36.リリーの元へ①
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シオがリリーの祖母の部屋に駆け込むと、秘密基地への入り口は閉ざされていた。
「ぽぉぽぉ!」
「ちょっと待ってて!」
ポポに急かされながら、シオはキャビネットに近寄ると花瓶を倒して仕掛けを動かした。
初めて仕掛けを動かした時と同じく、歯車の音と共に肖像画が手前に倒れてくる。
(早く開いてくれ)
焦る気持ちを抑えつつ、肖像画の前に移動しようとして、シオは暖炉の前で足を止めた。
(これはあった方がいいかも)
暖炉の上の飾り棚に置かれていたランタンを手にすると、一緒に置いてあったマッチで火を入れた。
何がどうなっているのか分からない以上、捜索の助けになりそうなものは用意しておいた方がいいだろう。
右手にランタン、左手にストールを持って視線を上げると、ポポははやる気持ちが抑えられないのか、倒れてくる肖像画を前にバタバタと足踏み状態だった。なんだか危ない予感がする。
(ポポを先に行かせたら、何するか分からない)
リリーに危険が迫っているとしたら尚更だ。
ポポだったら、自分の身を挺してでもリリーを救いそうな気がする。
(ポポが傷付くくらいなら、私が代わりになった方がマシだ)
守護像が傷つく姿は見たくない。
「ねぇ、ポポ。くれぐれも突っ走った行動は――」
「ぽおぉぉぉ~っ‼」
言いかけた言葉は、ポポの雄叫びにかき消された。
驚き固まるシオの横で、ポポは短い脚をめいっぱい縮めると、次の瞬間、大きく伸び上がった。
「ぽっぽぉ〜っ!!!!」
「待って‼」
手を伸ばそうとしたが、遅かった。
華麗に舞い上がったポポは、半分ほど現れた秘密基地の入り口へ吸い込まれていった。
シオは自分の迂闊さに唇を噛む。
「抱っこしてれば良かった……!」
完全に入り口が現れると、シオはポポの後を追って階段を一段飛ばしで駆け上がり、屋根裏部屋へと転がり込んだ。
前に来たときよりも薄暗い室内は、妙な静けさに包まれている。
「はぁ、はぁ……ポポ‼」
「ぽぉ~」
ランタンを掲げ、目をこらすと部屋の奥でぴょんぴょん跳びはねる影があった。シオは乱れる息を整えながら慌てて近寄る。
「リリーは?」
「ぽぉ……」
ポポが上を見る。
歩きながらその視線を追うと、天上にぽっかり空いた穴――全開になった天窓が見えた。
「え、もしかして……」
カツン、と足に何かが当たった。
ランタンで足元を照らしてみると、そこにははしごが倒れていた。
明かりを前方に動かすと、はしごの向こう側にあるテーブルの上では、何故か花が散乱し、びしょ濡れ状態になっている。ランタンの光が水に反射してテラテラと怪しく揺らめいた。
(やっぱり何かあったんだ……!)
シオはぎゅっと手に持っていたストールを握りしめる。
「リリーは上?」
「ぽぉ~……」
不安そうなポポの目がシオを射抜く。シオは膝を折って床にランタンを置くと、ポポの頭を優しく撫でた。
「大丈夫。私に任せて、ポポはこれをお願い」
「ぽぉ!」
頼もしげに返事をするポポにストールを託し、シオは倒れていたはしごを天窓の縁に掛けた。
「大人しく待っててね」
と、ポポに釘を刺す。
ストールをくわえて、ぴょこぴょこ左右に揺れては伸びて縮んで、行きたいアピールをしていたポポは、しょんぼりとその場に座り込んだ。
ほんの少し胸が痛むものの、ポポが予測不能な動きで傷ついてしまうことも心配だったし、それにもう一つ、懸念材料があった。
(リリーはポポのこと、拒絶してるからな)
もし屋根の上で暴れられでもしたら危険極まりない。
「すぐ戻ってくるからね」
そう言って、シオは床に置いたランタンを手にすると、ポポをその場に残し、はしごを登って行った。
「36.リリーの元へ①」おわり。
「37.リリーの元へ②」へつづく。




