49.湖②sideシオ
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「ポポ! ちょっと、はぁはぁ、待ってってば‼」
森の中に駆け込んだポポにようやく追いつき、シオはホッとした。
と言っても、走る勢いは緩めない。
それどころか、先程よりもスピードアップしていた。少し先を行くポポは地面を飛ぶように走っている。前方に大きな木の枝が落ちているのが見え、シオはひやりとした。
「そんなに、急ぐと、危ない!」
「ぽっぽぉ‼」
ポポは速度を緩めないまま飛び越すと、チラリと視線を投げてきた。もっと速く走れと言いたげである。
「っもう!」
シオも走っている勢いのままにヒラリと枝を飛び越し、さらに速度を上げてポポの隣に並んだ。
「はぁはぁ、そんなに、急がなくても、すぐ追いつくよ!」
全力疾走で息が切れ始めたシオに、ポポが不満げな視線を寄越した。
「ぽぽ! ぽぽぉぽっ‼」
「はぁはぁ……なに……? 早くしないと、危ない……?」
ポポの言わんとしていることがよく分からず、シオは心の中で首を捻った。
確かにリリーが森の中で迷子にでもなったら大変だが、ポポがいる限りリリーが行方不明になることはありえないと思う。
なんと言ってもポポは豚型の守護像だ。豚の特質である鋭い嗅覚を持ってすれば、大好きなリリーの匂いを見失うとは到底考えられない。
「はぁはぁ、焦る気持ちは分かるけど、ちょっとは速度ゆるめて――」
「ぽ~!」
と、突然、ポポが雄叫びを上げた。
――ずざざざざっ
「うわっ!」
土埃を立てながら急停止したポポを横目に、止まり損ねたシオの足が絡まった。
体勢を立て直そうとして木の根につまずき、顔面から木に衝突する寸前で、身体を捻って回避する。
しかし、
――ドサッ
「いったぁ……!」
激突は免れたが、尻餅をつく羽目になってしまった。
シオは恨みがましくポポを見た。
「ポポ、止まるなら一声掛けて」
「ぽぽぉ?」
「うん、大丈夫だけど……」
心配そうに傍らにやって来たポポの頭を撫で、ヨロヨロと立ち上がる。勢いよく転んだのでお尻と腰が地味に痛い。
「急に止まるなんてどうしたの?」
服に付いた土を払いながら顔を上げたシオは、木々の間から飛び込んできた光景に目を見張った。
「え、ここって――」
「ぽぉ……」
二人の間をひゅうと風が駆け抜けた。その風にうながされるように、シオは前に進む。木々の間を抜けた風は、目の前に現れた湖の上を渡っていった。
まだ夕方と言うには早い時間だが、すでに太陽は傾き始め、湖面が光を反射し、オレンジ色に煌めいている。
シオは目を細めてその光景を眺めた。
対岸の森が視認できるほどの小ぶりな湖。おそらくここは、リリーの祖母が亡くなった場所だ。
(だから、ポポはあんなに急いでいたのか)
湖岸線に水が打ち寄せ、ちゃぷんと優しい音を立てた。
「50.湖③sideリリー」につづく。




