表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/42

約束

 「た、ただいま」

 「あんたたち、相当長く遊んで何処まで行って…誰よ!?」

 「ば、馬鹿。俺だ。ミツルだよ」


 何故か森の中でフルボッコにされ顔が今にもパンクしそうなほど腫れている可能性もあるが正真正銘のミツルだ。

 しかし、名前を呟いてもセリーヌの表情は晴れることは無く凝視される。


 「……だれ?」

 「よし。お前は覚悟を決めろよ。今から俺の新魔法をお披露目してやる」


 馬鹿げたことを口走るセリーヌにはバウンドベアも悲鳴を上げた新しい【閃光弾】で地獄を見せてやろう。


 「冗談はともかく…シャルが相当不機嫌に見えるけど?」

 「……それは置いてくれ」


 閃光弾を取り出す最中に触れてはならない話題に触れた言葉に動きが止まる。

 隣に立っていたシャルは無言でリビングのソファに静かに座る。


 「ミツル」

 「は、はい!」


 こちらを見ていないシャルが怒気を孕んだ声で名前を呼ばれて反射的に身震いを起こして声を上げる。


 「約束三箇条、その一」

 「主語を明確にして喋る事!」

 「その二」

 「隠し事はしない!」

 「その三」

 「変な事を言わない!」

 「もう許してあげる」

 「ありがとうございます!」


 何がシャルの琴線に触れたのかは未だに理解出来ていないが、ボッコボコに殴られた後の帰り道に永遠とこの三箇条を唱えられ、反射的に答えることが出来た。

 きちんと覚えていたことに満足したのかようやく不機嫌な様子が消えた。


 「え?なんなの?」

 「俺にも分からん」

 「ていうか、ちょっと座りなさいよ」

 「おう」


 セリーヌに言われるがまま席に座れば、セリーヌが目を瞑り両手を俺の顔に添える。


 「【ヒール】!!」

 「お?おお!」


 顔の痛みがみるみる引いて触ってみれば腫れていた顔の傷が全て癒えた。


 「これで治癒も終わりよ」

 「ありがとな」

 「…それで、シャルが何で怒ったの?」

 「俺にもさっぱりだがもう触れない方が良い気がする」


 セリーヌが座って耳打ちしてくるが、本当に分からないのだ。

 主語を明確にするなど言われても分からないし、シャン実の森でバウンドベアを討伐することを言わなかったのが気に食わないのかは不明だが、これ以上深堀りをしないのが一番良い気がする。


 「触らぬ神に祟りなしね」

 「それだ」


 セリーヌにしては賢い言葉の使い方だが本当にその通りだ。

 触らぬ暴君に祟りなしとも言えるが。


 「ところで、結構長い時間出掛けてたけど何してたの?」

 「俺の球体魔法を成長させる改造をしてたんだよ。それで、シャルと一緒にバウンドベアを討伐して帰って来た」

 「ミツルさんとシャルはそんな遠い所まで行ったの?」


 気付かなかったが台所で料理をするアイミが背中越しに話に入ってきた。


 「ああ。でも、俺の球体魔法が活躍したんだぞ?なあ、シャル」

 「そう。バウンドベアが身動き取れなくて私は斬るだけで終わった」

 「え?本当に強くなったの?」


 セリーヌが疑い深く見つめるが…今までと同じ球体魔法と思われては困る。

 一度、バックの中に入れた球体を取り出して壁に向かって投げつける。


 投げた【閃光弾】が壁に当たると同時に破裂して強烈に光り輝く。


 「ええ!?なにそれ!?進化でもしたの!?」


 セリーヌが目を見開いて輝かせ、上体を傾けて予想以上の驚きを見せるのが…その表情を待っていたんだ!


 「ハハ!これが球体魔法の新境地である何でも球だ。今回は【閃光弾】と名付けた球だが、俺の考えではこの後に水を入れた【水糾弾】も作るつもりだ」

 「確かに驚いたけど、まずは輝石を拾って」

 「…はい」


 【閃光弾】は確かに強いのだが、球が破裂すると同時に輝石も弾け飛ぶので回収をするのが非常に面倒だが…戦闘として妨害行為という名の魔法として使用できる。

 シャルの傍に落ちている輝石を拾って再びセリーヌの対面に腰掛ける。

 最近では独特な魔法でチート無双する異世界転移の小説も増えているし…俺もその主人公たちの仲間入りを果たすことが出来るかもしれない。


 浮かれていたが、今日の報告は未だ終わりではない。

 立ち上がって腰に掛けてある剣をセリーヌたちに見える形を作る。


 「しかも見てくれ!シャルが俺に剣をプレゼントしてくれたぞ」

 「へえ。シャルが本当にミツルの事を気に入ったのね。この悪魔に気に入る要素が欠片も見当たらないけど」

 「よし。今度から新しい球体を作ったら初めにお前を実験台にしてやる」


 次々と色んな要素を入れた球体を作るつもりなので、全てセリーヌを始めの実験台にして反応を楽しんでやる。


 「あのね、確かに強くなったけどその【閃光弾】だったかしら?その魔法が何に通用するの?」


 確かに分からないよな。

 セリーヌも驚いていたが戦闘に使用できるとは思っていないらしい。

 俺もセリーヌと同じ考えでシャルに初めは言わなかったのだが、今度からは懇切丁寧に説明してから行動することに決めている。


 「なら、この部屋の明かりを一旦消してくれ」

 「…今、ご飯作ってる最中だよ?」

 「直ぐに終わるから」


 アイミが明かりを消してくれたので真っ暗の中で、ポケットの中に仕舞いこんでいた輝石を一粒取り出してセリーヌの目の前に持って行く。


 「うわ!?眩しいわよ!?」

 「もう良いぞ」


 アイミが直ぐに明かりを灯したが、セリーヌが目を抑えて涙目になっている。


 「あんたは碌な事をしないわね!?目が超痛いんですけど!?」

 「いや、少し用途を分かってもらおうとして輝石を出しただけだし、一粒だから目に支障はない筈だ。だけど、俺の球体の中に何粒の輝石を入れて、突然目の前に光を浴びれば目が痛いだろ?」

 「確かに私も遠いのに眩しかったよ」


 アイミにも用途が理解出来たのか、食事を作りながらも感想をくれるのは優しいな。


 「しかもだ!これを突然至近距離で浴びたら目が当分の間は開けられないだろ?」

 「当たり前じゃない!今も少し眩しいわよ!」


 今もまだ若干目が痛いのか涙目で叫び散らすが…一粒でも想像以上の凄さを誇っている輝石の【閃光弾】は我ながら…想像以上の出来ではないか?


 「俺もこれを試すためにシャン実の森でシャルと一緒にバウンドベアを討伐に行って、【閃光弾】を投げつければ一発でバウンドベアは何も出来ない状況でシャルが横に一閃!安全快適で完全勝利ってわけだ」

 「……まさか、本当に球体魔法が強くなるなんて…物は使いようね」

 「その通りだ」


 漫画などでは閃光弾というのは余り強そうには見えないかもしれないが、普通の世界では圧倒的に有利に立ち回るための先手必勝な攻撃でもある。

 更に、偶然の産物ではあるのだが輝石の量も少なく他の人達には危害が加わらない一石二鳥な仕組みとなっているのだ。


 「ミツルさんの【閃光弾」だよね?それが使えるようになれば私も魔法が楽に打てる環境が作れそうだね」

 「ああ。セリーヌが囮になることも無くてアイミが魔法を打てる余裕やシャルが怪我をせずに冒険者生活を送ることも出来るが…まあ、当分は冒険者生活はしないけどな」

 「…ミツルはお金があると堕落するタイプ」


 ……言い返せないな。

 日本にいた頃もニート生活をしていたので…正直に言うとお金があれば働くと言う言葉は絶対に浮かばない。

 真っ当な生活をしている人であればお金があっても今後の為にと働くかもしれないが…俺の場合はもうすでに働く必要性は皆無だ。

 お金が無くなれば働くかもしれないが…当分の間は心配する必要もない。


 「ご飯できたからテーブルに運んでくれる?」

 「「はーい」」


 セリーヌと稀に息が合うので声が揃いながら台所にある料理を持って行こうと思ったのだが…多くないか?

 台所にある料理は計六品。

 サラダが二品、主食が二品、汁物二品…しかも、全てが四人前ではなく十人前レベル。


 「…流石に昼から作り過ぎだろ」

 「え?そうかな?」

 「そうかな?じゃねえよ!誰がこんなに大量に食べるんだよ!」

 「残ったのは私が責任もって食べるよ」


 ……そうだった。

 アイミの胃袋はブラックホールなのだ。

 この家に来た初日で一番驚いたのは屋敷という豪邸に住んでいた事だが…それ以外に驚くべきだったのはアイミの食事量だ。

 家で食べている間も小さな体の何処に入るのかと言わんばかりに誰よりも食べているのに、誰よりも早く食い終わるのだ。


 因みにこの中で誰よりも身体が成長していないのもアイミだ。


 「今朝のテリサさんの料理には負けるかもしれないけど…食べてね」

 「おう。いただきます」

 「シャルも食べるわよ」

 「うん」


 料理を置いてソファに寝転がっていたシャルも席について食事を始めるのだが…やはりアイミの食べっぷりがやばい。

 一口を口に入れたと思いきや…もう次はどれを食べようかと考えているのか視線を彷徨わせながら次々とおかずがアイミの胃の中に入り込んでいく。


 「アイミは本当に楽しそうに食事を楽しむんだな」

 「食事は人生において生き甲斐なの」


 満面の笑みを浮かべてアイミが食べ進めている姿を見ると、何だか食欲が湧いてくるんだよな。

 この量は絶対に無理だけど。


 アイミは普段大人しく余り心を開くタイプではないが食事中だけは別だ。

 食事中に話しかければ目を合わせて笑顔で話しかけてくれるので案外嬉しくもあるが…お金持ちでは無かったと思うとゾッとする。

 質が悪いのはアイミは以前も言ったが保護欲に駆られるのだ。


 少しでも満腹感が満たされなかったら落ち込んだ様子を見せるので何だか食べさせてたい欲求に駆られるのを必死に我慢しなければならない。


 「ねえ、ミツルってば呆けてるけど早く食べないとアイミが全部食べるわよ?」

 「いや、食い過ぎにも限度があるだろ!」


 まだ開始五分も経たない内におかずの品が一品無くなっている。

 …信じられない。

 一品だけでも十人前以上の量があったのに…なぜ、太ることが無いのかが疑問だが気にするだけ無駄か。


 何度かお代わりをしたが流石に胃袋が限界を迎えて自分の食器を片付けてソファに寝転がらせてもらう。

 お昼から大量の食事を取るなんて日本では考えられないな。

 日本では家族が仕事に行っている間に食事を取るのだがカップラーメン一つでそれ以外を口にすることは殆ど無い。


 「ハア。疲れたし寝るか」

 「一応言っておくけどまだお昼よ」


 今日一日頑張ったと思えば…そうだよ。

 まだ、お昼だった。

 何時もはこの時間は布団を被って本かアニメ、ネトゲのどちらかを選べと言われている選択肢kしか出てこない。

 …そう考えると、まだまともに外出して働ているからこっちの生活の方が…俺的には有っているのかもしれないと、少しだけ思ってしまった。


 「――――ハア。ハア。ねえ、ミツル。少しだけお話をしても良いかしら?」


 勢いよくリビングの扉が開かれ汗を掻いたテリサが肩で息をして顔を俯かせながら尋ねられた。

 よし、寝よう。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ