9.始まるのは学園生活だそうです④
現状で笑みを浮かべられるなんてすごい度胸。大物なのか馬鹿なのかどっちかだろう。
満面の笑みを浮かべた彼は私達へと視線を向けて、口を開いた。
「次は僕ですね!村山樹里です!!武器は銃です!僕もつくも武器なんですよ。Fランクです!」
変態野郎の言う通りに村くんは元気よく自己紹介をした。
村くんは昨日、森の中でお兄さんと会った子だ。抱えていた武器はやはり有心武器だったよう。
黒髪に黒目。中性的な顔立ち。まぁまぁ整っちゃいるが、あまり印象的な顔立ちではない。モテ顔というよりは知る人ぞ知る可愛い系な顔的な。……いや、意味が分からないな。
大人しげな印象の見た目とは裏腹に中々、図太いのかKYなのか。ま、どっちもなんだろうな。
雰囲気が悪い中、よく笑顔で元気に自己紹介できるなぁ。
「……谷上悠真です。Fランクです。武器はありません。」
続いて村くんの前の席にいた谷上がボソボソって言う。
こちらはザ.オタクって感じの子だね。長ったらしい黒髪が鬱陶しいっていう印象をうける。目を隠すまではいかないけど、やや長め。目は俯き気味でボソボソ話すから中々聞き取りにくい。
中肉中背であり、その手は男の手の割には細い印象を受ける。あまり、外に出ないのか、肌は白い。
あれで戦えるんかな?ひとは見かけに寄らずとはいうけど戦える印象はないなぁ。
「桜井司と申します。自分もFランクで、こんせい武器である刀を所持致しております。」
谷上の横に座っていた桜井が立ち上がり、続いて自己紹介した。
短めに切りそろえられた黒髪に丸メガネ。身長は170以上あるかなぁ。これといって特徴もない地味な顔立ちの子だ。確か昨日は谷上と気が合うのか谷上と一緒にいたかな。
「佐々木結弦よ。ランクはF。自分の武器はないわ。」
桜井の横に座っていたのはユズル。茶髪のストレートな髪に鋭い目つき。キリッとしたクールビューティって感じの女の子だ。知的な印象を受ける視線は鋭い。
座ったまま、端的に自己紹介をすます。クール系女子だね。
「……坂崎翼。Fランク、武器はない。」
ポツリとつぶやくように続いたツバサ。ユズルの後ろに座っているけど、こちらも立ち上がることもなく、いう。
黒髪のショートヘアが似合うんだけど、見事なまでに表情がない。周りに興味がないって感じな様子だね。
みんなに視線すら向けない。
人見知り激しいのかな?
「次はボクか?ボクは蚊ヶ瀬裕貴。武器はないが、作るのが好きだ。ランクはF。戦闘は得意ではない。武器師を目指している。よろしく頼む。」
ツバサの後ろに座っていたのがユキ。ツバサのつぶやきのような自己紹介を気にした様子もなく立ち上がった。
背中まである長い髪はクネクネしており、梅雨の時とか大変そうな髪をしている。あれは広がるね。メデューサのようになっちゃうね。
縁の細いメガネを付けたボクっ娘な美人さん。こちらは前2人に比べ、人懐っこい笑みを浮かべている。
「俺ァ、喜藤魁斗、ランクはEでぇ。つくも武器である番傘を使う。」
ユキに続いて、お兄さんは笑みを浮かびつつ言うが、目が笑っていない。この状況がやはりというか、気に入らない様子。
イケメンの目の笑ってない笑みって迫力がある。ひゃあー、怖いってなる。
ちなみに席はユキの斜め後ろで、私の隣の席。そこからギラギラした目で変態を睨んで警戒してる。
「い、稲盛佳那子といいます。武器はなくて…癒しの術とかが得意です。ランクはDです。えと…それで…。」
やや長めのショートヘアの大人しめな可愛らしい女の子。そんな印象のカナちゃん。きょどる姿も可愛らしいねぇ。
ただ、真面目に制服を着てんだけど、やはり腰には閃光弾が装備されている。制服でも常備されるものらしい。
席はお兄さんの前。
「愛らしい!!愛らしいですよ、稲盛様!!囁くように話される声も愛おしい!私もぜひ、あなた様に癒しの術をかけていただきたく思いますッ!!クラス随一の癒し系でございますね。ぜひぜひ、膝枕で、ハァハァ…大丈夫だよと…ハァハァ…声をかけていただけたら…ハァハァ…至福ッ!!」
カナちゃんが話し出したあたりで変態野郎が動き出したと思ったら、カナちゃんの両手を包み込むように握るとハァハァハァと変態のごとくーーいや、変態そのものの息の荒さを見せつつ、自分の欲望を吐き出す。
カナちゃんがパニックになってらぁ。
「やっぱり変態野郎じゃねーかッ!!」
カナちゃんの前の席に座っていたヤンキーくんが、変態野郎を蹴り飛ばすように動きつつ、叫んだのだった。
ヤンキーくんの蹴りは当たり前のように変態野郎に避けられる。変態野郎から解放されたカナちゃんは涙目で慌てふためいている。
うーん?ヤンキーくんは何で私を睨んで、怒鳴るんだろ?私は悪くなくないかな?
「………変態野郎じゃないとは言ってないでしょ?」
「チィッ!つか、そもそもが鍛えるっつーのだって気に入らねぇ!実践あるのみだろうがッ。」
舌打ちすると、ヤンキーくんは変態野郎を睨みつけて怒鳴った。
ヤンキーくんは現場主義かなー?
「実践あるのみというのも良いでしょう。しかしながら、それでもしもの時、どう対処なさいますか?」
ヤンキーくんの言葉にガラッと雰囲気を変えた変態野郎がゆっくりと脅すように言葉を紡ぐ。
いきなりの変貌ぶりに皆が息を呑んだ。
「足を失ってしまったらいかがなさいますか?目の前で仲間が喰われるのを見た時、少しでも多くが生き延びるために撤退できますか?裏切りに合い、戦場に残された際、不幸にも生き延びた後、対処できますか?腕を失い、立場を失い。明日から生きる光を失った場合はいかがいたしますか?………鍛えておけばよかった、だなんて後悔しても遅い。現実はゲームのように巻き戻しは聞きません。」
変態野郎の言葉と共に映像が流された。
迫りくる魔物達。取り残された人間。
ーーーいや、取り残されたんじゃない。
意図的におとりとされたんだ、凶悪な笑みを浮かべつつ去る人々。動けずに置いてかれた人達の絶望する顔。
置いてかれた人たちの中でも何とか動ける人が全く動けない人の盾となり、そしてーーー守られた人の悲鳴が響き渡る。
恐怖。
絶望。
そして仲間を目の前で失った強い悲しみ。
その場を様々な負の感情が入り込み支配していく。
いろんなものが入り混じった悲鳴。痛々しくてたまらない。
まさに変態野郎が言ったような状況の映像。修正なしのそれは女子供に見せるようなもんじゃあないね。画面が真っ赤じゃないか。やぁ〜、えぐいねぇ。非戦闘員にはとてもじゃないが、見せられない。
映像を見た瞬間、青ざめたマリが涙目になりながら私に抱きついてきた。流れる音にガタガタ震え、涙を流す。カナちゃんもガタガタ震えていたから、手招きして抱き寄せといた。
これは現実を録画したものだろう。だからこそ、音声も映像も、えぐい。
この映像の人たちは知っている。人を囮に使って逃げ帰る。それを繰り返してた人たちで、確かそれが明らかにされ、処罰を受けたはず。
確か今はーーー…
《がったーーん》
ヤンキーくんとお兄さん。2人が変態野郎を組み敷いた。
正確にはヤンキーくんが変態野郎に馬乗りになり、お兄さんが首元に番傘を当てている。
「胸糞わりぃッ」
「趣味が悪いねェ。なんてもんを見せるんでぇ?」
2人は吐き出すように言った。
「全て現実でございます。現場に身に行きますか?見た後の保証はしかねますが。」
2人に組み敷かれているというのに変態野郎に動揺はない。こんな状況でもどうにかできるくらいの実力でもあるんかねぇ。




