3. 知らない森で魔物に会いました②
――魔物だ。こっちに魔物が近づいてきている。鈍臭い動きだなぁ。
ここ、魔物がいるんだ。
と言っても現れたのは弱い魔物だから、慌てる必要はないけど。
魔物はその強さに応じてランク分けされていて最弱はGランク。
Gランクの魔物は主に魔物を倒すために結成された闘魔隊の戦闘員でなくとも、喧嘩が強い一般人なら何とか倒せる程度のもの。一体しかいなければの話だけどね。束になってこられたら、流石に一般人じゃあ敵わない。
GランクからF、E、Dと言ったようにアルファベット順にランク分けされていて、1番強いのがSSランク。次にSランク。Aランクの上もいるのって感じだよね。ま、そいいうものだから言っても仕方ないけど。
今、こっちに向かってきているのはGランクのフワウサだ。
フワウサはウサギのような姿をした魔物。ウサギみたいな見た目でふわっふわの触り心地のいい毛皮を持つ。
一瞬、もふもふしたい気持ちに駆られるんだけど、頭には鋭利なツノがあり、もふもふしたら痛そう。あれ、邪魔なんだよね。
好戦的であり、短絡的な性格をしてて、凶暴な目つきをしている。あの目つきの悪さが可愛らしさを台無しにしている。それさえなければツノがあってもまだ愛らしい見た目なのに勿体ない。
「お兄さんって戦闘員だよね?その番傘、お兄さんので合ってる?」
とりあえず、今、確認すべきはお兄さんが戦闘員であること。
もしも、そうでないなら、お兄さんを守らないとだし、何よりハッキリ言って足でまといを連れて魔物が出る地を歩かなきゃいけない。
本来ならば魔物達は立ち入り禁止地域に閉じ込められている。その地には戦闘員でなければ入れない。ここは十中八九、立ち入り禁止地域であるのだろう。
ここがどこでどんな魔物がここにいるか分からない。フワウサ以外もいるかもしれない。となると、非戦闘員がいるのはリスクが高い。
フワウサは個体であまりいることがない。少なくとも3〜4体で行動するんだ。
今、見える範囲だけで5体いるんだよね。
「ん?あァ。そうでぇ。それがどうかしたのかい?」
うんうん、良かった良かった。お兄さんが番傘をチラッと見てうなずくのを見て安堵したよ。だったら、魔物を見て泣き叫んだりとかもないだろうし。
泣き叫ばれると魔物達が活性化することがあるから怖い。泣き叫ぶ姿に興奮でもするのか、魔物の前で泣き叫ぶと魔物は活性化することがあるんだ。魔物は悪趣味なのかな?知らないけど。
お兄さんはきっと、立ち入り禁止地域にも入ったことがあるだろう。
「そう。じゃあ、戦えるよね?――来るよ。」
私達に気がついた魔物達が迫り来る。気がついたお兄さんは即座に武器を構えた。うん、戦えそうだね。危なければ逃げることもできるよね。
今、この状況で一番困るのは恐怖で腰抜かして動けないこと。
こちらが時間を稼ごうが何しようが現実を受け入れれず、自らが出来ることすらやらずに泣き叫ばれれば、助けられない。せめて、走ってくれなきゃ困る。
ま、このお兄さんは大丈夫そうだね。
さ、戦いまっせ。必要ならお兄さんを守ってあげちゃうよ。桜花さんにお任せあれ!
――はい、調子こきました。いや、すみませんて。若輩者な桜花さんがちょいと調子こいちゃいましたとも。仕方ないじゃんか。
最悪、逃げるくらいできるだろうって評価は誤りっした!結論から言うと、お兄さんは思ったより強かった。
お兄さんは迫ってきた魔物達をすぐに殲滅して見せた。番傘を使って、魔物達を殴り飛ばし、絶命させていた。
私は初めの一匹だけ倒したけど、それ以外はお兄さんが倒したんだよね。私、ハッキリ言って役立たずだった。手出しの必要がなかったから仕方ないけど。
ま、手出しして目立つよりも、お兄さんを眺めていた方が良いでしょう。何もしないのが一番目立たないのだし。
お兄さん、実践慣れはあまりしてなさそうだけど、度胸もあれば運動神経も良さそうだ。好戦的な性格もしていそう。イケメン兄さん、めっさ、攻撃的な性格してて、積極的に魔物に突っ込んでいくんだよね。
イケメンで、しかもソコソコ戦えるとか。磨けばさらに強くなること間違いなしだ。絶対、モテるわ、この人。将来、多くの女を泣かすに違いない。気ぃつけなきゃ、女の子にぶすっと刺されちゃうやつだ。ドロドロな昼ドラ始まっちゃうわけだ。
「怪我はねぇかぃ?」
ボーッとお兄さんを見ていた私の顔を覗き込むように見てくるお兄さんはマジイケメンです。イケボです。惚れないように注意です。
ただでさえ、整った相貌であるというのに、人懐っこいという属性を持ち、それでいて子犬を思わすような輝かしい微笑を浮かべ、こちらを気遣うように見てくるだなんて。完全なモテ体質だね。
これがマンガであるならば、あの笑顔の周りに花やら光やらを散りばめて、さらに美しいことでも強調されちゃうこと間違いなしだよ。キラキラトーンを貼りまくっちゃう。
「大丈夫。」
「そりゃあ、良かった。」
フッと微笑む姿までイケメン。これは、今でも女を何人も泣かせるよ、本当。
恐ろしい子。
「魔物までいるってェ、ますますどこか分からねェなァ。」
お兄さんは周りをキョロキョロ見渡しながら呟いた。
まぁ得られる情報が少なすぎて困っちゃうよね。の割に落ち着いているのはさすがはイケメンって感じだけど。あ、イケメン関係ないか。
その昔、突如として世界に溢れた魔物をご先祖さん達がなんとか今で言う立ち入り禁止地域に閉じ込めた。そうする事で自分達の居住場所を守ったわけだよね。
たまに突破されて魔物が生活地域に入り込んだりする事もあるわけだけど、そうして現れた魔物を倒し、みんなを守るのも戦闘員の仕事だったりする。
やはり、ここは立ち入り禁止地域なんだろう。気がついたら立ち入り禁止地域にいましたなんて笑えないんだけど。
私は自分の腕にいつも肌身離さず付けているブレスレットをついつい触っちゃう。お守り的なブレスレットがある事にホッとする私、あら、乙女っぽい?……はい、調子こきましたよごめんなさい。
とりあえず、ここが弱い魔物ばかりの立ち入り禁止地域なら良いけども。そうじゃなければますますヤバイなぁ。対処しきれないかも。
「本当にねぇ…どうするかな。」
辺りを見渡す限り、ヤバイ気配はない。とはいえ、油断はできない状況だよね。
あちこちから得体の知れない気配がするんだよね。目覚めた時からずっと付き纏って、気持ち悪くてかなわない。
魔物のそれとはまた違うからとりあえず、捨て置いているけど、どうもここは気持ちが悪い。嫌な感じがしてならない。
「桜花ちゃん。俺から離れずに近くにいてくんな。まだ、魔物が近くにいるかもしれねェからな。」
あら、本当にイケメンだこと。お兄さんの流し目についときめきそうになっちゃう。
知らないとこに気がついたらいて、しかも、魔物まで現れて。そんな中、イケメンが守ってくれるって惚れてしまうわな。いや、私は惚れないけどね?
魔物に一人で対処するのも出来なくはないけど今は一緒に動いたほうがいいかな。そばにいろって言ってくれてるならそばにいよう。
お兄さんの戦うのをサポートしつつ、状況を見守ったほうが目立たなくてすみそうだし。
「大丈夫でェ。桜花ちゃんの事は俺が守ってやらァ。」
無言だったのをどう感じたのか、お兄さんは私の頭をポンポンと撫でてくれる。
……これが、自然に出来るとか本当、お兄さんはイケメン過ぎだよね?浮かべた笑みが眩しいです。人見知りな私には刺激が過ぎるよ。
いや、まぁ、私の周りって優れた見た目の人ばかりだから耐性はあるけれど。人馴れしてなくもないけど。何だったら人肌好きだけど。
て、あれ?ここ抜き出すと私は変態っぽいけど、変態ではないからね?純粋に人肌に安心するだけ。いわば、お子ちゃま的な意味で。あ、うん、これはこれで傷を負うな。これはあかんやつだ。やめとこ。
ともかく、お兄さんは悪い人ではない。いや、むしろ、優しいイケメンだよ、優男だよ。刺激が強すぎるって意味では毒だね。毒だよ。媚薬的な。18禁だね。桜花さんには刺激ぶつだよ、彼。
私の周りにいる数少ない人たちがイケメンでかつ、頭撫でたりハグしたりをよくしてくる人が多いから耐性はあるけど。私に耐性がなければイチコロだよ、これは。
「ありがとう、お兄さん。」
とりあえず、微笑んどこ。イケメンは仲良くしとくに限る。何かしらの得を得ることも多いし、あやかっとこ。
目の保養になるからね。癒しって大事だよ。お兄さんの顔、好みだから見てるだけで癒されちゃう。ドストライクな顔って眺めてるだけで楽しいよね。
「おぅ。とりあえず、そこら辺、散策してみるかィ?このままここにいても、何も分からねェだろ。」
「そうだね。」
一応、少しは散策してみたけど、お兄さんと一緒ならまた違う発見ができるかも知れない。
とりあえず、情報を求めてお兄さんと一緒に散策開始した。
――うん。散策は結論から言ってほとんど出来なかった。
魔物にはたくさん遭遇した。
お兄さんに会うまでは遭遇しなかったのに不思議。お兄さんは引き寄せる何かがあるのかも。たびたび魔物に出会う。
実はお兄さん、魔物ホイホイか何かなのかな。本当に次々と魔物があらわれる。
まぁ、弱いのばかりだからそこまで苦ではないけれど。GランクやFランクの魔物が次から次へと襲ってくる。
ほとんどお兄さんが倒してくれるから私は術式を使ってお兄さんを補助するだけで良い。だから、散策自体も辛くはないんだよね。お兄さんの戦う姿見るのも眼福だし。
何でイケメンって少し動くだけであれだけカッコよく見えるのか。不思議だなと思いつつ、主に見るだけだから良い。
なんだけど。次々と襲われるため、全然動き回れず、手がかりはない。ここが何処かはサッパリ。
得られたものもありはしたんだけど、ここが何処か、何で私達はここにいるかを知るための情報にはなり得ないから、残念。