2.知らない森で魔物に会いました
有心武器とは意思を持つ武器だ。魂の宿った武器とも言われる。
つまりは付喪神的な存在なわけで。武器はそれぞれが人のように名前を持っていて、意思を持っている。
有心武器は武器師が作った武器と使用者の魂から生まれる武器との2つに分類される。
それぞれ武器特有の能力があったりして、ただの武器に比べて強力だ。魔物を討伐する際、強い魔物であるほど、討伐には有心武器の存在は必須となる。
魔物を倒す上で強力な武器であり、人々にとっては救世主的存在なんだけど、なにぶん、出現する数は少ない。貴重なわけだ。
しかもだよ。武器師が作った武器は自身で持ち主を選ぶ。武器が自分を扱う人間を選ぶんだ。
武器に選ばれた、ただ1人にしか扱えない。その選ばれし者が亡くなったら、また新たな主人を選出するとか。主人に出会うまでは誰も使えはしない武器となる。ただのガラクタ同然だね。
修復可能な限りは半永久的に使えるのが武器師が作った有心武器。使い手以外に触られるのを嫌うのが有心武器だけど、使い手と武器とが認めた武器師ならば修復可能。
ちなみに武器師が作った有心武器はつくも武器って呼ばれてる。
武器師なら誰でも作れるわけではなく。一度作れたからといって何度も作れるわけでもなく。とはいえ、作れたらステータスとなるのがつくも武器。
対して使い手の魂から生まれるとされる武器は生み出したものにしか使えない。どんな原理なのか分からんのだけど、武器は使用者の魂の一部なんだとか。
魂の一部が武器として具象化しているなんて考えられているわけだ。意味が分からないんだけどね。
さらによく分からないことにそれらは独立した人格を持つ。魂の一部なのに一つの魂の如き存在感なわけだ。
こちらは使用者が死ねば武器も死ぬ。使用者が生きている限りは武器は如何なる傷がつこうと回復可能だが、逆はない。こちらはこんせい武器って呼ばれてる。
お兄さんの近くにある番傘は武器師が作ったものだ。つまりはつくも武器。見覚えのある武器に似てる気がするんだよなぁ。
有心武器は数が少ないんだけど、その能力の高さから出現させるか、使用者になるかをすれば、もれなく、闘魔隊へ入隊することとなる。
ある時、いきなり現れた魔物たちに対処していったのが闘魔隊。元々あった国々は崩壊し、闘魔隊を中心に国々が再形成されていったんだけど。
闘魔隊はいわざ、国の中心的組織な訳だ。その組織の中では有心武器を持っていれば出世する可能性が高くなるわけで。
出世するには戦闘力が必須となる。所属するだけなら最悪戦闘力がなくてもどうにかなるけども。トップは圧倒的な戦闘力が求められる。
このお兄さんは十中八九、イケメン+出世株。これは将来有望株なわけだよ。引き締まった身体を見る限り、戦闘能力もそれなりにありそう。
持っている武器も有心武器であり、戦力大。つまりは出世の可能性大なわけだ。
桜花さんはわかったよ。分かっちゃうよ!…これはモテるな。お兄さんは絶対モテる!モテモテだよ、女の醜い戦いがあるね、これは。
え?
どうでもいいって?心底どうでも良いって?そんな…重要なのに。え?しつこい?仕方ないなぁ。
ま、重要な話ではあったけど、今はそれは置いとくとして。
私にとって、お兄さんは知らない人ではあるんだけど、とりあえず目を覚ますのを待っている。多分だけど、私と同じ状況のはずだし。
カンではあるんだけどね。多分合っているはず。でなければ、こんなとこで寝てるなんて他に考えられないし。
てなわけで。
お兄さんの近くに腰を下ろし、私はお兄さんが起きるのを待っている。何か得られる情報がある可能性があるし。
「んぅ……あ?……ここは……?何処でェ?」
あ、目を覚ました。やはり、お兄さんはイケメンのようだ。黒目のやや吊り上がった目はキリッとしてしてかっこいい。ふわぁとあくびをする姿も色気がある。
なんていうか。
寝起きって不思議な色気があるよね。それが身が引き締まったイケメンならば尚更。若干はだけた服から覗く筋肉が眩しいね!良い感じに筋肉がついてるから見惚れちゃうね。溢れ出る色気にメロメロになっちゃいそうだ。
そんなイケメン兄さんは自分が知らんとこにいるっていうのが分かったようで上体を起こすと周りを見渡している。
と、すぐにお兄さんと目が合った。
ま、起きて知らんとこにいて。で、近くに知らない人がいたら見るよね。すぐ目が合うのは当たり前か。
「…………嬢ちゃんは誰でェ?」
お兄さんは明らかに警戒してるね。
睨むように私を見ている。イケメンが睨むと迫力があるよね。独特な喋り方もイケメンだからか様になっている。嬢ちゃん呼びもイケメンだから許せる。
うん、イケメンってそれだけでズルよね。て、何の話だ。
知らんとこに気がついたらいて、しかも、知らない奴がそばにいたら警戒もするよね。分かる。分かるんだけど、睨まれると困っちゃうなぁ。
桜花さん、そんなに睨まれるとついついはっ倒したくなっちゃうよ。昨日の疲れも抜けきらない身体に鞭を振ってでもぶっ倒しに行きたくなっちゃう。仕方ないよね?喧嘩売られたら、力でねじ伏せるしかないじゃない?
意外と肉食獣的存在なの、桜花さんは。しかも、お兄さん相手なら勝てちゃうよ?桜花さんは強いんだって、あ、どうでも良いって?えへ。
目覚めたら知らない森でした。そして、目覚めた30分後、知らないイケメンに睨まれてます。
うん、目覚めたらこんな状況になるだなんて、寝る前は夢にも思わなかったよ。とはいえね、うん、うん。分かるよ分かる。
お兄さんの気持ちはよく分かるよ?どっからか謎電波をババっと受信しちゃうくらいよく分かる。
逆の立場だったら私も警戒するもん。目覚めたら知らないとこにいて知らない奴がそばに座っていたら怖いよね。
しかも、私は武器を携帯してるし。戦闘員だってモロバレだからね。バレバレなのだよ。私には隠す気ないし。
ちなみに、闘魔隊に所属する魔物と戦う術を持つ人々を総じて戦闘員と呼ぶ。
闘魔隊に所属するためには試験をパスする必要がある。ある程度の戦闘力がなきゃ、所属できないのね。例外がないわけではないけども。
闘魔隊に所属してれば、普段からの武器の所持が許可される。一応、非戦闘員たちも護身用くらいになら武器の所持も許可されてはいるけれど。
詳しくどんなのを所持していいかまでは覚えてないや。
――いや、うん。
現実逃避のために思考が明後日の方向に向かったけど。現実から目を離して思考は1人でに散歩しまくっているけども。
散歩が趣味な桜花さんだけど、思考までもが現実逃避に散歩してたら話が進まない。状況対処ができないわけですよ。
今は私を睨むお兄さんをどうにかしなきゃいけないわけだ。
うんうん。どうせ向き合わなきゃいけないなら、腹括ってさっさと現実と向き合った方がうけるダメージは少ないんだよね。
よし、しゃーなし。そろそろ現実と向き合いますか。
私を睨み付けるお兄さんの気持ちはよく分からんでもない。まぁまぁ普通な反応だよ。
とはいえ。私も訳わからずここにいるから警戒されても困ることには困るんだけど。
まぁ仕方ない。先に目覚めた私のがちょい先輩だからねっ!私が大人の対応をしてあげて、安心させてあげよう。
そうそう、寄り添ってあげるべきは優しい私だよね。そう思いつつ、お兄さんに視線を向けた。
私の頭の中なんか、つゆ知らずなお兄さんは私をじろじろ睨むように見続けていた。
「私は志貴桜花、よろしくね。お兄さんは?」
とりあえず、顔に笑みを貼りつけて、自分は敵じゃないよぉとアピールしつつお兄さんに聞いてみる。私は悪いスライムじゃあないよー、てね。
ま、それだけで信用されたら世話ないから、少しずつ緊張をほぐしてあげなきゃって…あれ?
お兄さんはパチパチと瞬きしながらこちらを見ている。警戒心のけの字もなさそうだね?先程の私を睥睨していたお兄さんはどこにいったのかな?
驚いたかのようにも見えるリアクション。昔、遭遇したことがあるものに出会ったかのような。目をパチパチさせて、私を眺めている。ジロジロこちらを見ている。
どうしたのかな?知り合い、ではないよね?いや、うん。はじめましてで合ってるよな。こんなイケメン、知り合いにいたら忘れないよ。うんうん、忘れるはずがない。
「………俺ァ、喜藤魁斗。よろしくな、桜花ちゃん。で、ここは何処なんでぃ?」
数秒間。私を見つめたかと思えば笑みを浮かべるお兄さん。すぐに私に対する警戒を解いたようだね?
て、えぇ〜?
キョロキョロあたりを見渡すお兄さん。よろしくなって警戒とくの早くはない?
まぁ、私としてはいつまでも警戒されてるほうが困るから良いけど。自己紹介もされたし、面識はないはずだよね。
あ、分かった!!私、人の良さそうなオーラ、溢れてたかな?それをお兄さんが感じ取ったとか?私、すごい!
たしかに私は見るからに害がなさそうだからね!無害なただの女の子さっ!キラーン
ただね?知らぬ地にいきなりいて、目の前に知らない子がいたらもう少し警戒するものじゃないかな?警戒心少なくて、ちょっと心配になっちゃう。
このモテそうなお兄さんは将来、詐欺とか合わないかな、大丈夫かな?詐欺のカモには良さそうじゃない?カモられちゃいそうだよ。
ん〜ま、心配ではあるけど今は置いておこう。
とりあえず、今はこの状況をどうにかしなきゃだからね。先にそっちを考えよう。
この様子を見る限り、やはりお兄さんは私と同じ状況みたい。起きたら、何故かここにいた的な。となると、めぼしい情報は得られそうにないな。
「さぁ?私も分からない。私も気がついたらここにいて、さっき目覚めたところなんだよね。お兄さんが何か知らないかと思って起きるのを待ってたの。」
とりあえず、素直にお兄さんに話してみよう。
あまり期待はできないけど、何か知ってるかもだしね。
知らなくても、1人で考えるより何か分かるかもしれない。
「ふーん。残念だが、何も知らねェな。」
………まぁ、やっぱりそうだよね。私同様なにも知らないよね。私もそうだもん。仕方ないか。
お兄さんはさっぱりした性格のようで騒ぐ事もなく悲観することもなく、私の言った事に慌てる事なく肩をすくめるのみ。
さて、どうするかねィと辺りを見渡している。
こうして落ち着いててくれると、こちらも落ち着くから良いよね。
「……まぁ、そんな気がしてはいたけど。……本当、何処なんだ――……あれは…」
お兄さんがやるように私も、周りを見渡すと私はあるものを発見した。
あれは――…




