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守護像職人  作者: 猫松ぺ子
第2話 守るもの、守られるもの

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14.依頼内容①


「ようこそいらっしゃいました。シオさん、ミハル君」


 シオとミハルを朗らかな笑顔で迎え入れてくれたのは、アリソン商会の会長アルベルトだ。夫人も満面の笑顔で歓迎してくれる。


 場所は屋敷の二階、窓が大きく取られた日当たりの良い一室で、会長の書斎だった。まだ日が高いこの時間は、太陽の恵みがいっぱいに降り注いでいる。


 白で統一された壁に、木目の床、天井に見える梁や柱は自然の色で、外観同様、温かみが感じられる。


 そんな本当だったら居心地良く感じるはずの空間で、シオは心を無にして閉口していた。


「……何だってこんな格好に……?」


 シオの横に立っているミハルは呆然とつぶやき、居心地悪そうに首元をいじった。

 

 しかし、そこにはあるのは先程結び直したバランスの悪いリボンタイではなく、シルバーのピンで止められたクロスタイだ。


 ミハルは一張羅の訪問着から、えんじ色のベストに、後ろの裾だけが長い上着の、いわゆる執事服へとお色直しを遂げていた。


(土埃にまみれたミハルだけならまだしも、何で私まで……)


 シオは自分の姿を見下ろす。


 ウエストにギャザーが入って、ふんわりと広がる膝が隠れる丈の黒のワンピースに、フリルの付いた白いエプロン。


 靴だけは履いてきたままの茶色の編み上げショートブーツだが、首元にはミハルとお揃いのクロスタイが金色のピンで止められている。


 いつもは背中に無造作に垂らしているふわふわの灰色の髪はハーフアップにまとめられ、頭には白いレースのヘッドドレス。こちらもいわゆるメイドさんの仕事着姿になっていた。


 別に、好きでこんな格好をしているわけではない。


 屋敷へ足を踏み入れた途端、年配のメイド達に取り囲まれ、身ぐるみ剥がされ、あっという間にこの姿にさせられたのだ。無理矢理である。おかげで胸に抱いていたはずのポポとも離ればなれになってしまった。


 そうして、反論する余地もなく、問答無用で放り込まれたのが、屋敷の主夫妻が待つこの書斎だったのだ。


 この所業、どう考えても二人の仕業に違いない。


 それを証明するように、夫人は上機嫌で手を叩いている。


「二人とも、とってもお似合いよ~! 私の見立てに間違いなかったわぁ~!」

 

 若い娘のようにキャッキャとはしゃいだ声を上げる夫人に、シオは感情の浮かんでいない顔を向けた。


「これは何?」

「何って、メイド服と執事服よ?」


 そんなことは分かっている。


 キョトンとする夫人に、シオは舌打ちしたい気持ちを抑える。


「なんで、そんな服を私達は着せられてるのかって聞いてるんだけど」

「そんなの、決まってるじゃない」


 夫人はシオとミハルにバチンと完璧なウインクを飛ばした。


「あなたたちをこれからリリー付きの世話係に任命するからよ!」

「はぁ⁉」

「へっ⁉ 世話係⁉ なんで⁉」


 思わぬ言葉にシオの声は裏返り、ミハルは目を白黒させるが、夫人はいたって当たり前のことを言うように、小首を傾げる。


「だって、お客さんよりもお世話係の方がリリーと一緒にいる時間が多く取れるでしょう? リリーと仲良くなるためにはもってこいじゃない?」


 自信満々の物言いに、シオとミハルは黙り込む。いくらなんでも客人を使用人とするのはどうなのだろうか。


 しかし、そんな二人の様子を、夫人は不安がっていると思ったのか、グッと親指を立てて力一杯頷いた。


「大丈夫よ! 世話係って言っても見習いってことにしてあげるもの!」

(引っかかっているのはそこじゃないんだが⁉)

「……見習いでも、シオには無理だと思うんだけどなぁ」

 

 ミハルはミハルで、大変失礼なつぶやきを漏らしている。自分だって執事なんてしたことがないのに、とシオはミハルに半眼を向ける。

 

 すると、


「本当にすまないね、二人とも」


 今まで微笑んで傍観を決め込んでいた会長が口を開いた。


「来てもらえただけでありがたいのに、こんなことまで頼んでしまって」

「それなら――」

「しかし、妻の言うことも最もでね」


 会長はシオの言葉を遮って首を振る。


「リリーの癇癪は日に日に酷くなる一方なんだ。ポポに関することは特に神経質になるようでね。だから、君たちを守護像職人として紹介しない方が良いと思うんだよ」

「それにね」


 夫人は会長を押しのけるように、ずいっとシオとミハルの前に乗り出すと、愛嬌たっぷりの笑顔を輝かせた。


「実を言うと、クロードさんには、その分、上乗せして支払い済みだったりするのよね~!」

「はぁっ……⁉」

「げっ、クロードさん公認……⁉」


 シオとミハルは信じられない思いで夫人を見る。


 夫人は鷹揚に頷くと、胸を張って告げた。


「えぇ! あなたたちが五体満足で帰宅するなら、滞在期間中どのように扱っても構わない、と言われてるわ!」


 ミハルが顔面蒼白になる。シオも顔をしかめた。


(アイツはまた勝手に……)


 脳裏に自室で金勘定してほくそ笑むクロードの姿が浮かんでくる。きっと上乗せされたお代はクロードの懐へ消えていくのだろう。


(……帰ったら絶対、クロードのお金で高価な奇石を頼んでやる……!!)


 シオは心に秘めた野望にギュッと握りこぶしを固めた。

「14.依頼内容①」おわり。「15.依頼内容②」につづく。

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