6.捜索③
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ようやくミハルを見つけ、シオは安堵した。
夜の町を一人で歩くのは、思いの外、心細かった。
これで一緒にちぃを探せる。
なんて思っていたのに
「なんで来ちゃったの?」
駆け寄ってきたミハルの不満そうな言葉に、シオの眉間に皺が寄る。
来てはいけない理由でもあったのか。
シオはジトッとした目でミハルを睨め付けた。
「ダメだった?」
「いや、ダメではない、けど」
何か言いたそうに、ミハルは口をもごもごさせている。語尾を濁して、はっきりしない。
「じゃあ早く探しに行こう」
今はこの問答の時間さえ惜しい。シオはミハルの手を掴み、先導する。当てがあるわけではないが、足を止めていたくなかった。
雨粒が大きくなり、激しくなってくる。
「ちょっと待って」
ぐぃ、と後ろに手を引かれ、シオは足を止めた。
「なに?」
シオは目を細めてミハルを振り返る。
「やっぱりシオは工房に戻って休んでて」
まさかの言葉に、シオは目を見開いた。ここまで来て、何を言い出すのか。
「また徹夜になっちゃうでしょ?」
心配そうに眉を下げて言われるが、そんな気遣いは不要だった。
「私なら大丈夫」
シオは断言する。
足取りは、徹夜をした後とは思えないほどふわふわと軽かったし、眠気だってなかった。
ただほんの少し、気のせいと思えるくらい
「っしゅん」
ちょっとばかり寒かった。
でも手足だけだ。
頬は炎に当たっているときのように温かいし、問題ない。
「シオ?もしかしてー」
ミハルが不安げに手を伸ばしてくる。
シオは慌ててつないでいた手を離し、ミハルから少し離れた。
「大丈夫だから」
行こう、と一歩足を踏み出したときだった。
「シオ!」
ぐにゃり、と視界が歪む。
(ちぃを探さなきゃ、いけないのに)
そう思うものの、回る視界の中で踏ん張りがきかない。倒れていく身体を制御することができなかった。
薄れゆく意識の中でミハルが何か言っているようだったが、もうシオには届いていなかった。
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「シオ!」
ミハルはシオの身体が石畳の地面に叩き付けられる寸前で受け止めた。
「すごい熱……!」
自分の腕の中でぐったりとするシオの額に手を当て、ミハルは表情を曇らせる。
(無茶しすぎだよ)
シオが守護像職人という仕事に誇りを持っていることも、守護像が大好きなことも理解しているつもりだ。
しかし、自身のことも守護像と同じくらい大切にしてほしい、とミハルは思う。
シオが守護像に思いを掛けるように、シオにも思いを掛けている人がいることを、きっとシオは知らない。
ミハルはランタンを置いて、自分のコートをシオに掛けた。だいぶ濡れているが、ないよりマシだろう。
シオの腕を自分の首へ回し、背負う。片手でシオの身体を支え、空いた手にランタンを持った。
背中がじんわりと熱い。シオの荒い息が首筋にかかる。
(これからは無理矢理にでも休憩を取らせて、食事をさせよう)
心許ないほど軽いシオを背負いながら、ミハルは自分の不甲斐なさに唇を噛みしめた。
近頃、シオは忙しさにかまけて昼食を抜いていた。朝食と夕食は食べていたし、仕事の邪魔をしたくないからとそれを容認していた自分が情けない。
(明日は、身体が温まる栄養のあるものを作ろう)
消化に良くて、シオが元気になるものを。
そんなことをしていないで、ちぃを探してとシオには言われそうだが、残念ながらミハルにとってシオの方が優先順位は高かった。
ミハルはシオを背負い直しながら、工房へと向かう。
雨脚が強くなってきた。石畳にはいくつもの水たまりができている。
(あれ?)
ぱしゃん、と泥水が足に跳ねる。
(なんか忘れてるような……)




