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守護像職人  作者: 猫松ぺ子
第1話 守護像職人の少女

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9.秘薬


「そもそもなぜ私に隠したりしたんです?」

 

 クロードに見下ろされ、シオは舌打ちしたい気持ちをグッと抑えた。


「報告、連絡、相談は基本でしょう」

 

 それは、確かにそうなのだが、


(これがあるから嫌だったんだ)


 椅子に座るクロードの足元で、シオは正座させられ、お説教を受けていた。


 隣にはシオと同じ態勢のミハルが、神妙な面持ちで姿勢正しく座っている。


 お説教はかれこれ30分は続いていた。長さに加え、場所も悪い、とシオは思う。


 なんせここはシオの部屋だ。誰が、自分の部屋で冷たい床に座らされ、頭上から説教など受けたいものか。


 せっかく布団で暖まった身体がまた冷えてきた。腰から下は痺れたように感覚がないのに上半身は熱い。なんだかクロードの言っている言葉すら頭に入ってこなくなる。聞きたくもない言葉の羅列なのでちょうど良いかもしれない。


 そんなシオを見て、隣に座っていたミハルがぎょっとした。


「あの、クロードさん、あのお話中にすみませんが、シオ、ふらふらなので、せめて椅子に……」


 シオの現状を見かねたミハルが訴えたが


「黙らっしゃい」

 

 クロードにピシャリと撥ね付けられてしまった。


「ミハル君が甘やかすせいでもあるんですからね」

 

 鋭い目で睨まれ、ミハルは口をつぐんだ。全くの正論で、言い返すことができない。

 

 ふらふらのシオとしょげかえるミハルを見てクロードはため息をついた。


「風邪くらい、これでも飲んでおけば治りますよ」


 クロードは上着の内ポケットからガラスの小瓶を取り出した。


「な、んですかそれ……」

 

 ミハルの声がわずかに震えている。


 小瓶の中には、紫と緑の禍々しい液体がたっぷりと入っていた。若干とろみが付いている。


「我が家秘伝の薬です」

 

 キャップが開けられ、シオの目の前に突き出された。


「お飲みなさい」

「ひぃっ」

 

 クロードの爽やかな笑顔にシオの顔が引きつった。


「きょ、拒否権は……」

「お飲みなさい」

「……はい」

 

 シオはすでに苦い薬でも飲んだかのように顔をしかめ、嫌々小瓶を受け取った。


 近くで見ると余計に禍々しい。口にするのが躊躇われる色合いだ。こんな色になるなんて、何が入っているのか気にはなるが、聞いたら後悔しそうである。


 口元へ小瓶を持って来ると、にんにくと腐った玉ねぎのような匂いが立ち上る。


「うっ」


 息が詰まり、顔から小瓶を遠ざける。

 

 薬と毒は表裏一体と言うが、これはどう見ても後者に見える。警告の二文字が頭の中で点滅する。

 

 そんなシオにクロードは誇らしげに説明を加えた。


「この秘薬のおかげで我が一族は、年中無休、生涯現役、商売繁盛で家を大きくしてきましたし、効果は保証いたします」

 

 つくづく恐ろしい一族だ。

 

 シオは唾を呑み、心の内を整える。これ以上グズグズしていたら、痺れを切らしたクロードに無理矢理、口の中に小瓶を突っ込まれそうだ。それは御免こうむりたい。


 シオは大きく息を吐き出し、鼻をつまむと一気に小瓶を煽り、中身を口に流し込んだ。

 

 途端に死んだ沼のような臭さが広がり、どろり、と生ぬるく重たい液体が喉を圧迫する。身体が受け入れを拒否しようとするが、気力でなんとか飲み込んだ。

 

 しかし、


―カラン

 

 小瓶が手から滑り落ちる。


「シオ!?」


 ミハルが隣でオロオロしているのを感じるが、答えられる状態ではない。急激な不快感で胃がせり上がってくる。


 口元を両手で押さえ、耐える。ちょっとでも動いたら、胃の中身がひっくり返ってしまいそうだ。起きた時の比ではないほど、目が回る。自然と目に涙が浮かんできた。


 口内には苦みと酸っぱさが残り、口から鼻に抜ける匂いは、生乾きのまま放置していた雑巾臭だ。変な汗が額ににじむ。


次第に意識がー……


「シオー!!」

 

 ミハルにガクガクと揺さぶられ、現世に引き戻された。


「大丈夫?!」

「う、うん」


 危うくあの世へ旅立つところだった。恐ろしい秘薬である。


「死にかけたんだけど」

 

 鼻の頭に皺を寄せ、まだ纏わり付く嫌な匂いを感じながら、シオはクロードを睨み上げた。

 

 しかし、クロードは満足そうな表情を浮かべ、椅子の上で足を組み直す。


「効いたようで何よりです」

 

 ミハルがシオの顔を見て目を瞬かせた。


「あれ?シオ、顔色良くなってる?」


(ん?)


 言われてみると、寒気やだるさがなくなっている。鈍い頭の痛みもなくなっていた。


(だけど素直に喜べない)

 

 不快感が漂う胃を抱えながら、クロードを恨みがましく見るのであった。

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