていたの。そこで、一人の女騎士が現れ見事に竜を討伐。彼女は【竜殺し】の称号を手に入れると同時に【剣王】、剣の王様と呼ばれるようになったのよ」

 「…それは憧れるのも分かってしまうな」


 シャルはきっとゴーレムを倒しても満足していないし遥か高みを目指している。

 それこそ、その【剣王】と呼ばれた人物が女性で同じ剣士であれば憧れを抱くのは必然だろう。

 俺がラノベのチート勇者に憧れていたのと同じ原理だ。


 「一人で戦いたいのか?」

 「うん。竜とは誰の力も借りずに一人で戦いたい」


 シャルから固い意志を感じるのだが…果たしてどうするべきか。

 願いを叶えてあげたい気持ちもあれば、シャルの安否を不安になってしまう自分もいる。

 竜を倒せずにシャルがピンチになった時に俺達の力で逃げ出せるのか?


 「…そうだな。きちんと安全も配慮出来たら挑んでも良いかもな」

 「ミツルってば本当に分かってるのか知らないけど竜を倒せたのはその一体でそれ以外の人達が今まで【剣王】の座が欲しくて挑んで全員負けてるのよ?」

 「シャルがさらに強くなって俺達も強くなってから挑もう」


 きっと俺が想像している何倍も竜が強い気がする。

 今度、魔王軍の幹部だったテリサ辺りに竜の情報を仕入れてから念入りに考えることで保留にすることに決定だ。


 「…遠のいた」

 「仕方ないだろ?物には順序があるんだ」

 「私が雷魔法を使えるようになってからとかだね」

 「ああ。その通りだ。だから、シャルが強くなってからもう少し考えよう」

 「分かったわ」


 …言っておきながらアイミが雷魔法を使えるようになれば相当強くなるのではないか?

 その時が来れば竜を殺すことは出来なくても逃げ出すことは可能になるかもしれない。


 「それで、各自行きたい場所はあるか?」

 「食事が美味しい所が良いな」

 「お酒が美味しい所」


 アイミとセリーヌが意見を述べるが…お前らは何を食っても飲んでも美味しそうなので何処に行っても変わらない気がする。


 「…私に一つ行きたい場所がある」

 「お?竜じゃないよな?」

 「ミツルの言う通り鍛えてからというのは納得してる。それで、行きたい所があるんだけど良い?」

 「ああ。勿論だ」


 俺はこの街以外のどこかに行きたいので他の人達に合わせるつもりでいたので丁度良い。


 「行く所も決まったし各自準備をしようぜ。俺は荷物を纏めたいんだが」


 球体魔法は数が多いので荷物を纏めておきたいし、俺は運が―1000なので用心しておいて損は無いと思うので最近出来た残り4種類の球体も数も増えているのでバックに入れる用意をしておく必要がある。


 「なら、私が馬車の用意をしておくよ」

 「私は一つ寄りたい所がある」

 「だったら私がアイミとシャルの分もミツルと一緒に纏めておくわ」

 「良し!慰安旅行に行くぞ!」


 各自で準備を始めて――――俺達の慰安旅行の開始だ。


 部屋に残った俺達は準備を始め、何処に行ったのかは不明だがシャルを屋敷で来るまで待って、三人でアイミが取ってもらった馬車まで歩いて行く。

 馬車屋に辿り着けば既にアイミが二頭の馬車を用意していたので、四人用の馬車に全員で乗る。


 「あ、お願いします」

 「はいよ。行き先は」

 「南の街【クラウム】まで」

 「了解です」


 シャルの端的な言葉に馬車の操縦者が馬を走らせていく。


 「【クラウム】ってなんだ?」

 「南の街で霧が濃い事で有名。後は行ってからのお楽しみ」


 霧の街か。

 聞いたことも無いし、余り想像は出来ないがまあ旅行というのは行ってからのお楽しみがあるからこそ面白いんだよな。


 「ところで、テリサさんには言わなくてよかったのかな?」

 「大丈夫だ。最初に俺が置手紙だけテーブルの上に置いといたから後で文句は言われるかもしれんが、大丈夫だろ」


 実際、俺がおかねを渡してから三日ほどの時間だが常にリビングで色んな書類と睨めっこしているテリサの姿を見れば今は旅行に行っている場合ではないのだろう。


 「私はテリサよりシャルが気になるんだけど何処に行ってたの?」

 「冒険者ギルドに行ってきた」


 ……おっと?

 さり気なくシャルが呟いているが難聴系ではない俺には全てが聞こえたぞ?


 「…どうして冒険者ギルドに行ったんだ?」

 「クエストを受けに」

 「何でそうなった!おい!ふざけんなよ!慰安旅行だって行っただろ!?」


 最悪の予想が当たっていたことにシャルに怒鳴りつけるが、シャルは全く分かってない様子で飄々とした態度を崩さない。


 「少しはハードな方が楽しい」

 「楽しくねえよ!全くハードライフとか要らないんだよ!俺はスローライフを希望だ!」


 スローライフの意味を理解していないのかと思えば理解したうえでクエストを受けに行くなんて質が悪すぎる。


 「まあ、違う場所でクエストを受けるのも面白そうだけどシャルは何のクエストを受けたの?」

 「私も気になるな」


 ……どうたら俺に味方は居ない様で全員でセリーヌもアイミもクエストに興味津々だ。

 こいつら全員戦闘狂か?

 マグロの様に動くのではなくて戦闘をしないと生きられないのか?


 「これを受けて来た」


 シャルが冒険者カードを二人に見せているが俺は既に興味は無い。

 クエストなんて物騒な物に関わる気は一ミリも無い。


 考えてみればシャルは強いので三人にクエストを任せて俺は適当に旅行を楽しむことにしようかと真剣に悩まされる。


 「はああああああ!?しゃ、シャル!あ、あんた何を受けてんの!?」

 「…シャル、流石に無謀だよ」


 ……何だか嫌な気配しか出ていないけど俺は無関係だ。

 二人が目を見開き冒険者カードを凝視している姿を見た時点で俺は外の景色を堪能して他人のふりを決めている。


 「み、ミツル!これを見てよ!」

 「……ハア。俺を余り巻き込むなよ」


 シャルの冒険者カードを拝見するとクエストの欄に聖獣と書かれている文字が見えている時点で既に駄目だと訴えたいが…俺には聖獣というのが何か分からない。


 「誰か説明を求める」

 「元々、世の中には魔王軍と人族による戦争が今でも長い月日を掛けて続いているけど終戦を迎えていないの。魔王軍の三大幹部【ゴーレム】、【スライム】、【オーク】。その三体が三大幹部として名を連ねているけど…魔王軍以外にも人間には敵がいて【七聖獣】と呼ばれる自然災害として認定されている魔獣が存在しているの」


 ……魔王軍幹部が何故か最初の冒険者の討伐魔物な事に疑問を示したいが…【七聖獣】という単語の中にある聖獣がクエストの中にあるのは俺の見間違いか?

 …見間違いであってくれよ。


 「それを打ち滅ぼさんと王軍以外に人間にも勢力がいて」

 「いや、今は人間の方は良いんだが説明ありがとう。それで、シャルはもしかして【七聖獣】の一体を倒そうと考えているのか?」

 「そう」


 …頭が痛くなってきた。

 どうして最近大人しかったのに…急に変なことを行わなければ気が済まないのか。


 「…クエストを諦めると言う選択肢は?」

 「無い。私が竜を倒す実力が無いのは分かってる。だから、少しでも実力を伸ばしたい」


 ……どうやら、最近大人しいと勘違いしていたシャルは一番の危険物資だった。

 何処までもカッコいいのだが…慰安旅行が地獄への切符に代わってしまった。


 「まあ、大丈夫でしょ!早く行くわよ!【クラウム】に!」


 セリーヌだけが事態を飲み込めてないのか考えるだけ無駄だと判断したのかは不明だが乗り気な様子で馬車の外に向かって大声を張り上げている。

 …俺もテリサと一緒に家に残って飲食店の開業の手伝いをしたい……。


 

 


 

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