1.目を覚ますとそこは森でした
ふと、目を覚ますと、そこは森でした。
目の前に溢れんばかりの自然が広がっています。前を見ても横を見ても。どこもかしこも緑、緑、緑。太い木の幹からも、青々しい葉からも、生命力をありありと感じちゃうくらいな大自然。
ちゅんちゅんと鳴く鳥の声。かさこそと音を立て動く小動物の気配。
木々の間からこぼれ落ちる光はやや眩しいながらも癒しそのものです。風が草木を揺らす爽やかな音。草木の香りにはついついホッと癒されてしまいますね。
生き返るぅなんて言いつつ、桜花さんとしては寛ぎたくなる限りですね、はい。
――て、いやいやいやいやいやいや!!癒されるわけがない。ありえない!
嫌だよ、嫌。いやいやだよ。
素敵ですではないよね、いや、本当に。マジでない。いや、ほんと、マジでない。ないないないなーーい。
確かに素敵な森林ではあるけどね?百歩譲って、自ら進んで森林浴に来たんであればテンションも上がるし癒されるけどね?日頃の疲れなんか吹っ飛んじゃうよ。浄化効果ありまくりだよ。
そう。自ら森林浴にやってきたんであれば、緑あふれる光景に癒されること間違いなしだ。
緑豊かな中、草木の香り、風が草木を揺らす音。目からも耳からも鼻からも。五感の全てから癒しを受け取れそう。それはすごい素敵だよね。
癒されまくって明日からも頑張れちゃうかもかもだよ。元気100倍!さぁ今日も張り切って魔物狩りに駆り出そうとか言っちゃうよ。
この世の全ての魔物を駆逐してやるだなんて言ってでかい目標目掛けて盲目的に頑張れるくらいに元気になるやもしれない。
だがしかし!!だがしかしだよ。
分かるかね?分からないなら今すぐ分かれと言っちゃう。言っちゃいたくなるような事態なわけだよ、今これまさに。
目覚めたら知らない場所にいた。しかもそれは"森"のよう。
さてさて、そんな状況で癒されるかな??あぁ〜、鳥のさえずりが聞こえて素敵だなぁなんてなる??
あ、あれは惑わしの鳥とか言われる人の声真似をしてくる鳥だ。普通の鳥に見えるけど、実は魔物だっていう。
あの鳥の前では仲間の名を呼んじゃいけないんだよなぁ。あの鳥がいるって事は水が綺麗で木々が豊かってこと。魔物だって盛り沢山だ♡絶好の癒しスポットだね⭐︎
うっれしー♡♡♡花々の写真撮ったりしたいなぁ〜⭐︎――だなんて!!!喜べるかぁああッ!!!
癒されるはずがないでしょう!絶対、そこには癒しなどあるはずがない。あるはずがないんだよ。
癒しなど皆無だよ、皆無。微塵もありません。チリひとつないのが当たり前だよ、まったく。
訳がわからない状況に逆に恐怖を覚えちゃうよね?怖いよね?ゾッとするよね?背筋がひんやりして嫌な汗が吹き出してくるよね?
お化け屋敷に来た時の恐怖とはまた別の恐怖があって、背中からは汗が吹き出しちゃうよね?滝のように吹き出すよね?身体中の穴が仕事しちゃうよ。しまくっちゃうよ。フル活動しちゃうよ、頑張っちゃうよ。
今はそこまで暑くはないけど、じんわり嫌な汗がにじみ出ちゃっているよ。べたべたーんってしちゃってる。
あぁ、気持ち悪い!
シャワー浴びたい限りだね!風呂場なんて、こんな森の中じゃあ見当たらないけど!これは人工的に風呂作らなきゃ入れないやつか。五右衛門風呂か、このヤロー。私、それくらい作れちゃうんだからね!
こういう状況、はじめてというわけではない。はじめてではないわけだよ。だから、冷静な私は混乱して発狂なんかしたりせずに、状況把握しようとするけども。
普通の子なら発狂ものだよ?桜花さんが強い子だから何とかなるだけだよ?いや、マジで。
はぁ……とりあえず、状況理解するかぁ。諦めて現実と向き合おう。
私は面倒だと分かりきっている状況を把握すべく、ぐるーっと周りを見渡してみた。はぁ……面倒な展開しか予想できないから嫌なんだけど。仕方ない。
何度確認しても、周りには人もいない。あるのは木、木、木、草、木……見渡す限り木が大量にあるね。つまり、自然だけしかない。足元には落ち葉がいっぱいだよ。
花々とか薬草とか確かにあるよ?散歩する分には楽しそうだけど。え?どうしてその形に成長したの?ってつい聞きたくなっちゃうような奇天烈な形をした木とかあるし楽しそうだけど。
自然的に生まれたやつって思いがけない芸術美を持つから面白いよね。見ていて楽しいのは事実だ。
けど、自ら来たわけではなく、いつの間にかいたっていう現実の中では楽しめない。何もない、ここはどこだと絶望感に打ちひしがれちゃう。
そんな中、私はたった1人で寝ていた模様。いやぁ、無防備で危ないね。うらわかき乙女がこんなとこで一人で寝るなんてね。いやいや、危ない限りだよ。
あー、いや……
人はいるか。
姿は全く見えないのだけども。あっちこちにいてこちらを見てるかな。私を監視しているね。その気配がまた、余計に不安をかきたててくるんだよね、この状況だと。
まぁ、周りにいる人たちは悪意が感じられないからとりあえず、今は捨ておこう。相手にしても得られるものがある気がしない。
て、あ…分かった。分かったよ。謎は解けたよ、ワトソン君。
これは夢か。そうそう!これは夢かもしれないね。それなら納得だ。うん、納得、納得。
昨日はいつも通り眠りについたはず。そん時は確か、寝巻きを着てたかな。着替える余裕もなく疲れて寝そうだったのを堪えてシャワー浴びて寝巻きになったはずだ。
それが今はどうだ?
私は今、普段着を着ている。完全に普段着だよ。ラフな普段着。
黒というか灰というか。そんな感じの色のロングのスカートに見せかけたズボンに、ノースリーブのシャツを着て、薄目の灰色のカーディガンを羽織っている。
つまる話、私の普段着ている、いわゆる普段着だよね、これ。普段よく着るそんな服を着ている。うん、ラフな格好ですよ。楽だもの。
そんなラフな格好をしつつ、太ももには銃が2つ。私の武器で間違えないんだけど、これだって枕元に置いたはず。腰には私の愛用の腰袋がついていて、そこには私の武器がいくつも入っている。
うんうん。全部、自分の物で合っている。
ちゃんと、常備する武器は全て揃ってるね。私の大切な武器たちは勢揃いだよ。いつでも戦闘態勢に入れちゃうくらいに完璧に揃っているよ。
いつも通りに床に着き、ふと目覚めたら、服を着替え、武器を装着し、知らない場に来ていた。
これはどう考えたって夢だよね?夢であって欲しいわけじゃない?全力で夢であることを希望しちゃうよね。こんな現実、オーダーしてない。するわけがない。
オーダーしてないのに提供されても、うちは頼んでいませんとしか言えないじゃない。
スマホやサイフなんかは持ってないし。これが現実とかないわぁってなっちゃう。現実だったら中々に絶望的だし。何が何だか分からない状況だよね。うん。
よし、ここはひとまず、二度寝しよう。
――て、思い込みたい気持ちでいっぱいだ。周り確認しても、やっぱり現実だとは思いたくない。
本当は私だって、すぐにでも夢だと信じて二度寝がしたい。森林浴を楽しみながらの昼寝とか絶対に気持ちがいいはずだよ、日々の疲れが吹っ飛んじゃうよ、きっと。
たまにはそんな日も必要だったりするし。日々の疲れを癒すために岩盤浴やら森林浴やらしながらゆるりと過ごす。それは至福の時でしょう。はい、そこ、ババアとか言わないの。素敵な趣味でしょうが。
私は好きよ?そういうのんびりとした時間。
だけども、だけどっ!
今はそんなこと言っていられない。いくらなんでもそこまでお間抜けさんにはなれないよね。
草木を揺らす風の音は普通ならば癒しの音なんだけど。人工的に流される癒しの音やらにもよくある音だけど、やはりそれは直接聞くと全然違うもので。
何が違うかって、やっぱり迫力が違うよね。やっぱり生で直接聞く方が感じるものが違うわけよ。
それがまた、ここが現実だと耳に知らしめてくるのね。鼻が感じる香り。肌が感じる感覚。五感の全てが現実だって警報を鳴らしてる。
あーぁ……
これは二度寝はできない。目が完全に覚めてしまっているよ。
これで二度寝できたら勇者だよ。魔王だって倒しに行けちゃう。魔王なんていないのだけども。せいぜいスライムとか魔物を倒すくらいしかできないけど、寝れる君は勇者だ!
夢だって信じることができたなら、気持ちよく自然の中で二度寝ができたんだけどなぁ。自然の中での昼寝。絶対気持ちいいはず。私はどうやら勇者にはなれないらしい。
目覚めたら、知らない場所にいて装備してなかったはずの武器を携帯している。他に持ち物はない。これは明らかに人為的なものがある。
誰が何のためにこんな状況を作ったのか。それは情報が少なすぎて分からない。
分からないんだけど。
こんな事が可能な人物となれば――
心当たりがあるから嫌になるよね。
というか、あの人達の仕業としか思えない。まぁ心当たりがあるからこそ、こうして冷静でいられるわけだけど。
あぁ、厄介だなぁ。悪ふざけなのか。いや、何かを企んでいるのか。一体何を考えているのやら。
しかも、タイミング的に……まぁ私を思ってのことだろうけど気にくわないなぁ。気にいるわけがないよね。こんな強制的なやり方なんざ。どんな思惑があるにしても、さ。
ま、とりあえずは状況把握をしなければどうにもならないわけで。
自分を助けられるのは結局は自分だけなんだよね。自分がどうにかする他ないわけだよ、結局は。あの人らの仕業なら絶望的な危険はおそらくはないはず。そこは信頼できる。
とはいえ、安心もできないわけで。多少の危険はあるだろうし。いや、別に危険があっても構わないけど。どうにでもするし、どうにかならなくても良か良か。気にしない。
――仕方ない。腹括って動くかぁ。とりあえず、歩いてみっか。
周りを探索すれば、何かがわかるかもしんないし!動いてみなきゃはじまらないし!犬も歩けば棒に当たる。歩かなけりゃ棒にすら当れもしない!
とりあえず、行動あるのみだよね。ダメだったらそん時考えよう。行動なくして得られるものはない。
とりあえず、歩いてみて、ここがどこだかを知ろう。知るとこからはじめよう。
なーんて、思ってとりあえず行動した事もありました。
行動しはじめ、早30分が経過しましたとも。本当、ここはどこなんだろう?
30分行動し続けたからって、何かが絶対わかるって話じゃないよね。ただ闇雲に行動するだけじゃあかんわ。一個学んだね⭐︎トホホ…
とりあえず、歩いてみたのは良いんだけど。ここが何処だかはさっぱり分からないままなんだよね。なんの目印も情報もないんだよね、これが。
あるのは森だけ。
結構、歩き回ってみたわけなんだけど、ずっと森の中で、全然、森から出られない。ここが凄く広いって事だけが判明した。
つまりは全然収穫がないって事だ。あーぁ……
迷子になって同じとこを彷徨っているっていう可能性も捨てきれない。おそらくはないとは思うけど。慎重な私はしっかり辺りに注意を向けながら歩いてきたし。
ただ、方向感覚がつかめないし、慣れない森の風景じゃあ、同じとこを歩いているか否かも判断もできないんだよね。どの木も同じに見える。木に目印を付ければ良かったかもしれないけど、今更だし。
面倒くせぇなぁってやる気が出ず、ただちんたら散歩をする形になっていたからね。やる気出して探索する気がないんじゃ、印つけたりもするわけがないじゃない?うんうん、仕方ない。
ただ!一応、収穫自体はゼロじゃない!
30分程度の捜索で得れた成果として、兄さん1人見つけた!
タッタラー オウカ ハ オニイサン ヲ ゲットシタ!
なーんて、BGMが流れてきそう。いや、まぁ。お兄さんをゲットしたわけじゃないけど、一応成果はお兄さんなわけだ。
え?何だソレって?
それを聞かれると困っちゃうんだけど。私にもわからない。
ここがどこか探るべく動いてみたら、収穫はお兄さんだけで情報は得られてません。だなんて。まぁ困っちゃう状況ですよ、まったく。
歩いてたら寝てるお兄さんを見つけたんだ。スヤスヤと寝息を立てているお兄さん。私と歳が近そうな人。
身長は180くらいかな?白すぎず、黒すぎずな健康的な綺麗な肌。手入れとかしてないのに綺麗な肌とかズルイよね。目を閉じてても明らかな美形な顔に綺麗な黒髪。
そばには番傘が落ちてるんだけど、お兄さんのものかな?
なぜに番傘?って思わなくもないけど、この和装美形な兄さんには凄くお似合いなんだろうね。持ったら様になるんだろうね。
しかも、これ、有心武器だから戦えちゃう美形だ。わぁ!すごいね?