5.依頼人とポポ①
「え、修理の依頼?」
お客の対応をクロードに任せ、自室の作業机で道具の手入れをしていたシオは、その手を止めて振り返った。
「うん、なんか、さっき来たお客さんがそう言ってるみたいで……」
部屋の入り口には、困惑気味のミハルが立っている。
「クロードさんがシオを連れてこいって言ってるんだけど」
その言葉にシオは首を傾げた。
「なんで? 普通に修理くらい引き受けるけど」
自分がわざわざ呼ばれる理由が分からない。シオはやや不機嫌に問い返した。
親方の工房にいたときも、守護像の修理や手入れの依頼はあったし、シオの許可など必要ない。それはミハルもクロードも分かっているはずなのに。
「私がお客のところに行く必要なんてないでしょ?」
話は終わり、とシオは視線を戻し、膝の上で丸まっているテトを優しく撫でた。行く必要がない、というより、行きたくない、と言うのが本音だ。
やっとテトの重みを膝で感じられる幸福感に包まれて、これ以上ない最高の仕事環境が整ったのに、なにゆえ不要な客対応をしなければならないのか。
「……でも、その、持ち込まれた子が……外の子みたいで……」
気まずそうに紡がれたミハルの言葉に、シオの片眉がピクッと跳ねた。
「外? うちの子じゃないってこと?」
「そうみたいなんだよねぇ」
修理や手入れに持ち込むのは、守護像を造った工房と相場が決まっている。
完成した守護像に、造り手本人が手を加えることはあっても、他の職人が手を加えることはない。職人の流儀に反する。
もし、万が一、造り手自身が何らかの事情で引き受けられない場合は、その弟子や兄弟弟子といった同門の者が引き受けるのが暗黙のルールとなっているのだが。
「親方筋でもないの?」
「残念ながら」
眉をハの字にして困ったように笑うミハルを見て、シオは頭を抱えたくなる。
無下に客を追い返せば工房の評判に傷が付きかねないし、かといって、勝手に依頼を引き受ければ同業者から白い目で見られる可能性が高い。
利益になることなら進んで引き受けるクロードだったが、この微妙な立ち位置の依頼を引き受けるべきか否か決めかねているらしい。
だからクロードはシオを呼べと言ったのだろう。
「だからね、シオ。来てくれない?」
「……分かった」
シオが渋々頷くと、察しの良いテトはすぐさまシュタッと膝の上から飛び降りた。
「あぁ、もうちょっと重みを感じていたかった……」
急に軽くなった膝の上が物寂しくなる。
「なんでこう、私とテトの時間は長く続かないんだろう……」
言ったところで仕方がないのだが、思わず名残惜しげにテトを見ると、
「なぁ~んなぁ!」
テトは、馬鹿なことを言ってないで仕事しろ! と言わんばかりに一声上げ、前足を突っ張って伸びをした。
「なうんっ!」
行くぞ! と言うように鼻を鳴らして、意気揚々とミハルの横をすり抜けて、部屋から出て行ってしまった。
「テトは働き者だなぁ!」
先に店へと向かったテトに、ミハルが感心したように声を上げる。
「それに比べてシオは……」
一転、ジトッとした目を向けられる。
「何? 私だって仕事してたんだけど?」
遊んでいたと思われたなら心外だ。
シオはムスッとすると、重い腰を上げ、テトの後へと続いて行った。
「5.依頼人とポポ①」おわり。
「6.依頼人とポポ②」につづく。




