10. 始まるのは学園生活だそうです⑤
変態野郎の言葉に皆が息を飲む。
教室内にピリッとした空気が広がっていた。
「………何でお前さんなんかが、俺たちを鍛える必要があるんでぇ?」
言葉を飲んでビビったヤンキーくんに対し、お兄さんはまるで射るかのごとく、変態野郎を見ている。視線で人が射る事ができるならば変態野郎には風穴があいているだろう。
やっぱり、ヤンキーとイケメンは違うねぇ。いやぁ、かっこいー!
「例えば佐々木様や蚊ヶ瀬様は武器師でございます。現場にともに行き、武器の整備をいたしますし、武器の材料も自分で撮りに行く必要がある。戦闘能力を高めておく必要はございます。」
まぁ確かに。戦闘力は必要だろう。
だけど、そこじゃない。
なんで変態野郎が私達を鍛えるのかってとこが知りたいんでしょ。
私達が鍛える必要があるか否かならば、戦闘員なんだからあるに決まってる。んなことは聞いてない。
おもう答えをわざとくれない奴って何でこうもイラッとくるんだろうね?
「それをテメーがして何の得があんだよ?!」
ヤンキーくんの怒鳴り声が響く。やっぱり、素直な子はそのまま感情をあらわしちゃうよね。むかつくもの、あの変態仮面野郎。
それに対し、変態野郎はふぅ〜と息を吐き出すと、口を開いた。ま、お面で口元なんて見えないんだけどね。
「その昔、魔物は突如として現れました。人々はなんとか魔物から生活を守るため、自分達の力を駆使して、魔物達を閉じ込めたのでございます。各地にあります立ち入り禁止地区は魔物達を閉じ込める場にございます。魔物達は時折、その場から出てきて人々の生活を脅かしております。我々、闘魔隊は魔物達から人々を守るためにあります。貴方様方は闘魔隊の戦闘員にございましょう?戦闘能力アップは人々の生活を守るためには必要であるがゆえに行うのでございます。」
ゆったりとした口調で変態野郎は言う。マニュアルを読むかのような語り口調だ。
返答はしてるんだけどね。してはいるけど、そうじゃない。求められているものを知った上でやってやがる。
何とも心が籠もらない解答だ。マニュアルを読むかのようなとはいうものの、これは音読しただけ。朗読はできてない。そんなとこが神経を逆撫してくるんだよなぁ。
何で私らがここに連れてこられたか。何で私らが選ばれたのか。ここの趣旨は何なのか。説明すべき事が一切ないのはわざとなんだろうね。
こんな解答で納得するやつはいないだろう。納得しないなんてことは変態野郎だって分かっているはず。
「あぁん?!信用できるかぁ!!」
案の定、ヤンキーくんがブチ切れた。短気な馬鹿は火がつくのが早い。
冷めるのも早いかと言われるとそうでもなく、山火事のように中々鎮火できなかったりするのが現実。さらなる噴火が起きるリスクだって高い。
ヤンキーくんがこうなるのは想定内のはず。どうする気なんかねぇ?
「信用できずとも、貴方様方にはこれからここでご自身の能力を高めていただきます。」
ヤンキーくんのブチ切れに一切の動揺を見せることなく、ただピシャリと変態野郎は言い切る。
火に油を注ぐんかーーい。話が進まないじゃないかよ。
「んだと、こらぁ「落ち着きなよ、阿部。」
話が平行線になってるね。とりあえず、キレそうというか、キレているヤンキーくんを黙らせようかな。
話を進めて、さっさと話を終わらせたいし。
こんな時間を引き延ばしたって何の足しにもなりはしないでしょう。
「とりあえず、素直に従うしかない。」
「あんな映像見せられてもまだ、あの変態野郎の肩を持つのかよ?テメー…変態野郎のグルか?!」
あら。矛先が私に来た。
まぁ、こちらに矛先が来た方がさっさと話を進められるから良いんだけど。
私にはマリとカナちゃんがそばにいるんだよねぇ。とりあえず、2人の安全確保だけはしとくか。
「"チビ"」
私はチビを喚び出す。出てくるなと仕舞い込んでいた私の可愛い武器は名を呼べばすぐに姿をあらわす。
何なら、チのあたりですでに姿を出していた。
呼ぶより先じゃない?早すぎないかぃ?
「にゅい?」
チビはすぐに、マリやカナちゃんを下がらせるように動き、私の後ろに控えた。
私の後ろにチビがいて、その後ろにマリやカナちゃんがいるって構図だね。
「もしも、そうだったらどうする?違うにしても証明できないし。戦っとく?私、変態野郎みたいに手ぇ出さないなんて甘いことはしてあげないよ?」
「あぁん?」
阿部は簡単に挑発にのるねぇ。
マリがちょっと!って声上げているけど聞こえないふりしとこー。
「阿部と変態はどちらも闘魔隊の仲間。けど、どちらかを選ぶなら私は変態を選ぶ。彼は正隊員である可能性が捨てきれない。上に従うべきとこだよ。という意味では私は変態派なのかもね?阿部は変態に手ぇ出す気みたいだし。とりあえずぅ、2度と戦えなくするかな。」
あんな映像を流したのは悪趣味だけど。嫌なもん見せられちゃったけど。ゲロゲロ〜ってなったけども。
変態野郎は闘魔隊の仲間であり、上司なんだよね。下手に反感して、自分達の身を危険に晒しちゃダメだ。
映像見せられて興奮してるけど、冷静にならなきゃ。変態野郎が敵であるって証拠を得たわけではない。
従うべき対象である事実は変わらないままなんだから。
「できるもんなら、やって見ろや!」
売り言葉に買い言葉的にヤンキーくんは怒鳴る。
私達はお互い構えた。
といっても、お互い武器はなく睨み合うだけだけど。
「おぃおぃ。お前さん達が争うのかぃ?」
あ、お兄さん、止めたりせず、静観するの?呆れた様子ではあるけど、止めたりはしないんだね?
マリ達は後ろで戸惑った様子でこちらを見てる。さすがに私達の元まで出てきたりしないだろう。
「なんとっ!おやめくださいましっ!私を取り合って阿部様と志貴様が争うなんてっ!!私は皆様のウサにございますっ!無用な争いは望みませんっ!」
は?
いつの間にやら阿部やお兄さんの拘束から抜き出た変態野郎は私と阿部の間に立ち、テンション高くほざいている。
あーぁ。しらけるわぁ。
やる気を削がれちゃったな。
「テメーのためじゃねぇッ!」
阿部は真面目な子なのかな?間に受けてまじめに返答してるわ。
「変態野郎に今のとこは嘘だと思える発言はない。だとすれば闘魔隊の仲間であるわけなんだよ。だから、傷つけるのは反対。ま、変態野郎に敵うだけの実力じゃなきゃそもそも傷つけらんないだろうけど。」
とりあえず、言葉で意見を言っておこう。さっきも言ってる意見ではあるけど。
ヤンキーくんには繰り返しいう必要がありそうだし。馬鹿はわかるまで言わなきゃ伝わらないもの。
ついでに挑発もしとこー。挑発にのったら、暴れられるし。
変態野郎の存在は無視だ無視。
「んだと、コラァッ!」
「彼が見せたのは現場で記録されたものだろうねぇ。それを皆を脅すために見せた。こうなりたくなければ強くなれって言うがために。悪趣味であるのは事実だけどさ。だから襲うってのは短絡的じゃあないのー?」
「………コイツが言ってることを信じんのか、馬鹿かてめーは。嘘に決まってんだろ。」
キレたと思ったのに、私の言葉に考えるようなそぶりを見せたヤンキーくん。ただただ聞く耳持たずに暴れる馬鹿じゃないらしい。
とはいえ、嘘に決まっている、ね。それに根拠はないだろ。思考が足りない。
感情だけで判断して良い事じゃないだろうに。
「バカはお前だよ。昨日、散々襲って、どうにもならなかった相手だよ。建物からだって出ようとして拘束されてたはず。実力差は明らかな上に闘魔隊の一員であり、空からの指令で動いている可能性がある。どうこうできる相手じゃあないんだよ。今は従うべきだ。」
散々敵わなかった相手にどうする気なんだか。
無謀な無鉄砲は勇敢とはいえないんだよ?単なるバカでしかない。
「コイツが言ってる事はでたらめに決まってんだろうがっ!」
そればっかりだな。感情だけで判断するなっての馬鹿。話は平行線だ。
これはもう拳で語り合うしかないね。
勝った方が正義っていうあの法則を使うしかないね。よし、いっちょ、やってみよー!
「バカに言葉で説明しても無駄だよねぇ、分かる分かる。2度と戦えなくしてやるからかかってこい。」
こういうバカは一度暴れて痛い目合わんければ大人しくならない。1発のしちまおう。
身体を動かせるのは嬉しい。鬱憤を晴らすぞー!ただ、喜んじゃダメ。にんまり笑いそうになるのは抑えて。
挑発するようにヤンキーくんを見る。
「あぁぁん?!」
よしよし、私は策士よね。私は暴れたい。ヤンキーくんは納得できずに爆発しそうで危ない。これをここで1発なんとかするには一度、爆発しそうなヤンキーくんを爆発させとくしかない。
下手に変態野郎を襲ったら危ないし。私が相手しとこう。
案の定、ヤンキーくんは挑発に乗ってくれる。
「ちょっと、やめなさいよっ!」
げ。
マリが声を上げた。
さすがに前には出てこないが。出てこないのが救いだけど。
「お、落ち着いてくださいッ!」
カナちゃんもオロオロしながらも声をかけてくる。
気が弱そうで何もいえなくなるかと思いきや、しっかり声が出ているね。
「落ち着きたまえよ、あべべ。ウサくんの言っていることが偽りだって分かるまでは従う他ないだろう。本当である可能性もあるんだからな。」
「昨日、散々試したじゃない。あの人をどうにかできなかったでしょう?今はとりあえず、言うことを聞くしかないわ。志貴さん、貴女も阿部くんを挑発しないでちょうだい。」
吠えた阿部にユキやユズルちゃんが声をかける。あーぁ。2人にまで止められちまった。
しかも、私が暴れたくて挑発してるってバレてる。何でバレちゃったかなぁ。
お兄さんは静観派だったし、谷上や桜井は戸惑って青ざめているだけ。ツバサは黙って成り行きを見てるだけだ。邪魔は入らない予定だったのになぁ。
ま、ユキもユズルも変態野郎に従う派だったからよしとしとくか。
昨日、散々変態野郎を阿部やお兄さんが襲った。だけど、攻撃は通らずだった。
変態野郎の実力は確かなんだよね。マジで強いんだよ、この中じゃ。
「チィッ」
阿部は舌打ちすると席にどかっと座った。私が言っても聞かなかったくせに。大勢に言われれば従うっていう感じなのかな。
「はぁ。とりあえず、座ろっか。怖いならマリと椅子を半分こして、カナちゃん、お膝に座っとく?」
にんまり笑って2人を振り返る。
「………ここっ怖くはないわっ!けど、桜花が怖いって言うなら、一緒に座ってあげる!」
そう言いつつ、私の腕をしっかり掴むのだね?あの画像はよほど怖かったようだね?
「お、おひざは…私、マリさんの席に座ります。」
「いつでも、手を握ってあげるわ。ね?」
うん、マリは完全にビビっているな。
カナちゃんが気を遣って手を握ってあげちゃうくらいのビビリよう。
「皆様、納得いたしましたか?皆様は今すぐ理解せねばなりません。本気で望まねば死にかねない。そして、死ねばそこで終わり。ーーーー死ぬ気で学んでくださいませ。」
変態野郎、あんまり煽らないで欲しいんだがな。
うん、変態野郎が怖いのは分かったから。マリ、私の腕をちぎらんとばかりにしがみつくのはやめてくれ。
ーーーま、こうして、学園生活とやらが幕を開けたわけだ。
これからどうなることやら。
集団生活は得意じゃないのに、こんなとこに私を突っ込んだ空がちょいと憎い。ま、言っても仕方ないんだけどね。
次にあった時、仕返しは絶対する。




