15.依頼内容②
「どうだろうか? 引き受けてくれるかい?」
会長に尋ねられ、シオは悪態を吐かないように全神経を集中させた。
夫人に対して言いたいことは色々あるが、グッと飲み込み、頷いた。
「いいよ。メイドでも執事でも、ポポのためなら何だってやるよ」
「シオ⁉ 本気⁉」
ミハルがギョッと目を剥くが、この決定は覆らない。シオはそっとミハルの耳に唇を寄せた。
「ここで断ったらクロードの制裁を受けることになるけどいいの?」
「ひぃっ……! 執事でも何でもやりますっ‼」
唇をわなわな震わせて、ビシッと敬礼するミハルを見て、会長夫妻の瞳が煌めいた。
「良かったわぁ、快く引き受けてくれて!」
「では早速!」
会長が手を叩き、執事のセバスチャンを呼ぶと、何やら耳打ちをした。セバスチャンはすぐに部屋を後にする。
(なんだ?)
シオはミハルと顔を見合わせて首を傾げる。
そして数分もしないうちに書斎のドアがノックされた。
「どうぞお入り」
会長が柔らかい声で入室を促す。
夫人も優しげな瞳で入ってくる人を待つ。
「失礼します」
幼さの残る高めの声が響き、ドアがゆっくりと開いた。
やって来たのは、はちみつ色の柔らかそうな髪を赤いリボンで二つに結わえ、赤いワンピースを身に纏った少女――リリーだった。
リリーがチラッと顔を上げる。ちょっとつり上がった緑の瞳と視線がぶつかった。シオを見て、怪訝そうに眉をひそめる。
ドアの前で立ち止まった娘を見て、会長はシオの横に立ち並んだ。
「リリー、紹介しよう。こちら、新しくうちで働いてくれることになったメイド見習いのシオさん。そっちは執事見習いのミハル君」
紹介され、ミハルは勢いよく腰を45度に折った。それにならい、シオも軽く会釈する。
後ろに控えていた夫人は、ミハルの横に出てきてリリーに微笑みかけた。
「あなたと年も近いし、きっと良い話し相手になるわよ」
その言葉にリリーの眉がピクッと動いた。
「話し相手……?」
「えぇ。リリーも年の近い子の方が、何かと相談しやすいでしょう? だから――」
「そんなのいらないわ!」
突然の大声に部屋の空気が固まった。
リリーは怒りに燃える瞳でその場にいる者を睨め付ける。
「もう、なんでみんな構ってくるのよ……! 放っておいてって言ってるでしょ‼」
叫ぶように言うと、くるりと向きを変え、書斎から飛び出して行ってしまった。
「リリー! 待ちなさい……!」
慌てて夫人がリリーの後を追いかける。
書斎に残された会長は、困ったような顔で頭を掻いた。
「これでも根は良い子なんですよ?」
シオはげんなりした顔で隣のミハルと顔を見合わせる。ミハルも口をへの字に曲げているところを見ると、考えていることは同じらしい。
(……どこが良い子なんだ……? とんでもない癇癪持ちの小娘じゃないか)
シオは天井を仰いで目をつぶった。
(これからあの子の世話係……)
安請け合いしすぎたかもしれない。
シオはほんの少しの後悔に唇を歪ませた。
「15.依頼内容②」おわり。「16.部屋案内」につづく。




