65.遠足の準備をするようですよ②
私が褒めたというのに、なぜだか怒った阿部は何か私に文句を言おうとした。言おうと口を開きかけたわけだよ
んだけどね。
文句を言うことはできなかった。言わせてもらえなかった。
「そうですよね!秋明君は周りのこともしっかり見てて思いやりがあって素敵なんです!!すごく良い子なんですよ、秋明くんは!!!」
私の言葉に対して、好意的な反応を示したのは村くんでした。ホント、村くんって行動が読めないよね。
阿部が表情を歪めたのに対し、村くんは満面の笑みを浮かべて阿部を手放しに褒めはじめた。本当に嬉しそうに話す。
まるで初孫が今まさに歩き出したんだぜすげぇだろと自慢するおじいちゃんがごとく状況。
そんな村くんに嫌そうに表情を歪めつつ、口を閉じる阿部は居心地が悪そう。思いがけずに褒められ絶賛され不快ではないものの、手放しには喜べない孫って感じだね。
先に文句を言っていたならば、村くんが口を開くことはなかったんだけど。先に口を開いたのは村くんだったからね。
阿部は口を閉じざるを得なかったわけだ。どんまい。うんうん、褒められている手前、孫側は文句も言えないよね。悲しきかな悲しきかな。
「………チィッ!」
あらあら。哀れね、哀れよね。
舌打ちして阿部ったら、黙っちゃった。村くんには悪意がないからこそ、無碍には出来ないわけだ。
阿部って凶暴な顔しているけど優しいからね。口調や顔が凶暴なだけなのよね。お優しい友達思いな良い子だから。
何も言えなくなっちゃうわけだね。
私だったら文句も言いたくなるけども。阿部ったら優しいんだから。
「ユキやゆずるんってマジックアイテムある〜?」
よしよし。阿部が黙った隙に話を戻そう。
マジックアイテムが期待できそうな子にあるかどうか確認しとかなきゃ。
「通信機器2つにマジックバック2つがあるのみだ。」
「他は術式耐性のあるナイフくらいね。」
結構持っているようだけど、2人は苦々しい表情をしている。気に入らないって反応だねぇ。
作ってはいるけど、思う通りに作れず、結果に満足出来てないってとこかな?十分作っていると思うけど。
君たち以外はマジックアイテムすら持ってない可能性が高いのだよ?だから、ここに物を取りに来たんだろうし。
だとすれば、やはり十分すぎるくらいに持っていると思えるけど。
「へぇ?作ったの?」
凄いじゃない。
あんだけ、工房にしてる部屋にこもってるだけあって成果ありなのね。
「あぁ。だが、申し訳ない。人数分は準備できていない。」
あぁ、やっぱり。
いつもはゆるふわな雰囲気でにまにま笑みを浮かべているユキだけど、今は表情が消え、眉間にはシワが刻まれている。
悔しい。悔しくてたまらない。そう体現しているね。
必要な物を人数分準備完備しておきたかったが、敵わなかった。クッ!すまない。
そんな感じの感情かな?
いやいや、どれだけ志が高いんかな、君達は。完璧主義者かっ!
「作れるだけでもすごいわよっ!?マジックアイテムって武器師でも作れない人だっているんでしょ?!」
ユキとゆずるんの硬い雰囲気にマリは声を上げるが、2人の雰囲気は変わらない。一切、好転しない。
マリの言うように、武器もマジックアイテムも作れるって優秀なんだから、天狗になったって良いくらいなのにねぇ。
鼻をにょきにょき伸ばして鼻高らかに、自分たちはすげぇんだぜって良い気になってもおかしくはない。
そこを先輩方やら何やらが鼻をきっちり叩き折って現実見せて、良き方角に導くっていうのがお約束のストーリーってもんだろう。
ハナから志高く、自分に厳しくじゃあ天狗になったお馬鹿さんが現実に叩きのめされて涙目になって、俺だって頑張れるんだぞクソッとか言って、頑張って立ち上がって努力するって言う心熱くなる話が期待できたいじゃないか。
いやまぁ、現実の中にそんな漫画的お約束なお話期待はしてないけども。とはいえ、慢心せずに常に自分に厳しく追い込みすぎるのは見ていてハラハラしちゃう。
「だが、必要な分だけ供給できねば意味がない。」
理想が2人の中にはあって、その理想は中々レベルが高いようだねぇ。なんなら高すぎるレベルだねぇ。ブルジュ・ハリファくらい高いねぇ。世界一高いビルと同様、いや、それ以上に高いよ、高すぎるよ。
現状は気に入らないらしい。完璧主義なのかな。中々に苦労する主義をお持ちのようで。その分、成長も見込めるんだろうけど。
「ん〜?作らなきゃって焦りすぎても失敗しないかな?」
現実とのギャップにヤケを起こせば悪循環しか生まない。大丈夫かねぇ。
ついつい心配になっちゃうね?2人の未来に想いを馳せちゃうよ。2人の未来が良き未来になると良いのー。
「失敗ならいっぱいしてるわよ。だからこんなに少ないんでしょ。」
「いや、少なくないわよ!十分すごいじゃない!!」
あらあら。クールビューティなゆずるんが幼子のごとく拗ねたような様子で唇を突き出している。普段とのギャップが何とも可愛らしいけどね。知っている知っている。これがギャップ萌えってやつだ。ギャップ萌え。
マリにすごいと言われてもそれを素直に受け取ることができていない様子。
何で上手くいかないのかしらとつぶやいているあたり、ただただ拗ねるばかりではなく、意識は武器作りあるいはマジックアイテム作りへと向いていのだろう。
数を重ねていくしかないとゆずるんに声をかけているユキも同様だ。ムスッとした顔をしつつも、武器やら何やらについて考えていそう。
どちらもマジックアイテムも作れる優秀な武器師のようだねぇ。まだまだ失敗も多いみたいだけど。失敗しても諦めず次を考え動こうとしている。危うさもあるけど、優秀なのに違いはなさそう。
とはいえ、マジックアイテムを作れるってだけで天才扱いされて、周りからチヤホヤされるんだ。天狗になっていてもおかしくはないというのに奢ることなく、向上心を持つ姿は何ともかっこいい。
んだけども。
やっぱり、危うさもあるねぇ。いやはや…。ま、今何か言ってもどうにもならないか。私は武器師ですらないし。
知り合いの武器師もストイックだしなぁ。
「他は持ってたりーーーしないかぁ。現場で戦い続けたいとか思うならマジックアイテムを持つかした方が良いよー。」
じゃなきゃ、荷物抱えながら戦うってことになる。
荷物が重くて反応遅くなって対応ができませんでしたじゃ、笑えない。荷物下ろしてる間に死ぬなんて笑えない。出来る限り、身体を軽くしときたいよね。
「あるいは強くなって荷物持ちを雇うか。人を賄えるくらいに稼げて、多少足手まといになっても平気なら行ける。ま、圧倒的な力を持ちゃ、なんとかなるんだよねぇ。」
雇えるくらいに稼げる人はたまにそうしている人もいる。
有心武器を持ったがために戦闘員になったけど戦闘力がなくて荷物持ちしか出来ない。なんて人もいるから。そんな人はたまに雇われていたりするんだよね。
マジックアイテムを持ってないなら、買い揃えるか、あるいは強くなって稼ぎまくれるようになって荷物持ちを雇えるようにならないと現実問題、困るんだよね。
荷物に困らされながらの戦闘とか嫌だよね。困る案件は少なくできるなら少なくしたい。
「あまり強くなりすぎるのも、考えものだけどねぇ。いや、強くなりすぎる、ではないかぁ〜。」
ポツリとつぶやく。
ん〜と伸びをする。強くありすぎて、それを周りに示すのは正しくない。力を自覚し、コントロールして、時には隠さなきゃいけない。上手く立ち向かう必要があるわけだよ。
圧倒的に力を持って稼げるようなればアイテムも買えて人も雇えばするんだけどね。
注意すべき敵は魔物だけじゃあない。強ければ強いほど目立つ。矛先は目立つほど増えていく。
「あ?なんでだよ?」
小さく呟いたそれを阿部に拾われた。
意外よねぇ。阿部は意外と話を聞いている。
「あまり強すぎれば恐れが生じる。ほら?勇者は魔王を倒したのちに人によって貶められ、殺されましたちゃんちゃん的な、ね。非戦闘員は戦闘員への恐怖がある。それを表に出すものたちがいる。だから、道を外れる戦闘員が少なからずいるんだよ。」
肩を竦めつつ答えれば、阿部は意味がわからないというかのように顔をしかめてこっちを見てきた。
強ければ稼いでるって思われるから襲われたりするんよな。所詮人間。数人がかり襲えば何とかなるから。襲われてもどうにか出来る実力がなきゃ、身ぐるみ剥がれたりもするんだよね。
非戦闘員もまた、怪物じみた実力を持つ戦闘員へ恐怖を抱き、攻撃性を見せる奴がいる。ソイツらを目の当たりにし、道を踏み間違える戦闘員もいたりして。
あちこちに敵はいるんだよ。いやはや、一寸先は闇な現実だね。怖いね、実に。敵は魔物だけではなく、実は人間のほうがタチが悪く、どこに潜んでいるかも分からない。
隣にいる子が味方だと言い切る自信がなかったりしたりして。いやはや、恐ろしい。
「道を外れる?」
意味が分からない、はっきり分かりやすく言えやコラぁぁあとでも言いたげな態度の阿部。
凶暴顔を歪め、こちらを見ている。
「それって人を襲う組織のことかぃ?」
お兄さんは興味津々だね。私が言ったことも理解したらしい。
頭を傾げ、こちらに興味津々だって言うような視線を向けている。
「そそ。戦闘員にも戦闘力の差がある。あまり強い力を見せれば下の方の子たちに恐れが生じる。例えば阿部にとって空は化け物だ。手も足も出ず、戦う土俵にすらのせてもらえない。」
「悪かったな。」
むくれない、むくれない。分かりやすく例えを出しただけなんだから。阿部を馬鹿にしているわけではないんだよ?
たんに事実を述べているだけ。私にすら敵わない阿部が師匠に敵うはずがない。
読んでいただき、ありがとうございます^_^




