8.始まるのは学園生活だそうです③
あーぁ…
残念だよ、残念すぎる。
もしも、変態野郎が空からの指示だって偽ってるクズなら暴れておしまいにすれば良い。しかしだよ…本物ならそうするわけにもいかず。面白くないなぁ。
これじゃあ、暴れられないじゃないか。暴れたい。暴れスッキリしたい年頃だよ、桜花さんは。
「敵ではないっていうにはまだ短絡的だろう。」
ユキは腕を組み、思案顔で前を向いたまま、言ってくる。
いやいや、ユキ。そうは言うけどね。
確かに敵じゃないって判断するには曖昧だけれども、敵だと断定もできない状況だ。安易に攻撃するわけにはいかない。
その事実があるわけだよ。
「言えてらァ。どうにも、あの変態野郎を信用できねェや。」
お兄さんはスッと眼を細めて変態野郎を睥睨しながら、忌々しげにつぶやいた。
他の子たちも何も言わないが、雰囲気からしてお兄さんに同意らしい。
まぁ確かに変態野郎は信用はできる見た目をしていない。
お兄さんのそれは変態野郎がとにかく嫌いなだけってとこもある気もしなくはないけど。
「とはいえ。嘘であるとも言えないからね。確かに空には戦闘員を育てるための学園を保持しているって話はあるんだよなぁ。空が選んだ奴らだけが通う学園だったか。噂話かと思ったんだがなぁ………阿部?次に変態野郎を攻撃する時は私は敵になる。」
とりあえず、喧嘩できそうなのはヤンキーくんだけだし。このモヤモヤする状況下はイラっとくる。身体を動かしてスッキリしたい。
ヤンキーくんに八つ当たりするかなぁ。ヤンキーくんは扱いやすいお馬鹿キャラって感じがするし、それなら変態野郎に喧嘩売るだろうし。
ちょいと身体を動かしたい。
てなわけで。
喧嘩とかなれてそうで、血の気が多そうなヤンキーくんを焚きつけてみる。ささ、一緒にスッキリしましょうや!
ヤンキーくんはずっとイライラして、いちいち変態に絡んでいる。今は変態がお咎めなしという形で相手をしてくれているから問題はないけどね?
万が一、我らが長である空からの指令で私達の前にいる彼がヤンキーくんにキレたなら。ヤンキーくんが暴れたことによる周りへの被害を変態野郎が抑えきれなかったら。
周りの私たちも危ないわけで。とりあえず、一度大きく爆発させてスッキリさせといたほうが良いはず。暴力で黙らせた方がこの手のタイプは従いやすいんじゃないかな。
私、かしこい!身体も動かせてヤンキーくんも黙らせれるわけさ!一石二鳥なわけです。
さぁいってみよう!
「あぁん?!嘘に決まってんだろうがッ?!」
よし。やはり、この子は頭が弱い様子。あとは身体を動かせる程度に実力があれば良いかな。期待はしてないけど。
頭の弱い子は簡単に動いてくれるから好きだよ、ありがたいよね。このまま喧嘩に持ち込んで身体を動かしませう!
「本当であった場合は?本当だった場合は未来を失うわけだよ?空を敵にまわしたいのー?空の紋を付けて任務に当たるのは少なくとも正隊員である必要がある。つまりは彼、正隊員であるって話だよ?」
単純に喧嘩をするってわけにもいかないし、とりあえず状況を伝える。止めようとはしたよっていう証拠も残しつつ。誘導せねば。慎重に慎重に。
闘魔隊の隊員は正隊員と准隊員とに分けられる。准隊員は試験を突破すれば誰でもなれる。その准隊員の中でも特に能力に優れたものが正隊員となるわけ。
闘魔隊に属すればランク付けされるが、正隊員は戦闘員であれば少なくともAランク以上の実力者たちだ。
准隊員はアルバイト的な存在で張り出される任務を好きな時に受ける。
正隊員は騎士団的な存在。警備だったりとかもすれば上からの指令を受けて動いたりする。正社員だね。
准隊員が働いた分だけお給金をもらうのに対し、正隊員は正社員的にお給金が発生する。
空の紋で動くのは正隊員。つまりはうちらより上の立場なわけなんだ。ここにいるのはみんな、准隊員だし。正社員とアルバイト的な。
変態野郎が嘘を言っていなければ正隊員であり上司なのよな。
「…コイツが本当に非戦闘員だと思うのかよ?」
ヤンキーくんは変態野郎が正隊員であるかもしんない事とか知らなかったんだ?すごい驚いた様子だ。だとはいえ、簡単には信じられない様子。
ま、嘘である可能性も捨てきれないけど。
私は十中八九、嘘はないと思うけどね?ま、根拠はない。おそらくは嘘じゃないだろうって思うだけ。
正隊員でありながら、非戦闘員であるなんて、滅多にない。変態野郎はそんな数少ない人なわけだよ。嘘がなければ、ね。
「嘘はないだろうと思うよ。カンでしかないけどね。…その人が言うことが本当だったなら、私達は空からこの学園で鍛えろという指令を受けたということだよ。上司からの命令なんだし、従う他ないよね。ま、嘘ならば嘘で奴を排除したい。刺し違えようとも、後悔させてやる。」
変態野郎をチラッと見て、笑みを浮かべてヤンキーくんに返答する。
「何でお前はそんな過激なんだよ…チッ。何か分かったらすぐに叩き潰してやる。」
私の顔を見て、ヤンキーくんは息を呑んだ。て、私はそんなやばい顔してる?
いや、笑っただけだから、私にビビったなんてないか。まだ何もしてないし。
とはいえ、残念。ヤンキーくんが大人しくなった。
仕方ない。暴れられないのは不服ではあるけど、話を進めるか。
「ふふ。それで良いんじゃない?さ、マリ?とりあえず、自己紹介するのが、妥当なんだし、しちゃお?」
とりあえず、マリに声をかける。
周りの会話を眉間にシワを寄せた表情のまま見ていたマリ。ちらりと不服げに私に視線をよこしてくる。
「………御崎真里よ。つくも武器を持っているわ。ランクはF。」
ムスッとした様子でマリは言う。納得しきれないって顔してるね。
マリはふんわりとした茶色の肩まである髪に猫のようなクリッとした目が特徴的だ。可愛らしい顔の作りをしているんだけど、どこか気の強そうな印象を受ける子だ。
あれだあれ、悪役令嬢とかが似合いそうな顔立ち。素直でツンデレだからヒロインに可愛がられる系悪役令嬢だね。
マリは私の前の席に座っている。私は窓側の一番後ろ、前から4番目の席。マリは前から3番目。
「そのメリケンサックが御崎様の武器でございます。さすがはふみつけられたい女性ランキング第一位の御崎様と言うべき武器にございますね。」
マリの自己紹介に付け加えるように、ふふふと笑いながら変態野郎は楽しそうに話しだした。
何のランキングだよ、それ。投票したやつら連れてこいよ、殴ってやるから。
「うるさいわね。皮はぐわよ??……そうよ、これが私の武器よ。何か文句ある?」
マリは鬼のような形相で変態野郎を睨みつけると低い声を出した。喧嘩腰で武器を掲げる姿もなかなかに迫力がある。
マリを見て1番に目につくのは腰に括られたメリケンサックなんだよね。いや、一目でメリケンサックって判断できないよな、あれ。
何か、猫のでっかいキーホルダーみたいに見えるんだ。
手にはめる部分があって、それをはめてみれば拳を猫の顔が覆う。うん、拳を痛めずに済むが、攻撃を受けた方は猫型のアザができそうな武器だ。
ふざけて作ったのかって思われちゃうような武器。たまにそういう武器があったりするんだよね。製作者はどんな意図で作ったんだろう?って感じの武器。
そんな変わり種な武器ばかりをつくる人を私は知っている。
有心武器となるほどに強い思いで作り出したものがハタから見たらふざけた武器だなんて。予想のできない物語がそこにあったりするから面白いんだよね。
それもあるから、武器屋を見て回るのって面白い。
マリの武器みたいな武器に見えない変わり種だからって強力な武器でないわけではない。見た目がかっこいい勇者の剣って感じの武器でもたいして価値のない武器もある。見た目じゃ判断つかんのも武器の奥深いとこって――話が脱線したな。
「キャッ、私、ピンチでございますね。ささ、次の方、元気に自己紹介いたしましょう。」
鬼のような形相のマリを茶化すように言うと、変態野郎は自己紹介の続きを促した。
その変態野郎の言葉にマリの前の席に座っていた子が元気よく立ち上がった。そして、皆をぐるーりと見渡すと笑顔を浮かべて口を開いた。