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守護像職人  作者: 猫松ぺ子
第2話 守るもの、守られるもの

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13.アリソン邸へ

 アリソン一家が住む家は、隣町の郊外に位置している。シオの工房がある町、カペロからは馬車で二時間も掛からない距離だ。


(こんなに素敵な家なのに、凶暴娘がいるなんて)


 森を抜けて現れた屋敷を目にして、シオは眉を曇らせた。


 てっきり、人を威圧するような石造りの豪奢な邸宅が待ち受けているのかと思ったのに、現れたのは基礎部分以外が木でできた、ぬくもりの感じられる家だった。どこか森小屋を思わせる風貌だ。


(外からじゃ、中の様子なんて想像もできない)


 屋根窓に二羽の小鳥が止まってさえずっている光景は、まさに平和そのものだ。


 玄関前に横付けされた馬車から降り立ち、ぼうっとそんなことを考えていると、


「ちょっと、シオ。そこにいると僕、出られないんだけど……」


 後ろから困ったように声を掛けられ、シオは渋々横にずれた。


 ジトッとした目を後方に向ける。


「……私、付いて来てなんて頼んでないんだけど?」

「え? 何か言った??」

 トランクを両手に馬車を降りてきた想定外の旅のお供は、きょとんとした顔でシオを見た。押しが弱そうな顔をして、変なところで頑固なのだ、こいつは。


(私一人で行くはずだったのに)


 シオは心の内で唇を尖らせた。


 アリソン夫妻から招待を受けたのはシオだけだった。そのため、当然、シオは一人で屋敷に乗り込む気でいた。


 ところが、話の次第を聞いたミハルが、自分も付いていくと手を挙げたのだ。クロードもお目付役が必要と判断したのか、二つ返事でミハルのお供を許可してしまったのである。


 先方も、シオが来てくれるなら他に誰が来ようと構わない、とのことで、こうして一緒に来ることになったのである。


(旅のお供だったらテトのが嬉しいのに……)


 工房の守護像であるテトがその場を離れることは基本的にはないのだが、そんなことを考えてしまうシオである。


 今回は滞在期間が長めなので、クロードもテトと共に工房で留守番組となっている。


「あ、シオ、リボン曲がってるよ。もぉ~、しっかりしてよね」


 ミハルはトランクを置くと、シオのリボンをいそいそと直し始めた。


 ブラウスの首元を飾るのは、モスグリーンのジャケットよりも深い緑色のリボンタイだ。普段付けることはない。中に着込んだ茶色のベストも、細かいプリーツ入りの真っ白のロングスカートも、いわゆる一張羅だ。

 

 ミハルも普段はズボンとシャツの特筆すべき所もない服しか着ていないが、今日は皺一つないシャツにベストとジャケットを着込んで、シオと同じように首元にはリボンタイを付けている。お客人を訪ねるときの正装姿だ。


 シオはムッとしつつ少し首を傾げ、ミハルの首元を指差した。


「ミハルも、タイ曲がってるけど」

「えっ⁉」

「しっかりしてよね」

「うっ」

 

 ミハルの言葉をそっくりそのまま返すと、ミハルは慌てて自分のリボンタイを結び直し始めた。ワタワタとするいつものミハルの姿を見て、少しばかり気分が良くなる。


(ミハルはこうでないと)


 シオが満足げにふん、と鼻を鳴らした時だった。


「こっちに来ないで!」


 突然、甲高い少女の叫び声と共に、何かが割れる音が辺りに響き渡った。


「えっ、な、なに⁉」

 

 ミハルがへっぴり腰になって辺りを見回している。シオは耳をそばだてる。騒音の元は、どうやら屋敷の二階かららしい。

 

 そう思ってふと顔を上げると、二階の開いた窓から、何かが勢いよく飛び出してきた。


「あ」


 と思った時にはもう遅かった。


「え、上に何か――ってぐぇっ‼」

 

 ちょうど見上げたミハルの顔面に、それは見事に不時着を決めた。同時にゴキュッとミハルの首が怪しげな音を立てる。


「ぽぽぉ~!」


 尻餅をついたミハルの顔の上で、ぽってりとした丸いフォルムが誇らしげに鳴き声を上げた。


 シオは軽く目を瞬く。


「ポポ⁉ 何? どうしたの?」


 ミハルの顔にへばりついているのは、紛れもなく主なき守護像だった。シオはミハルの顔からポポを引き剥がし、そっと腕に抱きかかえると、鼻先へと人差し指を突き立てる。


「あんな所から飛んじゃダメ。怪我したらどうするの?」


 ポポは反省するように、葉っぱ型の耳を伏せる。


「ぽぉ~」

「のぉぉぉぉ、く……首がぁぁぁぁ……!」


 ミハルは立ち上がることができずに地面でのたうち回っている。首への衝撃が相当大きかったのか、首を押さえて身をよじりながら、うめき声を発している。


 そんなミハルに、シオは冷ややかな視線を送った。


「何やってるの? 服、汚れるよ」

「え、僕より服の心配⁉ 首折れかけたのに冷たくない⁉」

「それだけ動き回れるなら平気でしょ」

「……なんか、ポポに比べて僕の扱い雑だよね?」

「そう? いつものことだと思うけど」


 素っ気なく返すとミハルはしょぼんと眉をハの字にして、手で首を庇いながら、ノソノソと起き上がる。そして、あ、と声を上げた。


「シオ、あそこ」


 ミハルが指さす方へと顔を向ける。


 ポポが飛び出してきた、二階の開け放たれた窓。


 その窓辺に、半分身を乗り出すようにして一人の少女が腰掛け、こちらをじっと見つめていた。


 春の陽光に、はちみつ色の髪が風に舞う。


「ぽぽぉ~!」


 ポポが少女を見て、楽しげな声を上げた。


(もしかして……)


 隣のミハルと顔を見合わせる。


「リリー・アリソン……?」


 小さく口の中でその名を口にし、視線を戻す。


 しかし、彼女の姿はすでになかった。

「13.アリソン邸へ」おわり。「14.依頼内容」につづく。

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