少年と先生
とあるカフェ。珈琲の匂いと喧騒だけの場所に僕は今日も呼び出されている。サヤちゃんは自慢出来る程美人の彼女。性格もいいし悪い噂も聞かない。今の時代、表は清楚ぶっていても裏では悪口や悪行の数々なんてのは良くあることだと親友は言っていたけれど。サヤちゃんは例外のようだ。
少し前までデートに行くのだって少し恥ずかしくて、学友に見られるのが嫌で少し遠出をしたりしていたけれど最近ではそれも面倒になりつつある。もっと言えばサヤちゃんとのこの関係も少し面倒だ。サヤちゃんはさっき言った通り非の打ち所の無い完璧美少女だけれどそれだけなのだ。
刺激が無いと言うのはつまらない。僕は昔からそういった心の刺激に飢えていた。心躍る映画は今でも忘れないし、ゲーム、スポーツ、その他行事等、興奮する出来事は数多くあったしどれも凄かった。けれど最近はそれがない。それだけの事、前までの生活のはずなのに心が何かを訴えかけてくる。
だからこそ、僕は彼の言葉に少し期待した。
「相席いいかな?」
「え………」
「あぁ、ごめん。嫌ならいいんだ、待ち合わせでしょ?」
「い、いえ!僕が早く着いちゃったから涼んでたんです。本当はあそこで待ち合わせで」
テーブル席から見える駅前の噴水を指さす。水の音が少しだけ涼しげだがその手前には陽炎が、見てるだけでも汗が出てくる。
「ど、どうぞ」
「ほんとかい?ありがとう少年!」
声は男の人、だが髪型は男っぽくない。長い前髪は僕から見て左半分が隠れているし、反対側は耳にかけピアスなんかは多分女性物だ。短めのポニーテールで色は僕と同じ黒。肌綺麗だし爪もピカピカしてる。最近テレビでも美意識の高い男の人よく見るし気にした方がいいのかな。
「誰と待ち合わせ?」
「え、えと…彼女です」
手早くアイスコーヒーを注文するとそのお兄さんは僕に声をなげかけた。正直に言おう、このお兄さんはめちゃくちゃイケメンだ。男の僕でも憧れてしまうくらい。大人な雰囲気も相まって緊張してしまう。
「彼女!いいね、私はもう長く居ないなぁ。君、高校生?」
「はい、高校2年です」
「そっかそっか高校生カップルかぁ絵になるね」
「彼女の方はそうかもですけど僕はそんなにですよ」
「ははは、確かに」
むっ、そこはお世辞でも否定してろよ。いくら爽やかスマイルで誤魔化しても、流石に傷つく。
「あぁごめんね、冗談だよじょーだん。彼女の写真とかあるの?」
「えっと、こないだ一緒に撮ったやつなら」
スマホの写真フォルダから先日のデートの写真を見せる。少し身を乗り出したお兄さんはとてもいい匂いがした。
「うわ、ホントに美少女だ。良く射止めたね」
「本当に、なんで僕なんかに告白してくれたんだろう」
「でもなんかあれだね、つまんなそう」
ドクン、心臓が跳ねる音がした。彼女を馬鹿にされたからでは無く、さっきの思考を読まれていたかのような不信感がそうさせた。
「ごめんね、気を悪くしないで欲しい。昔からなんだ思った事がついポロッとね」
「いや、良いんです。実は僕も同じこと思ってて」
「君、見かけによらずサディストだったしするのかい?」
「そんなんじゃないんです。ただ、いつも心躍る事を求めているんです。何でもいいから僕の心を満足させてやりたいんです」
始めて本音を語るのが初対面の名前の知らないお兄さんと言う、訳の分からない展開に内心戸惑いつつも。1度吐露した感情は止められない。
どうしよう、引かれたかな。気持ち悪がられたりしたかな…?恐る恐る顔を上げる。
「うーん、まぁ1番手っ取り早い方法でいえば1発ヤる事なんだろうけど」
「ヤッ……?!」
「君、ゴムは持ってる?そう言うの気遣え無いと嫌われるよ?」
「い、いやいやいや!僕達まだ高校生ですよ!」
「そうかい?私は違うけど、親友は高一で捨てたって言ってたな」
「えぇ………」
顔を真っ赤にして言葉を投げるものの、子供っぽい返事しか出来ない自分がもどかしい。それに、お兄さんは何故か僕の話にとても親身になってくれる。今だって顎に手を当てた本気で考えてくれている。
「まぁ、雰囲気とかもあるし難しいか。うーん…弱ったな」
「まぁそのうち解決出来そうですし」
「そうかな?」
「え?」
「もしかしたらこの先1度も君の心を満足させる出来事が起こらないかもしれない」
「そんなこと…」
「無いとは言いきれないだろ?少年」
お兄さんの真面目な表情と、少し低くなった声音が僕の背中を寒くさせる。もしそんな風になったら僕はこれから死んだ様な目をして生きて行くのか?そして、そのうちどうにかなるってその都度言い聞かせるのか?それ以外の方法を知らないから。
「怖いかい?」
「怖い、ですね。とっても」
「なら動かないと…だろ?」
「……………」
「大切なのはその欲求にどう立ち向かうかだ。満たされるかどうかじゃない」
お兄さんの言葉はどこか説得力があって、引き寄せられるものを感じた。
「自分だけは自分に優しくあるべきだと私は思うよ」
お兄さんは僕の目を真っ直ぐに見つめて教えてくれた。人生の先輩としての助言を。僕にはまだその真意は分からないけれど、そのうち分かるだろう。僕が立ち向かい続ければ。そんな風に考えられるような気がする。
「あ!ダ・ヴィンチ先生!またこんな所で油売って!」
「おや、見つかってしまったか」
「先生?」
「私はね小説家なんだ、ありがとう少年、いい暇潰しになった。これは私からのお礼だ」
伝票を僕の分まで掴むとダ・ヴィンチ先生と呼ばれたお兄さんはスーツ姿のおじさんと肩を組みながら歩いていった。僕はしばらく固まった後、噴水にサヤちゃんの姿を見て歩き出す。
その日から、歩く速度が少しだけ早くなった。
最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。
こんな感じの短いお話を勉強の為に書いて行こうと思っております。