36.ツバサのお話ですよ⑤
読んでいただき、ありがとうございます^ ^
ここからまた桜花語りに戻ります。
「……し、き……さ…」
小さな小さな控えめな声。ささやくような声で名前を呼ばれた。
ん〜なんだろね?
私の名前に何かあるのかね?なぜ、私の名前をつぶやくかな?目覚めたばかりの寝ぼけた状態だろう?ここはどことかじゃなく。私を見つける前に私を呼ぶのはなぜかのー?
まだ悪さはしでかして無いんだけどなぁ。桜花さんは、まだ良い子でいたよー?まだ悪い子にはなってないはず!!ここでは!!!
「ん〜?おはよ。」
やっと目を覚ましたツバサを覗き込みながら声をかける。そしたら、ぼんやりとした眼を私に向けてきた。
ツバサは何を言うでもなく、ぼんやりと私の方を見ている。ぼーと見つめられている。
そんな見つめられると困っちゃうな。
そんなに見つめられちゃうと、桜花さん、穴が空いちゃう。ボッコボコに穴が空いちゃう。針山になった気分だよ。いっぱい針が突き刺さっている気分だよ。使ったまち針全部突き刺されちゃった気分だね。
ツバサは寝ているあいだ、ずっと消えろやら何やらつぶやきながら炎を出し続けていたから、とりあえず、指導してみた。指導はしてみたよ?
ツバサの炎を消し続けるだけで、ほかにやることもなかったから暇で暇でたまらんかったし。欠伸も出たし眠りそうにもなった。
ま、指導したと言っても声かけただけだけど。ツバサが出し続ける火を消しつつ、喝を入れてみた。
すると、あーら、不思議不思議。声かけして、やれと促してみたら、ツバサは自らの力をしっかりコントロールして炎を消した。炎を出すのをやめた。
消せるんじゃんって感じだけど。消せるならさっさと消してくれれば良かったのに。私、2時間消火し続けたんだよ?疲れちゃったよ〜。私は消防士じゃないっての。全く〜。
声が届いたのかな?ま、そんな都合のいい事は起こらないか。何でか分からないけど、炎は消えた。
んで、起きたツバサなわけだけど。少しの間、ぼやぁと私を見つめていた。
どうしようかなぁってその時点で思ったよ?思ったんだけど。少ししてもっと困る状態になった。
ぼんやりと私を見ていたと思ったら、いきなり泣きながら話し出したんだよね。
やばいよやばいよー。情緒不安定がここにいるよ〜。ひゃぁ〜、困っちゃうぅなぁ。やっと目覚めたと思ったら泣きじゃくって過去編がはじまっちゃうだなんて、困っちゃう。
え?ここで過去編始まっちゃうの?って言いそうなの、飲み込んだよ、私は良い子だよ!
基本、キャラの過去編だって本編が進まねぇじゃねぇかとか思っちゃう系女子なのにぃ〜。
前触れなく、いきなり過去編はじまるとか予想もしてなかったよ。しかも話し出した内容は、なんていうか、私が聞いていいのって感じの内容の話を話し出した。
ツバサの話をざっくりまとめてみると。
ツバサの母親は弓を扱う戦闘員だった。その戦う姿に惚れ込んだ彫刻家だったツバサの父はツバサの母親に猛アプローチをした。それはもう、アタックしまくった。そんで見事に付き合うことができ、ゴールインまで行けたと。
そんでもって順調にことが進み、ツバサが生まれたと。
ただ全てが上手く運ぶということはなかった。
突然の事だったらしい。ツバサの母親は戦いの中で命を落とした。ま、そら突然だわね。戦闘員だもの。よくある話と言えばよくある話だ。
幼い時の出来事でツバサには母親の記憶はないらしい。母親の事は父親の話の中でしか知らないんだとか。
繰り返し聞かされていた母親の話がツバサは大好きだった。目を輝かせて母親を語る父の姿が好きだった。だからこそ、ツバサからも何度も何度も母親の話をするようにせがんだんだとか。
ツバサは母親に憧れ、母親のような戦闘員になると夢見たらしい。で、父親もそれを応援してくれていた。
だから、小さい時から身体を鍛えて、弓も扱えるように練習した。頑張りまくった。
けど。
術式はうまく使えるようになれなくて3つしか使えない上に上手くコントロールできなくて術式を扱うのが怖かったんだとか。
そんな中、父親とともに魔物に襲われた。何とか魔物から父親を守ろうと術式を使ったが、案の定、コントロールが効かず、魔物は倒せたものの、父親の退路を塞いでしまった。
そして父親は死んだ。父親まで亡くしてしまった。
で。
より一層、術式を使う事が怖くなったと。ま、それは仕方ないよね。術式にしても武器にしても周りも自分も傷つけるリスクはあるもの。慣れないうちは怖いだろうし、人を傷つけたならばトラウマにもなるだろうねぇ。
うんうん。
重いよね。重たい話だよね。たいして仲がいいわけでもない何だったら出会ったばかりくらいの私に話す内容にしては重たすぎるよね。重軽石くらい重いよね。
あれ、想像したより軽いと願いが叶いやすく、想像したより重いと願いは苦難のあるものにっていうけど。あちこちで持ったりするわけでいつも同じような重さよね。重いよなぁと思いつつ、やっぱり持ってみて重たいの。願いは叶いやすいか否かはイマイチわからないってオチ。
さてさて。
私にこれをどうしろと?私は何で言えば良いのかなぁ。なんて言ったところでじゃんねぇ。解決なんてしまてあげれないし。
んんん。
こんなことなら、ユキやらマリやらを連れてくるべきだったなぁ。2人なら何かしら声かけれるはず。カナちゃんでも良い!誰でも良いからそばにいて欲しい!
2人をツバサの術式で怪我なんてさせたら大変だからって置いてくるべきじゃなかったー!気遣いしてる場合じゃなかったぁ!!
喝を入れて、やるかやらないか覚悟を決めさすつもりだったから甘ちゃんなマリとかいたら、厳しめなこと言ったら怒りそうとか考えちゃった私!面倒だからって追っ払っちゃダメでしょーが!
こういう時の対応に必要だった!こんな事態になるなんて想像だにしてなかった!
てか、予想できるはずがないわっ!
なぁんて後悔をしている今日この頃ですよ。皆さんはいかがお過ごしですか?
あーぁ、やっぱりお兄さんについて行けばよかった。だなんて思わなくも無い。まぁ、私が行かないって言える雰囲気じゃなかったんだけどね!空気読めちゃうんで大人しく従っちゃいましたよ!
ずっと術式を暴走させ続け、なんか、うなされて消えろやら何やら呟くから術式コントロールの助言してみたら、目覚めて泣きながら過去編語り出しました。
うん、今日のツバサは忙しいね。大忙しだね。これはもう師走くらいの忙しさだね。師も走るくらいに忙しい月、ゆえに師走。的に忙しいね。
ただただ私は話を黙って聞くだけだ。
話を聞き終われば沈黙が生まれる。
さてはて、どうしようかね。どう処理しましょうね。すすり泣く女の子ってどうしたら良いもんなのかね。ホストじゃないし、女の子の扱い方なんて分からないよ。
困りに困ってツバサの部屋をぐるぅと見渡して、気になるものを見つけた。いやまぁ、部屋に入った辺りからずっと気になってはいたんだけど。聞こうと思ってたのを思い出した。
よしよし。
「ーーーツバサ、あの置き物は?」
獅子の身体に鷲の翼。顔も鷲っぽい。うん、木彫りの獣の置き物。あれ、何だっけ?空想の生物にいたよね、あんなの。
何もないシンプルな部屋にそれが飾られているんだけど。中々の存在なのよね。
リアルに掘り上げられており、中々の迫力のある置き物。美術館とかにあっても違和感なさそう。
話を逸らすって言う意味と単純な興味から聞いてみる。ツバサが寝ている間、気になってたのよね。疑問も解消出来るし、空気の入れ替えもできるから良きかな。
「……お父さんが最後に作ったもの、なの。お父さんは焼けちゃったけど、それだけは、無事で…あの時…カンカン落としてたから、あの中、作り上げた、んだと…」
そっかぁそっかぁ。気になると思ったら、あれはツバサのお父さんが死ぬ前に作り上げた、最期の作品。凄いもんだね、芸術家って。
最期の最後に魂を宿していったか。それがどんな魂であるかは分からないけど。恨みとか何やらでなければ良いけど。
「ふーーーん。凄いお父さんだねぇ。」
木彫りの置き物を見ながらつぶやく。
……禍々しさもないし、この世を恨んで生まれたとかではないか。
「え?」
木彫りの置き物を見つめていたら、ツバサはキョトンとした顔で私を見てきた。
うんうん、涙は止まったね。よしよし、予定通りだよ!さすがは私っ!凄いね!




