4. 知らない森で魔物に会いました③
知らない場所で知り合ったお兄さんと一緒にあちこち歩いた。一緒に歩きまくりましたよ、はい。
とはいえ、やっぱり得られたものはない。いや、あるにはあるんだけど。何にもないわけではなかった。なかったんだけど、ね。あー……どっちだって話になるな、これ。
得られたものが情報だったら良かったんだけど。いや、役立つものならば良かった。言ったら悪いけど……得られたものはこの状況だとむしろ足を引っ張るかもしれない。
――あぁ、厄介。
だけど、捨てるわけにもいかない。そんなものを得た。いや、物とか言ったらダメか。
私はチラッと得られた収穫を見た。
お兄さんと歩き回ることで得れたのは少年少女だ。
いや、少年少女って言っても同い年なんだけど。2人とも童顔で可愛らしい顔してるから少年少女っていうのが似合うの。似合っちゃうんだよ。
同い年というよりは弟妹ってイメージがしっくりくる。
重そうな銃を背負った少年、ムラくんこと、村山樹里くん。中肉中背な男の子。体力なさそうなのに背中に狙撃銃を持っている。あれは有心武器だね。
少女は稲盛佳那子ちゃん。和装に割烹着を着ている大人しめの印象を受ける女の子。腰にはカバンが巻かれていて、その紐の部分に手榴弾がついている。エプロンのごとく存在する手榴弾。聞いてみたら、自己防衛のために持っているそう。
痴漢防止の催涙スプレーの類か何かなのかな、分からないけど。最近の防犯ってそんな感じなのかな?うん、分からんけど。物騒な世の中だね、まったく。
そんな物騒なものを持っている2人なんだけど、魔物にアタフタ慌てているだけで今にも襲われますって状況に私とお兄さんが出会した。
手も足も出ませんと言う様子で見ているこっちがソワソワしちゃいそうになった。泣きそうな顔でカナちゃんが手榴弾を両手に持ち、あたふたしていた。ムラくんもムラくんでどうしようかなぁって魔物を眺めていた。それをお兄さんが助けたわけ。
その後は4人でいる。お兄さんが主に魔物を倒し、私はムラくんやカナちゃんを守りながらお兄さんの補助をしている。うん、頑張ってます!
サポートって言ってもお兄さんに何気なく身体強化とかかけてみたり、魔物の動きを鈍くしたり。ムラくんやカナちゃんを安全で邪魔にならない場所に誘導したり術式で結界はったりするくらいだけど。
これくらいなら目立つこともないし、お兄さんが頑張って戦って私達はそれを安全なとこで見てるだけって感じになるよね。
ま、何もせずにみてるだけってのもどうかとは思うけど。お兄さんに危険がなければいいかなって…あッ、あれはヤバイかな。
お兄さんが対峙してる魔物、あれ毒があって死ぬ寸前に毒を撒き散らす奴だ。大した距離は撒き散らさないからそこまで危険はない。せいぜい自分の周囲1Mくらい。
とはいえ、皮膚に当たれば肌は爛れて、吸い込めば内側から――…あれは地味に痛いんだよね。ささくれのごとく、地味に痛い。地味に気になる痛さがそこにある!
お兄さん、それを知らないのか――て、危ない!
止めるのは間に合わないからお兄さんを抱きしめるようにして魔物から距離をとらす。が、間に合わないから魔物とお兄さんとの間に自分の身体を差し込むようにした。
――ビチャアッ!!
汚い水がかかっちゃった。それが耳からも分かるような不快な音がした。
とはいえ。うん、よかったよ。ギリギリセーフ。ナイス、桜花さん。頑張っちゃいましたよ偉いね⭐︎
幸いにも毒はお兄さんには当たらなかった。お兄さんは無傷。綺麗な顔やら身体に傷がなくて何よりだ。毒なんかかかってただれたら、見るに耐えない姿になっちゃうからね。
イケメンがそんな姿になるなんて、なしだよナシ!たとえ治せるとしても芸術品的美しさに傷はいかん!許さんのだよ!
お兄さんが無傷なのに満足しながらお兄さんを見れば、いきなり抱きつかれたからなのか、目を白黒させてはいた。
て、あれ?
ちょっと待って?
魔物と戦っていて、よし倒せたって瞬間にいきなり魔物と自分の間に身体を差し込むようにしつつ抱きついてくる、というか、抱き倒してきた。
それって私は変態になってないか?勘違いされたりしないか?
お兄さん、イケメンだし。下心満載って感じに勘違いされたら、私、変な子認定されちゃわない?お兄さんに引かれるのはちょい嫌だよねぇ?
てか、下心ありきの変態って思われるのは勘弁だよね。
「大丈夫、お兄さん?あの魔物は毒を持つから気をつけないと!」
とりあえず、魔物が撒き散らしたものが毒だって伝えないと。毒だって分かれば私が下心持って行動したとか思わないはず。
こうやって何気なく伝えれば良いよね。ふふ、私、天才!さすがだねって褒めてくれても良いよ!
「……お、おう。俺ぁ大丈夫でェ。けど、桜花ちゃん、腕…。」
お兄さんは私の腕を戸惑った様子で見ている。
ん?あぁ、優しいお兄さんは変態的行動だと思って目を丸くしてたんじゃなく、私の怪我を気にしてたんだね。やっさしー!
お兄さんは無事なんだけど、私の腕に毒がかかっちゃったんだよね。間に合わなくて、てへ。とはいえ、少し爛れただけだし、すぐ治るから大丈夫。
魔物に対抗するために生み出されたのは武器だけではなくて、術式もまた、魔物を倒すべく生み出された戦う術なのよね。
魔力って呼ばれる力を私達人間は全員が持っているの。人は大なり小なり魔力があるのね。それを操って術式と呼ばれるものを発動させる。
簡単に言えば魔法が使えるようになりました⭐︎魔法のことを術式って呼んでます⭐︎って感じかな。きゃ、これで私も魔法少女⭐︎あ、うん、ないな。ないない。
術式を操る能力が高ければ高いほど、自己治癒能力も高い。早よ治るのね。
だから、私は非戦闘員が負ったら致命的な傷でも生還できたり、比べ物にならない速度で傷が治ったりする。
だから、これくらいの傷はどうってことはないかな。傷を見慣れていない人にとってはキツいかもだけど、かすり傷だ。
「ん?あぁ、ちょっと当たったけど、かすり傷だから大丈夫!お兄さんは当たってないね?」
「かすり傷って怪我じゃあないだろ。」
お兄さんはまるで自分が怪我したかのように痛そうな顔をしている。
感受性豊かなのかもしれない。それは酷いことをしたね。傷、隠すべきだったか。見えないようにしてあげなきゃダメだったか。
「あの、私、手当てしますっ!」
タタタタッとカナちゃんが駆け寄ってくる。
村くんも心配そうにカナちゃんの後ろからやってきた。
カナちゃんは私のもとまでくると、カバンから治療道具を取り出すと、術式を使用しつつ、応急処置をしはじめる。
「かすり傷だから大丈夫だよ?あっちから魔物も来ているようだし。」
これくらい本当に良いのにな。
魔物がこちらに向かってきているのが見える。治療は後でいいと思うんだよね。
「アイツらは毒はあるかィ?」
お兄さんは魔物達に視線をやりつつ、聞いてきた。
「え?ないよ。あれは普通に倒せば大丈夫。」
「了解。じゃあ、俺ぁアイツらを倒してくっから、お前さんたちはここで手当てしててくんな。魔物は通さねぇから大丈夫でェ。」
わぁ。魔物に向かって走っていくお兄さん、やっぱり良い男だねぇ。
私の治療のために向かって行ってくれたわけだろ?マジでイケメンだよ。
魔物に向かっていくお兄さんはかっこいいね。本当、えらい。私のためってなるとときめいちゃうじゃないの。
よしよし、じゃあ私もお兄さんに身体強化をかけて。防御の術もプラスしちゃおう。これで動きやすいし、怪我もしにくい。魔物達には重量2倍の術式をかけておいて。
よしよし。
何気なくやってもいるから、これくらいの術式なら目立たないはず。もしかしたら、私が術式を使っているのも気付いてないかもしれない。
何気なく術式を使って気づかれないようにサポート。うんうん、私ってスマートにサポート出来てて凄いよね。ひゃ、かっこいー!
――て、あれ?
魔物を倒し終えてこっちに向かって来るお兄さんはなんとも言えない渋い顔をしている。呆れたような視線?
どうしたんだろ?私が術式を使ったのがバレた?いや、でもそれなら呆れる理由はないし。目立たない程度のサポートしかしてないはずだから気づかないだろうし。
何かあったのかな?
「俺を庇って怪我したんでェ。無理してねェで、おとなしく待ってろって話でェ。守るつもりが守られるってかっこわりぃじゃねェか。これじゃあ何も変わっちゃいねェ。」
ん?何かつぶやいた?小さな声すぎて聞き取れない。
「何でもない。手当ては終わったかィ?」
頭を傾げてお兄さんをみればお兄さんはふっと笑みを浮かべて、傷の方へと視線を向ける。
「はい!応急処置ですが。」
先程負った傷はきっちり、カナちゃんによって手当てしていただきましたとも。
手際の良さをみると、カナちゃんは戦闘力ではなく治療専門で闘魔隊に所属しているのかな。戦えそうにはないし。
「ありがとうね、カナちゃん。て、あ。お兄さん、後ろ。」
「大丈夫でェ。」
お兄さんは襲いくる魔物にチラッと視線を向けたのみで、番傘を使って魔物をなぎ倒した。
おおう。魔物を倒す仕草も様になっていてかっこいい!
「さすがはお兄さん!女の子がほっとかないかっこよさだねぇ。」
「そりゃあ、ありがとさん。桜花ちゃんのがかっこよくて可愛いがな。」
やばい。このお兄さん、ヤバイよ!!
自然な動作で頭を撫でつつ、微笑んで、んで褒めるとか!!天然の女たらしだね、これは。
モテモテ間違いなしだ!