18.学園生活の初めにゲームを⑧
坂崎はわかりやすく体を揺らし、再び泣き出しそうなくらいに顔を歪めていた。
ーーー怖い。
恐怖が支配している。動こうにも動けない。
そう怯えているのが痛いくらいに感じられた。こんな奴を連れていくなんて、そんなひどい事が誰ができるっていうんだ。
「無理に行かなくても良いだろッ!!……俺が探しに行ってくる。お前は休んでろ。足手まといなんだよ。」
「ちょっと、阿部ッ!」
「阿部くん!待ってくださいッ!!」
俺は談話室から飛び出した。呼び止める声が聞こえるが、そんなのは関係ねぇ。
そして、再びバッチを探す。
とにかくバッチを見つければ良いんだ。そうすりゃあ終わる。
こんなゲーム、さっさと終わらせてやる。
◇◇◇
一人でバッチを探していたら、先程、俺を呼び止めようとしていた2人が姿を表した。
チィッ、ついてきやがったか。
「ねぇ。さっきのは流石にないんじゃない?言い方を考えなさいよ。」
来て早々に御崎は小言を言い始めた。
仕方ねぇだろ。あれ以外に言い方が分からねぇんだ。ああ言うしかねぇだろ。
つか、自分だって顔色を悪くして震えてたくせに、無理して出てきてんじゃねーよ。坂崎と一緒に待ってれば良いっつーのに。
「うるせぇよ。あんなガタガタ震えてるやつ、連れてこれねぇだろ。」
あんなにガタガタ震えてんだ。守ってやるしかねぇ。
青い顔しておびえちまって。
さっさとこんなゲームを終わらせてやらねーと。あんなに怯えてんだ。安心させてやりてぇだろ。守らなきゃなんねぇだろ。
「つまり、心配で心配でたまらないから、安全なとこにいて欲しいぜ、ベイベーってことですね。」
ススっと横まで来て村山はにっこりと笑った。
俺の話を聞いてたのかよ、コイツは。
うぜぇことに意味のわからねぇポーズまで決めて言う姿は殴りてぇとしか感じられねぇ。
「あぁん?!」
「言い方1つで変わりますよ?優しく言うことも大切ですよ?」
俺が睨みつけても村山は怯えるではなく、笑みを消して真剣な視線を向けてきた。口調はハッキリしていて諭すような言い方だ。
……んなの、分かってる。
昔から言葉っ足らずだの何だの言われ続けてるわ。こんな顔面で汚ねぇ言葉遣いなんだ、どうにもなんねぇだろ。
「うるせぇよ。さっさとバッチ探すぞ。バッチ見つけたら、これだって終わるんだろ。」
「つまり、早く終わらせてツバサさん達を安心させてあげたい、と。さすが優しい紳士ですね、阿部くん!!」
ぷいと顔を背けて吐き出すように言えば、村山は再び笑い出す。しかも、俺の言葉に変な意味を持たせてきやがる。
意味がわからねぇよ、コイツは。
でも。
見た目とかだけで判断しねぇのはありがてぇのか。妄想癖は鬱陶しいが、嫌いじゃねぇ。
「もー黙って探せよ。………阿部っていうのは何かきめぇ。秋明で良い。……さっきは助かった。ありがとな、樹里。」
「はいっ!秋明くん!!さっさと探しちゃいましょう!ツバサさんたちを安心させてあげたいですもんね!!」
「よーし、さっさと見つけるわよー!」
俺が声をかければ樹里もマリも頑張るぞーと手を振り上げていた。
さっきまで嫌な気分だったが、少しはマシになったな。ウシっ!やってやるか。さっさと終わらせてやる。
やる気を出した2人とバッチを探しはじめる。樹里達はどこを探せば良いか聞いてきていたみたいで、そこへ3人で移動する。
探すのは風呂があるスペースだ。
風呂場へ向かうまでの道も探しつつ、捜索する。
風呂はそれぞれの部屋にもユニットバスが付いているが、大浴場も2つある。大浴場は2つあるだが、普段はそれを曜日で男湯女湯切り替えて使っている。
今日は女湯という札がかけられている方はまるで老舗の温泉のような雰囲気がある浴場だ。
脱衣所までこだわりのあるデザイン。灰色の石の床に木で作られた歯車が埋まっているような床。木で作られた壁。天井に吊られたライトはややオレンジがかった光を出している。
でかい湯船が真ん中に鎮座し、その周囲にシャワーがいくつかあり、シャワー前にそれぞれ椅子や桶が置かれている。
床は所々に大きな石が埋め込まれていて、その隙間を小さな石で埋めるようなデザインのものだ。浴槽は木で作られたもの。そこまで、大きさがあるわけではないが、5〜6人なら一度に入れる。
風呂場の窓は…あー、何でいうんだ、あれ。教会を思わすあれだ、あれ。色付いたガラスで絵が描かれてるやつ。ここの奴は火を吹くドラゴンとそれに立ち向かう騎士のデザインだ。
無駄に細かいとこまでこだわって作られている。
対してもう一つの風呂は普通の銭湯って感じの風呂だ。俺的にはこちらの方が落ち着く。
入って右手側にシャワースペースがあり、左手側真ん中に普通の湯船。左手壁側にはジェットバス、寝風呂、電気風呂が順に並んである。
さすがに露天風呂はないが、銭湯のような場所だ。内装にこるっつーなら、壁には富士山だろって思うとこだが、壁はシンプルなデザインで絵などは描かれていない。
どちらも俺らしか使わない上に各自の部屋にも風呂があんだから、ここまでの設備は必要ないはずだ。だっていうのに無駄にあるんだよな。
しかも、風呂場から出て、左側のスペースには岩盤浴まである。一室しかないが、その一室にピンクの石が敷き詰められたスペース、白い石が敷き詰められたスペース、黒い石床のスペースがそれぞれ2つずつある。60-70程度の温度設定になってんだとか。
サウナはないのに何故かこっちはある。
志貴がこういうのが好きらしく、昨日も使っていた。志貴に金魚のフンみてぇにくっついている喜藤と一緒に使ったらしい。
俺が何で知っているかっていうと、岩盤浴の中を探しながら、んな話をマリに聞かされたからだ。マリもマリで志貴について行って使ったらしい。
志貴達の話をしたからだろう。
志貴達は大丈夫だろうかとマリはウサバッチを探しつつ心配そうにつぶやいた。……たしかに心配かもしれない。志貴や喜藤は強いだろうが、オタク2人はどうか。もしかしたらおびえているかもしれない。
あー!!!
むしゃくしゃする!!クソッ!!!向こうは向こうで志貴や喜藤がなんとかしているはずだ。今は2人を信じるしかない!志貴も喜藤もあぁ見えて強い。
特に志貴は俺らの中じゃダントツに強いはずだ。何かがあればどうにでもするだろ。あのウサギ野郎に対し、俺や喜藤は攻撃を仕掛けても遊ばれているようなもんだったが。
アイツがいれた攻撃に対してはウサギ野郎も警戒していた。何より俺達が動きやすいように他の奴らを誘導したりして、俺らのサポートまでしていた。
喧嘩を仕掛けられた時には乗りそうになったが。かなう相手じゃねぇことくらい見れば分かる。次元が違う。だが。それと心配じゃないってぇのは一緒じゃねぇ。
とはいえ。心配だろうがなんだろうが俺たちは俺たちに出来ることをやるしかねーんだ、クソッ!
岩盤浴のスペースを探し終え、俺たちは今は大浴場の脱衣所を探しはじめた。
今はとにかく、魔物に出会ったらやべぇ。
だから、魔物がいないか注意しつつ、いたらいたで隠れつつ。そうしてバッチを探せば案外危険はなく探すことが出来るはずだ。
つか、そうするしかねぇっていう事実がなさけねぇ。
情けなくはあるが、周りに注意しつつ、時には隠れて魔物をやり過ごしつつ。
腹立たしいバッチを集めていった。
が。
中々30個全ては集まらず。
今は16時50分。残り10分となっちまっていた。
「あと10分、ね。談話室に向かいつつ、捜索しない?あっちも見つけたバッチを合わせたら数あるかもしれないし。」
マリがこちらを見て言う。ウサバッチが30個、集まったなら集まったであのウサギ野郎がなんらかのアクションを起こすだろう。
何の反応もないということは、まだ集まっていない可能性が高い。
それは分かってはいたが。あとはどこを探せば良いかだってわからねぇ。全部探したはずなんだ。
闇雲に探したって意味ねぇし、他の奴らと合流するんもいいだろう。
「そうですね。」
それに樹里も同意し、俺もうなずく。
その時だった。
《チリーーーン チリーーーン チリーーーン》
不吉な音が鳴り響く。
その音に瞬時に俺らは顔を見合わせ、身体を固くしていた。
やべぇ、また、凶暴化の時間になりやがった。
「は?!あと10分で終わりよね?!」
マリが甲高い声を上げ、武器を手に装着した。周りに魔物がいないかキョロキョロと辺りを忙しなく見渡している。
「残りは凶暴化タイム、ってこと…だったりしますかね?」
周りを見渡しつつ、樹里は顔を青ざめさせている。
バッチ集めはやめだ。さっさと避難しねぇと。
「クソッあのクソウサギ!!!おいっ、談話室に急ぐぞっ!!」
「わ、分かってるわよッ!!」
2人に声をかけて俺は走り出した。
談話室まであまり離れてはいない。この距離なら樹里だって走れんだろ。