22.花
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翌朝、身支度を終えたシオは庭園へと向かった。
使用人部屋の窓から見えた庭は、本館の食堂とサロンにも面している。
そのため、客人の目を楽しませるように、多種多様な草花が色分けされて植えられていた。
その間を縫うように、散策用の小道も敷かれている。
(あ)
石畳の細道で、石と石の間からは、勝手に生えてきたのであろう、タンポポが姿を覗かせていた。
(ポポはこういう所から採ってきたんだろうな)
と、泥だらけになっていた昨日の姿を思い出す。
ポポはポポなりに、リリーと仲良くしようと頑張っている。少々空回りしている気がしないでもないが、それでも諦めようとはしていない。
(ポポのためにも、私も頑張ろう)
シオはよし、と気合いを入れる。
(そのためにも花を手に入れよう!)
昨日、リリーが花を見た一瞬、素のリリーが垣間見えた気がしたのだ。
花があれば、何か話すきっかけを作れるかも。そう思い、シオは庭園へと早速やって来たのだった。
手に提げた籠には、花を切るための剪定ばさみとリリーの部屋から持ってきてしまった花瓶が入っている。花が手に入ったら、そのままリリーの元へ向かうつもりだ。
(ここかな)
庭園の奥――目的の場所に辿り着き、シオは足を止めた。
(立派なミモザ……!)
自分の背丈をゆうに超える樹を見上げる。
タンポポのような丸っこい黄色の花が、枝先に向かって房状に咲き、重みで枝がしなっている。一歩近づくと、春の訪れを感じさせるまろやかな甘さが鼻腔をくすぐった。
シオは籠から鋏を取り出す。
(ポーラさんからは、花瓶に挿すくらいの量だったら適当に切って良いって言われたけど……)
樹形は綺麗な丸形で、小道に迫り出した枝は、程よい木陰を作りながら、通行の妨げにならないように調整されている。
(……この樹、絶対庭師が手入れしてる……! それを私が勝手に切るなんて無理……!)
シオはギュッと鋏を握った。
自分も職人の端くれだ。業種は違えど、その職人には敬意を表したい。
(でも、花も必要だし……)
うぅん、と逡巡していると、
「……ん?」
庭園を屋敷の方から歩いてくる人物が目に入った。
ボロボロの麦わら帽子を被り、肩には梯子を担ぎ、片手に大きな剪定ばさみを持っている。
土で汚れたつなぎを身につけ、足には泥がこべりついた長靴、季節外れの半袖からは筋骨隆々の腕が覗いている。
その出で立ちと大柄な体格から察するに、ここの庭師だろう。
(ちょうど良かった)
シオは、陽気に鼻歌を歌いながら歩いてくる庭師に手を振った。
「22.花」おわり。「23.祖母の部屋」へつづく。




