73.素手でつかんではいけません
魔物に喰われるという死に方をするだなんて、たまったもんじゃない。エグい遺体になりたいという願望など持ち合わせない。
自分がそのような死に方をするのも、自分の目の届く範囲でそのような死に方を発見するのも嫌だとマリは思う。
「いやいや、死ぬ覚悟じゃなくてね?こんなのにやられないための力をつけるって言うのと、やられちゃった子達を見て錯乱しない覚悟ね?やられちゃったんだって事、報告しなきゃだし。遺体があったかければ、まだそばに魔物がいるから要注意〜。」
ミイラ取りがミイラになっても笑えないー。桜花は肩をすくめつつ、軽いノリで言った。
確かにいきなり、グロテスクな遺体に遭遇したらパニックになりそうねとマリを含め、一同は眉を潜めたり、顔を青ざめさせたりし、それぞれリアクションしていた。
そんな中。
「……連れ帰るのは難しいよな?」
真剣な顔をし、死んでいった者について考える者がいた。
阿部っちである。
グロテスクな遺体を思い浮かべて顔を青ざめたりするではなく、遺体を想って、言葉を口にする。
「遺体の話?素材となる魔物同様の方法で持って帰れるよ?荷物が増えるリスクはあるけど、カバンとか術式使って持って帰れば良い。一応、情報料が出る。遺体があってもなくても情報料の値段は同じなんだよねぇ。記録機器とか使って、発見場所の記録だけして帰ることもできるわけだよ。」
なくても良いならば。
連れて帰ってこないと選択する者もいる。様々な理由で。
自分の安全確保が第一であるため、やむを得ないことではある。
「それでも、帰ってきてほしいだろ。」
阿部は言う。
どこまでも心優しいことだ。連れて帰ってやりたい。そう言う阿部は優しい。確かに自分も帰れるものなら帰りたいし、家族にだって帰ってきて欲しい。
だが、それが叶わぬ時もあることもマリにだって分かる。
だからこそ、連れて帰ってやろうと真っ直ぐに考える阿部が眩しいような気もする。自分だって連れ帰りたいと思うが、ここまで真っ直ぐに宣言する度胸はない。
「阿部ったら優しいねぇ〜、と。気ぃ抜いたらダメだよ?」
話中に桜花はふと阿部の近くの空中を手でガシッと掴んだ。
何かがそこにいたらしい。桜花がなんて事もなく何かを掴んだことで、皆がその存在を認識する。
姿をあらわすのは今まさに話題にしていた蜥蜴だった。どうやら他の個体も近くにいたらしい。毒を持つという魔物。
掴まれ、姿を露にした蜥蜴は敵意剥き出して桜花を威嚇していた。
が。
チビが唸り声をあげると動きを止める。チビは荒々しく、桜花の手の中にいる蜥蜴を見るが、桜花が持っているからか、攻撃はせず、チラチラっと桜花に視線をむけていた。
さっさと捨てろと言わんばかりに視線を向けている。にゅいっと、自分の前の地面を叩くのは、自分に寄越せという意思表示だろう。
「何で蜥蜴、素手で掴むの?!」
「おぃ?!毒あるんだろ?!」
「桜花ちゃん!?」
先ほどの説明を聞いたのだ。
素手で掴むなんて大胆な行動に出た桜花に皆が声を上げる。
たとえ、動きを止めたとしても毒持ちの魔物だ。
大胆に手掴みにするようなものではない。火をつけた爆弾を無防備に持ち続けるようなものだ。
「え?あ、大丈夫だよ?手にちゃんと術式コーティングしてるから、毒体内に入ってない。多少、手に擦り傷負っちゃうことあっても、所詮、蜥蜴の毒じゃあなぁ。私にゃ有効じゃないね。」
みんなの反応に桜花は目を丸くしている。
桜花にとってはどうって事なくとも、ほかにとっては違う。まったくもって違うわけである。
"私にゃ"とはどういう意味か。毒に強い何かがあるのか。
「大丈夫だとしても、心臓に悪いから。それも、燃やすよ。」
何が大丈夫なのか理解できない。本人がたとえそう思っていたとしても心臓に悪すぎる。
眉を潜めた悠真はキッと桜花を睨むように見つつ言った。
「えー…怒らないでよ?それに毒にやられても、単独で動いていない今は、そこまでの問題にもなり得ないんだしさ。」
怒られた桜花は困ったように眉を下げ、蜥蜴を悠真に渡しつつ言う。
受け取ったそれを燃やしつつ、悠真はさらに桜花に対し、キッと目を吊り上げた。
「問題になり得ないじゃないよね?」
「志貴氏、危ないことはしてはなりませんぞ。」
「まったく、紛らわしいことしないでくれる?!」
「弾けるんだから、弾きなさいよ!!」
反省の色が一切ない桜花にそれぞれが悠真に続いて言うが、桜花はちらりとチビを見ただけだった。
反省のはの字も見られない。
「基本、私の自動防御システムは私への攻撃にしか作動しないからなぁー。私が動かなきゃなんだよー。」
そして、桜花はいけしゃあしゃあと言うのだった。
みんなが言っているのは魔物に対処した事ではなく桜花がとった対処法についてーーーつまりは素手で掴んだ事に対してであるのだが、それを分かったうえで論点をずらすべく桜花は言っているのであろう。
誤魔化す気満々なような気がしてならない。
「桜花さん、手を見せてください。」
桜花の手を掴み、有無を言わさない態度で佳那子は言う。
佳那子も怒っているようだ。
キリッとした表情で、桜花を見上げている。
「怪我してないよ?」
「念のために見せてください。」
桜花が困ったようなリアクションを取っても、珍しく強めに佳那子は言う。
当たり前だ。
あれは桜花が悪い。
しっかり怒られて反省しなさい。そうマリは思う。
「………むぅ。」
「まったく。怪我はありませんが、無防備に触って毒にやられたらどうするんですか?」
佳那子が毅然とした態度で桜花を叱る。
言葉一つ一つに力がこもっており、圧というか、迫力があった。
「解毒して治すかなぁ。治せば元通り!魔物に対してはチビが対処すれば問題なっしー!!」
迫力はあったのだが、言い方を誤ったか。
ニコッと笑って桜花は言った。元通り!などと元気に言い切った。
そうじゃない。
反省して改めて欲しかったと佳那子は思う。ついつい戸惑いを見せてしまった。
「元通りじゃないから。あんた、治せるから怪我して良いとかないわよ??直せるから壊すとか言って武器壊したらぶん殴るわよ?」
桜花の返答に呆れつつ、たじろいだ佳那子に変わり、結弦はギロッと桜花を睨みつけた。
他の面々を呆れたような視線を桜花に送っている。
桜花はみんなの視線など気にせず、有言実行にうつしそうな様子だ。
「武器は大切にしてますぅ〜。時には怪我覚悟での攻撃も必要なのー。」
武器だけでなく己も大事にしろよ。
突っ込みどころ満載な事を桜花は図々しくも堂々と言い切りやがる。
いっぺんぶん殴ってやろうかしらとマリは拳を握る。
「必要ないならば、しないでください。ダメですよ!」
「むぅ……お兄さんや、なぜ私は怒られているのだろう。みんなからのリンチ…イジメ、ダメ絶対。」
明らかに自分に甘い人物に、桜花は助けを求めた。
その人物は桜花に袖を引かれ、苦笑を浮かべていた。
桜花の様子を静かに眺めており、これは何を言っても有効ではないと悟り、その上で口を開く。
「桜花ちゃんが可愛いからつい、いじめたくなるんでぇ。仕方ない話だとは思わないかぃ?」
「えー…思わなーい。傷ついちゃう。泣いちゃーーー泣いたら武器が暴走するからなぁ。ま、何とかなるか。涙くらいなら出せるぜベイベー!」
桜花は明らかにふざけている。
まじめに話を聞いていない。
そんな様子の桜花の話に乗る魁斗も魁斗である。まったく桜花には甘いんだからとマリは眉を顰め、キッと桜花と魁斗を見た。
「ふざけてないで、反省しなさいっ!」
マリが目をつり上げ、桜花を見ても肩を竦めるのみである。
反省の色が一切ない桜花にさらに言葉を重ねようとした、その刹那のことだった。
「あの、何か感じませんか?何か来るような……。」
ふと、樹里が後ろに視線を向けつつ言った。
樹里は落ち着きなく、後ろを何度も何度も振り返っていた。
珍しく、表情を固くし、樹里は落ち着きなく辺りを見渡しソワソワしている。何かが差し迫ってきている気がしてならないためだ。
「え?」
樹里の言葉に各自が周囲の周囲を探る。マリもまた、周りを注意深く見てみるけど、何も変なとこはないように感じられた。
木々が広がる森があるだけ。
先ほど見た蜘蛛もいない。その他、昆虫や爬虫類なども見当たらない。
チュンチュン鳴きつつ飛ぶ鳥がいるくらい。飛び立つ鳥達がいる。何らおかしいとこはない。
「……何かがこっちに向かって来てます…?」
樹里の言葉を受け周りをキョロキョロ見ていた佳那子が自信なさげに言った。
佳那子は自信なさげではあるが、顔を青ざめ、肩を震わせていた。足を止め、気配のする方へとおびえたように視線を向けている。
「しっきー?」
ユキは2人の様子を見て、ただ事じゃないと判断したようだ。
自分自身は気配など分からないが、確実に分かりそうな者、つまりは桜花に視線を向けた。
何が起きているのか問うために。
「ん〜?」
桜花は寝ぼけたような声を出しつつ、チラリと後ろを振り返っただけだった。
さらなる質問を桜花にしようとユキたちが口を開こうとしーーーそれより先に樹里達が声を上げる。
読んでいただき、ありがとうございます^ ^
楽しんでいただけましたでしょうか?
桜が綺麗ですね
同じ土地でも咲き方が異なり、違う姿をしていたりするから、お散歩も楽しく出来ます
梅園も行きましたが、香りも素敵ですね
連れは花より団子で季節限定の桜餅ソフトに釘付けでしたが




