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11.学園生活の初めにゲームを①

マリは私の横に。カナちゃんは私の前の席に座り、私の机には小さくなったチビが乗っている。


チビはしまうことができるけど、今は何が起こるか分からないからね。いや、しまいにくくて面倒だから出しっぱなしにしているわけじゃないよ?そんなんじゃないからね?


とりあえず、近くに置いておいたほうが何があってもすぐに対処できるから良いはず。


ま、チビは一度出すとなかなかそばから離れようとしなくて、しまいにくいっていうのは事実だけど。喚ばなくても来るくらいだし。


皆、席につきながらもすぐに動ける体制をーーーいや。村くんは緊張感なく変態野郎を見つめているか。よく、戦闘員になれたよね。有心武器があるからこそなんだろうけど。


あんなに警戒心がなくてやっていけるのかしら。ちょっと心配になるね。


変態野郎は座った私達をぐる〜と見渡すと口を開いた。ここが教室であり、ワクワク学園だという説明を受けたからこそなんだけど。あの動作はまるで教師のよう。


教壇に手をつき、生徒らの表情をみつつ、話し出す。


うん、うさぎの仮面をつけた執事のような格好をした変態が教師の物真似をしているよう。見てて気分は良くないな。殴りたいってなっちゃう。


「ささ、ではでは。早速、楽しい授業といきましょうか?」


変態野郎はみんなを見渡しつつ、楽しげな声で言う。変成器によって変えられた声が楽しげに話すその様は不快感しか感じられない。


とはいえ。


みんなに緊張が走った。ただただ不快感を露わにするではなく、身体に緊張を走らせている。


それぞれ、顔が強張り、身構えている。うん、マリも手に力がこもっている。痛くてたまらない。これは腕が赤くなるやつだ。ズキズキしているよ。マリ、君は馬鹿力すぎないかぃ?そんな力で人の腕を掴んだらだめだろうに。


にしても。


ここは高校だとは言っていたが、昨日の始まりから言っても普通じゃあない。授業といっても普通のものとは違うだろう。一体、何が始まるのやら。


「今日は初日にございますからね。特別に授業はなしに致しましょうか。皆様、私とゲームを致しましょう。」


変態野郎は言葉を弾ませながら言う。


楽しそうに語っているけど、背筋がゾワゾワァとくる。こりゃあ、嫌な予感しかしない。経験からわかるよ、これは。今からろくなことが起こらないね。


そう感じたのは皆も同じようで怪訝そうな顔で変態野郎を見ている。


「今からやりますゲームはずばり!!宝探しゲームにございます!!!」


変態野郎は無駄に声を張り上げており、教室内に変態野郎の声が響き渡る。




《バーン》




変態野郎の言葉と同時に黒板いっぱいの紙が広げられた。


そこには可愛らしいレイアウトで書かれた宝探しの文字。周りに描かれた絵もまた、可愛らしいもので。


高校生やら大学生の作るポスターを思わせる。あるいは学祭でクラスみんなで力を合わせて作るクラスの旗とか。


これを変態野郎が一人で作ったって知らなければ見事なもんだと感心するんだけどなぁ。無駄に凝った演出にしか見えないのが悲しい。


「私、校内のあちこちに、こちらにありますウサバッチが隠しましたゆえ、それを探してくださいまし。全てで30個隠してあります。全て見つけられましたらご褒美も準備しております。皆様方、張り切っていきましょう!!!」


バレリーナかのようにクルクルクル〜と回転しながらハイテンションに言う変態野郎。


ご褒美、ね。何が出てくるのやら。


ハイテンションな変態野郎の手にはウサバッチとやらが握られている。


意外とでかい手のひらサイズのバッチだ。変態野郎が付けている仮面と同じデザインのバッチ。凝った造りなのか、頑丈そうだ。


しっかり凝っていようがどうしようとも、あれが30個とか、悪趣味でしかないな。


「ーーーあぁ、ただ宝探しをするだけではつまらないでしょう?私、ゲームが楽しく、そして、スリリングなものになりますように、かくれんぼ、鬼ごっこ的要素も準備いたしました。」


ふと、動きを止め、変態野郎は手を合わせ、頭をコテンと傾げ言う。可愛らしい女の子とかがやれば様になる動き。


ウサギのお面に燕尾服着た奴がやると、ゾワっと悪寒しかしないものなんだね。いや、マジで気持ち悪い。ゾワっとする。


にしても。


一気にきな臭くなった。何なんだろう、かくれんぼ、鬼ごっこ的な要素って。


「ふふふ。このゲーム、ただ探すだけでは戦闘員であらせられます貴方様達にはつまらないということくらい、うさも承知しておりますとも。ですから逃げるべき鬼を準備いたしました。鬼への攻撃はアリでございますから、頑張ってくださいまし。攻撃、戦闘…皆様の十八番にございましょう?…皆様方が逃げるべき鬼はこの子達にございます。」


スッと変態野郎が教室の扉を開けると()()()は教室の中に入ってきた。


入ってきたのは()()()()()()()


まん丸の体にうさぎのような耳と鳥のような羽がついた生き物。ふわふわの身体は触り心地が良さそう。顔はヤギのような顔をしている。


あれは魔物だな。確か名前はヤギドリだったかな。


良い毛をしており、あまり傷つけずに倒すことを良しとする魔物だ。あの毛は高く売れる。肉も肉で柔らかく美味いと言うことで人気が高い。


耳には無心武器が付けられている。誰かしらにテイムされているのだろう。


無心武器の中の一つ、使い魔の首輪ってのがある。あれを魔物に取り付ければ、魔物を使い魔的に使うことができたりする。


ま、といっても、強い魔物ほど付けれないし、付けれても魔物が理解できるような簡単な命令しか出来ない。弱い魔物ほど知性が低いし、あまり使えたものではない。


ペット的にするもの好きもいるんだけど、武器が何らかの弾みに取れたり壊れたりすれば魔物は本能に従い、襲いかかってくる。


結構、危険なものなんだよね、テイムされた魔物って。見たら壊したくなる。人のものだから手出しは出来ないんだけど。


「こちらの子達はこんな愛くるしい姿をしておりますが、ある音を聞けば凶暴化いたします。人々の血肉を好みますゆえ…ちょこっと手足をかじられるやもしれません。お気をつけくださいまし。」


変態は魔物を手に持つとこちらに見せつつ言う。


血肉を好む、ね。


アイツらは小さい見た目のくせに牙は鋭く、噛む力が強い。それこそ、骨も砕く。小さな見た目で一体で1人の人は簡単に喰えるはずだ。


ちょこっと齧られたら最後。顎の力が強く、剥がすのは至難の技。何としても食らいついた先から喰らおうとしてくる。


軽いノリで変態野郎は言っているけど、かじられた結果は悲惨なものになりかねない。私の場合、頭を撃ち抜けば良いだけだけど。たとえばカナちゃんとかは抵抗する術はなく食べられちゃいそう。


「それらを殺すのはありですか?」


とりあえず、質問してみる。魔物など、さっさと倒す方がいい。とはいえ、テイムされている子に手出しするのはなしかぁ?


いつ襲ってくるかも分からない魔物をそばに置いとく気持ちは理解できないけれど、人がテイムしている人の物だ、手出しはできないかな?


「ふふふ。出来るものならばやってごらんなさい。防御の武器をつけております。本体を壊さねばこの子達は倒せない、そんな代物にございます。」


楽しそうに笑いつつ、変態野郎はヤギドリの耳をちょんと触る。


片側には使い魔の首輪。もう片側には他の武器が付けられている。


身代わりくん。それがあの武器の名前だ。本体となる武器は他にあり、その本体が今、耳に魔物が付けているブレスレットをつけた者が受けたダメージを身代わりしてくれるっていう物。


魔物ごとにブレスレットの色が違うのはみんなで一つを使っているわけではなく、それぞれに単体の武器を使用してるってわけなんだろう。


ま、だから魔物はまず武器を壊さねばならない。壊すのは難易なこと。


出来るものならやってみろって話なのかな?どうせ、できやしない。変態野郎の態度がそう物語っているようで。


そう言われると壊したくなるね。ぜひぜひ、ぶっ壊そうってなるよね。何体かは絶対、壊してやる。


「その本体とやらは貴方が持っているのですか?貴方への攻撃はあり?」


本体の所在も大切だよね。わかれば本体を壊すしかない。


とはいえ。


簡単に壊せる場所には置かないだろう。


また、変態野郎が持っているならば、魔物を直接攻略したほうが楽だ。


「ふふふ。志貴様に熱烈的にアタックされますことは至福にございますが…いやはや、とても残念にございます。……私に危害を加えますことは校則違反なのでございます。」


嬉しそうに話したり、しゅんと落ち込んでマジで残念そうにしたり。変態って忙しない。大変な性なのね、知らんけど。


てか、残念ってなんだよ、残念って。


まぁ良いや。


そんじゃ、倒し辛い魔物相手に逃げ隠れしながら宝物を探せと。セオリーは武器本体の破壊なんだけど。それをするのは変態が持っている以上、できないと。


「つまりは倒すことができない魔物から上手く身を隠しつつ、宝探しをしろっていうことか。」


ユキが目を細め、頭をガシガシかきながら言う。


ま、そう言うことなんだろう。


倒せない相手と戦いつつもうまく逃げ、自分の探すべきものを取ってくる。


戦闘員には時には必要になってくる力。それを実戦形式で訓練するって話なんだろうね、これは。


「さすがは蚊ヶ瀬様。理解が早くいらっしゃる。制限時間は午後5時までにございます。皆様におかれましては午後5時までにウサバッチを30個、お探しください。」


ユキの言葉に感心したような声を上げつつ、皆を見渡しつつ、恭しく変態野郎は言う。


それが何とも憎々しい。

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