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守護像職人  作者: 猫松ぺ子
第1話 守護像職人の少女
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4.捜索①

「なにやってるの?」

「!」


 突然背後から声を掛けられ、シオは驚いた。振り返りながら立ち上がろうとしたのだが、


―ゴン!

「っ!!」

 

 立ち上がりかけ、頭を強打し膝から崩れ落ちた。

 机の下に潜り込んでちぃを探していたのに、うっかりしていた。


「わ、大丈夫!?」

 

 机から這い出るシオに、声の主であるミハルが手を差し伸べる。


「うん、平気……」

 

 シオはズキズキと痛む頭を片手で押さえつつ、空いた手でミハルの手を取り、机の下から脱出した。


「そろそろ夕飯食べるかなーと思って呼びに来たんだけど」

 

 ミハルは呆れたように室内を見回した。


「これはどういう状況?というか何やってたの?」

 

 本棚から本という本は全て引き抜かれ床に散乱し、壁に沿って置かれていたはずの奇石が並んでいる棚は前方にずらされていた。


 机の引き出しやキャビネットの引き出しも全て開けられ、中身は引っかき回されたままの状態になっている。

 

 泥棒が入ったかのような有様だ。

 

 ちぃを探してシオが部屋中をあさった結果だった。


 ミハルは問いただすような視線を向けてくる。気まずい。シオはミハルからそろりと視線をそらした。


「も……模様替え」

「そんなわけないでしょ!」


 苦し紛れに言ってみたが、やはり通じなかった。


「捜し物でもしてたの?」

 

 部屋の灯りも付いてるし、と言われ、シオはドキリとした。

 

 シオはいつも、仕事をするときは机の上にある手元用の手提げランタンにしか火を入れない。しかし、今は天井から鎖でぶら下がっている数個のガラスランタンと、壁掛けランタン、全てに火が入っていた。


 部屋は温かい光で満ちている。


「一緒に探そうか?何をなくしたの?」

 

 ミハルは言いながら、無造作に置かれた本の下を覗いている。


「……じ、実はー」


 シオは居心地悪そうに事態を説明した。



「え!守護像がいなくなった!?」

「ミハル!声が大きい!!」

 

 シオは慌ててミハルの口を手で塞いだ。


「クロードに聞かれたらどうするの!殺されちゃう!」


 彼に知られたら、確実にミハルとは比べものにならないほどのお説教が待っている。

 しかもこんなヘマをやらかしたと分かれば、今後、どれだけシオのやり方に口を出してくるか分からなかった。


「ちょ、シオ、苦し……」


 勢い余ってミハルの鼻まで塞いでしまっていたらしい。

 シオが手を離すと、ミハルは大きく息を吸い込んだ。


「クロードさんならもう帰ったから大丈夫だよ」

 

 肩で息をしながら言うミハルに、シオはホッとしたが、すぐに次の不安が押し寄せる。


「でも、このままちぃが見つからなかったらどうしよう……」

 

 自室はこれ以上ないほど調べたが、ちぃは見つからなかった。


「他の部屋か、もしかしたら外に出ちゃったのかも……」

「じゃあシオは、テトと一緒に他の部屋を探してみてよ」

 

 思わぬ提案にシオはミハルを見た。


「え、ミハルは?」

「僕は外を探してくるよ」

 

 そう言うとミハルは机に置いてあったランタンを手にした。


「行くなら私もー」

「手分けした方が早く見つけられるでしょ?」

 

 一緒に行くと言いかけて、ミハルに遮られる。


「それはそうかもしれないけど……」

 

 自分の失態なのに、1人で夜の町を探させるのは、と思っていると


「大丈夫。きっとすぐ見つかるよ!」

 

 ミハルが笑顔を向けてきた。


「案外近くから、ひょこっと出てくるかもしれないよ?」

 

 根拠なんてなにもないミハルの言動だが、今まで不安で仕方がなかった気持ちがわずかに軽くなった。




「テト!起きて」

「んにゃっ」

 

 シオはミハルが出て行った後、薄暗い店内で寝ていたテトを叩き起こした。

 

 通りに面した出窓がテトのお気に入りの場所だ。テト専用のクッション入り籐籠が置かれていて、そこで寝ているときには起こさない、というのが店のルールなのだが、今はそんなことを言っている状況ではない。


「なーん?」

 

 案の定、テトは不服げに語尾を上げてシオを睨んでくるが、


「ちぃが居なくなっちゃったの!一緒に探して」

「んなっ!」

 

 シオの訴えに、テトは大きく目を見開き、跳ね起きた。

 

 店内はそれほど広くはない。

 親方の工房と比べれば半分ほどの広さしかないが、壁際には背の高い棚が並び、人が一人通れるほどの狭い通路にはガラスのショーケースが並んでいる。中には大小様々な奇石が展示され、ちぃが隠れる場所はたくさんありそうだった。


「テトは棚の上と裏を見てくれる?私は中を見ていくから」

「なん!」

 

 テトは、任せとけ!というように胸を張ると、ぴょん、と棚の上へと飛び乗った。ふんふん、と匂いを嗅ぐようにしながらちぃを探す。

 シオも腕まくりをすると、さっそく近くのガラスのショーケースを開け、奇石を出しながら橙色の守護像の姿を探していった。


4.捜索②へ続く

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