表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/42

シャルの不機嫌

 「…悪いって。もう二度とやらないから」

 「…謝って」

 「ごめんなさい」


 先程の一件でシャルが不機嫌になりソッポを向いて口をきいてくれないのを必死に宥めると、俺を一瞥した一言に反射的に謝罪の言葉が喉の奥から出てきた。

 謝ればシャルも許してくれたのか俺の方を向き直る。


 「女の子が嫌だって言ってるのにしつこいのは駄目」

 「はい」

 「だけど…ミツルだから許してあげる」

 「あ、ありがと」


 ミツルだからという言葉が無性に照れくさくて一瞬だけ言葉に詰まるが、お礼を言えばシャルも自分で言っておきながら恥ずかしいのか若干頬を朱色に変えている。

 …シャルは余り表情が分からないと思い込んでいたがコロコロと変わるから、もしかしたら誰よりも分かりやすいのかもしれない。


 「それで、ミツルは何処に行くの?」

 「それは…お楽しみだ。取り敢えず必要な物があるんだが…どうするか」


 まずは一度試したいので買い物をして少し森の方に行くべきか?


 「何に迷ってるの?」

 「一つだけ気がかりなのが小さな棒的なのは無いか?中心部に穴が開いているのが欲しいんだが」


 一番便利なのはストローだが出掛ける前に探したが見つからなかったので他の物で代用したいのでシャルに尋ねてみる。

 シャルは少し目を上にあげ、


 「…吹き矢みたいなもの?」

 「そう。そんな感じの丸い筒状の物でなるべくは小さいものが良い」


 知識では大丈夫だとは思うがなるべくは小さい方が良いだろう。


 「それなら、露店で売ってる」

 「よし、それを買って…後はあれと…あれが欲しいがそれは大丈夫か」


 段々と頭の中で思い描いているのが実現可能になってきた。

 きっと、俺が思い描いているのは日本ではできない異世界だからこそ出来る品物になる筈だ。


 「何をするの?」

 「まあ、作ってみてからのお楽しみだ」


 ここで力説して、いざ作ってみようと考えて出来ないと赤っ恥を掻いて俺は当分の間は自室で引き籠ることになるのでまずは材料集めてと自分で作ってから説明しよう。


 ◇


 「――出来た」

 「凄い。本当に凄いと思うわミツル」


 シャルと共に結構な時間を掛けて材料を探して、適当な路地裏で簡単な工作をして作り上げる最中に、何度か失敗を繰り返しながらも成功することが出来た。

 何度も作る最中にシャルも驚いた表情を浮かべたり、じっと見つめて興味津々な様子で作り上げたものに一緒に達成感を味わって手を合わせる。


 「もう一度作って」

 「ああ。これは量産するべきだ」


 何度も作ったので既に工程は俺の中で把握している。

 用意しているのはテープ、吹き矢より若干小さい筒状の穴が開いた棒、トンカチと、異世界では電機などの仕組みは無く、輝石と呼ばれている光輝く石を使用して街灯やランプを作り上げているのだが、その原材料である輝石も必要だ。


 「【軟:球体】」


 一番重要な球体を生成して地面に置いて、テープを貼り付ける。

 そこに筒状の棒を刺すと、本来なら球体は破裂する筈が…そのまま棒が球体の中に入るのだ。


 「何度見ても凄い。何で破裂しないの?屋敷では投げただけで破裂したのに」

 「俺も原理は知らないんだが…知識として覚えてたんだ」


 小学生の頃の自由研究で風船にセロハンテープを貼り付けてその上に針を刺すと割れないという実験を行ったのを思い出したのだ。

 今回の新しい魔法である【軟:球体】は風船に似て割れやすいが風船と同じことができるのではないか?と思い至って行えば大丈夫だった。


 しかし、一回目の失敗でここで棒には穴が開いているので直ぐに空気が抜けて萎んで失敗したのを経験して、光り輝く原材料である輝石は川の中にある石の大きいのと変わらないサイズだが、意外と柔らかい性質を持ち合わせているので、トンカチで細かく砕いた輝石を何個か棒に入れて穴から空気が抜けださないように上の方を抑えながら輝石が球体の中に落ちるのを待つ。


 筒状の穴から輝石が球体の中に落ちるのを見てからがポイントで、直ぐに棒の穴を手で塞いで空気が漏れ出さないように抑える。

 …ここからが難所で何度も奮闘したのだが、筒を抜くのだがその後に直ぐにテープで止めなければ、空気が抜けて小さくなるのだ。

 最後の工程で何度も失敗したが一度目の成功を思い出して、シャルから用意してもらったテープを手に付けて棒を外す準備を行う。


 「…頑張って」


 シャルも何度も失敗している所を見ているのか凝視して応援の言葉を掛けるので一度深呼吸をして心を落ち着かせる。


 「よし」


 棒を外すと同時にテープを貼り付けて空気が抜けないようにしっかりと固定すれば――完成だ。


 「出来た!これで完璧だ!」


 二度目が成功出来たので偶然ではなく、絶対に出来ると言う確証は持てたし…後は試しに使用したいが…セリーヌに当てるのは確定だが…その前に何かで試したいな。


 「おめでとう。だけど、ランプにでも使うの?」

 「いや、これは戦闘用だ」

 「戦闘用?」


 シャルは余り分からないのか首を傾げているので、折角手伝ってもらったのでシャルの前でお披露目もしたいな。

 街中で使っても意味は殆ど無いし、用途が掴めないと思うので…何か良い試し物が…あ、そう言えば良い所があるな。


 「シャル、今からデートしないか?」

 「え、ええと、は、はい」


 アイミの様に戸惑った様子を浮かべたシャルだったが全力で首を縦に振る姿を見れば了承を得れたので早速出かけることにしよう。


 「シャン実の森に向かうけど良いか?」

 「うん」


 了承を得れたのでシャルと共にシャン実の森に繋がる荒野を歩くのだが気持ちが高ぶって仕方がない。

 この気持ちはきっと色んな人が分かる気がするぞ。

 最新のゲーム機を手に持っているが欲しいゲームをようやくネットで買うことが出来て、到着前から玄関前で待っているのと同じ気持ちになっている。

 目の前に強くなる確証を得れるであろう球体があるので早く試してみたい。


 「シャン実の森で何をするの?」

 「それは行ってからのお楽しみだ」


 今すぐシャルに新しい球体の力を教えたい欲求もあるが、教えてしまえば後々の凄さや驚きに欠けるので楽しみに待ってもらおう。

 焦らせて悪いとは思うがやはり手伝ってもらったのでその凄さを目の前で体感してもらいたいのだ。


 「…着いたな」


 興奮が止まらない。

 以前はゴブリンと戦うのかと憂鬱な気分を隠して悪い意味で心臓が飛び跳ねていたが、今回は最高な気分でシャルもいて安心感もあって、贈って貰った剣もある。

 球体魔法の新しい実力も発揮できると良い事尽くしで、興奮が収まらず頬を高揚させてシャン実の森に入っていく。


 前回、テリサと出会って中途半端な形で終わったがバウンドベアを討伐する為にここまで来たんだ。

 アイミに聞いた情報では森の中で隠れていれば一日に三体以上は必ず遭遇すると言われる程にバウンドベアの数は多いと聞かされていたのでシャン実の森に入り、草原の中を歩き丁度全体を見渡せながらも隠れることが出来るベストな所を見つけたので、シャルを手招きして座ってもらう。


 「さあて、ここなら誰も来ないし丁度良いな」

 「え」


 一応誰かに見られても良いのだが戦闘中に万が一にも近くにいて被害に遭えば危険な可能性も考慮して誰とも戦っていないバウンドベアを待つのが最善の答えだ。


 「あー、興奮してきた」

 「!?」


 武者震いが起きて全身が震えるのを感じながら早く魔物が来ないのかとうずうずして来る。

 もしかしたら俺一人でも討伐できるかもしれない可能性を孕んでいるのだから…憧れていた冒険者に近づけると言うものだ。

 体が熱を感じるのを体感しながら、うずうずしてバウンドベアが来るのを待つが何故か…シャルがこちらを目を見開いて見つめている。


 「どうした?」

 「み、ミツル…私はまだ覚悟が…」

 「珍しいな。何時もはそんな感じしないんだが」

 「…い、何時もとは状況が違う」


 シャルも魔物と戦う時に覚悟を決めて挑んでいるんだろうか。

 既に二回だが戦闘を経験しているがシャルが焦りや緊張している姿は見えないが、命を懸けているのだから覚悟をするのは当たり前か。


 「大丈夫だ」

 「で、でも…順序が…早い…気がする」


 そうなのだろうか?

 先にゴブリンで試すべきか?

 いや、しかし二人で範囲攻撃も無いし俺の球体の大きさも考えれば個体の方がまだ安全だと思うのは、まだ俺が冒険者としての経験の浅さが露呈しているのかもしれないが、ここまで来たし丁度クエストでもあるので達成して損は無い筈だ。


 「そ、それに私達はまだ出会って…日も短いし」

 「何言ってんだ?短い期間でも十分シャルの事は分かってるぞ」


 珍しい光景でもある。

 何時もは逞しく、勇ましい姿を見せるシャルだがセリーヌやアイミがいないと弱気になるタイプなのか?

 この短い期間でも十二分にシャルの実力は理解しているし魔王軍幹部のゴーレムにも勝てるので不安になる材料は少ないと思うが…シャルも一人の女の子って事だな。

 だけど…頬を朱色に変えているのは何故だ?


 別に恥ずかしがることでもないだろうし……もしかして、


 「ははん?さては、シャン実の森に来る前から何をするか想像ついて興奮してたか?」

 「!?…ち、違うから!!」

 「ばっ!?声が大きい」


 悪戯っ子の様な笑みを浮かべてシャルに尋ねれば思いがけない大声の反論が聞こえて慌ててシャルの口を塞ぐ。

 …危うくバウンドべアが声に驚いて逃げる所だったかもしれない。

 冷や汗を掻いて腕で拭うが…やはりシャルの顔が先程の数倍赤いということは図星を突かれたのだろう。

 ゆっくりシャルの口から手を離して、座り直す。


 シャルは若干戦闘好きな所はあるし、最初からバウンドベアと戦うことを理解して俺と同じで興奮してたんだな。

 戦闘狂気質を持ち合わせているのを隠したくてモジモジしたり、オドオドしていたと思えば先程までの行動に全て繋がる。


 「別に隠すことないだろ?」

 「ち、違う。本当に…全然覚悟なんてしてなかった…のに」


 …まあ、シャルも年頃の女の子で戦闘大好きだとは思われたくはないのかもしれない。

 若干潤んだ眼で見てくる姿を見れば…余り戦闘狂や戦闘好きとは思って欲しくないのだと女心を分かっている俺には理解出来るぞ。


 「分かったよ。覚悟は決まってないかもしれないけど俺に任せろ」

 「……分かった」

 「もう少し待ってくれ」

 「うん」


 ここまで来ればシャルの言葉に同意すれば良い。

 今回は新しい球体魔法で相手を翻弄できるはずなので…初めて俺に任せろとか言えた!

 言ってみたかったんだよな。


 俺に任せて先に行けとか、最高に勇者っぽい台詞を言うことが出来るとは鳥肌が立ってきた。

 早くバウンドべアが来いと念じていると…隣で足を抱えて蹲るシャルがチラチラと見つめてくるのだが…どうしたんだろうか?

 先程の俺が悪戯心が芽生えて伝えたことを気にしている可能性もある。

 …何だかんだで可愛らしい一面もあるもんだ。


 「…ん?」


 シャルの可愛らしい一面に微笑を浮かべていると、何かが草むらに当たる音が聞こえて顔を上げれば、バウンドベアと外見が一致する魔物が見える位置で歩いている。

 四足歩行で耳を付けているが、遠目でも凶暴な爪、牙が隠れているのだと分かり生唾を飲み込み緊張を抑えて、一度深呼吸をする。


 「良し!シャル」

 「う、うん。良いよ!きて!」

 「は?何してんだ?」


 何故かシャルが頬を真っ赤に染めて両手を広げて意味の分からないことを口走っているが、来てじゃなくて俺達が行かないで来るわけがないだろう?


 「え」

 「いいから早く!バウンドベアが逃げるぞ!」

 「…バウンド…ベア?」


 シャルが放心して固まっているのを見て慌てて手を引いてバウンドベアに近づいて行く。

 耳が良いのか、バウンドベアが俺達に勘付いて振り向いたがここから――――俺の見せ場だ!

 新しい球体魔法の底力を見せてやる。


 「食らえや!!【閃光弾】!!」


 【軟:球体】改め、【閃光弾】をバウンドベアの顔面目掛けて投げつければ勢いで閃光弾が破裂し、目の前で眩い光がバウンドベアを襲う。


 「ガアア!?」

 「よし!今だシャル!」


 呻き声を上げ、悶えるバウンドベアを見てシャルに合図を送る。


 「え、あ、うん」


 先程から戸惑った様子を見せるシャルが加速してバウンドベアを横に一閃して倒す。


 「おお!流石シャル!……?シャル?」


 少し遠い所でもバウンドベアを倒したのが分かり歓喜の声を上げるが、剣を収め近づいてくるシャルの雰囲気が…いつもと違うような……。


 「……覚悟を決めたのに」

 「シャルさん?」


 何故か顔を俯かせているシャルがブツブツと小言を呟いている気がするが…嫌な予感がするのは俺だけか?


 「恥ずかしくても…抱かれる覚悟を決めたのに」

 「…おーい。シャルさん?」


 徐々に近づいてくるシャルから解き放たれる不穏なオーラに無意識に半歩下がってしまうが、それ以上動くと死ぬ気がして動けない。

 何で怒ってるの!?

 全然分からないんだけど!?


 迫る恐怖を前に冷や汗をダラダラと流しながらも…覚悟を決めるしかない。


 「分からないけどごめんなさい!!」

 「馬鹿ミツル!!」

 「ギャアアアアアア!!」


 謝罪も空しく…絶叫を上げる事しか出来なかった。 


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 鈍感な主人公が紛らわしいことを言うとこういう誤解が起きるのがお約束(◜ᴗ◝ ) まぁ森でそういうことするって想像に至るシャルもなかなか想像力豊かではあるけどもw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ